バッソンから一番近い砂漠端の街、オフィクレード。
ここから砂漠端をぐるっと回る環砂漠航路に乗る。
こんなちょっと大仰な道が出来たのには、ひとつにはオーガの存在がある。
オーガ族を乗せられる乗り物で、砂漠中を踏破できるものが存在しないのだ。オーガの搭乗を前提とすると、今のところどんな車両でも砂に埋まってスタックしてしまう。
もうひとつは、魔物の存在。
人の手が入りにくい砂漠はただでさえ魔物の生息が容易だが、そのうえ砂漠地下には大迷宮がある。
迷宮は何らかの秘宝や強大な魔神の封印、あるいは少数種族の城塞として機能する遺跡のことで、高度なものになると徘徊する魔物を定期的に合成する。砂漠大迷宮はまさにその「高度な迷宮」であり、いくつかある進入地点周辺には、尽きない魔物がうろついていたりするのだ。
ラッセル砂漠はそういった理由から、他の砂漠地帯よりも危険とされ、地勢を知り尽くした少数のキャラバン隊以外はその中央部に滅多に踏み込むことはない。
まあそういうわけで、ぐるっとその邪魔っけなラッセル砂漠をぐるりと回っていくしか方法はないのだ。
と、思っていたのだが。
「ところでスマイソンたちはどこへ行くんだ? クイーカか?」
「いや南東の森エルフ領」
オフィクレードで、次の馬車に乗る前に一日だけゆっくりすることになり、アイザックと呑んでいた時のこと。
木彫りジョッキを傾けながら、アイザックは怪訝そうな顔をした。
「……南東ってーと、あのオアシスコロニーの方じゃない、白エルフの?」
「そうそう」
「……高速馬車かなんか使わないと三ヶ月で往復は辛いだろ」
「だから使うんだよ」
「えぇー、あれめっさ高くねえか? 砂漠突っ切れよ」
「突っ切れるかよ」
「突っ切れるよ……って、ああ、普通知らないか」
「何をだよ」
「砂漠大迷宮使えば、高速馬車といい勝負で向こう側いけるんだぜ」
「使えるかよ。こちとら、いくら百人長がいるっつったって半分は白兵戦できないメンバーだぜ。増して迷宮なんて」
「それがな、いけるんだよ。まあ宣伝してるわけじゃねーから普通知らんよな」
ニヤニヤしながらアイザックが追加注文。酒のつまみに鳥の丸焼きってあたりはさすがオーガだ。
「迷宮ってのはな、正解のルートがある。そこを通ればほとんどなんにもしないでも、ひたすら進むだけで抜けられるんだ。しかも地下っつっても、幻影で隠された明かり窓とかあるから結構明るい。オアシスを利用した水道もあるしな。オススメだぜ」
至れり尽せりに聞こえる。が、そんな美味い話あるものだろうか。
「正解がわからないから迷宮に迷宮の意味があるんじゃーねーのか?」
「お前、俺がどこに帰る気か知ってるか」
「…………」
「牛オーガの村はな。砂漠迷宮抜けていくんだぜ」
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