次から次へと丸二日近くもセックスし続けたため、やはり結構疲れていたらしい。
馬車の中では自分でもびっくりするほどぐっすりと眠り込んでいた。
車内の椅子に腰を落ち着けて目を閉じたと思ったら、次の瞬間にはディアーネさんに揺り起こされていたという感じだ。
というか普通に考えたら疲れるなんて当たり前の話だ。途中で食事も睡眠も挟んでいるとはいえ、数十人相手に求められるままセックスというのは、やはりまともな人間のこなせる行動じゃない。
感覚が麻痺しているが、いくら精力が強まっているといっても、普段は霊泉ありきでなんとか持っているというのが現実なのだろう。
「アンディ、アンディ。もう着いたぞ」
「んぅ……?」
「ほ。寝かせておいてやりたいが、そうもいかぬ。どれ、我が温泉に抱えて行ってやるとしようか」
「祭りの前に少しでも体力回復か。そうだな」
ディアーネさんの膝枕で寝ぼけている俺を、ライラがひょいと抱き上げてしまう。
ぼんやりしたまま馬車から連れ出され、朝方の冷たい気温で一気に目が覚める。
「さ、寒っ」
「ほ。早う湯に浸かりたいか」
「い、いやちょっと待って待って、あーと、えーと」
頭を整理。夢心地というか、寝た覚えもなく場面が飛んで若干混乱している。
「……え、えーと、今日は春祭り当日の朝……で、いいんだっけ?」
「混乱しておるのう」
「寝ようと思ってすらいなかったのに意識が飛んでて……」
「霊泉もなしにあれだけ無茶をすればそうもなろう。あのコロニーに寄る時は調子に乗りすぎぬよう注意せねばな」
「日付はそれで間違いない。ちゃんと間に合ってる」
ディアーネさんに太鼓判を押されて深く息を吐く。寝すぎてたりしたらどうしようかと思った。
「エアリ、ありがとう。助かったよ」
背後の巨影にも礼を言う。
エアリはゆっくりと慎重に足を踏み鳴らし、空の馬車を猟師小屋の脇まで移動させながら軽く首を振る。礼を言われるまでもない、ってことか。
「さて、霊泉で匂いを落としたらすぐに男爵殿の屋敷に行くとしようか」
ディアーネさんがそう宣言する。
男爵邸で祭りが行われるわけじゃないが、セレンは身軽に動けないし、ジャンヌもピーターの世話をしているはず。彼女らにただいまの挨拶をしてから会場に行くべきだろう。
温泉では当然のようにライラやディアーネさんも一緒に入浴。先に入っていたクロスボウの面々、大興奮。
「スマっ……スマイソン十人長はどうでもいいとして」
「これがあの伝説の……伝説のディアーネ百人長っぱい……!」
「なんだお前見た事なかったっけ」
「俺新入組ですから……」
「ライラさんのおっぱいも……負けず劣らずです! 素晴らしいです!」
お祭り騒ぎ。
祭りが終わったら即座に出発の予定なので、最後のひとっ風呂ということで十数人もが入浴していたのだが、俺を挟んで左右に座って半身浴するダブル巨乳に対し、見覚えのある奴もない奴も、人間も獣人もオーガも全員ずらりと正座で正対。
じっとおっぱい凝視。
「……ディアーネよ。そなたの部下どもは統率がとれすぎではないのかえ。乳くらい見るのは構わんがこうも整然と拝まれると居心地が悪い」
「私がこんな躾をしたとでも思うのか……?」
「ほ。いきなり触ろうとするような無粋者がおらんのは立派じゃが」
微妙な顔で視線に耐える二人。
しゅびっと手を上げたのはジャンジャック正兵(俺の元部下)。
「ドラゴン及びあのディアーネ百人長と知って狼藉を働く馬鹿はおりません! ですが! 手を出さない分には堂々見せていただけるとわかっていながら背を向ける馬鹿もおりません!」
他の連中も統制の取れた動きでこくんこくんと頷く。
「極上です」
「最高です」
「ブルードラゴンの皆さんも大層なものですが……やはりディアーネ百人長とライラさんのおっぱいには圧倒的な王道を感じざるを得ません」
「これから行軍中のオカズにさせていただきます」
「ウム」
いやドサクサに紛れてハリー爺さんも正座で陣形に加わってるんじゃないよ。アンタ行軍しないだろ。
「思えばポルカは素晴らしい土地だった……!」
「ここの女性は他所ではとっくに賞味期限切れのお歳でもググッと魅力的……年頃の子なんて言わずもがな」
「エルフいいよね……俺、桜の氏族のフィーナちゃんのお尻のラインを遠目に見た思い出だけで来年まで強く生きていけるよ」
「ふふふ甘いな。俺、この前あのオーガ親方が娘さん連れてこっちに来た時に居合わせたんだぜ」
「なにそれずるい」
それぞれろくでもない思い出に浸る隊員たち。
