ダン爺さんの鍛冶場は随分暑かった。
 ただでさえ鍛冶場といえば暑いものと相場が決まっているが、ドワーフはその暑さをあまり苦にしない。
 その肌は生来の熱耐性があるという。
 普通の生物ではほとんどが音を上げるような火山にだって坑道を作ってしまうのがドワーフという生き物だ。沸騰している鍋の底を素手で持っても平気だったりする。どれくらいの温度なら火傷するのか若干疑問だ。
 そんな金属いじるために生まれてきたような連中だから、鉱物を鼻や勘で探り当てるその知覚もあって、未だ他種族は鍛冶と金属細工でドワーフに全くかなわない。
 工業自体は人間族がまかなうトロットのような国でも採掘に関してはドワーフに丸投げしてしまうくらいなので、大陸にはドワーフに金属産業が全てまかなわれている国も少なくはなかった。
 そんなドワーフの前で鍛冶をしようとする俺超クール。
 いやごめん。自分を鼓舞しようとした。
 本当は無謀というしかないのはわかっている。
「ほれ、何さ打つだ。まさかわざわざここに上がり込むまで決めてなかったわけじゃあるめぇな」
「壊れちまった武器の打ち直しです。ジャンヌ、それ下ろして」
「ん」
 ジャンヌが背負っていた木箱を下ろす。
 柄と、砕けた刃のジョイント部。そして金属とは思えないほど無残に壊れた刃。
「……また意味わかんねえ武器だなや」
「こ、これでもありあわせの材料からスマイソン十人長が好意で作ってくれた武器ですから!」
「なんだ人間、実はドワーフに育てられたりしただか。そんならジャンヌに惚れたのもわかるだが」
 なんでそうなる。
「十人長……や、アンディに惚れたのはアタシの方だて。ヘルズボア狩るときに手伝ってくれただ」
「ふンむ。……人間のくせに手作りの細工物を渡して女を落とすなんて洒落た真似をするもんじゃと思っただが」
 ダン爺さんの呟きにナリスが顔を赤くする。
「お、落とすってなんですか落とすって! セレスタは変な風習多すぎませんか刃物贈ったら求婚とか!!」
「南のオアシスの古い風習だなや。あっこはダークエルフとオーガばかりのはずじゃが、妙なこと知っとる……と、まあ耳長連中はおっそろしい年増の若作りってこともあるんじゃったか。小娘扱いは早計だか」
「年増の若作りとか人聞きの悪いこと言わないで下さいったら! まだ113歳ですったら!」
「……ワシと同い年だか。立派な年増でねえだか」
「わー同い年ですか。ちょっと嬉しい。ダン君って呼んでいい?」
「黙らんかい」
 調子に乗るナリスを一喝し、爺さんはクラッシュハーケンの部品を精査し始める。
「見れば見るほどヘンテコな武器だなや。鋼自体の質はなかなかだが、それならこんな風に壊れるもんでもねえ……と思うだ」
 ジョイントが完全に粉砕されているのと、素材が割れて刻紋が途切れたせいで機能しなくなっているので、どうやって壊れたのか理解に苦しんでいる……というところか。
「南東のエルフの森の刻紋術って知ってますか」
「……ああ、あの石光らせたりするアレだか」
「ちょっとかじって、応用してるんです。それで本来コレは農具の鎌だったのをこういう風に動くように打ち変えて……」
「……ふンむ。なるほど。西のギミックウェポンの真似事だか。……半端な真似したもんだなや。斧にするなら斧にする、薙刀にするなら薙刀にするって決めて打ち直せばええだに」
「作ったのが魔物領の最前線だったもんで炉がなくて……」
