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 再び動けるほどまで息が整い、腰を動かそうとしたその瞬間、どばしゃーんと近くで巨大な水柱が上がった。
「!!」
「ほ」
 びっくりする俺と、一瞬鋭い目をするライラ。一度攻守交替した手順を巻き戻すようにごろりと俺を組み敷き、顔を上げて水柱の中を見つめる。
 そこにいたのはアンゼロスとディアーネさんだった。
「やはりか」
「ほ。無粋な闖入者じゃの。ここは欲情じゃ、服を脱げ」
 浴場だろオイ。
「貴様は……人ではないな」
 ディアーネさんが警戒と殺意に満ちた目でライラを睨む。
 あの目で俺が見られたらそれだけで心臓止まりそうだ。
「ようこそ、我がドラゴンパレスへ。良い男をありがとう。いただいておるぞえ」
「ドラゴン!?」
 アンゼロスが膝ほどの水の中で後ろにワンステップ。腰の剣をいつでも抜ける体勢になる。
 対してディアーネさんは腕組みをしたまま無言。そうだろうな、と呟いた。
「その男は私の恋人だ。返してもらいたい」
「どうしたものかのう。なかなかの逸物じゃて、少々惜しい」
「返せ」
「嫌」
 つーん、とライラがそっぽを向いた。
「力づくでも返してもらうぞ」
「ドラゴンを相手に剛毅な女じゃのう」
「相手がドラゴンだろうが剣聖旅団だろうが、譲れないものは譲れない」
「ほ。面白い」
 ここに至ってようやくライラが俺の上から退く。ぽっかり開いた膣から精液が少々垂れ落ちて、アンゼロスが赤面した。
「ゆくぞ」
 ライラの全身から殺気が放たれる。
 危なそうなので逃げようとして……いつの間にか俺の手首に変な紐が絡み付いていることに気がついた。岩に巻かれていて動けない。
「ちょっ!?」
「ああ、ちょいとすまぬ。それも秘宝の一つで絹の鎖と言ってな、人間の腕力では切れぬぞ」
「なんでこんな!?」
「お主は景品じゃて。そこで見とれ。我も結構かっこいいぞ♪」
「おいー!?」
 ちんこ丸出しで! 仰向けで! ドラゴンとマスターナイト級の戦いを見ろと!?
 という俺の心の叫びを形にする前に、戦いが始まってしまった。


