収穫祭の俺のプランは、まず新参奴隷であるシルバードラゴン娘たち、さらにミラさんたちやコスモスさんなどからダンスに誘い、こなしていく。
 特にそのへんの雌奴隷たちは住民とのつながりも浅く、あまり焦らしておくのは彼女らにとって退屈な展開になってしまうだろうという考えからだ。
 古参は全く逆で、パターン的に最後は俺とのダンスも果たされるはず、と考えてくれるだろうし、それまでの時間の使い方もいろいろあるだろうと信頼しておく。
 人数が人数だ。計画性がなくては途方に暮れるしかないが、ある程度目星をつけて流れを整理していけば余裕も持てる。
「エマ、こっちだ」
「主様っ……あ、あの、私でよろしいのですか」
「いいも悪いもないだろ。自分のドラゴンと踊って何がいけない?」
「その……序列とか、順番などは」
「俺は勝手なんだ。思いついた順だ」
 ラン王女をそこらのベンチに休ませた後は、まずは近くにいたエマから。
 エマにも言いつけて充分に着飾らせてあるし、戸惑いながらもダンスの流れには乗る運動神経も頼もしく、ダンスパートナーとしてはどこから見ても自慢できる。
 ……年恰好はラン王女と一緒で、俺とは倍くらいの歳の差があるように見えてしまうけど。
 でも、続いてエマにしたのには理由もあって。
 ……ひとしきりステップを踏んで、区切りの付くあたりでポケットからチャリリッと耳飾りを取り出す。
 それを見てエマは一瞬惚けたような顔をしてから、ハッと身を伸ばして硬直した。
「それはっ……」
「約束してたろ。ついでみたいで悪いけど」
 王女のブローチを開発する過程で何度もプランを白紙に戻したため、少々頭を冷やしたくなって手を付けた……というのがここで出てくる理由だったりするのだが、まあそれをわざわざエマに言うのも無神経だ。
「龍の宝玉」という難易度の高い素材に対して、普通の素材はいいなぁ……自由があるよなあ、と堪能しながらなんとなくいじってたら、ふと気が付いたら出来ていた感じなので、エマのことを強く思ってのデザインでないことに少しだけ罪悪感はある。
 でも、しばらく頭が小物デザインの事に集中していたせいか、そんな無意識のデザインでも出来はなかなかいい。左右対称と見せかけて主役の飾り石だけが違うのも我ながら楽しい感じに仕上がっていると思う。
 ポケットに無造作に突っ込んでいながらも特に破損がないことを軽く確認してから、エマの耳たぶに右、左ととりつけてやる。
 作り物めいた白い肌と銀の髪に、小さなガーネットとトパーズの色が映える。うん。氷竜らしく寒色系の宝石でまとめようかな、とも思ったけど、統一感よりアクセントを与える方向の色の方が彩りがいいな。
 彼女が今身に着けているのも、濃緑と黒を基調にしたシックで精緻な民族衣装(というかクリスタル・パレスの基本的な盛装)であるために、イヤリングの色彩をより際立たせてくれるのもいい具合だ。
 うんうん。
「よく似合ってる」
 光り物をあまり多く身に着けると喧嘩をする、って言ってたのはシャロンだったっけ。
 全身金属な鎧も扱う鍛冶屋の感性では、輝きの単純量でゴージャスを競うのはナシではないと思う。
 でも美しい少女の装いの中で、自分の仕立てたワンアイテムが特別な効果を発揮しているのはなかなか満足感のある光景だ。
 いいね。なんというか、無駄がない。
 全身隙なく綺麗で、なおかつ耳元の光に視線が引きつけられ、「思春期の少女が羽化しかけている瞬間の繊細な美」をテーマ的に浮き立たせている。
 もうちょっと大粒でもよかったかな……? なんて具体的な調整点を思い浮かべられるのは自分でもちょっと驚きだ。今まで単品での完成度ばかり気にして、コーディネート的な感性はさっぱりだったし。
 やっぱりエマの……ドラゴン娘の美しさは、足し算引き算だけではないアクセサリーの本当の実力をも浮き彫りにするんだろうか。
「あ、あの……あ、ありがとう、ございます……♪」
 一人で悦に浸っている俺に、エマはおずおずと、しかし本当に嬉しそうに礼を言う。
 なんとかして耳を見ようとして、エルフのように耳が長いわけでもないので見ることもできず、かといって外すのもどうかと少し悩んで、ハッと思いついていきなり近くの民家の石壁に手をかざして、壁の補強のように身の丈ほどの氷の板を出現させる。
 その氷壁を今度は両手で拭きこするようにすると、氷が瞬時にガラスのようになめらかに磨かれ、即席の鏡のようになった。
 そしてそれで自分の姿を見て、溜め息。
「……あぁ……♪」
 急に少女が始めた奇行に、周囲で次を踊ろうかと集まっていたポルカの人々はおおーっと言いつつも慌てない。
 さすがにもうエマがドラゴンであることも、氷竜がその気になると色々突拍子もない芸当が可能であることも周知の事実であるようだった。
「そういう鏡ってもう少し大きく作れる?」
「さすがにちょっと裏が小汚い石積みだと見にくいな。改めて裏に白い布とか挟めないか」
「小汚いって言うなよテメェ人んちを!」
「普段から手入れしてねえから隙間から雑草生えてんだろが。祭りの前ぐらいなんとかしとけよな」
 ……いや、でももうちょっとドラゴンの絶技を恐れてもいいと思うよ? これで氷漬けになったやついるんだよ?
 誰ってフェイザーだから別にいいんだけど。

