さすがに一晩で三十数発はちんこが痛くなった。
ミスティ・パレスのドラゴンたちとヤッたときも相当酷使したが、猫獣人の発情は遠慮ってもんがちっともないので単純にノーガードの犯しあいの様相だ。
……しかしちょっと腰とちんこ痛い程度で済んでるのは普段の性生活のおかげか、肝焼きの予想以上の効果か。両方だろうけど。
昼近くまで休んでから、俺たちはライラに乗ってコロニーを出発することにした。
「ほほ。しかしドナ、そなたの元気な姿が見られたのが我は一番嬉しい」
「は。私も何年持つかわかったもんじゃないよ、死に目に会いたきゃもう少し頻繁に来な。便利な旦那もついてることだ」
「旦那ではない、飼い主じゃ」
「アンタほどのドラゴンがそんな若いのに大人しく飼われてるってのがババにゃ信じられんけどねぇ……」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「……ライラ、あのさ。もう少し俺の顔を立ててくれてもいいんだよ?」
「ほ、実際そなたは自分の飼う雌奴隷の大半にかなわぬじゃろう。見た目では量れぬのは間違いではあるまい」
「…………」
「ふん。まあいいけどね、ドラゴンの考えがトンチキなのはわかってるつもりさ」
ドナ婆さんは肩をすくめた。
「ま、アンタも溜まったらまたおいで。うちの娘たちはえらくゴキゲンだ。アンタが望めば次は裸族村になって誘うくらいするだろうさ」
「そんなゴキゲンなコロニーと化すことにドナさんは思うところはないの」
「……満月に焦がれる気持ちは若い頃たっぷり味わったからねえ。ま、そうでもなきゃ後はコロニーを捨てるか否かって話だ。私ゃゴミゴミしたとこの墓になんか入りたかないしね。そのくらいの遊びでコロニーがもつなら悪いことでもないさ。誰が不幸なわけでなし」
「……まあ少なくとも俺にとっては楽しいとこには間違いないけど」
次に来る時はもっと厳重に下準備してこないと持たないかもしれない。
裏山から離陸するライラと馬車に、オアシスから多くの猫獣人娘が手を振ってくれる。
リナユナは髪色ですぐわかる。あそこの小さい娘と母親はえーと、アニスちゃんとターニャさんだろう。
あの手前にいるのは名前も知らないけどやたらと具合が良かったお姉さん。ズルした欲張り娘も名前聞いときゃよかったな。
「アンディ。……まだ居たかった?」
ルナがちょっと複雑そうな顔をする。鼻の下伸びてたかも。
「……いや、たまにでいいよ、ああいうのは」
「たまにはやりたいんだ……」
「諦めなさいな、ルナさん。アンディさんもコロニーの皆さんもそれで幸せなら、多少は引いて差し上げるのも彼の所有物たるわたくしたちに要る余裕というものでしょう」
「私より先にまたアンディの子、孕む娘がコロニーにいると思うと……ちょっと割り切れない」
「それはな。わかる」
ディアーネさんが苦笑した。
「だが、特務が終わったらアンディもどこかに落ち着くさ。そうしたら好きなだけ産めばいい」
「好きなだけ……うん」
ちょっとだけ機嫌が直ったルナ。
俺は慌てて突っ込む。
「や、養える数だけな? 俺とルナの子は責任持って俺たちで育てたいからな?」
「うん。5、6人くらいならいいでしょ?」
「…………」
「猫獣人だと双子三つ子結構いるから、子供十人以上って人、わりといるよ?」
やる気に満ち溢れるルナにくっつかれつつも、ルナとの子沢山な未来予想図にちょっと幸せを感じなくもない。
……か、稼げる男になろう。うん。
ライラの古巣、かつてのドラゴンパレスまではそう何時間もかからない。
冬とはいえ真昼はそこそこの温度になる砂の海の上を、ライラは滑るようにして着陸する。
「ここじゃ、ここじゃ。たかだか一年ぶりじゃというに、懐かしいものよ」
「ナリスたちは中に?」
「うむ」
人の身に変じて、勝手知ったる我が家のせいか全裸のままパレスの入り口である岩に入っていくライラ。
俺たちはその後ろをついていく。
ライラのドラゴンパレスはかつて「ラッセル・パレス」とも呼ばれたらしい。というのは一年前にブロールさんがライラを呼んだ時に知ったけど。
俺が初めて来た時はライラの一人暮らしにジャンヌが時々居候、という状態だったが、最盛期は600匹のドラゴンがひしめいていたという。
600という数は、ドラゴンであることを差し引いてもポルカなんかより規模が大きい。
