まあ途中、十分ほど(ジャンヌやヒルダさんとエッチしながら)霊泉に入ったとはいえ、都合十発、無闇に頑張りすぎたので全然動けなくなった俺。
 体力尽き果てるまで夢中で全力行動させるライラの具合のよさもさることながら、霊泉回復なしでの自分のもやしっぷりに改めて驚愕する。
「もうちょっとは体力あると思ってたんだけどなぁ……これじゃあもう一度砂漠大迷宮に行ったら一日何キロも進めなそうだ」
 愚痴をこぼすと、俺を担いで引きずっているアンゼロスが苦笑する。
「全くな。……こうして一度限界を見ないと、どれだけお前が弱ってるのか想像もできなかったよ。本当によわよわじゃないか」
「う……だから言わなくてもわかってるって。あーあ、実地訓練と言わず本当にランニングでコツコツやるほうが先かな」
「だな。明日から付き合うよ」
 ずーりずーりと俺を引きずって、町にいくつかある泉守りのところに向かうアンゼロス。
 ポルカ、というか銀の氏族領もだが、ここの霊泉は飲むのと浴びるので効力が微妙に違う。
 浴びるのはケガによく、飲むのは病気や体力低下に効果が高い。
 まあ風呂入るついでにすくって飲んでしまえばいいのだが、そこまでアンゼロスに引きずらせるわけにも行かないし、それよりも泉守りのところで飲ませてもらうのがいい。
 というのも、泉守りの所では霊泉の水を使ったおいしい飲み物を調合しているのだ。

「はい、いらっしゃい……ってなんだ鍛冶屋のアンディとお連れさん。町の英雄様のお出ましかい」
 泉では、泉守りのリンジーおばさんが俺とアンゼロスを迎えてくれた。
「英雄かどうかは知らないけどね。ウチの百人長とオーロラ姫がほとんどなんとかしたようなもんだし」
 ……ということにしておいてある。
 いや、事実を見ると実際俺はところどころで応援したり、刻紋してちょっと作業難易度下げたりしてたぐらいであまり活躍してないんだが、本当に大活躍したライラやマイアのことはほとんどの住民には伏せられている。
 さすがにハーフオーガのジャッキーさんでさえ微妙に恐れられてるような人間町でドラゴンのことを穏当に受け止めてもらえるかは厳しいものがある。
 まあマイアはともかく、ライラはあまり気にしそうにないけど。
「しかしなんだい、女の子におぶってもらって登場とはカッコがつかないわねぇ」
「はは……ちょっと体力つけようと訓練してたんだけど」
「せめて歩いて現れなよ。レモン水でいいかい」
「助かる」
 体力回復にはレモン配合がいい。
 他にも野草茶や清めの塩を入れた薄塩水など、いくつかバリエーションがあるが、どれも共通するのはひとつ。
「はい。大地の守護神の加護のあらんことを」
「ありがとう」
 軽く法印をかざして、祝福してもらうこと。
 効果があるのかどうなのかはわからないが、素朴なトロット教会信徒の多いポルカ。この祝福あってこそありがたく飲めるというものだ。
「んぐっ……んぐ……ぷは。やっぱリンジーおばさんのレモン水が一番効くよ」
「はは、どこだって同じだよ」
「んなこと言って。隠し味のシロップとか細かい小技効かせてるのは有名じゃん」
「それと効きは関係ないだろうさ。アタシの好みだよ、レモンだけだと味気ないじゃないか」
 何だかんだ言いながらも、そういう小さな気遣いが嬉しい。
「んー……僕もちょっと飲みたくなってきた。一杯もらえますか」
「はいはい、ちょっとお待ちよ。……お嬢さんはアレかい、アンディの彼女?」
「え、あ、えと……」
「そうです」
「アンディ!?」
「大雑把に言えばそんなもんだろ」
「そ、そうだけど」
 今さら変に遠慮するアンゼロスの頭を撫でながら苦笑。
 と、陶コップのレモン水を出しながらリンジーおばさんがニヤリと笑っていた。
「……大雑把に言わない場合はどうなんだい? というか、アップルちゃんやセレンちゃんも。四つ股かい」
「あ……」
 やべ。
「フフフ、吐きなアンディ!」
「か、勘弁してよ!」

 なんとかリンジーおばさんの追及を逃れ、ちょっと回復した脚でアンゼロスと一緒に宿に逃げ帰る。
「ど、どこもオバサンってのはこういう話が好きなんだな……」
「ああ……そういやお前、バッソンでよく」
「うん……」
 アンゼロスはあちこちの店のおかみさんからよく娘さんを紹介されていたものだ。
 うーん。羨ましいような微妙なような。


 夕食の席。
 夕食待ちで俺が部屋でとっくり休んでいる間に、本日いろいろと満足した六人と、男爵邸で外交に勤しんでいたディアーネさんとオーロラの間で情報交換が行われてしまっていた。
 うん。行われてしまっていた。
「十人長は相変わらず男前だっただよー」
「うむうむ」
「私たちもそろそろ妊娠しないかなーって本気で思ってるところなんですけどねー。あれだけ濃いんだからもうどうなっててもおかしくないですし」
「ん、んー……でもハーフだと、平均で5年に一人くらいがいいところっていうから……私は気長に」
「アップルちゃんは無欲なのか貪欲なのかよくわからないわねぇ」
 盛り上がる満足した組。
「…………」
「…………」
 表情のない目でじーっと俺を見つめる満足してない組。
 怖いよ。
「私たちがいない間にそういうことをするのは何かの意図あってのことか、アンディ」
「わたくしとて、いつでも期待をもてあましながら、アンディさんがお忙しいならと自重しておりましたのに」
「いえあの」
 とはいえ流石にもう頑張れない。
 霊泉の水を飲んだとはいえ、あれは人間の体力を無尽蔵にしてくれるほど都合がいいものではない。あくまで疲労回復が早まり、疲れが翌日に持ち越されない程度だ。
「姉上はノルマ一日10回だと言ったな」
「そうね、魔法とかナシでそれだけできれば、最低限といえるんじゃないかしら」
 最低限ですか。
「ならば話は早い」
「そうですわね」
 何か二人とも怖いですよ。
「何故そんな怯えた顔をする」
「ご心配なさらずとも、無理を強いたりはいたしませんわよ?」
「ならその薄ら笑いと俺にはわからない相互意思疎通を即刻止めていただきたい」
「ああ、何。ただの当然の結論だ」
「ですわよね」
 ディアーネさんとオーロラは頷きあう。
「今日はもう10回こなした。それなのに私たちはのけ者」
「ならば次の機会はわたくしたちが優先されるべきですわよね」
「ああ。自然な論理だ」
「ええ。もうこれしかありませんわよね」
 にっこり。
 二人の笑顔に圧力を感じる。
『明日は朝から私(わたくし)たちの番だな(ですわね)♪』
「……朝から?」
「だってほっといたら多分昼になる前に姉上が取って食うだろう」
「アンゼロスさんとランニングするというお話でしたが、ふとした拍子に道端でアンゼロスさんに種付けというのもありえないことではありませんわ」
「ディアーネちゃん……あのねぇ。お姉ちゃんをどう思ってるの」
「オーロラもだ……僕をいったいなんだと」
「欲求不満の人妻だな」
「淫乱忠犬奴隷ですわね」
 ヒルダさんとアンゼロスがよろめく。
「ディアーネちゃんが反抗期……!」
「……くっ、は、反論したいけど思いつかない……っ!」
「い、いやいや、反論していいぞアンゼロス」
 この人たちも駄目だ。


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