カルロスさんとナンシーさん夫婦はダークエルフだ。
基本的にダークエルフは白エルフの領地では居心地が悪い。
本来ヒルダさんやディアーネさんもそうなのだが、旧知のアイリーナが常にディアーネさんに便宜を図っていたこと、そしてヒルダさんも森に入るときは俺の雌奴隷としての立場を明確にすることで軋轢を避けていたという事情がある。
かといってポルカに滞在というのも、砂漠在住の人たちにはちょい辛いのが実情のようで。
「ポルカは私たちには寒すぎる。それにカルロスも立場ある身だ、あまりタルクを空けてもいられない。急ぎ足ですまないが、早めにお暇させてもらうよ」
「わかりました。名残惜しいですが、また暖かくなったら湯治にでもお誘いします」
「楽しみにさせてもらうよ」
「ライラ、一人で頼めるか」
「ほ、砂漠は我の庭のようなものぞ。今更気を回すでない」
ヒルダさんも多分飛び回って働き尽くして、肉体的にはどうあれ精神的に疲れがたまっているはずだ。
彼女に再び送迎の長旅をさせるのも可哀想なので、ライラに一人で送ってもらうことにする。
「むしろ、帰りがけに猫どもの村に寄って次の子種希望者を拾ってきてやってもよいぞ」
「ちょっと待ってくれたまえドラゴンの君。というかアンディ君。……君は一体何を生業にしているんだい!?」
うん。カルロスさんがツッコミを入れるのも決して間違いじゃない。今のライラの発言は常識的とは言い難いと思う。
「兵士兼鍛冶屋志望です」
若干わざとらしくセレスタ式の敬礼をして言い張る俺。
「じゃあなんだい今の子種希望がどうとかって!」
「空耳であります」
斜め三十度、虚空を見ながら言い張ってみる。
「っていうか君んとこ妙に猫獣人多いと思ったらもしかして村単位で脅迫でもしてるのかい!? ドラゴン持ってるからって御伽噺の悪い魔王みたいな真似でもしてるのかい!?」
「いえ、どっちかというと俺は生贄に近いような……」
「ほ。言い得て妙じゃの」
「そうよねー。アンディ君が精力保ってるからいいようなものよね」
でも種付け相手を(一般的には恐怖の)ドラゴンの手でさらってくるとか、どう聞いたって悪いの俺だよね。
……実際次々に送られてくるぴちぴちの若い女の子たちを隅々まで楽しんでるのも事実だし。
「ナンシー。やっぱり僕こいつマズイと思う」
「まあ、当人たち同士でちゃんとした了解はあるようだし、良かれ悪しかれ契約というものに横から異を唱えるのは道義に反するだろう、カルロス」
「だけどさあ! よりによってディアーネの彼氏がこんな女の子を次々ヤリ捨てるヤリチン人間とか!」
俺を指差して非常に不名誉かつ、猫獣人に関しては反論しがたい形容をするカルロスさん。
マジでごめんなさい。
「兄上。言っておくがアンディはヤリ捨てなどしないぞ」
「ええ。アンディ君はむしろ一発ヤッた女はもう半永久的に自分のものにしたがるタイプよ」
「どっちにしろ最低のヤリチンじゃないか!」
ディアーネさんとヒルダさんのあまりフォローになってないフォローにも、やはり的確にツッコミ返すカルロスさん。
俺からは返す言葉もありません。
「ほ。ドラゴンの乗り手ともなれば、さして贅沢というわけでもないと思うがのう。ほとんどは女の方から股を開いておるし」
「かといって君ね! 一応僕は自分の家族である妹たちの幸せを願う義務がだね!」
「ほらほら、もうそれ以上はお前の口出しすることじゃないだろう。彼のことはヒルダとディアーネが認めたんだ。いい大人の決めたことに文句を言うものじゃないよ」
「やっぱりなんかおかしいよ! 僕がただ難癖つけてるだけじゃね? みたいな空気やっぱり変だよ!! うわーん!!」
ナンシーさんに羽交い絞めにされつつ馬車に引きずり込まれるカルロスさん。
「いいのかアンディ。言わせっ放しで」
「アンディ君の必殺のイイコト言っちゃうタイムとかやんないの?」
ダークエルフ姉妹に覗き込まれる。
でもですね。
「だってカルロスさんの指摘、すごい常識的だし。本当ぐうの音も出ないし。っていうか猫コロニーがほぼ俺専になってる現状自体普通に考えてリッチすぎると思いませんか」
「……まあアンディだしな」
「そうよね、アンディ君だし」
「何その言い捨て!?」
今更疑義を呈しても全くしょうがないこととはいえ、一言で切って捨てて検討の意思すら示さないのは酷いと思う。
そんなこんなで若干のどっちらけ空気を残しながらもライラが馬車を抱え、離陸。
俺たちは白銀の雪原から、それを見送る。
