広い迷宮の通路の地面は、木の板を雑に並べてある。
 靴やサンダルがなくても足を怪我しないように、という気づかいでもあるが、温泉巡りの順路表示でもあるらしい。
 なにしろ街以上の大きさを誇るので、放っておくと迷うのだ。
 バスメイズの街から近い順に色が塗ってあり、遠くなるにつれて白から暖色を経て黒に向かって色が濃くなっていく。バスメイズに戻りたかったら色が薄くなる方へと進めばよく、遭難者はこれのおかげでずいぶん減ったらしい。
 それでも、好奇心から板の敷かれていない場所に踏み込んでしまう客が後を絶たない。
 迷宮だからといってお宝があるわけもないが、順路の温泉は人が多く、濁りがちでやかましく、人目も気になる。穴場の浴場がないかと探してしまう人は多いらしい。
 あとトイレ。一応それ用に指定された区画があるが、これまた汚くて使いたくなく、もっと奥まった場所で……と迷い込んでいく客が結構いる。
 これらの困った遭難者は、露天迷宮なので大声で助けを呼ぶわけだが、迷宮構造に精通したガイドもそんなに多いわけではないので、すぐ見つけてもらえるかは運しだい。
「素人は助けを呼ぶ声が聞こえても安易に追いかけちゃ駄目だって」
「なんで?」
「自分も迷う。あるいは誘い込まれて誘拐されたりレイプされたりする。たまに亡霊が呼んでることがある。あと何だったかしら」
 ミラさんが商人から仕入れた知識を指折り数える。
「不法滞在者に食われる、だ」
 ディアーネさんが補足する。ああそれそれ、とミラさんが指差して頷く。
「ぼ、亡霊? それに食われるって?」
「亡霊はよくある怪談よ。眉唾ね。……不法滞在者ってのは、口ぶりからすると笑いごとでもなさそうだったけど」
「迷宮の広さを活用して、移動しながら住み着いている者でもいるのだろうな。そういう隠棲集団も小規模ならありえなくもない広さだ。……しかし食い物を手に入れる手段が乏しいのだろうな。誘い込んで掻っ捌いて、文字通りの食料だろう」
「なんでそんなのが野放しなんだ……」
 想像してゾッとする。
 ここでは誰も武器なんて持っていない。素手で武装した奴らに突然襲い掛かられたら……と思えば、たまったものではない。
 ……いや、ディアーネさんやライラがいるんだから今回に限っては要らない心配ではあるんだけど。
 しかしミラさんは笑った。
「あはは、そんなわけないでしょう。ドラゴンやバードマンがいないなら迷宮全部見張れてるわけでなし、可能性としてはそういうのが入り込む場合もあるかもね、って話だと思うわよ」
 ディアーネさんも頷く。
「遭難者を戒めるにはちょうどいいリアリティだろう。実際、裸の丸腰では大男でも剣を持った狩猟者にはかなわない」
「ディアーネ姉さん除く、ね」
「ライラとアンゼロス、それにガラティアも徒手空拳はなかなかのものだぞ?」
 ……などと和やかに歓談しながら迷宮を進み始めて10分。
 すれ違う客、同道する客、いろいろな相手から奇異の視線を向けられている俺たち11人。
 ナリス以外、潔く隠すもののない手ぶら完全ヌード(首輪つき)だ。
 先頭はもちろん言い出しっぺのミラさん、そして昂揚した笑顔のシャロン。
 ミラさんは全くの平静、シャロンはフワフワと雲を歩くような足取りという差はあれど、白黒のどちらも強烈にいやらしいプロポーションの美女たちは、道行く誰にも一切を隠さず、堂々と歩いている。
 斜め後ろから眺める二人のぷるるんと震える美しい生尻、チラチラと見える肛門や陰唇。そして胴体の向こうで堂々と揺らされる巨乳四つがあまりにも神々しい。
 ただでさえ、人間の街ではそうそう見かけない極上の美女たちなのだ。それが全くの全裸で闊歩していく姿なんて、男ならそう簡単に無視できるわけもない。
 その後ろの列は俺。そして並ぶはライラにディアーネさんという、これまた一切我が身を惜しむ気のない二人。
