俺たちがポルカに帰還したのはフェイザーたちによる誘拐から13日目だった。
 ぶっちゃけ後から救出に出たディアーネさんやらボナパルトのおっさんを含め、全員絶望視されていたらしい。
 底の見えないエルフたちの武力はそれだけ恐れられていたということだ。

 そして。
「世話になるぞ」
 偉そうに言って男爵と共に現れたアイリーナに、男爵の館は騒然となった。
 そりゃ誘拐した当事者の北方エルフが、誘拐された男爵と共に現れたのだ。いったいどんな脅迫の通告かということで、抗戦だ、いやとりあえず様子見だ、と混乱してしまったのも無理はない話。
 が、男爵とアップル、ついでにボナパルトのおっさんというポルカの有名人たちが間をとりなして、とりあえず誤解でアイリーナが襲われるという事態は避けられた。
 まあ今のポルカには剣聖クラスの戦士さえいないわけで、一応実力で迷宮冒険できるアイリーナにはどっちみち大したことにはならなかったと思うけど。

 ちなみに帰還に先立ち、エルフ領では聖獣事件の後始末と男爵&アップル誘拐に関する最終調整が行われた……らしい。
 らしい、というのは俺たちは赤の氏族庄で飲めや歌えの宴会で歓待されているうちに男爵とオーロラ、ディアーネさんだけがその辺の詰めに出ていたので、直接は知らないからだ。

 まずガスト翁とディエルは氏族長引退になった。
 ガスト翁はフェイザー暴走と山賊行為の黙認に関して引責辞任という形らしい。あとでミスティ・パレス側から酷い怒りを買っていたことがわかったそうだ。
 ミスティ・パレスは竜の盟約をしっかりと重視し、マイアが自己責任において俺に仕える事を認めたのなら、それを部外者如きが混ぜっ返すのは許さん、という姿勢らしい。
 ……だがまあ、マイアも先走ったことは確かなので、マイアとフェイザーはミスティ・パレスに呼び戻された。しっかり儀礼を果たしてからマイアは俺の元に来ることになっている。

 そしてディエルは聖獣迷宮の部分破壊の引責と聖獣の保護のために氏族長を縁戚に譲り、「気」の下流に当たる森の監視のために赤の氏族の有志からなる私兵団を結成。
 聖獣を慰める意味も含めて、聖獣迷宮の至近に集落を作り、そこで村長兼団長を務めるんだそうだ。
「ああ、元はといえば俺と先代、そして赤の氏族の責任だ。俺はブレイクコアの傍に生き残った。そしてあんな悲しいモノになった、俺たちの千年万年の友は再び未来を貰ったんだ。それなら、あとは守るだけ。守りきってみせる。ありがとうって、あの人間に伝えてくれ」
 ディエルはそうオーロラに言ったという。
 ……これからはもっとエルフ領とも交流可能になるだろうし、いつかまた会いに行こう。ディエルとブレイクコアのいるあの草原へ。

 で、問題はクリアとなり、少なくとも男爵はエルフの友として認められ、今後は男爵領であるポルカを通す限り、国交が約束される、という話になったらしい。
 これからは白、橙、赤、桜の氏族を中心に積極的な外部への修行や人材交流を進め、昔の生命力豊かな森を取り戻す……という方針。
 じゃあ双方万々歳、これで俺たちは失礼します、でとっとと出て行こうとしたものの、そこで横柄にただ帰したのではエルフ族の底が知れる、というよくわからない理屈をアイリーナがこねた。
 で。
 ポルカに暫定エルフ領大使館を置き、アイリーナが初代大使としてポルカに駐留、双方の諸問題の対処にあたる、という強引プランが、氏族会議で承認されたんだそうだ。

「大使館というのにどれだけのものを建てればいいのやら、私にはさっぱりわかりませんが、その辺の空家をお渡しするわけにもいきますまい。しばらくは我が館に御逗留を」
「ふむ。立派なものよな。なに、大使館というても要は相談所のようなもの、ここの一室でも構わぬぞえ」
 男爵の館でニヤニヤするアイリーナ。
「お前本当は自分も外の世界で遊べる理由が欲しかっただけだろう」
「ふむ。そなたにはお見通しか、ディアーネ」
 少しは隠す気見せろよ、と男爵や男爵夫人、番兵たちや俺含めみんなが心で突っ込んだことは間違いない。

 んで、俺たちは無事に宿に帰り、久々に仲間内だけでゆっくりした時間を過ごす。
「はー。これでしばらくは厄介事もないだろうし、やっとのんびりできるな」
「そうは言っても、僕たちの休暇はあと8日だけしか残ってないけどな」
「……あー、そうだった」
 アンゼロスに言われてちょっとげんなり。もう少しのんびりと温泉に浸かったり、故郷のみんなと思い出話したりしてたかった。
「……でも、帰る……って、セレスタですよね」
 アップルが不安そうな顔をする。
「そうだけど」
「……私、どうすればいいんでしょう」
「……あ、あー」
 すっかり失念していた。
 ……ジャンヌ、ライラ、アップルにヒルダさん、どうしよう。
 あとマイア間に合うのか。
「うーん。とりあえずジャンヌは……軍の入隊試験受ける?」
「んー……悩むだなあ。十人長とライラ姉様の傍にいられれば別にいい気も……」
「ライラは……」
「ほ。我とジャンヌはラッセルのパレスか、ヘリコンあたりで暮らしてもよいぞ。どうせ我の翼ならすぐじゃ」
 うーん。それでもちょっと遠すぎるよなあ。できれは自分で会いにいける距離においときたいし……。
「セレンはどうしてるの?」
「一応、雑用係みたいな感じでお仕事しながらアンディさんの部屋に住まわせてもらってるけど」
「わ、私……雑用しようにも」
「あー……そうだね、アップルお料理とか苦手だもんね」
「うぅ」
 アップル超落ち込んでる。
「ま、まあ、バッソンあたりに家を借りればいいんじゃないか」
 ディアーネさんの提案。
 だがそこには致命的な欠陥が。
「……出稼ぎ扱いの十人長の給料、知ってますか」
「…………」
 ほとんど一人で部隊運営してるディアーネさんだ。知らないわけがない。
「……さすがに自分の生活費以外に家一軒借りるには……足りんな」
「い、いざとなったら僕もちょっと出すぞ」
「ええ、それが奴隷の役目というなら……」
「一応ヒルダ先生どこでも稼げちゃうよ?」
「ほほ。なに、小銭ならまたディアーネの兄貴に秘宝の一つも売りつければよい」
「あの、俺をどこまでヒモにしたいんですか君たち」
 とはいえ、そういうのに頼らずにみんなと生活するなんてなかなかできそうにない。
 ……うーん。男の甲斐性ってのは難易度高い。


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