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 ぱしゃっ。ざぱっ。
「…………」
「どうしたんですかアンゼロスさん? 水浴びしないんですか?」
「いや、少し月を見ていたくてね。もう少ししたら入る」

 ちゃぷん、ちゃぷん。
「…………」
 アンゼロスの横顔。セレンの裸体。
 アンゼロスがちらりと視線を走らせ、口を開く。
「セレン」
「なんですかー?」
「……最近ずっと気になっていたんだ。少し、訊いていいか?」
「私にですか?」
「ああ。……僕はこれでも結構修練した方だと思ってる。剣で死にかけたことも一応ある」
「?」
「特にセレスタに来てからは実戦形式でね。エースナイトはあまりヘルメットを着けないから、そのスタイルでやって……耳を、切り落としてしまった事もあるんだ」
「……い、痛そう」
「不覚だった。まあ剣士の刀傷だ、勲章だとは思っていた。……しかしエルフの血は結構凄いものだね。いや、皮肉というべきか。切り落としても耳は伸びて、今はこの通り」
「?」
「ちょっと形が違うだろ? でも、伸びたんだ」
 一拍。
「エルフの耳は、実際再生力の高い部位だ。……気になっていた。君の耳の傷、15年も前についた傷にしては治りが遅すぎる」
「!!」
 セレンが左耳に手をやった。
 俺との思い出の、ナイフで切った傷がある耳を。
「そんなに鋭利な傷なのになんでだ? 増して医療光術なんて使えるのなら、とっくに消えていると思うんだ」
「…………」
「気になることはまだある。スマイソンの話によれば、君は友人と連れだって旅をしていたはずだ。ポルカで全快したというが、何故今はその友人をいなかったように、一人で当然のように振る舞っている? ハーフエルフの寂しがりの特性をよく口にする割には不自然じゃないか?」
「そ、それは……」
「……今ごろ、スマイソンを探しにきたのも少し引っかかる。すぐに探しに出れば、例え立ち入りが禁じられているような場所を計算に入れたとしてもトロットじゅうを探し回るのは三年もかからない。セレスタではハーフエルフが大っぴらに動けるから、一年もあれば主要な街を探しきれるだろう」
 アンゼロスは一息。セレンの反論がないのを確認して、続ける。
「……すぐにそうするでもなく、15年も経ってようやくだ。戦争のタイミングで動いてももう少し早い。心配ならそのタイミングで動くだろう? 待つつもりならハーフエルフには二十年でも三十年でも苦にならないはず」
「それは、だんだん会いたくてたまらなくなったから……」
「…………」
 アンゼロスは厳しい顔をセレンに向けている。
 セレンは何か弁解しようとして、諦めるように俯いた。
 そして、目を閉じて。

「……私とアンディさんの間を、引き裂くつもり?」

 目が、ゾッとするほどの感情を孕んだ。
 見たことがないセレン。否。こんな感じを俺は知っている。セックスの最中に、たまに狂的な光を見せることは何度かあった。
 少しも怯むことなく、アンゼロスは堂々と視線を受け止めた。
「僕はスマイソンの友人だ。スマイソンの友人として君に訊きたい」
 ショートソードの柄尻に手をかける。

「君は誰だ?」

(続く)


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