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矢文で、再び宣戦布告が届けられる。
だがそれは、クロスボウ隊と剣聖旅団の戦いの取り決めではない。
ただの果たし状。
──至剣聖アーサー・ボナパルト殿。
私、アンディ・スマイソンが貴方に決闘を申し込む。
場所は王都守護山・カルバマ山頂、時刻は明日正午。
ディアーネ百人長以下、セレスタ商国軍はその誇りにかけて手出しのなきことを約束する。
是非来られたし。
「何かの冗談だと思ったぞ」
「こうでもしないとアンタとサシで話すなんてできそうにないからな」
おっさんは、来た。
こんな馬鹿らしい手紙に、律儀に答えた。
アイツの話では、生まれてこの方、決闘だけは一度として逃げたことも負けたこともない、というのが自慢だということだった。
「決闘ということだな。何を賭ける、青年」
「何を賭けようか」
「……決めずに決闘に呼び出したのか?」
眉をひそめるおっさんに、俺は岩に座ったまま肩をすくめた。
「何がいい? 俺は剣士じゃない。魔法使いでもない。まともな鍛冶屋でもなければ学者でもない。誇りはただひとつ。トロット王国ポルカの鍛冶屋、ピーター・スマイソンの息子だということだけだ」
「……よかろう。ではまず、私が賭けるものは何がいいかね」
「俺の話を聞くことだ。そしてちゃんと答えることだ」
「……随分小さく来たな。命を張って、そんなことでいいのか」
「無敵の至剣聖を相手になら、決して安い話じゃないと思うぜ」
おっさんは持ってきた剣を岩に立てかけ、マントを外しながら、ゆっくりとした間を置いて口を開く。
「では私が勝ったら、もう私の前に立ちはだからぬことを誓ってもらおう」
「そんなことでいいのか」
「君にそれ以上に何ができるのかね」
俺は笑った。このおっさんはよくわかってる。
俺はなんにもできやしない。俺の周りにはすごい奴が一杯いるが、俺が今までにできたことなんて、いつも最初の一歩と口先の理想だけだ。あとエロいこと。
だけど俺は、あえて不遜に口を開く。
「何もかもを守れるさ」
「……威勢のいいことだな」
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