半鐘によりクロスボウ隊全員が演習場に集められる。
「これよりセレスタ北方軍団クロスボウ隊は三ヶ月間ほど総本部の戦力リストを外れる。つまり活動休止だ」
 ディアーネ百人長の開口一番の言葉に、全員に動揺が走る。流石に私語をするほど隊規は乱れていないが、どういうことかとみんな不安な顔で次の言葉を待った。
 戦力リストを外れるということは、つまり軍の命令系統から外されるということ。ことによっては解散、再編成なども意味しかねないことだからだ。
 ディアーネさんの後ろに立つ飛龍と伝令兵、それに特徴的なローブに身を包んだアシュトン第六大臣の姿も、見ようによっては不安要素として映る。
 が、ディアーネさんは敢えて意に介さず、次の言葉を継いだ。
「理由は私の個人的な旅行だ」
「…………」
 微妙な空気が流れる。
「本部隊は私の魔法援護があって100%の力が発揮できるように最適化されている。私なしで運用していたずらに戦力を削られては困るからの措置だ。この措置が通ったということは諸君が戦争用の切り札であるという総本部の認識の証左でもあるので各員光栄に思って欲しい」
 言葉を切ってディアーネさんが全員を見回す。
 だからって旅行とか……なぁ?
 という変に居たたまれない雰囲気。まあしょうがないが。
「こほん」
 あまりに微妙な雰囲気に娘が晒されているのが見ていられなかったのか、大臣が咳払いをしつつ前に出る。
「先のトロット戦争における諸君ら……と言っても当時はまだ人員数は半分だったか。とにかくクロスボウ隊の諸君の恐るべき力は重々承知しておる。しかしそれ以来、その力を頼みにした我々中央の者の命令により絶えず準備配置を敷かれ、まとまった休みも取れていないという報告も聞いておる」
 物分りのよさそうな笑みを浮かべる。この辺は流石に政治家か。
「ここで準兵より過ごしておる若い諸君は知らぬかもしれんが、本来他の部隊ではローテーションを組んで数年に一度、帰省休暇が組まれておるのだ。クロスボウ隊は代わりがおらなんだので未だ出せてはおらんようじゃがの」
 事実らしい。というか他の部隊から転属してきたアイザックなどにちょっと聞いたことがある。
「今回はディアーネ百人長の旅行をきっかけにしているので妙な気分かもしれんが、よい機会じゃ。休暇を取りたい者は期間内を有給扱いとするので、思う存分骨休めをして欲しい。無論帰省をするも自由、この機会にクイーカ観光でもするのもよかろう。訓練シフトを続行する者には特別手当も出すので、安心して思い思いに過ごすと良い」
 微妙な雰囲気は、大臣の話が続くうちに徐々にお祭り気分に変わる。
 ちょっと至れり尽せり過ぎて話が美味しすぎるが、大臣の言うことだ、裏や嘘まで疑う必要はない。
 そして俺やアンゼロス、その他数人の現場に居合わせた者にとってはちょっとした苦笑いだ。まさか部族間のいざこざ処理に肉親の縁故でディアーネさんが駆り出され、大臣が職権乱用してカバーしているとは誰も思っていまい。


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