「馬鹿たれ。そんなら半端なもん作って渡すでねえ。武器がなきゃないで他の奴に任せられなかっただか? こん姉ちゃんがテメェのインチキ武器持って戦わなきゃいけねえ状態だっただか? 武器がなくて戦えない奴が逃げるのは仕方ねえ。じゃが、武器がある、そんなら戦えると思ってたとこにその武器が見た目だけのゴミクズだった時の戦士の気持ちがわかるか馬鹿。最低の騙し討ちだぞ」
 言い訳する俺に、ダン爺さんが厳しい口調で責める。
「ま、まあ私はなんでも使えるんで棒だけになってもあんまり困りはしないんですけどね?」
 ナリスが慌ててフォローに入るが、ダン爺さんはナリスに素早く手のひらを突きつけ、拒絶。
「黙っとれ。そういう問題でねえんだ。武器を打つっていう心持ちの問題だ。ええか、戦士が命を預ける、勝利と敗北の要点が武器ってもんだ。こったらもん打っといて、使い過ぎて壊れるのは仕方ねえとか、使い方が悪くて壊れちまうのは仕方ねえとか、そんな言い訳で自分を騙せるなら鍛冶なんかやめちまえ。ヌシの武器は使い手を守れん。この世にあっても害しか生まない最低の道具だ」
「…………」
 堪える。
 刻紋を使えばいろいろな可能性が生まれる。
 いろいろな新しい武器を作れる。
 特製太矢やブレスカリバーみたいな、今まではありえなかったものが俺に作れる。
 そのことにあまりにも有頂天になって、慢心していたのだ。
 ただ前に飛んで一回で使い切る太矢も、防御を考えない攻撃一辺倒の武器、いや、ただの火を吹く道具であるブレスカリバーも、所詮はその場凌ぎのものでしかない。
 俺の武器創作の幅が広がったのは確かだが、決して高名な剣士にも胸を張って勧められるような良い武器が作れるようになったというわけではない。
 ナリスはその犠牲になるところだったのだ。
「……フン、わかっちゃいるだか。それならええ。半端者が一人前気取りするほど危ねえ話はねえだ」
 黙って頭を垂れている俺を見て、爺さんが鼻を鳴らす。
 それを見て、ナリスは憤然と一歩踏み出した。
「そんな言い方ないでしょう……」
「言い方が気に食わんか。やっぱりお高い耳長はくだらんことにこだわるだな」
「私の武器ですよ!? 私が困ってるところに、ブッ倒れながらありあわせの物で一生懸命……!!」
「やめろナリス」
「スマイソン十人長!」
「やめろ。爺さんの言ってることは何一つ間違っちゃいない。こんな武器持たせたことが原因でお前が大怪我でもしてたら、俺はシャロンやテテスに殺されたって文句は言えないんだ」
「そんなわけないじゃないですか!?」
「いくら俺がブッ倒れようとお前が器用だろうと欠陥品は欠陥品なんだよ!!」
 つい怒鳴ってしまい、少し気まずくなってまた下を向く。
 ……そして、ややあって俺は地面に土下座する。
「爺さん。いや、ダンさん。……手を、貸してもらえますか。ナリスにもう一度、駄目武器を渡すわけにはいかないから」
「…………」
 ダン爺さんは腕組みをして鼻を鳴らし。
「ジャンヌ。それと耳長。お前らは外に出ておけ」
「……んだ」
「ジャンヌさん、ちょっ、引っ張らないで脱げる脱げるっ!?」
「酷ぇ汗だぞ、ねーちゃん。砂風呂連れてってやるだ」
「だ、だからパンツアーマー引っ張んないでってそこ留め具ですからうわ外れるー!?」
 ジャンヌに連れられてナリスが退室する。
 扉が閉まる。ダン爺さんと俺の二人きり。
 ……改めて殴られるかな。
「顔上げろ」
「……?」
「まずは打ち直しだ。炉はさっきまで使っとったからまだ温度は充分だ。それと、ギミックウェポンの仕立ては昔少し齧ったことがある。変形部分はワシに任せとけ」
「……お、お願いします」
 ダン爺さんと、クラッシュハーケンの破片を炉に入れる。

