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泣きながらセレンは散漫に語った。
本当の俺の雌奴隷である、あの時首輪を与えたハーフエルフの名はアップル。
セレンの正体は、アップルとともに旅をしていた、病気のハーフエルフの方だった。
「……じゃあ」
「ひくっ……そう、ですっ……私は、アンディさんに、命、助けられた、あの、アンディさんと顔を合わせなかった方の……っ!」
「……なんで……」
「だって、アップル、アンディさんのものに、なるって、……奴隷になるって、言ったから」
「でも、お前までそんなこと……そこまで入れ込まれる覚えもないし」
「……いのち、たすけたくせに……」
くせにって。
「それに、アップル、いなかったらっ……私、本当に一人ぼっちだから……だから、一緒に雌奴隷になるって、アップルと言ってたのっ……!」
「…………」
「だって、それなら、私たちずっと、ひとりにならないから……ずっと一緒で、大好きな人、優しくしてくれた人、一緒だから……きっと愛してくれるからっ……」
彼女たちハーフエルフの寂しがりの特性は、本当に深刻なもののようだった。
しかし、だとしたら。
「アップルの方はどうしたんだ」
「……ねむってる」
「?」
「……二年前、ポルカで……エルフに撃たれて、心臓、撃たれて……」
「なっ……」
「っく……でも、生きてます。生きてるけど……目が、覚めない」
アップルとセレンは、あれからも町と森の間でひっそりと暮らしていたらしい。
いつか俺がポルカに戻る時を夢見て。揃って雌奴隷として楽しく暮らせる日を心待ちにして。
……字面が凄いが、本当にそう言ったのだから仕方ない。
セレスタがトロットを落とし、属国化してからは少しずつ町とも交流ができるようになり、暮らしが楽になっていったという。
セレンたちも多少の魔法が使え、町の者にはなかなか手が出せない森の蜂蜜や希少な薬草を栽培することができた。それが高く売れたおかげで大変だった食料調達も楽になり、小銭も溜まるようになった。
これなら俺が戻るまでには蓄財して、猟師小屋よりずっと快適な奴隷小屋を町外れに建てて暮らせると意気込んでいたという。
そんな折に事件が起こった。
セレスタの宥和政策が裏目に出たのだ。
あまりにしつこく北の森のエルフたちに交易を求めた結果、欲深な異種族たちめ、と腹を立てた若いエルフが威嚇として町の者数名を撃った。
すぐにエルフの長老会が自ら鎮圧して事なきを得たのだが、その時に犠牲になったのが……当時、ポルカ周辺で一番森に近い位置に暮らしていたアップルだった。
「駄目かと思ったけど、ポルカの霊泉の力で、命だけは助かったんです。矢を抜かないで温泉につけて、それから矢を取り除いて……傷は何とかなったんです。でも、そのまま目が覚めなくて」
「…………」
憤りを感じるが、どうにもならない。
第一そんな事件が起こった頃、俺はトロットにもポルカにも気まずくて戻れず、セレスタでくだを巻いていただけだ。役に立てるわけがない。
「今もポルカの病院で、ずっと眠ってます。交渉中の不祥事だったし、両方から大事にしてもらえてます。でも、私、それでひとりぼっちになっちゃったから……」
……ようやく、謎が全て解けた。
「それで、アップルから首輪を借りて?」
「…………」
こくりと、セレンは頷く。俺の胸に顔を埋めたまま。
「いつかアンディさんと一緒にポルカに戻って、アップルに会ってもらうつもりでいました。でも、最初に思い出してもらうつもりでついた嘘が、もう嘘だって言えなくなっちゃって……抱かれたときから気持ちが止まらなくて、捨てられたくなくて……ごめん、なさいっ……!」
「……バーカ」
中天に輝く月を眺めて、囁くように言う。
半分はセレンに。半分は自分に。
今日学んだ。
……俺は、今は大手を振って戻れる故郷もなく、戻れる職もない。
思ったより孤独で、それを明るい顔で笑い飛ばしていられたのは、この二人のハーフエルフが国も職も関係なく待っていてくれるおかげだったのだ。
それをなくしたら、何もない。
何もないそんな孤独が怖くて仕方ない。
だから俺はきっとセレンやディアーネさんに似ている。
セレンよりずっと弱くて愚かで、取り柄も何もないけれど。だけど温もりを手放せない。疑うことさえ怖い。
俺とこの子たちの関係を、きっと弱者の傷の舐めあいという人は絶対にいるだろう。だとしても、俺たちは互いを手放せないし見捨てられない。
「でも、俺浮気者だぞ。実はディアーネ百人長ともエロいことしてる」
「知ってます。でもいいです。アップルも多分許してくれます」
「そう言った舌の根乾かぬうちから、もうお前に欲情してもいる」
「私はいつでもアンディさんに欲情してます」
「すごい安月給なのにお前を孕ませたいとも思ってる」
「ポルカに帰ったら子供の一人や二人育てられますよ。アンディさんはおうちでエッチなことするだけでもいいんです。私がアンディさんとアップルごと養います」
「……お前本当、強すぎ」
こんなまっすぐすぎる愛情が眩しくて。愛しくて、嬉しくて。
……手放せるわけ、ない。
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