改めて回ってみると、その地下空間はまさに街というにふさわしい規模があった。
いくつもの複雑に絡み合った広い道と、大小の広場と、人の住める小部屋。
……迷宮といえば構造を後付でいじるのはご法度のはずだが、ここはドラゴンが作ったのか、元から街の様相を呈していたのか。
……ライラだってきっとわかりはしないんだろうな。
「ライラの同族、ここに一杯住んでたんだよな。……こんなに広いとこ、寂しくなかったのか、一人で」
「全くそんなことはない……というと、嘘になるがのう。まあ、奴らとて死んだわけではない。西方大陸で元気にやっておろう。会いに行きたくば、その気になればいつでも会える。そう思えば、同族の不在などさして気にならんのが我らドラゴンじゃ」
「……寂しがりのくせに」
「ほ。そなたに言われるまで自覚しておらなんだわ。齢二百にして我を寂しがりと自覚させた、それだけでもドナめに自慢できたことじゃぞ」
クスクスとライラは笑う。決して褒めているわけじゃないんだが、指摘されたことが嬉しかったのか。
元・ライラの寝床に行くと、ナリスががばーと飛びつき……はしなかったものの、俺の手を握って必死に顔を迫らせてきた。
「スマイソンじゅうにんちょー!!」
「な、なんだなんだ!?」
「あのそのえと、私の本能と本能による戦いがですね!」
「落ち着けナリス。というかジャンヌ、どうしたんだナリスは」
「あー……ここに着いてから、部屋の隅っこでブツブツ呟いててちょい心配な感じだっただよ?」
一体何なんだ。
「こ、ここここ、ここってドラゴンパレスなんですよね基本的に」
「基本というか、まあライラの住処ではあったけど」
「……ドラゴンパレスっつったら冒険家としては一流の証というかなんというか、一度は潜ってみたいけど私的には多分一生無理だろうなーと思わざるを得なかった場所といいますか正直こんなチャンスあと千年くらいなさそうな気がするんですけどその、ブラックドラゴンの縄張りだと思うとその、あの、足が動かなくて」
……そういやこいつ火竜戦争でトラウマあるんだっけ。
「ほ。今更誰が戻ってくるわけでもないというに。好きに見回ってみればよかろう」
「でもなんか怖いじゃないですか! 私迷宮はいいですけど幽霊騒ぎのあるお屋敷とかお城とか超駄目なんですよ!!」
複雑な奴だ。
「で……なんだ、俺にどうして欲しいんだ」
「一緒に見学ついてきてください」
「ジャンヌでいいじゃねーか!」
「だって私この人よく知らないですもん!!」
そういやそうか。
「……面倒なねーちゃんだなや」
「ほんにのう……」
元住人たちは呆れ返った。
ナリスと廃墟を散歩する。
ドラゴンが多く住んでいたとはいえ、実際の村や町と違って畑や庭といった概念がないので、距離的にはそれほど長い散歩ではない。
そして廃墟と言ってもみんな引っ越していっただけなので別にそれほど興味深いものが落ちているわけでもなく、小部屋を見て回るだけの退屈なものだった。
「こんなところに火竜って住むんですね……うう、デッドドラゴンとか出てきたらどうしよう。武器ないのに」
「出るかよ。お前話聞いてたか」
デッドドラゴンとはたまに迷宮最深部とかにいる(らしい)怪物で、ドラゴンの死骸が岩人形や動死体と同じ要領で動き出してしまったものだ。もちろん知能なんてゼロに近く、魔法も使わず動きも鈍いが、ブレス攻撃能力は残っているのでかなり厄介な魔物とされている。
もちろん別にドラゴンが死んだわけでもなく、引き払っただけのドラゴンパレスにそんなもん出ない。
「てゆーかドラゴンパレスですよドラゴンパレス。なんでスマイソン十人長そんな平気な顔してるんですか。この世で一番こわい場所ですよ」
「だから。ここは。ただの。廃村だっちゅうの」
「そうだとしても! なんというかオーラ漂ってませんか!?」
「意外と迷信深いなお前は!」
「魔物なんか出てきたら私悪いですけど全力で逃げますからね!? 今戦闘力皆無ですからね!? 武器ないんですから!」
「…………」
「あれ。なんで落ち込んでるんですかスマイソン十人長」
「…………」
「って。すみませんクラッシュハーケンてスマイソン十人長の自信作でした。マジごめんなさいツケた代金一銭も払ってないのに……うぅ」
