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 それから数日。
 俺とディアーネさんは表面的には何も変わっていない。
 元々ディアーネさんは忙しく、俺はいつも通りにしがない暇な十人長だ。
 だが、本当に時々、二人っきりになると決まってディアーネさんは命令口調で甘えてくる。
「アンディ。……肩を揉め」
「はいはい」
「ん……そこ、もっと前」
「…………」
「もっと。もっと前。……上司に対する敬意と愛を込めて揉め」
「しかし百人長」
「名前で呼べ」
「……ディアーネさん。ここは肩じゃなくておっぱいだと思いますが」
「嫌いか?」
「大好きです」
「よし。……ん♪」
 セックスにまではなかなか持ち込めないが、それはそれでお互いスパイスな感じだ。
 たまに挿入に至ると凄く燃える。

 その傍らで、セレンも雌奴隷というか、やはり暇さえあればイチャイチャしてはセックスに至る生活を喜んで続けている。
 我ながらぬるま湯というか、実に罰当たりな生活を続けていると思うが、どちらからも決断を促す言葉が出てこないので甘えてしまっている。
 いいのかなあと思うが、どうもセレンも知っていて黙っているようだった。
「アンディさん」
「……うん?」
「その……私、雌奴隷ですけど。私の回数減らしたら泣きますよ?」
「わ、わかった」
 ある意味、胃に悪い。本当にこれでいいんだろうか。

 そのセレンだが、やはりクロスボウ隊にただ居候するのは体裁がよくないので、最近部隊運営の手伝いを始めた。現地徴用スタッフということでディアーネさんが手を回したようだった。
 そして意外な才能が判明。
「……セレンって医療光術できるのか」
「はい♪」
 魔法の一種である医療光術が得意らしい。
 術者の生命力を活性化させ、傷ついた他人に分け与える魔法。例によって効果は大したものではなく、深い怪我にはあまり役に立たないが、それでもちょっとした傷を消すぐらいのことはお手の物で、特にクロスボウの取り扱いに慣れない新米の準兵たちには女神のような扱いを受け始めた。
「ちょっと面白くない」
「嫉妬してくれるんですか?」
「少し」
「嬉しいです♪」
「……不愉快だからそういうノロケは二人っきりのときにやってくれ」
 アンゼロスに呆れられた。


「はい、次の方ー」
「お願いしゃス」
「はい、ちょっと待ってくださいねー。……むぐむぐ」
 セレンが患者を前にして、サラダにした薬草をもぐもぐ食べる。
 薬草と言ったってその辺に生えてる野草の一種で、本来は普通の薬より有効なものではない。しかしセレンが医療光術を使う際、こうした薬草で生成される生命力が重要らしかった。食べたそばから回復力に変換して使えるらしい。
「はい、いきますよー」
 セレンが手をかざす。準兵の指にできた血豆がものの数秒で消えていく。
「おお、すげー」
「えへん。ハーフエルフの長旅には便利なんですよー」
「よしよし」
「えへへー」
 医務室でイチャつく俺たち。治療を受けた準兵はちょっと悔しそうな顔をして出て行く。
「見事なものだな」
「えっへん。こう見えて苦労してるんです」
 アンゼロスの呟きに胸を張って答えるセレン。
「この術は自分の生命力を自在に活性化させるところから始まる術か」
「はい。一人旅の時はそこまででいいんです。ちょっとした怪我をしてもそれで全部OK」
「なるほど。便利そうだ」
「アンゼロスさんも覚えます? 難しくはないですよ」
「…………」
 アンゼロスは難しい顔をした。魔法が苦手なのかもしれない。まあ魔法の才能があるハーフエルフは全体の三分の一というし。
「しかし、こんな術があるんならお前の『友達』にも使えなかったのか」
 セレンは、友達を救うためにポルカに霊泉を求めてきたはずだ。
 大きな怪我には有効でないにしろ、旅をしてくるほど余裕があるなら少しは役に立ちそうな技だと思う。
「あー……あの時はそもそもあまりご飯とか食べられなくて……外からエネルギー入れようとしても難しかったんです」
「へえ……うん?」
 あの頃のセレンは何かの理由で断食してたってことだろうか。
 少し違和感を覚えたが、まあハーフエルフのことだ。俺のあずかり知らない何かがあっても不思議ではない。
「…………」
 アンゼロスは相変わらず難しい顔をして、セレンを見ていた。


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