 さらにその後ろにはまだ恥ずかしげなマローネにローリエ、そしてガラティアが、心持ち腕を体の前に抱き締めるようにして続く。流れに乗りはしたが開き直れない彼女たちの姿も、これはこれでそそる。
 そしてその後ろを守るように……いや、むしろ堂々と腕を振って颯爽と歩くのはアンゼロスとアイリーナ。特にアイリーナはなんだか酒にでも酔ったように赤くなりながら楽しそう。
「なんでそんなに楽しそうなんですかアイリーナ様……」
 最後尾にローブを着てついてきたナリスがジト目で見るも、アイリーナは躊躇いがちに、しかし露出の恐怖と興奮を明らかに楽しんでいる顔をして。
「なんとはしたなき女どもか、と密やかに囁く声が聞こえおる……♪ クク、南には数少ないダークエルフ、それと肩を並べる、滅多に見ることのない豊満なる白エルフの姿がよほど珍しいか。わらわたちを異文化ゆえの奇矯なふるまいか、あるいは本物の痴女なのか、と迷いながら蔑む声がたまらぬわ♪」
 エルフゆえの聴覚で、野次馬たちの戸惑いと偏見に染まった囁きを拾っている。
 その中の最も下衆な決めつけこそがおそらくは正解。わかっていて晒している痴女たちなのだ、という後ろ暗い自覚がアイリーナに秘められている破滅的な露出願望を大いに刺激しているのだろう。
「ここなら、わらわの正体を知る者もない。たとえ知れたところで水浴びに無粋な服を着るなど、と言ってやれば言い訳も立つからの♪」
「アイリーナ様って意外とあれですよね、ちんまいわりに見られたがりというか破滅したがりというか……」
「ククク。スマイソン殿がわらわとてオンナであると教え込んだのじゃ。……このような身でも大いに欲を滾らす下衆はおる、ということも、のう……♪ スマイソン殿とのまぐわいを知らなんだら、我が身で性を語ることすら笑い種かと勘違いし続けておったところよ」
 ……そうか。
 発育の悪いアイリーナやローリエは、いっぱしの「女」として振る舞うことをすら躊躇っていた面もあるんだな。
 だからこそ、俺にその女性としての価値を認められ、変態性欲の深淵に自分もまた踏み込んでいいのだ、という再認識をするに至ったことは、反動でエスカレートしていく自分を許す理由として大いに機能しているのかもしれない。
 ……っていうか、アンゼロスも似たようなものか。
 女としての自己を過剰に押さえつけた過去からの、極上の女たちと並んで認められ、非日常の性欲に耽る体験に至るギャップは、遠慮のない欲求の解放という形として表れてしまいやすい……ということだろう。
 そしてこの場はどうせ遠い異国。北のエルフの体面がどうのこうのという、うるさい奴もいない。社会規範としてもギリギリでアリの露出行為。
 雌奴隷という自分の堕落を既に認めた以上、こんなドキドキ体験、しないなんて選択は有り得ない。アイリーナやアンゼロス、ローリエなんかにとってはそういう感覚なんだろう。
 ……逆にシャロンにとってはだいぶホームに近いはずではあるんだけど、いいのかな……まあ本人の判断を信じよう。うん。
「改めて……やばい集団にまぎれこんでしまった」
 ナリスが少し芝居がかった口調で呟き、とほほーっと肩を落とす。
 たった一枚の薄いローブ。裸より恥ずかしい、なんてミラさんは言っていたが、それでも裸の方が恥ずかしいに決まっているのだ。普通は。
 充分ではないとはいえ、隠す方がまともに決まっている。
 だが、砂漠基準の「見たければ見ればいいじゃない」の平然とした露出を見せつけるミラさんとディアーネさん、それに乗じて露出快楽と俺への性的服従証明という妖しい悦びに耽るシャロンやライラ、アンゼロスといった姿に寄り添って歩いていれば、まるでナリスのほうが意気地がない、筋の悪い行動をしているように見えてしまう不思議。
「なんだか、本当にいけないことしてる感じが……ちょっと、気持ちいい……かも……♪」