そして、数日振りにポルカに帰って、まずアイリーナに案内されたのは。
「おー……これがマイホーム……ってかデカいな!」
「わかっておったじゃろうが。図面も土台打ちも見ておったじゃろうに」
「いや、こう、迫力あるなあっていうか……本当に俺んちでいいのかなあ」
目の前にどどんと建っていたのは予想以上に奥行きのある二階建ての豪邸。
いや、豪邸っつったって貴族や大商人が住むようなレベルじゃないんだけど、それでも俺が手に入れるにはやっぱりデカい。
これなら十人くらい平気で住めるというのも納得だ。
「そちらに寝室が四部屋。二階には八部屋じゃ。そなたの寝室は一階の一番奥じゃな」
「お、おう」
アイリーナに先導され、俺を始めとした一行がゾロゾロと家に入る。
「へえ……キッチン大きいね」
「ダイニングも十人くらいなら揃って食事できますわね」
「ディアーネ、もう部屋決めていい? マローネたち呼んでいい?」
「少し落ち着け、ルナ。……十部屋以上あるなら多少余剰に泊められるのか」
「まあ、これだけの面子がいるんだもの、来客用に客間は確保しておかないとねー☆」
楽しそうに、木とワックスの香り漂う一階を検分して回るセレスタ軍人・軍属組。
「ねえ、アップルとかセレンとか、ジャンヌたちもここに引っ越させるんでしょ?」
マイアが男爵邸在住妊婦組のことも気にかけてみせると。
「ふむ。まあ、男爵夫人殿がゴネておったがのう。まだこれからが注意するべき時期じゃから、メイドも多いあの屋敷に留まるほうが賢い、と」
アイリーナが若干困った顔。
……迷惑かけてるから早めにこっちの拠点に移したかったのだが、男爵夫人がベビーラッシュでむしろ楽しんでいる現状、どうもそう簡単にはいかないらしい。
「人数的には、私たちも泊まらせてもらえますね」
「ジーク・ベッカーやエドガー・ケイロンらの手前、宿屋に泊まっていた方が余計な勘繰りを生まないと思うのですが」
「あははは。アルちゃんてば、何日もスマイソン十人長とみんなでエルフの森に引っ込んどいて今更過ぎると思うよー?」
「ちょ、ちょっと待ってよテテスちゃん? 一応、いっちおー、私らって便乗特訓の名目で森に入ってたはずだよね?」
「今更それで額面通りに受け取るのは子供じゃないと無理だと思うなー」
「……って、つまりみんな私らがアレなアレでアレしてた感じだって見透かしてるってこと!? ちょっ、ちょっ……さっきのランツ君とかケイロン十人長とかの妙に優しい視線ってあれつまり!?」
「十中八九そうだと思うなー」
「……あああああ」
ガントレット組はやっぱり騒々しかった。
「っていうかシャロン、アルメイダ。お前たちって将来的にこっちに住む気なの?」
俺が確認のために聞くと、二人はちらっと目配せ、というか互いに「どうする気なの(ですか)?」という感じに探りあいの視線。
先に咳払いをしたのはアルメイダ。
「コホン。まあ、その……このまま直接というわけにはいかない。まだガードナー公爵家との契約もあるし、ガントレットとしても必要とされているようだし。しかし、まあ……ガントレットの地位に留まる必要がなくなり、お前の子供もできた暁には……その子が乳離れするくらいまでは、ここに居を構えるのがいいとは思っている」
「私は……そうですね、アルメイダほど縛りがあるわけではないですが。それでも、あなたの雌奴隷として誓った身。いずれは……と思っています」
要約すると、二人とも、今住み着くってわけじゃないけど予約はさせてくれ、みたいな。
「それで私たちには聞かないんですかー?」
「いや藪を突付くような質問やめなよテテスちゃん」
テテスとナリスの質問は……うーん。
「まあ、聞いてもいいけど……囲われたくないんだろ?」
田舎に囲われてエロ三昧する気なら、とっくに仲間入りしてるに決まってるし。
「まあ私はそーゆー退廃的な輪に加わるつもりはないですけど」
ナリスは腕組みをして頷く。
テテスはというと。
「スマイソン十人長次第ですかねぇ」
「……俺次第?」
「今後ここでエロいことを思う存分教え込んで自分専用の立派な肉穴奴隷に調教してやるぜーって意気込みがあるなら、受けて立つのはやぶさかではないんですが……」
「俺、一応任務終わったら鍛冶修業とかもあるし、っていうかお前を自分専用雌奴隷にする予定はないし」
「ですよねぇ。そういう及び腰ならちょーっとこういう伸び盛りの時期に田舎に埋没したくないかなー」
「…………」
