俺たちはそのまま森の中に連行された。
 連行とはいっても、縛られたりしたわけではなく普通に案内された……と言えなくもない。剣持ったエルフに至近距離で睨まれてはいたけど。
「ぬぐぅ……すまん、あれほど手出しはさせんと息巻いておきながら」
 連行されながらも男爵が俺に謝ってくる。
「仕方ないよ、家族に怪我はなかった?」
「うむ……それはおそらく。屋敷から我々を捕えて出てくるまでほんの数分だったからな……」
 不幸中の幸いだ。今の北方エルフは何をやらかすかわからないしな。
「ごめんなさい、足手まといになってしまって」
「謝るのはこっちだ。アップルが戦えないのはわかってたんだ、せめて誰か戦える奴を傍にいさせるべきだった」
「……うん。油断は否定できない」
 アップルを慰めつつ、アンゼロスと二人で反省。
 何を偉そうに、と思うかもしれないが、少なくとも俺はディアーネさん以外の戦える仲間への指示権限は持っている。
 アンゼロスはそれでなくても護衛専任の歩兵、予想の範疇といえる襲撃に対応できなかったのは悔しいだろう。
「大丈夫ですわ。未だ死者が出ていないのなら何も手遅れではございません」
「オーロラ」
「みなさんはわたくしが守ります。ご安心を」
 北方エルフたちに囲まれたまま、それでも先頭に立って堂々と背筋を伸ばすオーロラが頼もしい。
 頼もしいけど一番歳下なんだよな。
「ど、どうなるだ……」
「……フェイザー。それに、みんな」
「お許しを、マイア様。……本来異種族や混ざり物など相手にするまでもありませんが、氏族の正統が名乗りを上げて会議を要請したとあっては、手続きを踏まねばならないのです」
「空色の氏族の姫よ。その方、我らの森で会議を請う事がどれだけの大事かわかっておろうな」
 居丈高な北方エルフの男のジロリとした視線にもオーロラは涼しい顔。
「山賊の真似事をしている暇があるというなら、会議の席の一つも設けられぬことはないでしょう」
「氏族会議は我らだけの問題ではない。この北の森、全族から名代を募るということなのだぞ」
「それが何か?」
「……銀、赤、白、紫、緑、青、桜、橙、金。全ての氏族から首長かその副官級を集めるのだ。滅多なことを言おうものなら氏族闘争となり、軽々しくエルフの誇りを汚す空色の氏族を追放する決議ともなる。そうなれば貴様ら南の森の民は二度と光の精霊の寝所を巡礼することまかりならぬ、エルフにしてエルフでなき棄てられた民となるのだ」
「なるほど」
 それでもオーロラは少しもうろたえない。
 エルフの男が眉を上げた。
「貴様一人の勝手で一族全てを貶めることに、何も感じないのか」
「侮られたものですわね」
 頬に軽く手を当てたオーロラはにっこり笑い。
「その程度のことを恐れる下郎が、このわたくしに軽々しく語り掛けないで下さる?」
「なっ……」
「この身をいたずらに権威を恐れる小ネズミと一緒にして戴いては困ります。ゆめゆめお間違いなきよう、わたくしがあなたがたに媚びを売るのではありません。あなたがたがわたくしに義の所在を証すのです」
「小ネズミだと……!?」
 わなわな震えたエルフ男が剣をオーロラにつきつける。
「小娘が調子に乗るな!」
「ふぅ」
 その剣の切っ先を目の前2センチほどに突きつけられつつ、それでもオーロラは小馬鹿にしたように肩を竦め。
 次の瞬間、エルフ男を氷点下の視線で見下した。
 眼光だけで一歩下がらせる。
「下郎。調子に乗るなと言っています。その耳が飾りなら今すぐ千切って犬にでもくれてやりなさいな」
「く……!?」
「山賊紛いが王の眷属に何を偉そうに。誇りを語るならそれ相応の品位を見せなさい。身の程を知らぬわめき声などでこの身を煩わせるな」
 ……すげえ。
 周りのエルフたちも、武器一つなく腕組みしただけのオーロラに近づくことさえ出来ない。
 怖いのとは違う。強そうというわけでもない。
 そんなものなんて、多分全く意味がない。
 オーロラは、そう思わせる王者の風格を発散していた。
「す、凄いですね、彼女」
「……本物のお姫様なんだなあ」
 俺たちの前では、エースナイトで意外と淫乱で、なんか負けず嫌いの変な女って感じの側面ばかり見せるけど。
 あれは大義を背負うと毛ほどの妥協も見せない、本物の高貴な姫でもあるんだ。
「……僕、なんだかオーロラが急に凄い奴に思えてきた」
「俺も」
 ……味方でよかった。


 森の中をしばらく進み、日がとっぷり暮れたところで、エルフたちの一人がヒュヒュッと空中にサインを描く。
 ……どんな魔法だか、誰かに解説を求めようとしたけど、よく考えたらあまり魔法が得意な奴を連れてきていない。
 なんだかよくわからないうちに、杉の木と木の間の空間から光が溢れ出し、一気に視界を満たして、次の瞬間には一気に世界が変わっていた。

「……え、ええ?」

 一度瞑ってしまった目を開けると、雪に埋もれた薄暗い針葉樹林は姿を消し、明るくて木々の間隔が広く、雪もない。
 それどころか適度に暖かくて、今まで頬を傷つけるようだった冷たい空気はなんだったんだと思ってしまう。
「これ、は……?」
「古代結界の中です。……多分」
「アップル?」
 ……そっか。アップルは一応こっちのエルフのハーフだっけ。
 仕組みだけはわかるのかもしれない。
「その通りだ。……まあ、ここはまだ入り口に過ぎないがな」
 俺たちがびっくりしているのが気に入ったのか、自慢げにフェイザーが頷いて、少し離れたところにある集落を指差した。
「あそこでしばらく寝泊りしてもらおう」


次へ
目次へ