 熱する間、爺さんですら汗をかく鍛冶場で俺の頭は朦朧とする。
 ドワーフの基準で換気とか考えられているんだろう。俺にはキツい。
 が、鍛冶場が暑いのは当たり前だ、と親方に怒鳴られまくった子供時代を思い出す。
 精霊祭までにどこかの町へ行く気なら、時間はそんなにないんだ。暑いくらいで文句は言っていられない。
「……ジャンヌみたいな親なしはな」
 燃える石をスコップで炉に放り込みながら、爺さんがポツッと話す。
 俺はじっと聞く。
「このコロニーじゃ、そう珍しいモンでもねえ。鍛冶師としても、戦士としても、家庭人としても一流であることをみんなに求めるのが狭いコロニーってもんだ。戦士としてもってことは、つまり魔物と戦える実力をみんなに求めるってことでもある」
「……正直、あんな小さい子をあんな魔物と戦わせるなんて酷いと思いましたよ」
「そうじゃろう。じゃが、ここの迷宮は大き過ぎて、季節の影響で気の流れが偏ることもままある。時にはコロニーに魔物が殺到するような事態もある。サンドワームもヘルズボアも岩人形も隣り合わせじゃ。手すきがおらんで子供らがみんな殺された、なんてことも、何百年の歴史のうちには何度もあるんじゃ」
「…………」
「それを防ぐためにはみんなが強くなるしかねえだ。強くなることは義務だ。そのためにみんな強くなる。そのために……死ぬとしても、な。万が一の時のために戦いを重ねて、その拍子に死ぬなんてもどかしい話だが、義務でなきゃみんな楽をする。仕方ないと思いたかないが、仕方ない」
 ……こういう話を聞くたび。
 俺は、恵まれているんだなあ、と実感する。
 ボナパルトのおっさんが、安穏と、国を守る戦いも知らずに日和った人生を送っている俺をなじったこともあった。レンファンガスで生きる人々の話も、カールウィンで生きる民の話も、俺の人生とはかけ離れた厳しさを持っている。
「……じゃがな、確かにまだジャンヌは幼すぎる。せめてあと五年……いや、十年くらいは、手元でいろいろ教えるつもりじゃったよ。ヌシにもわかるじゃろう。ドワーフの歳は人の半掛けじゃ。まだ子供じゃ、あれはな」
「…………」
「あの歳で子供産むドワーフ娘も確かにおらんわけではないが、本当にジャンヌは産んだだか」
「はい。ピーター・スマイソン。鍛冶屋だった俺の親父の名を、やりました」
「……ふん、弱そうな名だ。もっとバルガスとかグレッグとか強そうな名前がええだぞ」
 ドワーフは濁音好きだという話があるが、ご多分に漏れずこの爺さんもそうらしい。
「……じゃが、そうか。ジャンヌの子……ワシもひ孫が、おるのか」
 爺さんは少し遠い眼をして燃料をくべる。
 俺は名前を貶されたことに反論しようとしたが、暑さに頭がボーッとして、考えてるうちに間を失った。
「……そのうち連れてくるだぞ」
「必ず」
「……よし、ええ感じの色だ。打つぞ。ハンマーの振り方くらいは教わってるだか」
「もちろん」
 爺さんがアゴで示した先に、何本ものハンマーがある。若干握りが短いが、ドワーフの小さな体格に合わせてあるのか。
 その中から手ごろな重さの……というか、一番軽いハンマーを取り、爺さんの差し出す赤熱した鋼に狙いを定める。
「行け」
「はい……っっ!!」
 ガン!!
 ガン!!
 ガン!! ガン!! ガン!!
 幾度も叩いて、打ち延べる。破片を鋼材に打ち込んで一つに戻していく。
「待て、そこまでだ! 温度が下がっとる!」
 爺さんが制止したのに気付き、俺は振り下ろしかけたハンマーを止めようとして体を泳がせる。
 そして、頭がボーッとしていたこともあって、ふらりと金床の上に倒れそうになる。
 温度が下がったとは言ってもまだ熱い鋼材がある、熱い金床の上だ。倒れてしまってはただではすまない。
 とはいえ、爺さんは手が塞がっていて。
「う、うわあっ……!」
「馬鹿者がっ!!」
 爺さんが鋼材を放り出して手を出そうとするが、金床を挟んだ向こう側。支えるには手が短すぎる。
 一瞬、覚悟した。