 ラン王女とエマ、わざわざ連続でアクセサリーをあげてみせたのは、俺は職人だからそんなにこういうプレゼントに気負わなくていいんだよ、というのを王女に教えようという魂胆でもあった。
 俺が女の子にそういうの作るのはわりとふつう。むしろ他にはエロいことくらいしか普段の返礼もできないので(そしてエロいことは本来俺の目的であって報酬ではないので)、せっせと家族サービス頑張ってる感じだと思って欲しい。いや雌奴隷って家族扱いなのかというところには多少まだ解釈の余地はありますが。
 ……というメッセージは伝わったのかどうなのか。エマの喜びようが過剰だからちょっと逆効果な気もするが、まだまだ日没までのんびりもしていられないのでリンジーおばさんの霊泉ドリンクをぐいっと飲みつつ頑張るのだ。
「リェーダ、踊ろう」
「はっ、ありがたき幸せ」
「……いや跪かないで。もう音楽始まってるから」
 リェーダは運動能力に問題はないが不器用だった。不器用というか、あまり周囲を気にしていない。人にもテーブルにもよくぶつかってしまう。……俺以外どうでもいい感漂う。
 それを何度かフォローしつつ、次のターンでは黒首輪組へ。
「シャリオから踊るか」
「私と踊っても仕方がないだろう。だいたい私はお前とイチャつくためではなくあくまで」
「いいから。今日はそういう日なんだから踊れ」
「……セックスでいいだろうに」
「ちゃんと踊らないとしばらくお預けだぞ」
「……それは嫌だ」
 ムスッとしながらも結局踊るシャリオ。わりと素直に体をくっつけてくるあたり、本当にダンスが嫌というわけでもないんだろうな、と推し量りつつも勘繰りはそこまでにする。
 次はレイラ。
「こういうダンスは我々のパレスにはなかったもので、ご満足いただけるかわかりませんが」
「……そこまで抱き締め合いながら踊る類のもんでもない」
 逆にレイラはステップに支障があるくらい抱き締めてきた。単にシャリオがおっぱいくっつけてきたのを俺が嬉しそうにしたのを勘違いしたのか、あるいはわざと挑発しているのかはわからない。
 ……天然なところと計算ずくなところ、そしてスケベなところが同居してて意外と読めないよなあ、この子。
 そしてコルティへ。
「踊らなかったらエッチがお預けなら、三倍踊ったらエッチも三倍できるってこと?」
「三連発ぐらいなら状況が許せばいつでもするけど、そういう会話北西語ではするなよ?」
「うん、わかってる♪」
※広場の真ん中だったけどカールウィン語で話したので周囲の町民には多分伝わってません。
 ……あっ、ラン王女は明らかに顔赤くしてる。
 まあさすがにヴァレリー語の地方訛りみたいなもんだし、セントガルド的には北西語より近しいからわかるか……。
 いや、彼女は精液ぶっかけた仲だからセーフ。セーフ判定にしておこう。
 さらに、「レスリーハウス」の近くに回ってミラさんたちに手を伸ばす。
「せっかくだしミラさんとシーマさんも」
「三人一緒に踊るの?」
 言葉のあやに真顔で返される。
「いや無理でしょ」
「やればできる!」
 シーマさんは何故かやる気だけど、どうやってカップルダンスを三人で踊るんだ。
 と思ったら、ミラさんと手を取り合ったところで、まるで教官みたいにシーマさんが後ろに張り付いて俺の両腕に手を絡める。
 いや待って、これおっぱい的には素晴らしい感触ではあるけど足の出し場がない。
「はいご主人、足はいつもの感覚で出してー。私ぴったりトレースするから。踏まれないから」
「いや踏むよ絶対踏むよこれ」
 あと周囲の視線がきつい。
「シーマができるって言ったらだいたいいけるから気にせずやっちゃって。しくじっても痛いのシーマだけだし」
「私の才能に対するミラの熱い信頼にこたえなくてはなるまい!」
「……まあ信頼してないわけじゃないからツッコまないけど」
 痛いのはシーマさんだけ、というのがミラさんの発言のキモだと思うのだが、妙にポジティブなのは多分シーマさんがそういう良い部分を拾っていく考え方をする人なだけであって、発言の後半まで聞かないアホというわけではないのだろう。多分。
 そういうわけで気持ちを落ち着け、思い切って足を出していくと……確かにシーマさんは足を接着したかのようにぴたりと合わせ、うまいことダンスに追従する。そしてミラさんもそつなく対面側のステップを踏んでいく。
 グラマラスなダークエルフふたりにサンドイッチされ、ペアダンスのようなそうでもないような謎のダンスを踊る。二人でさえ足が絡まることはあるのに、三人で変則的なステップをこなす姿はある意味で曲芸。
 やっぱりこの二人もノールさんやルキノさんのような才能あるんじゃないだろうか。……なんて言うと、結局ダンサー二人の才能がわかってないだけ、って言われちゃうんだろうけど。
 ……んで。
「あいだぁぁーっ!? あんたが踏むのかっ!」
「邪魔だったら踏むわよ、もちろん」
「そこはもうちょっと反省をみせるとこでしょー!?」
 結局シーマさんの足はミラさんが踏むのだった。
 ……俺の背中に抱きついたシーマさんからは足元見えてないからね。うん。