「どうします? 惜しいと思ったらやっぱり頑張ってエッチ仕込むのを先にしてやるーって言い直してもいいですけど」
「あのさテテスちゃん。やっぱり私、君のことよくわかんないや」
「んー。これでもそれなりに期待された前途にも未練アリアリなんで。他で忙しいスマイソン十人長に捕まったまま若い身空で飼い殺されるのは、ちょっと我慢できないかなーってだけ」
まあ、それがテテスとしては正しい反応か。
俺自身に明確に恋愛してるわけじゃないんだよな。というか、そういう感情は、少なくとも彼女の自覚的には、無い。
今でさえ求めてる普通のノーマルエッチはおあずけ状態。求めながらも、中途半端に快楽で繋がっている関係でしかない。
彼女はそこを突き破って、本当に快楽と性愛を教え込み、堕とす覚悟があれば……捕まってやってもいい、と言っているわけだ。
だが。
「それはちょっとな。……少なくともそこまでする理由は無いんだ、テテス・バスター」
「……そうですか。まあ、わかってますけど」
テテスは少し寂しげに微笑んだ。
……少し、自分でもわからなくなる。
テテスという女の子。
可愛くて一所懸命で、しかしどこか感情や能力の歯車の噛み合っていない、前途有望だが妙に危うい少女。
彼女をどうしたいのか。自分が責任を避けているのはともかく、彼女がどういう形に落ち着くことを望んでいるのか。
「……あー、アンディ君、ちょっとムズムズしてる」
ヒルダさんがほっぺたを突付く。
「や、やめてください」
「タルク閥の秘蔵っ子なディアーネちゃんやノールちゃん、北のエルフの偉い女の子も次々手を出しといて、今更あのバスター卿にだけ遠慮することないと思うんだけどなー☆」
「決めるのは俺です。ヤレる女なら全部自動的にヤるとか、そういうつもりはないんです」
「むー。でも、なんか変なとこに力入ってる顔してる」
……今更だけど。
「同族」であるテテスに「雌奴隷」として手を出していいのか、という気分も、確かにあるのだ。
元々「雌奴隷」というのは、かつてのアップルがいずれ「同族」と普通の結婚をしてしまうだろう俺に対し、だからと言って二者択一で捨てる必要はないんですよ、捨てないで末永く「あなたのモノ」でいさせてくださいね、という願いから使い始めた言葉なのだ。
俺はそれを受け入れた。いや、あえてアップルの思いに逆らい、明確な「普通の結婚」という型にはまらない生き方を選び、敢えて皆同様に「俺のもの」という平等の愛し方をしていたという部分がある。
そういった卑屈さを嫌って首輪をしていないディアーネさんにさえ、俺はその平等を適用している。
残酷な話、異種族というのは、線対称な関係はどうしても築けない。それが愛し合い、長く関係を維持しようとする時点で、まともじゃない。
それを敢えて「雌奴隷」として大掴みに振りかぶっていくことで、この輪の中でだけ分かり合えるラブラブな関係を築いてこれたのだ。
最初から周囲の正確な理解を放棄し、とにかく「俺の背負うもの、俺の愛するもの」として既定する。
それが、雌奴隷というもの。途中までは受動的な言葉であったにせよ、俺はそういうものとして今まで雌奴隷を作り、愛してきたのだ。
だけど、「同族」というものは、逆に「普通に結ばれる」ことに何の障害もない。
実体がどうあるにせよ、俺は制度上においてただの独身で平民のヤリチン男で、そしてテテスは外国とはいえ、非常に偉い貴族の一門の一員。
今まで築いてきた雌奴隷に関する危ういバランスを、俺やテテスが望む望まざるに関わらず破壊する可能性があるのだ。
杞憂かもしれない。そんなもの意志をしっかり持てばいいだけ、アンディ・スマイソンは誰にも縛られないドラゴンライダーじゃないか、という反論もできる。
でも、やっぱりテテスは、俺と雌奴隷たちの中にあっては危険だ。
だから、その火種とまともに向き合う形になるのは避けたかった。
……んだけど。
「……アンディ君。先生ね、アンディ君の『自分の好きな女は全員幸せにしてやる』っていう青臭さ、好きだなー」
「……ヒルダさん」
「きっとディアーネちゃんもライラちゃんも、ブレイクコアちゃんも、ほかの子もみんな、ね。そういう甘くて熱いところにメロメロってなっちゃってんじゃないかなって思うのよ。いつもそう思って頑張ってくれるアンディ君だから、みんなで支えてあげたい、ってね」
ヒルダさんが囁く声は、静まった新居の中ではそれでも響く。
敢えて茶々を入れないみんなの視線がそれを肯定しているように見えて、俺は自分の顔が熱くなるのを感じる。