「アンゼロス」
「はい」
「私があれの相手をする。隙を見てアンディを」
「僕も戦いに……」
「多分、無理だ」
 ディアーネさんは身構える。それを待っていたようにライラの髪が膨れて。
「ほっ」
 ライラが下から大上段へと腕を振り抜きながら指をパシンと鳴らす。
 瞬間、蒼い闇を切り裂くように紅炎が発生。火球となってディアーネさんに向かって飛翔する。
「!?」
 驚愕するアンゼロス。
 ディアーネさんは目を見開き、次の瞬間着弾。
 莫大な水蒸気が発生する。
「ディアーネさん!?」
「百人長!?」
 が、その叫びを遮るように、視界外から褐色が飛来。
「だっ!!」
「……ふむ」
 ガッ、と飛び蹴りをライラに叩き込み、数歩分吹き飛ばす。
 ディアーネさんはあの一瞬で壁に向かってジャンプし、三角蹴りでライラに逆襲したのだった。
 って、水の中からだぞ。なんて身軽さ。
「なるほど、面白いのう」
「今のは挨拶だ。次から急所を狙う」
「ほ。我とて今のは食前酒ですらないぞ」
 岩の島を挟んで二人は同じように肉食獣的な笑みを浮かべ、跳躍。
 空中で飛び蹴りをお互いに交わし、蹴り足同士でカチ合わせて壁に跳び、猛然と岩窟中を飛び回りながら猛スピードの戦いを始める。
「く……」
 アンゼロスが飛び散る岩や火球を避けながら悔しそうな顔をする。
 アンゼロスの得意は先手で一撃、パワーと剣速で叩き潰す戦法だ。同格以下の相手になら強いが、戦いの中心が圧倒的な機動力を誇るとなると、ただでさえ重装備のアンゼロスでは手も足も出ない。
「……スマイソン、今行くっ!」
 やがて諦めて、俺に向かってがちゃざばがちゃざばと走ってきた。
 そして絹の鎖に剣を振り上げた、その時。
 ガイン!!
「!?」
 振り上げた剣に横合いから飛んできた石が直撃。剣が弾け飛ぶ。
 ライラとディアーネさんは天井近くで高速の格闘を続けていて、アンゼロスに構う暇はない、というかディアーネさんが与えない。
 で、どうして横から石が飛んできたかというと。
「十人長になにするだーっ!」
 ハンマーかついだドワーフ少女が大ジャンプで岩の島に飛び乗ってきた。
 ジャンヌが石を投げたのだ。
 しかも多分勘違いして。
「じ、十人長をすっぽんぽんでこげなとこに縛って! 身動き取れなくして斬ろうなんて! どこのどいつだオメエ、頭を胴に埋めてやるぞ!!」
 ああやっぱり。
「……スマイソン、誰これ」
「あー、えーと……」
「アタシは十人長の弟子! ジャンヌ・クラックスだ! 師匠のピンチなら例え火の中水の」
 どぼーん、と火球が水に着弾して水蒸気爆発。一面湯気まみれ。
 比喩でなく火と水がすごいことになっている状態に、ジャンヌは若干眠そうな目で眉をひそめたあと、
「とにかくぶっとばすだよ!」
 考えるのはやめたようだった。というかこの子最初から何も考えてない。
「誤解だ!」
「誤解なもんか! 十人長をこげな目にあわせて変態め!」
 変態はアンゼロスじゃない。ちゃんと説明したいんだけどライラとジャンヌの美しい友情にヒビを入れそうでちょっと気が引けるけどううむ。
「僕は変態じゃない!」
「変態だ! やーいやーい!」
「違う! 違うったら!」
「変態菌がうつるからこっちくるでないだよバーカ!」
「ううう!!」
 アンゼロス。お前大人なんだから言い負かされてるんじゃないよ。しかも明後日の方向に。
 と。
「よいしょ」
「!?」
 かぽん、とジャンヌの小さな身体に、その辺にあった水瓶がかぶせられた。
「もわーーー!?」
「はいはいどいててくださいねー」
 そのままばしゃんとジャンヌをぞんざいに蹴り倒して現れたのは、姿の見えなかった最後の一人、セレンだった。
「もう、何してるんですかアンディさん」
「面目ない」
「……全部見てましたよ?」
「…………面目ない」
 なんだかにやーっと、空虚な感じのニヤニヤ笑いを浮かべながら絹の鎖をナイフで切り、俺のタマをもみもみするセレン。いかん。なんか怒ってる。
「すーごく心配してたのに何浮気してるかなあ、アンディさんは?」
「い、いやその、マジでごめん」
「ふふー……。ま、いいですけどね。私雌奴隷だし」
「…………」
「でも雌奴隷には雌奴隷なりのお給金、弾んで欲しいなー」
 もみもみもみ。
 ……いかん、潰される。俺が雌になるピンチ。
「具体的には?」
「次、ディアーネさんより前に、抜かず6回くらい」
「……約束する」
「やった。大好きアンディさん♪」
 がばーっと抱きついてキスするセレン。なんだかわからないけど俺ますます下半身で生きてる駄目ボーイの予感。
 そして。
『あーーーっ!?』
 天井から強キャラ二人が同時に声を上げて飛び降りてきた。
 ジャンヌはほぼ同時に水瓶内水死の危機から脱出して同じようにあーっと叫ぶ。
「な、なんじゃこの娘はっ!? お主の相手はこの二人ではないのかえ? 強い女フェチかとばかり」
「セレン! 私を囮に抜け駆けとは卑怯すぎる!!」
「じ、十人長、彼女いただか!? ふ、フリーじゃなかっただか!? うわーん!!」
 君ら仲いいのか悪いのかどっちなんよ。
「えへへー。……えっへん。何を隠そう、私がアンディさんと童貞と処女交換した張本人にして雌奴隷二号、セレン・スマイソンです!」
 誇らしげに首輪を誇示するセレン。
 ライラが気まずーい顔をしてがっくりしているジャンヌを見た後、ディアーネさんの首を確認する。首輪はなく、ディアーネさんはそれを肯定するように首を振ってみせた。
 つーかたった数秒でいきなりアイコンタクト完成してるのはなんなんだよ。
「……ということはこのセレンとかいうハーフエルフとこのダークエルフの他にもう一人雌奴隷がいて」
「はいっ!」
「……坊や、想像以上にスケコマシ度高かったんじゃのう」
「がーん……がーん……がーんだよ……」
 一人会話に入ってきていないアンゼロスは気まずげにチンガードプレートにあごを埋めて俯いている。
「……なんじゃ、我は雌奴隷三号か? 思ったより順列低いのう」
『……!?』
 首を振って呆れたように呟いたライラとセレン以外が、みんな俺をギョッとした顔で見た。
 見ないでお願い。
 俺も何でこんな流れになっちゃったかちょっと理解できてないから。いや理解できてるけど考えたくないから。

(続く)


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