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というわけで。
「ほらアンディ、このぐらい隊舎にいた時は簡単だったろ?」
「ほ、ほとんど自力で歩かずに一ヶ月以上過ごしてたのにいきなりそんな走れるか!」
「アンディさん、ファイトですよ。わたくしたちを毎晩抱きこなす為ですわ♪」
「くそー、一般兵をエースナイトと一緒にすんな……」
アンゼロスとオーロラ、あと何故かついてきたジャンヌとマイアに伴走されながら、雪道をざっこざっこと走る俺。
ほとんど歩くのさえできない生活してたってのにいきなりブッ通しで5km以上引っ張り回される。
……無理だって。
「わ、脇腹痛ぇ……」
「ブッ倒れたらちゃんと運ぶから安心していいぞ」
「十人長、本当に鍛える方がいいだぞー。鍛冶だって体力だぞー」
「……どうしても駄目なら背中乗せてあげる」
「マイアさん、これもアンディさんとの仲睦まじい未来のためなのです」
「……むぅ」
「いや、頑張るから、明日も明後日も頑張るからマジこの辺にして」
どいつもこいつも体力高すぎる。
……ていうか、俺より体力低い可能性あるのって仲間内でもヒルダさんとアップルくらい?
なんだか悲しくなってきた。
へろへろになっては励まされ、まるで尺取虫のように体を引きずりながら、夕方になる。
「もー駄目……」
「ん、まあ、こんなもんかな」
「ポルカには霊泉があるからいくら鍛えても故障しないのが幸いですわね」
「もう後半は歩く方が早かっただよ」
「無理させすぎるな。人間がこんな苦しくなるぐらいならエッチしないとか言い出したらやだ」
「い、いや、言わないけどさ」
しかし本当、オーロラがちょっと汗ばんでるくらいで他は誰も息すら切らしてないのが怖い。
俺も鍛えれば、あんな風になれるのかなあ。
と。
「……ん?」
何か、視界の端で動いた。
俺の目の動きをいち早くマイアが見て取り、フッと姿が掻き消える。
そして。
「はッッ!!」
ガキン、と何かがぶつかる音。
慌てて目を向けると、森の中から飛んできた矢をマイアが氷の玉で受け止めていた。
あの固い氷の玉を半ばまで貫いている矢の威力。それがどうやらへたり込んでいた俺を狙っていたらしいことに愕然とする。
「なっ……!?」
マイアがこっちにいるのが見えてて、それでも撃ったのか!?
「……誰」
マイアが矢の突き立った氷の玉を捨てて、厳しい視線を森に向ける。
素早くアンゼロスが俺の傍に盾のように立つ。オーロラもジャンヌから護身用のナイフを借りて、俺の傍に来る。
「マイア様。こちらへ。今ならあの黒竜もいません」
「フェイザー」
あの、先日のエルフ青年がゆっくりと木の枝の上に姿を現した。
マイアは首を振る。
「これは竜同士の約束の問題。見てないからって反故には出来ない」
「約定など」
フェイザーが首を振った。
「人間はたやすく裏切る生き物。それが介在している時点でないようなものです」
「フェイザー!」
「我らは貴方を守る義務がある」
……我ら?
と、不思議に思った。
その疑問は、すぐに解消される。
「ぐ……」
「は、放してっ……!」
森の闇の中にうっすらと浮かび上がる、エルフたちに拘束された男爵とアップル。
「!!」
やられた!
フェイザーを抑えられたと思って安心していたら……!
「人間。よもやここで逆らうということはないな? マイア様、返してもらおう」
「…………」
どうする。
……男爵は肩や背に矢が刺さっている。
迷っていると危ないかもしれない。
「わ……」
「お黙りなさい!!」
俺が口を開いた刹那、フェイザーに向かって決然と怒鳴りつけたのは、オーロラだった。
「な、何だ貴様」
「恥を知りなさい、何がエルフ、何が義務か! あなた方のしていることは町人はおろか、野卑な山賊以下ですわ! 銀の氏族、どこまで落ちれば気が済むのです!」
「……ぐ、愚弄するか!」
「ええ。見下げ果てましたわ」
オーロラはアップルと男爵に剣が突きつけられるのを横目で睨みつつ、胸元から何かを取り出す。
……耳飾り?
「空色の氏族の長、ディオールが娘、オーロラの名を持って。銀の氏族よ、道理あらばこの私に説いてみせなさい!」
(続く)
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