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「アンディさん、矢、また使うんですか?」
 じゃぶじゃぶと回収してきた矢を洗っていた俺に、セレンが不思議そうな顔で問い掛ける。
「ウチの部隊の矢は特別製だからな。そうそう使い捨てられないんだ。本来は森エルフ領まで持って行くつもりだったんだし」
「そうなんですか……あ、矢じりが鉄じゃない」
 不思議そうに一本を取ってしげしげと眺めるセレン。
 その俺の横ではアンゼロスがじゃぶじゃぶと服と鎧と剣を洗っていた。いつものように真っ裸で。
「……お前も結構平気で脱ぐようになってきたなアンゼロス」
「へ、平気じゃないっ! すごく恥ずかしいに決まっているだろう破廉恥スマイソンッ!」
 真っ赤になってアンゼロスは怒る。
「別に俺が洗い終わるまで待つなり、池の向こう岸で洗うなりしてもいいと思うけど」
「……お、お前が僕のいない隙に破廉恥な真似を始めたら困る」
「…………」
 なんだかいじらしいんだか信用ないんだか判断に困ることを赤面しつつ小声で言われても。
 ……しかし、まあ、確かにセレンも全裸だし。
「スーマイーソンー♪」
「うわっ」
 がばっと後ろから抱き付いてきたディアーネさんも服など着ていなかったが。
「さっきはありがとう」
「な、何がですか」
「私を援護射撃で助けてくれたじゃないか」
「……余計な手出しでした」
「いや、すごく嬉しかったぞ。気分悪かったのは一気に吹っ飛んだ」
 ものすごく複雑な、ものすごく余計なことだったと思うけれど。
 それでも俺があそこで我慢できずに代わりに撃ったことは、ディアーネさんの何かの琴線に触れたらしい。

 で。
「……よーうスマイソン」
 池の隅でばしゃばしゃと大人しく身体を洗いながら、アイザックが暗ーい声を出す。
「……なんだいアイザック」
「お前……もしかしていつもそんなパラダイスな入浴タイムなのか?」
「…………」
 確かに傍から見たら裸の美女が3人、嬉しそうに俺に絡みついてキャイキャイと仲良く……ああ、確かにこれアウトだわ。
 しかしディアーネさんは悪びれた様子もなく胸を張る。
「別に私はお前らと風呂に入るのを嫌がったことはないはずだが」
「あ……いや、まぁ、そうですが」
「別にマスかいても構わんぞアイザック」
「い、いえ……さすがにそれはちょっと」
 意外とシャイなアイザック。いや普通面と向かってはしないけど。隊でもやるのは一部だけだ。
「…………」
「…………」
 今さらのように俺の後ろに隠れるセレンと、しゃがんで身体を隠すアンゼロス。確かにこの二人は他の奴に肌を見せたことはないか。それを俺には当たり前のように見せてたわけで……。
 やっぱアウトだ。
「うう……くそ、帰ったら覚えてろよスマイソン。俺は絶対このやるせなさを忘れないぞファッキン!」
「いや、その……セレンはまあ、ともかく……アンゼロスとかとは多分お前誤解してるからその辺をだな」
 なんか涙目のアイザックにこっちもちょっと涙目(今まで彼女持ち発覚者にしてきた地獄のイビリを思い出した)で説得しようとするが、横でディアーネさんがムッとした顔をした。
「アンゼロス『とか』……?」
 アンゼロスと同列の扱いがいたくお気に召さなかったらしい。
 大きな胸を揺らしてずずいと進み出るディアーネさん。
「この際だからはっきり言っておくぞアイザック」
「はぁ」
「私とスマイソン……いや、アンディの間に、肉体関係は……ある!」
「!!」
 面白いぐらいガーンという顔をするアイザック。
 というか言ってどうするというんだディアーネさん。俺に対する何かの嫌がらせですか。
「それもぬっちょぬっちょのべたべたに全開だ!!」
「な、なんという……なんという、貴様、スマイソン!! どうなってやがる!!」
 振らないでお願い。
「そして私はそれ以上です!」
 大宣言するセレン。
「いや私はかなりディープなところまでいけるぞ」
 対抗するディアーネさん。
「万死に値する!」
 涙目のアイザック。
「今ここで決着をつけようかセレン。私はもうカミングアウトしたから怖いものなしだ。これからはアイザックがいてもアンディとするからな」
「なっ」
「お前はまだ人前では恥ずかしかろう。私は裸ぐらい部下に見られてもなんともない。その延長だ。これは私の不戦勝かな」
「わっ……私だって、アンディさんの雌奴隷です! それを人に見せ付けるくらい……!」
「ブモォォォン! スマイソン、貴様本当に一体何をしたんだこのちょっとの間に! 殺っていいか!? なあ!?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 全員裸で対決したり怒り狂ったり土下座したりの大カオス。
 そして。
「いい加減にしろこの破廉恥野郎どもーーーー!!」
 半べそのアンゼロスの剣圧でディアーネさん(ちゃっかり自分で跳んで逃げた)以外、空高く吹っ飛ばされる俺たち。
 ……ああ、巨体のアイザックでも結構飛ぶんだなあと感心した。

(続く)


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