 そして、そこまで終わって一息つきながら、さて残りの三人はどう誘おうか、と思って霊泉ドリンクに口をつけつつノールさんたちの方を見ると、いない。
 と思ったら、俺の背後に三人集まっていた。
「弟くーん♪ あーそびーましょっ♪」
「ミラたちと踊ったのに私たちは除け者ってのはないよねー?」
「開会から踊りっぱなしでちょっと疲れちゃったので踊って休まないといけないですよねー♪」
 待ってコスモスさん。言いたいことはわからんでもないけどやっぱり文章としてよくわからない。
 といってもまあ、三人がこっちに来てくれたのなら手間が省ける。
「それじゃあ次の演奏が始まったら順番に」
「その前に私たち汗だくだから着替えないとね」
「まーねー。涼しいとはいってもね」
「ぐっしょりですからねー。ウチのお店で着替えます?」
 三人が着替えると言い出したので、思わぬ感じに待たされる……かと思いきや。

「私たちってえっちな奴隷なんでしょ? こういう感じ、どう?」
 外から微かに聞こえてくる音楽。
 ノールさんはうっすら笑い、「レスリーハウス」の中で俺の手を取ってステップを踏み始める。
 汗だくの服を脱ぎ、なにも着ないまま。
「おちんちんハメたままダンスってのもいいかも♪」
 同じく汗に濡れた衣装を脱ぎ捨てながら、過激なことをルキノさんも言う。
 この前の月夜のスケベダンスで、二人ともこういう趣向に目覚めてしまったか。
「いい案ですけど、さすがに腰の高さが合わないですからハメたままダンスは難しいんじゃないですかねー」
 そしてコスモスさんは目覚めるまでもなく、あらゆるエロ趣向はどんとこいのマスタースケベだった。
「でも不格好なりに踊ってみるのもいいかもよ? 誰も見てないわけだし、うまくいったら面白いし♪」
 と、絵筆を立てたグロリアさん。
 ……って。
「なんで自然に混ざってるんですか」
「私踊るのとか苦手だから広場に出ないようにしてたのよ。そしたらいきなりあんたたち入ってきてスケベが始まったんだから描くしかないじゃない?」
「ちっちっちっ。駄目よーグロリア。みんな脱いでるんだから一人で着衣は」
「あ、そっちか。ごめん」
 コスモスさんに言われて脱ぎ始めたけど問題はそっちじゃない。
 ……でも秘密の店内全裸ダンスは楽しませていただきました。
 ついさっきまでみんなが熱狂していた魅惑のダンサーたちを素肌で腕の中に収めて踊るのは、なんともいえない優越感に満ちていたことは言うまでもない。

(続く)

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