 ……いや。
 こんなくだらないことで怪我なんかしてられない。
 俺にはやることがたくさんある。
 ナリスに武器を打つんだ。みんなと精霊祭を過ごすんだ。アイリーナとブレイクコアに司祭をすると約束したし、ネイアはまだまだ危なっかしいし、ライラやマイアは俺がいらないことで傷ついたら自分がそばにいなかったことを悔やむだろう。

「がああっ!!」

 俺は一瞬だけ覚醒した頭で、全力でハンマーを金床に叩き付けることを選ぶ。
 手が痺れるが柄を握り締め、それを支えに踏みとどまる。
 ゴォン、と凄い音がした。
「……ヒヤッとさせおって」
「すみません、暑くて……頭が」
「人間族はひ弱すぎるんじゃ。……が、痩せ我慢のしどころはそこじゃねえだぞ。半人前」
 爺さんは鋼材とペンチを取り直して適当なところに置くと、部屋のドアを開ける。
 温度差でブワッと換気され、少し呼吸が楽になる。
「続きだ。……いい師匠についとっただな。打つ腰構えだけは文句の付け所はねえ」
 爺さんはぶっきらぼうに言って、ペンチを再び握った。

 何度か打って、整形して。
「冷えたら本格的にギミック入れるだ。……しかし変な武器だなや。斧と薙刀ならわかるだが、斧と鎌か」
「本当はただの農具ですからね……」
「薙刀に直さんのか。今ならできるじゃろ。足りんところを埋める鉱石もここなら豊富にあるだぞ」
「……ナリスに聞いてからじゃないと」
 いや、クラッシュハーケン初製造の時は聞かなかったんだけど。
「どっちにしろ鎌は騎兵でもなきゃ普段使いには辛かろう。あの耳長は騎兵には見えん。あんな丸出しの恰好だでな」
「……まあ、確かに騎兵じゃないですけど」
 鎌としての機能を「いつか」のために残すか、このまま斧や薙刀にしてしまうか。
 少し微妙なところだ。

 少し饐えた匂いの地下コロニーも、鍛冶場の暑さに比べると天国だ。
 深呼吸しながら少し探すとジャンヌがとてとて走っていくのを見つける。
「ジャンヌ、ナリスは?」
「今砂風呂だ。砂落としのブラシ届けにいくだよ」
「ちょっと聞きたいことがあるから案内して」
「ん」
 そのままジャンヌについていく。

 砂風呂につくと、まさにナリスが砂から這い出したところだった。
 全身砂まみれだが全裸で四つんばい。
「な、なななななーーーーっ!? スマイソン十人長っ!?」
「あんな恥ずかしい恰好しといて、今更ケツやチチをチラ見せたところで騒ぐでねえだよ」
「わ、私は安くないんだいっ!! あっち向いてくださいーっ!!」
「はいはい」
 真っ赤になって怒るナリスがちょっと可愛い。最近あんな反応する子、ナリスとネイアくらいしか周りにいないからかなあ。
「で、ナリス。聞きたいことがあるんだけど」
「見るなよ!! 絶対こっち見るなよ!! んで何ですか」
「クラッシュハーケン作り直すんだけど変形機能の見直ししてくれるっていうからさ。……鎌機能消して斧とグレイブでどうかなあと」
 イメージとしては大きめの刃が柄をスライド移動して、リーチと取り回しの違う武器にする感じで。
「ええー……」
 ナリスは不満そうな声を上げる。
「なんだよ」
「……それってあの爺ちゃんの提案でしょう」
「そうだけど」
「鎌。そのまんまでお願いします」
「なんで」
「なんか悔しいじゃないですか。スマイソン十人長、駄目出しされっぱなしで悔しくないんですか?」
「悔しい……って、実際壊れちゃったのは俺が下手糞だったからだし」
「コンセプトまで爺ちゃん任せじゃ馬鹿にされっぱなしですよ。負けないでいきましょうよ」
「勝ち負けの問題じゃないんだけどなあ」
 シャカシャカとブラシでジャンヌに砂落とししてもらいながらナリスが力説する。
「私は別にあのままで充分いい武器だと思いますから。長柄武器確かに便利だけど、斧には斧、鎌には鎌の戦い方がありますから一概に弱いとは思ってません」
「ナリス……」
「……それに、私にとって初めての、自分のためだけの武器ですから……全面的にスカだったなんて思いたくないです」
「え、お前注文品作ってもらったこと……」
「ないですよそんなお金。冒険家の頃から武器はだいたい仲間とかのお下がりだったって言ってませんでしたっけ」
「……そうなのか」
 ……そうか、初めての注文品か。
 ある意味ちょっと誇らしい。
「わかった。じゃあ、またあとで」
 思わず振り返って言おうとしたら、まさに全身の砂が落とされてオールヌードのナリス。
「見るなーーーーー!!」
 ナリスは砂を蹴り上げて俺の顔に叩きつけた。


