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ボナパルトのおっさんは、俺が刃物の一本も持たずに無手で立っているのを見て、自分の荷物の中からナイフを一本取り出し、鞘つきのまま俺の前に放った。
「決闘に丸腰では恰好がつかなかろう」
「俺はアンタを救うために来た。救う相手に刃物なんか使えるか」
「……救う、か。君はいつも夢見がちで無茶ばかり言うが、今回ばかりはカチンと来たな」
おっさんは、うっすらと微笑んだ後、その表情だけで魔物を殺せそうな憤怒の表情を作った。
「舐めるな、餓鬼が! 何も知らず田舎で育ち、何もせぬまま外国に尻尾を振った貴様に何がわかる! この私を救うだと? 思い上がるな! この私のトロット剣士としての五十年、貴様のような餓鬼に救われるほど軽くはない!」
「……はっ」
正直、肝が冷え切った。
だが。
俺の背中には俺を信じる仲間たちと、こんな駄目な俺を愛してくれた女たちの想いが乗っている。
震えることも下がることもない。
「いいや、俺は認めない。アンタの五十年がそんなチンケなものしか生まなかったなんて結末、認めない」
「何だと……!?」
「アンタの五十年。王様の四十年。親父の全人生。リンダさんの半生。スリードの親方、ポルカの男爵、お袋の今までの人生、あのたくさんの老剣聖の時代が」
俺は拳を握ってファイティングポーズを取った。
殴り合いの喧嘩で俺が勝ったことなんて25年全部あわせてもいくらもない。
それでも俺は、拳を振りかぶった。
「アンタらが生んだ俺たちが!」
殴った。
「アンタらに憧れた俺たちが!」
殴った。
「テメエ如きの手も借りずに次の時代を掴めないとでも思ってるのか、クソジジイ!!」
全力で、殴り飛ばした。
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