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みんなと相談の結果、アイザックの口車に騙されてみることにした。
「おっし。ここだここだ」
アイザックが嬉しそうに俺らに手を振って呼ぶ。
砂漠にそびえる岩山。遠目には本当にただの岩にしか見えないが、その中腹に迷宮の入り口があるのだった。
「ここからな、半日くらい歩くと牛オーガの村なんだ。そこから先も結構いくつも村がある」
「……そんなルートがあったのか」
得意そうに胸を張るアイザックに、素直に感心するディアーネさん。
「本当に高速馬車より速いんだろうな?」
ちょっと疑り深いアンゼロス。アイザックは多分な、と請け合う。
「綺麗ー。本当にあちこちに明かり窓があって……どうやって作ったんだろ」
セレンは素直に感動していた。
ここまで馬車に頼って移動していたとはいえ、俺たちは軍人だ。
クロスボウ隊は毎日行軍訓練だけは欠かさないし、唯一の例外のセレンも長旅を続ける旅人でもある。
全員、急がずただ歩いて移動する分には、毎日歩き詰めでもそれほど苦にならない程度には足腰を鍛えていた。
オーガの歩幅は人間の尺度ではちょっと広すぎて、彼らの言う「半日」が本当に半日で済むのかは微妙なところだったが。
「よしそろそろだぞー。……お、あの曲がり角だ」
夕方あたりまで石造りの地下道を歩き、アイザックが嬉しそうに変な形に崩れた横穴に駆け寄る。
「はっはは、俺がガキの頃、ここで取っ組み合いの喧嘩してな。投げられて壊した跡なんだよ、この壁」
「……地下でそんな破壊的な喧嘩すんなよ」
「ガキの頃の話だ、見逃せって」
ニヤニヤしながら意気揚々と横道を駆けていくアイザック。
そして。
「ようこそ、牛オーガコロニーへ! つってもあんまり人多くないけどな!」
横道を抜けた先に、ちょっとしたオアシスが湧く小さな村が姿を現した。
「う、眩し……」
夕方とはいえ、丸一日地下を歩いてきた身には空が一気に眩しく感じる。
周囲20mほどのオアシスの源泉と、そこから流れ出る小川を中心に、ヤシと緑の下草が茂っていて、不毛の砂漠の真ん中という気はしない。
周囲には顔料で塗られたカラフルな岩窟家屋がちらちら見受けられる。家の数は多くないが、オーガコロニーだけあって家々は巨大で、自分たちが小動物になったような錯覚を起こした。
「……お、おお? ケリー、お前ケリーじゃねーか!」
そして、アイザックの声に反応して家から出てきた牛オーガが、どっしどっしとアイザックに駆け寄っていきなり拳をフルスイング。
アイザックも反射的に拳をフルスイングして、二人とも直撃してばったりと倒れ、またむっくりと起き上がってバンバンと肩を叩き合う。
パンチは挨拶みたいなものらしい。
「ただいま、ジラード。変わりないか」
「なんだぁ、何年も帰ってこないから死んじまったかと思ってたぞ!」
「はっはっはっ、俺がそう簡単に死ぬかっつーの」
「だな。ちょっと待ってろ、こりゃ久々にめでたい」
アイザックの旧知らしいジラードという牛オーガは、岩窟家屋のひとつの上に身軽に飛び乗り、ぶもーっと巨大な雄叫びを上げる。
その声から数分、村中が集まってきて、アイザックの帰還という事情を知り、わいわいと喜ぶ。
「……ってわけで、俺のおかえりパーティしてもらえそうだから、ついでにお前らも食って飲んでけ」
「遠慮ねえなあ」
「祭り好きな村なのさ。あと、人間やエルフの食う量なんて4人でようやく俺らの一人前ぐらいだから遠慮するほどのもんでもないしな」
あちこちに篝火が焚かれる。オアシスの傍の広場にテーブルやかまどがしつらえられ、瞬く間にパーティの準備が整っていく。
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