「いや、お前が悪いんじゃないんだけどね……」
何故かドラゴンパレスの隅っこで、ドラゴンと全然関係ない理由で落ち込む俺たち二人。
「絶対直すから。アレは必ず直すから」
「はい……今度こそ大事にしますんでお願いします……」
戻る途中でジャンヌと出会う。
壊れたクラッシュハーケンの破片をまとめて担いでいた。
「ジャンヌ? どこ行くんだ」
「ああ、ちょいとアタシの実家行ってくるだ。ついでにこれ、直してもらってくるだよ」
ガシャ、と破片を揺する。
「実家って……」
「ドワーフコロニーだ。すぐ近くだで。アンディたちは来なくてええだよ。ライラ姉様んとこでゆっくりしてるだ。明日には戻ってくるだで」
……そういやジャンヌは「次にはドワーフコロニーに行く」と言っていたっけ。
だが実際には俺たちはライラのパレスに来た。ということは、ジャンヌにとっては「ドワーフコロニー」が今の目的地だということだったのか。
「ちょっと待て。それは刻紋使って作った特別な武器なんだ。場所借りて俺が直すよ。ドワーフコロニーに案内してくれ」
「い、いや、アタシだけで充分だよ。うちのじっちゃんか誰かに頼めばすぐ直してくれると思うだよ」
「そういうわけにはいかないんだよ」
ジャンヌは困った顔をする。
「うぅ……来て欲しくねえだよ」
「なんで。……あ、そういえば、俺一度も挨拶に行ってないのか」
「!」
ジャンヌは、ドワーフコロニーで一人前として認められ、酒を自由に飲むことを許されるためにヘルズボア退治をしようとしていたのだ。
一人前と認められるということは、多かれ少なかれ、共同体の中で役目を持たされることに繋がる。
その直後にジャンヌをここから連れ出し、ポルカに拘束して子供まで産ませているのだ。
本来なら話を通してしかるべきタイミングはいくつもあったのに、俺はジャンヌを拉致したまま、ということになる。
……不義理もいいところだ。
「挨拶しなきゃな……」
「や、やめるだよ。せめてアタシに子供産ませたとかは絶対隠すだよ!?」
「駄目だ。それこそ子供産ませといて、そこまでコソコソしちゃいけないだろ」
「でもウチのじっちゃんマジで怖ぇだぞ!? アンディ、全力でブッ飛ばされるだよ!?」
「……えーと、死なない程度にかばってくれ」
「だから行かねえでええて言うてるだよ!!」
ドワーフのパワーは獣人族でも特に腕力に優れる獅子獣人を凌ぐ。
さすがにオーガ並みとはいかないが、それでも人間族なんてパンチ一発で骨がイったりする。
だけど。
「ジャンヌ。……ここで逃げ隠れしたら、ピーター・スマイソンは母方の親戚に顔向けできない子になるんだ。それは、駄目だ」
「…………」
「お前、一人で行って、家族に別れを言ってくるつもりだったのか? 駄目だぞ。俺は、そういうのはきちんとしたいんだ」
「でも……ドワーフ相手ならともかく、人間族がじっちゃんに殴られたら……」
「いいから」
ジャンヌを促す。
……ジャンヌは俺の真剣な目を見て、説得は無駄と悟ったか、渋々歩き始めた。
「あ、あの、私も行くべきでしょうかね……」
「どっちでもいいぞ。場所柄あんまりエルフは歓迎されないと思うけど」
ドワーフはエルフに対し、あまり好印象を持たないことが多い。特に大人のエルフには無条件で「ひ弱なくせに偉そうなモヤシ」という言い方をする。
……まあナリスはエルフでも相当偉くなさそうに見えるし、腐ってもレッドアーム、腕力的にはひ弱でもない。
どっちに転ぶかはあまりわからない。
ドワーフコロニーは確かに大した距離はなかった。
まあ結構歩いた気がするけど、砂漠の広さを考えれば1キロ2キロは誤差範囲だ。
そして、明らかに迷宮のほかの場所とは空気が変わった一角。
篝火の燃える匂いと汗臭とアルコール臭が入り混じる妙な雰囲気の中で、ドワーフたちの笑い声と怒鳴り声、そしてどこからか金属を打ち合わせる音が聞こえてくる。
「ここから先がドワーフコロニーだ。……考え直す気はねえだか、アンディ」
「殴られたら殴られたでいいさ。お前にピーター産んでもらったことは、それだけの価値がある」
「無事じゃすまねえだぞ。じっちゃんにはライラ姉様の名前でなんとか見逃してもらうつもりだっただ。じっちゃんは火竜戦争時代の生き残りだからライラ様たちブラックドラゴンには恩義を感じてるだよ。でも、人間に限らず迷宮の外の奴はみんな嫌いだ」