……そういう見方、されてたのか。
「だからね。……あんまり一人で力まなくていいんじゃないかな。アンディ君の気持ち一つよ。……もう一人、女の子を自分の下半身で幸せにしてあげたいっていうならね」
「……最後が台無しです」
「えー。だってアンディ君ってそうでしょ?」
みんなが苦笑する。
そうなんだけどさ。そうなんだけどさ。
「まあ、アンディがしっかりそう決めたのなら、セレンも頷くだろう」
「今更雌奴隷の一人二人増えたって僕はどうとも言わないよ。っていうか、猫獣人にも雌奴隷宣言した子増えたんだって?」
「マローネとキュート。二人とも首輪、待ってる」
「また子作りで先を越しそうな人が増えてしまいましたわね」
「……そなたなら犯しこなすじゃろうが、あまり手を広げすぎては勉強どころではないのではないか」
「アンディ様の子供でいっぱいになりそう」
「……私だって妙な魔法がなければ今日にでも孕むんだが」
「アルメイダさんって時々びっくりするほどストレートですよねー」
「ふふ。神速の舞踏槍らしいじゃない。私もそれくらいストレートに言えるようになりたいわ」
「騎士長は今でも充分ストレートだと思います。主にカラダの誘い方とか」
なんだか和やかになる我が家。やっぱりちょっと異常な集団かもしれない。
それを諸々聞き流して、テテスは俺にまっすぐ目を向けて。
「それで、改めて……答えを聞いていいですか?」
「……そうやって追い詰めるなよ」
俺は視線を逸らす。……いや、逸らそうとしたらヒルダさんに首をぐりりとテテスに向け直された。
「や、やめてくださいって」
「アンディ君。……逃げるのは感心しないぞ、無茶なアンディ君大好きな先生的に☆」
「……手を離して」
渋々、テテスに視線を合わせ。
「……とりあえずな。俺は、本当は……」
「はい」
「……お前の子宮をガンガン突き上げたい」
あえて最低な言い草で、意思表示。
……だが、テテスは顔を赤くして、少し自分の下半身を見て、咳払い。
「……や、やっぱりそう思ってたんですね」
「もちろん処女突き破った勢いで抜かずに何発も射精したい。お前が泣き叫ぶのを楽しみながら子宮満タンにして、疲れ果てた体をひっくり返して、可愛い尻を真っ赤になるまで揉みしだきながら尻穴も思う存分楽しみたい」
「……そんなに」
「それで両方の穴から力が抜けたテテスに首輪付けて……服を着せないまま朝まで抱いて過ごしたいんだけど、それでいいのか」
「……あの」
テテスは真っ赤になったまま少し横に目を逸らし。
「想像だけでちょっとイキそうなんですけど」
斜め上の答えだった。
「……ド変態がいる」
「わ、割と真剣にスマイソン十人長のせいですけどね」
「うん。あと、できれば」
「はい」
「避妊ナシで」
「……っく」
ぞわり、とテテスが震えた。
「……い、言ったからには……あの、えっと……」
「思いっきり孕ませてやりたい」
「…………っっ♪」
「て、テテスちゃん! 駄目だよちょっと戻ってきなさっ……むぐぐ」
「ナリス、野暮はダメよ♪」
「というか……テテス、大丈夫か」
ふらっとしたテテスをアルメイダが支える。
「……あ、あははー……なんか、ようやく理解できちゃいました」
「何をだ」
「スマイソン十人長が……妙にこの面子にモテてる理由……♪」
「……確かにな」
いや俺はよくわかってないけど。
「あんなことを言われたら私も濡れる」
「で……ですよね♪」
「いやおかしいですって!」
「ナーリースっ」
じゃれあうガントレットナイツ。
「あーあ、結局テテスも落としちゃうのかー」
「時間の問題でしたわ」
「そうは言うがのう」
「どうでもいいけど、ウチのコロニーもちゃんと定期的に行かないと駄目だからね」
「アンディ様、時々はミスティ・パレスも行かないと押しかけられちゃうよ」
こっちはこっちでまあ、予想の範疇みたいな反応。
それもどうかなー。
「あの、とりあえず諸々の条件を無視して願望のみを提示しただけですけど」
「アンディ。……もうテテスはその気だぞ」
「ニクいわねー。お尻でたっぷり仕込んだ後にああいう処女喪失宣言なんて、ああいうエッチな子にはたまらないわよ☆」
「……えーと」
流れ的に確定してしまった……んだろうか。
本当に、諸条件さえクリアできたらね、のつもりだったんだけど……。
(続く)
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