幻影魔法は基本的に「騙す」ことを目的として使われる魔法だ。
が、ある一定の精度を超えると、ただの幻覚では済まされない現象を操れるようになる。
そこに存在しないのに「さわれる壁」を作る、そこに存在するものに確かに手が届いているのに「さわれない」など。
ディアーネさんの操る魔法にも、炎そのものを騙して、木材なのに「燃えない」ということにする魔法など、それは幻覚とかそういう問題じゃないだろう的な奴もある。
「我ら竜はその類の魔術を極めることで、人に変身する力を得た」
「はぁ」
「ほ、さっぱりわかっとらんという顔じゃの」
「いや、なんとなくはわかるけどさ」
巨大な竜を人間に変身させるのだ。とにかくすごいということしかわからない。
「……んー。ライラが言おうとしていることはつまりこうだ」
ディアーネさんがドライフルーツのリンゴをひとかけらつまむ。
「──」
何がしか呟いて、パッと手を放す。
ドライフルーツが消える。
「手品だ」
「魔法だ。今このリンゴの欠片は、私の目の前の空間で浮かんだまま消えている」
「……へえ」
「で、こう」
手の上で指をささっと動かすと、そこに忽然と現れるリンゴの欠片。
「この技を極めると、自分の周りの空間を道具箱代わりに使えたりもする」
「そりゃ便利な。旅の荷物を背負い袋とかに入れて重たい思いしなくてもいいと」
「極めればな。私では掌サイズがせいぜいだ」
「ほ、普通のエルフにはそれさえ出来まい。真似してみせられるだけでも大したものじゃ」
ライラがコロコロ笑う。
笑うのはいいがその笑い声超響くんですよこれが。自重しろ。
「それで、このライラの術の恐ろしいところは『人間の体』と『竜の体』を等価値で持っていて、互いの存在力を交換することで姿を取り替えているところだ」
「……はぁ」
「さっぱりわかっとらんという顔しとるぞ、坊や」
「いや本当に。すんません」
「つまり……魔物のようにメキメキビキビキ盛り上がって変身しているわけではなく、全く同じ存在価値のものをそのまま交互に消したり現したりしているだけだから変身に制限時間も消耗も全くないんだ。一体どれだけの制御呪文を同時運用しているのか見当もつかん」
「……それってすごいの?」
「すごいんだ」
飛んでる最中、ただ座っているだけというのも暇なので始まった魔法の講義。
どうやらそういう理論を理解して正確にイメージするところから魔法の才能が開花したりする……らしいが、俺は正直学がないのでさっぱりだ。
「我が人間体で火球が撃てるのも、まあ……魔法で火を作り出しているわけではなくて、ドラゴン体の息吹をほんの少し幻影を緩めて解放しているだけ、という仕掛けじゃ」
「えーとつまり、あれは実質ドラゴンブレス?」
「の、溜め息程度の奴じゃな」
ライラを本気で怒らせてはいけないということだけはわかった。とりあえず魔法は使えそうな気配は一向にないけど。
「……あ」
「あ、アンゼロスさんそれですそれ、やれてますよ」
「うわ、え、これどうやって戻すんだ!?」
「まだ初歩の幻覚ですからちょっと気合入れれば外れます」
その隣でアンゼロスがなんか成功していたが悔しくなんてないぞ。
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