「それでもだ。……孫が知らない男にさらわれて、いつの間にか奴隷扱いされて子供孕まされてたんだ。そんな事情抜きにも殴る理由にはなる。だったら逃げるわけにはいかないだろ」
ゆっくりとドワーフコロニーに入っていくと、ジャンヌを見て驚いた顔をするもの、俺を胡散臭そうに見るもの。ビキニアーマーのナリスを別の意味で驚愕の目で見るものと、色々な視線が突き刺さる。
そして、その居心地の悪い視線を受けつつも、コロニーの奥の金属音の響く鉄扉にジャンヌが近づき、引く。
……というか引こうとしたらガチャリとレバーが回り、勢い良くドアが開いてジャンヌが跳ね返された。
「のがっ!?」
「ん……?」
扉の奥から顔を出したのは、立派な白ヒゲを生やした老ドワーフ。
目つきは鋭く、肌は赤焼けし、服は焦げ跡がいくつもついている。典型的な偏屈鍛冶屋という風情だ。
「い、いててて……」
「……なんじゃ、ワシは夢でも見とるだか。ジャンヌに良く似た……」
「ジャンヌだよ!! 帰ってきただよ、今まで『砂漠の黒竜』ライラ姉様のお供してただよ!!」
「……なんと」
ドワーフの爺さんは目を見開き、ヒゲの奥の口をもごつかせる。
……ここだ、な。
「それで、ライラともども俺の嫁の一人になってもらった。はじめまして、セレスタ商国軍特殊任務部隊ディアーネ特務隊の……」
「あぁ!? なんじゃヌシは」
「あ、アンディ・スマイソン十人長……トロット人の人間族、です……」
やべ、確かに超怖い。
爺さんはギロリと俺を睨み、そしてジャンヌを見る。
ジャンヌは打った頭から手を離し、爺さんの目を不安そうに見た。
「……嫁……そう、言っただか。ヌシ」
「……もう子供も作ってる」
「…………」
爺さんはジャンヌをもう一度見る。ジャンヌは頷く。
爺さんはすうっと息を吸い。
「ふざけた人間だなや。……のこのこツラ出すとは」
「じっちゃん」
「ジャンヌ。ええだか。ワシはヌシの親父とお袋からヌシのことを任されとる。……一年もどっかに雲隠れした挙句、人間に騙されて子供まで産んどる、じゃと。そりゃよかった天晴れ、とでも言うと思うとっただか?」
「っ……」
「ふざけるのも大概にしろ馬鹿孫が!!」
爺さんはジャンヌに怒鳴りつけると、くるりと振り返って俺を見上げ、
「よく堂々と顔を出せた、それだけは褒めてやるだ。馬鹿者じゃがな!!」
拳を振りかぶって、腹を殴りつけてくる。
……俺は身を固くする。
逃げるわけにも止めるわけにもいかない。そういう拳だ。
が。
「ちょ、ちょーっと、待ってー!!」
その拳を、ナリスが片手で受け止めた。
パァン、といい音が鳴って拳が止まる。
信じがたいことに、細腕ながら爺さんのパンチを受け止め、あまつさえずんぐり体型の典型的ドワーフである爺さんが逆に足を滑らせて後退する。
……レッドアーム、恐るべし。
「な、なんじゃ耳長!! ヌシもその人間の」
「違います勘違いしないでマジで。えと……とりあえず落ち着いて。この人ブッ壊されると私武器がなくて困るですハイ」
「……武芸者か」
「冒険家……いや今はしがない軍人です」
バ、と手を振り払って、爺さんは忌々しげに拳を開く。意外とナリスの握力が強かったらしい。
「武器をワシに頼みに来たわけでもねえだな。ということは、その男、鍛冶屋だか」
「……ハンチクですけどね。トロット王都の鍛冶修行七年です」
「ふん。……ただ殴られに来たというわけでもねえだか」
爺さんは納得がいったらしい。
……そうだ。
ドワーフとはいえ、鍛冶師。ならば、ただの人間よりは、鍛冶を志すものとして……少しは話の通じる余地も、認めてもらう努力の余地もある。
「俺に武器を、打たせてください」
鍛冶という行為に、自信があるわけじゃない。
だが、それでも、ただ殴られるのに耐えるだけで許しをもらおうとするよりはいい。歩み寄る理由になればと思う。
「ジャンヌは落盤で死んだうちの息子夫婦の忘れ形見だ。馬鹿娘だが、くれと言われて惜しげもなしってわけでもねえだぞ。……ワシはダン。ダン・クラックス」
爺さんは背を向けて。
「入れ。……ドワーフの鍛冶場で安物作ったら承知しねえだぞ」
(続く)
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