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地方都市バッソン。うちの陣地から一番近い街だ。
トロットからの街道筋にあり、交易拠点として最近急激に発展している。
ちょっと前までは貿易がほとんど途絶えていたので寒村みたいなものだったらしいが、セレスタが無理矢理こじ開けたので目に見えてメキメキ広がっていた。
陣地とは逆方向に。
どうしてもうちの陣地は恐怖スポットらしい。
まあクロスボウは新兵器だし、流れ矢が怖いのはわからなくもないけど。
「注文票は?」
「ある」
アンゼロスが懐から羊皮紙を取り出そうとして、黒い鎧の中に手を引っ込める。亀みたいだ。
「……脱げよ」
「!! い、いきなり何を言い出すんだ君は!!」
真っ赤になるアンゼロス。
そこまでその鎧というか、鎧着る習慣大事なもんか?
「こ、こんな公衆の面前で……」
「お前の脱衣シーンなんて誰も喜びゃしないだろ。邪魔っけなら脱いで馬車に載っけとけよ」
「なっ……う、うー……む」
アンゼロスは百面相する。
怒り、呆然、困惑。
一通りうろたえた後に、ふーっと息を吐いて落ち着いて、キッと俺を見上げて反論する。
「……君には無関係だろう。この鎧は僕の都合だ」
「そりゃそうだけどさ」
しかし気づいているのだろうか。
バカごっつい黒い鎧を着たチビ兵士が、両腕を胸鎧に引っ込めてもぞもぞと身体をまさぐる行動は、どっからどう見ても滑稽なのに。
「あった」
すぽん、と両手を出す。やっぱりギャグだ。
「まずは煙草、髑髏印を五箱。ねこみみ印を三箱。安いインクを六瓶。陶コップを八つ。あと……な、なんだこれはっ」
「どれ」
アンゼロスの背後から羊皮紙を取り上げる。反射的に取り返そうとしてパタパタ手を伸ばすアンゼロスをいなし、日に透かすようにして読み上げる。
「……セクシーオーガとエルフスイートナイトの最新号?」
「わーっわーっ! バカ! 昼日中から往来の真ん中で読み上げるな破廉恥スマイソン!」
どっちも割と有名なエロ絵巻。
トロットでは紙の生産量や印刷技術の関係でエロ絵巻なんて存在自体ありえなかったが、セレスタのいいところはこういうゾクな文化の進みが早いところだ。
しかしこんなの人に頼むなよ。
「売ってんのかなあ。エルフスイートナイトなんて前号出てからまだ一年経ってないと思うんだけど」
「どっちにしても買わせないぞ」
「ひでー、これを楽しみにしてる兵たちに申し訳ないと思わないのか。そんなだから百人長が風呂でオカズにされるんだ」
「お、オカッ……なな何を言い出すんだバカ!!」
常々思うがこいつは純情すぎる。本当に成人してるのだろうか。
一通りの買い物を済ませて遅い昼食。
アンゼロスは相当俺に対する文句が溜まっているらしく、料理を待つ間からもう説教が始まった。そして食事をしながら続いている。
「大体だな、君は人の命を盾にとって女を陵辱するなんて人間として最低の行いだと思わないのか」
「陵辱ってほどじゃないぞ。せいぜいセクハラ」
「陵辱だ。陵辱なんだ。君は認識が足りていない」
「でも合意が」
「ハーフエルフは流されやすいんだ! 特に未婚のハーフエルフは異性愛にものすごく流されやすいんだ! そこを突いて結果的に和姦になっただけで君が卑怯な行いをしたことには変わりないんだよ!」
「なんかお前ひとごとみたいだけど、お前もハーフエルフなんだよな」
「ああ」
「流されたことあるのか」
「ない」
自信満々に胸張ってそんなこと言われても。
「それだけ力説するからには首都あたりの親切な人妻相手に熱愛経験でもあるのかと思ってた」
「何故人妻なんだ」
「なんとなく」
はぁー、とアンゼロスは息を吐き、口元をナプキンで拭く。俺をいびっても反省しないことに、ようやっと気づいたか。
「お前黙ってれば美少女と間違われるぐらいの顔してるんだから、面食いを一人二人引っ掛けてそうに見えるんだがな」
「……び、美少女」
一瞬止まって赤面し、ごしごしごしと口元を拭く速度が上がるアンゼロス。
「……って君は何を言ってるんだ。僕は男だぞ」
「知ってるけど。たまーにエルフの血って卑怯だなーとは思う。男でもそんな美人に生まれるとかありえねーよ」
「……美人」
こっちは妬みで言ってるのに嬉しそうな顔されると困るんだが。
いつものようにチンガードプレートに口元を引っ込めて表情隠してるつもりなんだろうが、そこまで嬉しそうな顔されると……コイツ実は衆道の人なんじゃないかと疑いたくなる。
椅子を引いてちょっとだけ距離を開けた。
体格的には小さいがこいつはすごい強い。
きっと攻めだ。
でも俺は入れる方でいたい。
「も、もう帰ろうぜ」
「……?」
不思議そうな顔をしていたが、理解しなくていい。頼む理解しないで。
アンゼロスの中のビィストが目覚めないようにしばらく距離を取ろう。
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