俺たちは前回も使った王都の接収ホテルに入る。
そして、ディアーネさんが一息、溜め息をついた後、百人長としての冷静な目つきを取り戻す。
「戦う。クロスボウ隊としての方針は、変わらない」
王を守っても守らなくても、最後には結果を同じくする、国王のトロット再生計画。
とはいえ、ディアーネさんは間に合う位置にいる。いてしまった。
「出来る限りは剣聖旅団を叩く方向で行くしかない。……歴史的意義はともかく、反乱という形である以上は、戦力である私が見過ごすわけにも行くまい」
「勝負になりますか? 前衛部隊が……」
「ボナパルト殿には確かにクロスボウも幻影も効かないが、それ以外の大剣聖は違うはずだ。危険は大きいが部隊を二小隊単位に分割して運用、地形を利用した戦術で出来る限り削る。そしてボナパルト殿は……私が何とか抑える」
「ディアーネ様一人で前衛!?」
「というより陽動だな。さすがに一人でボナパルト殿とやりあえるとは思わない」
一応、ディアーネさんにはプランがあるようだ。
「アンゼロス隊は最前衛の部隊の保護を連続的に担当してもらう。腐っても大剣聖だ、無理はしないようにしつつ仲間の援護を優先。持久戦になるぞ。……それとオーロラは私の補佐に入ってもらう」
てきぱきと方策を決め、指示を出すディアーネさん。
そして、ふと俺を見て。
「……アンディは、今回休め」
「え……」
「規定にもある。戦闘任務において特定の目標や地域を対象とし、兵員の士気に著しく影響を及ぼす場合は本人を当該任務から除外する例外措置が許される」
「え、いや……」
「今のお前では作戦行動に支障をきたす。鏡を見てみろ」
ディアーネさんに言われて、部屋の一つにあった姿見で自分の顔を見る。
……確かに、どう見ても冷静さや戦いへの緊張感とは程遠かった。
「でも……俺」
「戦いが始まったら気遣ってやれないんだ。相手は、強い」
「…………」
「それに戦場ではみすみす死ぬ危険がある奴は最初からいない方がいい。損耗していない百人の兵と、二百人から百人に減った兵、どちらに価値があるかはわかるだろう」
目の前で味方を失った兵は、どうやっても士気が下がる。恐怖、悲しみ、怒りに支配されればもう作戦能力が失われてしまう。
そういった瓦解によって本来期待される役割分担を失った兵も、戦闘力は半減する。
少数によって多数が撃破されるパターンというのは、突き詰めるとそういうことだ。
弱気な兵、役立たずの兵は抱えれば抱えるだけ全体の戦力を削ぎ落とす。質の悪い味方はいない方がいい。
そして、俺は今や、そういう分類のようだった。
「休め。……そして気に病むな。お前が悪いんじゃない」
「……はい」
ディアーネさんは作戦概要だけ伝えると、ライラと一緒にバッソンに戻っていった。
隊の馬車をドラゴンが一度にいくつ運べるかはわからないが、まあ二往復は必要ないだろう。明日のうちにはおそらく王都に隊が集結する。
……そして俺はいらない子だ。
「はあ……」
「気を落とすな……と言っても無理か」
「……自分でコントロールできたら、戦力外通告なんかされないんじゃねーかな」
アンゼロスに愚痴ってもしょうがないんだけど、愚痴ってしまう。
「アンディ……」
「ちょっと……飲んでくる」
俺は肩を落としてホテルを出る。
「わ、私も行きますっ」
「アンディさんっ!」
「悪い。ちょっとだけ、ほっといて」
アップルやセレンの付き添いも断って、俺は夜の王都へ繰り出した。
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