再編成でメンバーがずいぶん入れ替わり、雰囲気も多少変わったかと思えば、古参隊員から新人たちにまでノリはしっかりと受け継がれているらしい。いいことかどうかはよくわからない。
「そろそろ折檻しておいた方がよいのではないかディアーネ」
「うーむ……」
ディアーネさんは悩ましげにこめかみをぐりぐり。
そして俺はここで余計な口を出したら逆恨みされそう……いや二人が横についている以上直接的な攻撃は来ないだろうが、ものすごい敵意に晒されそうなので黙っておく。
自分の女がメッチャ視姦されてるのに何縮こまってるんだと言われると確かに引け腰にも程があるのだが、その女たちとは別口でズコバコしまくって、その垢落としに二人を付き合わせている現状を鑑みると睨み付けられてもしょうがない。
そこそこに暖まり、体の調子も心持ちよくなってきたところで上がって男爵邸へ。
「お、帰ってきただな!」
「アンディさん、お帰りなさい」
「間に合わぬかと思うておったぞ」
玄関でジャンヌ、セレン、そしてアイリーナに迎えられる。いや迎えられるというより三人とも春祭りに出る準備で歩き回っていたようだった。
「セレンも出るの?」
「もちろんですよ。さすがに踊るのはうまくできそうにないから見物ですけど」
「……よかった」
セレンのことだから踊るとか言い出しそうな気がしてた。
「さすがにもう無理できる大きさじゃないことぐらい自覚してますよう」
口を尖らせるセレン。
「エルフ系はアタシたちドワーフと違って特別母体が強いってわけでもねえだなや。無理しねえに越したことはねえだ」
「ちょっと寂しいですけどね」
「アタシもピーター抱いたまま踊るわけにも行かねえだ。一緒に歌でも歌うだよ」
「うん」
去年はまだジャンヌも妊娠発覚してなかったし、セレンも妊娠前。
みんなで交代で踊った思い出もいまや懐かしい。二人の妊娠は時の流れを感じると同時に、俺がこのポルカに居を定めるという実感をもたらしてもくれる。
「去年は去年でポルカ史上最大……みたいな感じだったけど、今年はそれを上回るんだよなあ。クロスボウの人数倍増してるし」
そう呟くとアイリーナがニヤリと笑う。
「わらわたち北のエルフも今日のためにずいぶん集まっておるぞ。聖獣祭で新しい催しに味を占めた者が増えておるのじゃろうて」
「最大規模更新かな」
ディアーネさんも楽しげに頷いた。
「男爵さんが言うには少しだけれど料理も振る舞えるようにしたそうですよー。野草料理中心ですけど」
「うへ」
俺、まだ野草料理は苦手。
あからさまな顔をしてしまったのか、女の子たちはみんなクスクス笑う。
そして、後ろからぺしっと頭をはたく手。
「せっかく男爵様が振る舞ってくださるのに嫌そうな声出すんじゃないの」
「か、母さん」
呆れた顔のお袋がいた。
「はー、私の料理がまずかったのかしらねえ。アンディがまだ野菜嫌いとか言ってるなんて」
「い、いや、母さんの料理がまずかったわけじゃないと思うよ。ただほら俺、あれから王都で育ったし……王都じゃ野菜なんて塩漬けばっかりだったしさ」
「言い訳してるんじゃないの」
「だってさあ……」
そもそも野草料理に使う「野草」っていうのは、食べて普通に美味いように改良された「野菜」とは物が違う。結局そのへんで春一番に自生してきた野生の植物に過ぎない。食べるにしたってなんでこんなエグいの食うんだ、ってようなのもあるし。
「フフフ」
しかし、それを聞いていたアイリーナは不敵に笑う。
「なんだよ」
「何故、規模が大きくなっておるのにグート卿が例年にない料理の施しなど出来ると思う?」
「……なんか知ってるのか」
「北の森でも祭りに際して協力しておるのじゃ。肉や果物を拠出するならそれなりの取引が必要になるが、エルフが真っ当な食料としておらぬ野草くらいなら、子供の暇つぶしでも集めさせられる。それでも、常春の森で採れる量は、未だ霊泉の川の周りでしか草萌えぬ外に比べれば段違いじゃ。そして清浄な気に満ちる森の野草は、外に比べればずいぶん口当たりも良いという」
「へえ……」
「楽しみにしておるとよい。スマイソン殿の野草嫌いがひっくり返るかも知れんな」
胸を張るアイリーナ。
「……でも、それってあれですよね」
「アイリーナが自慢する事でねえだな」
セレンとジャンヌに即座に突っ込まれる。同じ屋根の下で寝起きしてるからか無遠慮になってきたな。
「め、命じたのはわらわじゃぞ! 採取も白の領地のはずじゃ」
「提案したのはクリスティでねえだか」
「あ、私も聞いてました。さすが学者ですよねクリスティさん」
「む、むぐぐ」
今度はアイリーナがみんなにクスクス笑われる。
……頑張れ。
(続く)
前へ 次へ
目次へ