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「アンゼロス十人長、実は女だった」の報は数分で隊内を席巻した。
 分散して作業してたはずなのに。実に連携の取れた仲間たちで頼もしい。
 そしてセレンと百人長を差し置いていきなり隊内人気トップに躍り出た。
「だってセレンちゃんはアンディ十人長の雌奴隷じゃん! めっさ売約済みじゃん! ちくしょう死ねよ!」
「百人長だって元婚約者にまだ未練たらたらって聞いたぞ!」
「しかしアンゼロス十人長は今まさに生まれた我ら専用、生え抜きのヒロイン。ルックスだってよく見れば百人長に勝るとも劣らない」
「俺は男でも女でも一向に構わん」
「いや構えよ。怖ぇよ俺らが!」
 ああ、比較的新しい隊だけあって飢えた独身野郎が多い。


 で。
「スマイソン、警邏付き添え」
「付き合えじゃなくてか。というか俺、舎内清掃当番だったから疲れてるんだけど」
「うるさい付き添え。一人で回ってるといきなり下半身裸でダイブしてくる奴がいて怖いんだ!」
「うわー」
 アンゼロス的に今回の女バレの責任は俺にあるらしく、半ば保護者、というか従者扱いされるようになってしまった。
「俺が下半身裸でダイブしたらどうする」
「す、するなよ! ぜったいするなよ!? ちょん切るからな!」
「冗談ですごめんなさい」
 まあ俺の場合、クロスボウ隊でも腕っ節のなさには定評がある(技術系だから当然だけど)から確実にあしらえるってのもあるんだろうけど。
 やっぱり普段からそれなりに仲良かったおかげの信頼……だと思いたい。
「しかしお前、せっかくそんな恰好するようになったんだから言葉遣いも直せばいいのに」
 アンゼロスは、時々鎧を着ないで歩くようになった。
 そんな時は長い髪を縛り上げることもなく、膝まで届こうかという長さのままになびかせて歩く。
 その髪は長いこと乱暴に隠していたとは思えないほどサラサラと美しくて、やっぱりエルフの血って卑怯だな、と思う。
「べ、別に僕は自分が女であることを認めたわけじゃない」
「?」
「今の任務は男じゃなくても別にいいってことを認めただけだ」
「違いがわからねー」
「全然違う。思いっきり違う。天と地ほどに違う」
 さっぱりだ。
「あの鎧だってしっかり使い続けるからな。あれは僕の誇りだ」
「へいへい。仕立て直した方がいいと思うけどな……」
「嫌だ」
 ハーフエルフの論理は俺には理解できるようになってないのかもしれない。

 今夜も月が綺麗だ。


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