「……砂風呂、入ってきただか」
「いえ。ヤンチャな奴に砂を叩きつけられただけです」
 目に入った砂が出なくてしばらく悶絶したが、なんとか鍛冶場に帰還。
「前のままの鎌と斧のがいいそうです」
「……扱いづらいと思うだが」
「アイツ、近接武器なんでも使えるんです。斧でもハンマーでも、剣でも槍でも」
 改めて考えるとそれも才能だよなあ、と思う。
「ま、ええ。……前のままじゃ斧としてぶきっちょだ。折れるギミックはこうして……ここに支持をつけて、こうする」
「お、前よりちょっと普通の斧っぽい」
「前の設計だとナタと変わらんでな。……ええか、鍛造段階から丁寧に仕事をすれば、前のようにはならん。刻紋だかなんだか知らんが、鍛冶屋なら鍛冶を怠るな。鍛冶を信用するだ。希少鉱石を混ぜた、前より強度は格段に強い合金になっとるはずだ」
「……鍛冶が嫌いなわけでも信用してないわけでもないんです。ただ、刃物鍛冶を本格的に教わる前に、戦争が始まっちまっただけで」
「ふンむ。下らん言い訳だ。あれだけ基本ができてたのなら、あとは経験じゃったろうに、自分で積み重ねればよかっただ」
「……そう、なのかな」
 親方は教えることはまだまだあるという感じだった。だからこそ、俺はそれを教われないで出てきたことに大きなコンプレックスを持っている。……んだろう。
「何事も、勉強は一人前になってからが本番だで。いくら上手くても、もうそれ以上は要らんということはない。半人前ならなおさら努力じゃ。……『砂漠の黒竜』が共におるなら、どこからでも来れるじゃろう。来ればしごいてやる。一人前になれ。ドワーフの嫁を持つ鍛冶屋がそんな程度じゃ恥ずかしいだ」
「……って、ことは」
 認めて、くれたんだろうか。
 ……期待を込めた目でダン爺さんを見ると、ダン爺さんは怪訝そうな顔。
「なんじゃ」
「あの、ジャンヌとの仲は……認めてもらえるんですか」
「……何を言うだ」
 爺さんはクラッシュハーケンの柄をいじりながら、溜め息。
「認めるも何も、ガキまでおるのにどうもこうもなかろう。殴ろうとしたのはムカついただけじゃ」
「……え、あれ?」
 ……何、もしかして。
「鍛冶は、その辺を見るテストじゃ……」
「言い出したのはヌシじゃろう。ジャンヌが炉を貸すと約束したなら爺として渋るわけにはいかん、つまらんもの作らせるわけにもいかん」
「…………」
 あれ?
「そんな風に勝手に思い込んでただな。……半人前らしいつまらん考えだで」
 爺さんは再び溜め息。
「アレが出来たから持っていっていい、だなんてムシのいい話なんか世の中そう多くはねえだぞ。ジャンヌを嫁にしておきたかったら、ワシに孫婿と認められていたかったら、努力を怠るでねえ。相応しい奴でい続けるだ。他人が家族でいるということは努力だ。いくら努力しても、それ以上要らんということはねえだぞ」


「……そんなことがあったのか」
「どこに行ってしまったのかと、探し回ってしまいましたわ」
 夜明けと共に、ライラの寝床に三人で戻る。
 ディアーネさん、オーロラ、ルナはホッとした顔をしていた。
 ライラは悠然としていたので、もしかしたら俺とナリスがドワーフコロニーに行くことにしたのを地獄耳で聞きつけていたのかもしれないな。
「お土産です」
「……酒樽?」
「ほ、ドワーフの湧泉の酒か」
 ドワーフコロニーには酒が滾々と湧く不思議な泉があったのだ。ジャンヌがかつて飲みたくて仕方がなかったものらしい。
「やっぱこの酒はうまいだよ」
 ジャンヌは俺とは別の樽をかついで幸せそうな顔をしている。
 そして、ナリスは完成した新しい武器を担いでご機嫌だった。
「さーて、次んところにバリバリ行きましょうか! このクラッシュハーケンUは血に飢えております!」
「飢えるな馬鹿!」
 俺原案、ダン爺さんと合作の、ピカピカの「クラッシュハーケンU」。
 今度は長持ちするといいな。

(続く)

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