「な、なんか、うん……わかるっ……♪」
 しまいには流されているだけの引け腰だったローリエやガラティアまで微笑を浮かべ、おずおずと局部を隠す腕を下ろして歩き始めるのを見るに、こういう集団心理って本当に教育に悪くて最高ですね、と俺は思います。
 うん。俺の立場が、みたいな言い訳はもうする気はない。雌奴隷自慢、楽しませていただいてます。
 堂々とおっぱい晒す女たちに目を奪われ続ける男性客が大半なものの、そこに混ざってる俺の存在に何かを感じ、首輪の存在に気づいて嫉妬の視線を向けてくるのもいくらか。
 そう、御明察。こんな最高に美しくてスケベな女たちが、みんな俺のちんこ専用なんだぜ……と。
 彼女たちの間でちんこをビンビンに勃て、時おり目の前のミラさんやシャロンのお尻にいやらしく手を滑らせたり、何食わぬ顔でディアーネさんのおっぱいに手をやったりしながら、あくまでさりげなく優越感に浸りまくる。
 彼女たちも、まるでそうされることが当たり前の挨拶であるかのように気にしない。
 お喋りしながら。余所見しながら。
 歩き続ける異質な露出女たちに、俺は所有権を主張し、彼女たちも当然の行為のように反応する。
「温泉とは言うけど、結局どういう形式なの? 浴槽とか掘ってあるの?」
「単層式迷宮とは言っても地面には勾配があるのです。高度的にいくつか深くなっている通路や部屋があって……んっ♪」
 シャロンのお尻を何食わぬ顔で揉めば、白い裸体をくねらせつつもシャロンは嫌がらず、尻を触る俺の腕を愛しげに撫でて色気のある流し目を見せ。
「アンディ。目の前に女の尻があるのだから発情するのは仕方ないが……あまり本格的に攻めるな。シャロンもミラもすぐ本気になってしまうんだから」
「じゃあディアーネさんで我慢しておきますよ」
 わざと少し高慢な物言いをしながらディアーネさんの褐色の肌を抱き寄せ、腋越しにおっぱいに指をめり込ませて乳首を中指と薬指で挟む。
「そうしておけ。私の乳なら歩きながら揉んでも速度が落ちない。せめて入浴場所まではさっさと歩かないと、皆が風邪をひいてしまう」
「……そうも平然とされるとちょっとイタズラのし甲斐がないです」
「それは我慢してくれ。悶えていては後ろがつかえてしまうからな」
 頼もしい笑顔を見せながら寄り添って歩いてくれるディアーネさん。
 前を歩く二人は残念そう。恨みがましい顔でディアーネさんをちょっと睨む。
 とはいえ、俺も片手が空いているわけで、そちらを狙ってガラティアとアンゼロスが同時に寄ってきて睨み合ったり、アイリーナがふざけてぶら下がってみたり。
「本当に! 何を! やってんですか!」
 あまりのイチャつきぶりに業を煮やしたナリスがズンズン近づいてきたのでおもむろにお尻触ってチョップされたり。
「なんだよう。お前も触られに来たんじゃないのか」
「歩きながら触るのに執着しすぎですアンタ! 渋滞起きてるの見えませんか!」
「いや、それはどちらかというと俺のせいじゃない」
 遠巻きに雌奴隷たちを眺めるスケベな男性客が少しずつ増えているためだ。広い通路とはいえ数十人単位になれば周囲の流れも停滞する。
「だから早く湯に入ろうと言っているだろう」
「ほ。なんなら我がとっとと運んでしまうかえ」
「やめてくださいライラさん本当にマジで! ここでパニック起きたら人が死にますよみんな裸か布一枚なんですから! 子供だって来てるんですから!」
 ドラゴンという単語を使わず饒舌に阻止するナリス。
 何の話だ、とキョトンとする野次馬たちは放置。うん。そもそも相手にする必要ないしね。

 ……そんな調子だったので、最初の入浴場所に辿り着くのに普通の倍くらいかかりました。
 反省はしていない。

(続く)

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