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「つまり昇進すると前のように見合いが多くなるのが嫌なんぢゃな」
「正確には、私はもう見合いする気もない。目立つ気もない。心に決めた男ができた」
「ほうほう……なんぢゃともういっぺん言ってみろ」
「一生添い遂げるつもりの男がもういると言った」
「どこのボンクラぢゃあブチ殺すぞ!」
「そんなことしたら父上を凌遅刑に処すからそのつもりで」
「……ごめんパパが悪かった」
 セレスタの現在の商王の下で内閣を構成する一人、アシュトン第六大臣。
 南方オアシス地帯のダークエルフコロニーから選出されている政治家。主に軍事戦略担当の人。
 そしてディアーネさんの実父、らしい。
「アンゼロスに続いて百人長も相当なお嬢だったんだな」
「兄弟が92人いるうちの一人をお嬢と呼んでいいのかは人によると思うがな」
「何を言うディアーネ! パパはお前を一番愛しておるぞ!」
「じゃあその愛を試したい。とりあえずもう来ないでくれ」
「そんな!」
 駄目なパパだ。
 そんな年甲斐もない(人間風に見て40歳くらいに見える)父親にディアーネさんは溜め息。
 フッと顔を引き締める。
「本当のところを言え、父上。見合いだけではなく、私に将軍になれと言ったりオーバーナイトになれと言ったりするからには、ダークエルフの『顔』が必要になったのだろう?」
「……うむ」
「最初からそう言えばいい」
 話の流れが読めなくなったので、ディアーネさんに視線を向ける。
「つまり、ダークエルフに腕っ節のある実力者がいるということを軍部内で知らしめないといけない流れになっているってことだ。将軍やマスターナイト、オーバーナイトになれば幹部扱いで軍略会議に出席できるからな」
「そう。……先のトロット戦争の後、南東部の森エルフ領から数人エースナイトが出たのを知っているな」
「ああ、長いこと交易を拒んでいたところだな。知っている」
「そこのエースナイトが最近マスターナイトになったんじゃが、やりたい放題でのう。地元商工会の支援で南方軍団の半分を奪い取って公安紛いのことをしておって、まるで愚連隊じゃ。文句を言おうにもマスターナイトは将軍権限があるから千人までは志願兵扱いで手元に置けるし、今や南東の森林領は半独立国じゃ」
「多少のものなら他の地方もそういった傾向があると思うが。セレスタはそういう国だろう」
「ウチのオアシスコロニーからダークエルフとオーガ、合計40名がいなくなった。全員娘っ子じゃ。……噂によると件のマスターナイトとその父親である商工会長の個人的な後宮に放り込まれたと聞く」
 ディアーネさんの眉がぴくりと動いた。
「ナメられとるんじゃよ。ダークエルフコロニーにはロクなのがいない、手を出しても怒るのなんて大して強くもないワシ一人じゃと思うておる。実際ワシ一人が怒り狂ったとて、他の地方は様子見、件のマスターナイトがワシをさっくり殺せばそれで話が済んでしまうと思うておる」
 溜め息。
「実際にはお前がおる。トロット戦争に従軍した者は皆お前を恐れておる……頼むディアーネ、お前の存在を奴らに教えてやってくれ。本当にワシらを敵に回したらマスターナイトなど犬にも劣ると教えてやってくれ」
「断る」
 ディアーネさんはきっぱりと言った。
「何故ぢゃあ!!」
「そのついでに手元に引き寄せて、あわよくば見合いをさせようという魂胆が見え透いているからだ」
「うぐ」
 ……大臣。あんたもっとポーカーフェイスしようよ。
「だが」
 ディアーネさんは立った。
 最近よく見る甘々お姉さん顔ではなく、久々に戦争の英雄の顔をしていた。
「連中に教えておかないといけないな。……味方の背を撃つという事がどれだけの罪かを」
「ディアーネ!」
「父上、クロスボウ隊を戦力リストから外しておいてくれ。私が個人的にお灸を据えに行く」
「ディアーネ、ほんにお前は頼りになるのう! 大好きぢゃあ!!」
「飛びつくな鬱陶しい! 恋人の前で!」
「……恋人?」
 大臣はぐるーりと首を回した。
 野次馬はドワーフ兵2人、オーガ兵1人、人間俺一人。あとセレンとアンゼロス。
「貴様かぁぁぁぁぁぁ!!!」
 大臣が剣を抜いていきなりアンゼロスに打ちかかった。
「違います大臣!!」
「やめんか父上!!」

(続く)


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