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そして、昼食の前に、このままでは風邪を引きそうなアンゼロスに付きあってみんなで温泉に行くことになった。
……もちろん、今日は誰も伴わず、俺とおっさんだけ男湯。
「なんだよアンディ、今日はヒルダさん来ないのかよー」
「おっぱいを返せ! おっぱいを見せろ!」
「うるさいよお前ら」
ジョニーとキールにブーイングを食らう。
……こいつらはヒルダさんと俺がいつも朝から風呂に入っているというのを聞きつけて見に来ていたらしい。仕事しろ。
「まあまあ、待ちたまえ若者たち」
ヒゲを撫でながら現れる男爵。
この人もか。
「男爵! 俺は今猛烈に絶望した!」
「おっぱいがあると思ったらごっついおじさんとへなちょこアンディだけだったことに絶望した!」
二人の抗議を聞き、片手でいなすような仕草をして男爵は頷いた。
「私もだ」
駄目だこの人。
「だが、若者たちよ。我々男子は努力をすべきだ。今、目の前にないことを嘆くのではなく、その時間を使って見つけることに全力を尽くすべきだ。そう、私は思う」
「男爵……」
「さすが男爵、いいこと言うぜ」
「よし。ならばついて来たまえ」
バシッと手ぬぐいを腰にかけて更衣室小屋の中に消える男爵。
無駄にかっこいい。
「よし、行くぞキール」
「おう!」
キールとジョニーが同じく更衣室小屋に消える。
……なんだろうと思って見に行くと、更衣室小屋の床が開いていた。
「地下室!?」
「地下通路だな」
おっさんと顔を見合わせる。
入ってみると、中は温泉の水が流れており、真冬にも関わらず暖かい。
「男爵、これは」
「フフフ」
男爵はランタンの光の中でニヤリと笑った。
「下の川まで霊泉の水を流す治水工事……と称して、我々町の男子が掘った夢への一本道だ」
そのまま進んでいくと、石段。
それをしばらく登ると岩陰に出る。
……そこは女湯を見下ろす岩山の中腹だった。
「帰り道は各自で確保。この道は使ってはならん」
『了解』
こんな時だけ背筋を伸ばして番兵らしい返事をするキールとジョニー。
俺とおっさんは多分似たような顔。
……なんでこの人たち、覗きの為だけにこんな大工事までできるの。
とはいえ。
「おおお、すげえ……今日は大漁だ……」
「え、ちょい待って。あそこにいるの男爵の奥さんじゃね?」
「フフフ、まだまだ綺麗だろう」
自慢げな男爵。若い衆に見られるのはいいのかよ。
「……ジェシカもいる」
「わ、わー、見るな見るな、ウチの嫁だぞ!」
慌てるジョニー。こっちは普通の反応。
「じゃあ俺の彼女たちも見るなよ……」
『彼女たちとか言うな』
俺は正当な要求をしたつもりだったがあっさり却下された。
「う、うむ。しかし……この町の女はみな素晴らしいですな、グート卿」
「ほうほう。さしものボナパルト卿もポルカっ子の裸体には反応しておられる様子」
「……うむ。この歳にして新たな趣味に目覚めそうですぞ」
「目覚めるな目覚めるな!」
確かに勃起が鈍いと言っていたおっさんもビンビンだけど。
しかもでけえ。
「しかし……やはり、アンディの連れがひときわ素晴らしい」
「おいアンディ。あんなに美人ばかりどうやって集めた。しかも全部彼女とかどういうつもりだ」
「アンディでさえモテモテで美人ばかりって、セレスタってそんなにイイところなのか……ゴクリ」
「いやあの人たちはセレスタでも相当なもんだから」
「自慢か! 畜生、自慢か!」
キールに掴みかかられる。
と、そこで何故か女湯の動きがピタリと止まった。
「ぬ!?」
「あ、慌てなさるなボナパルト卿! この位置は立ち上がりでもせぬ限り滅多なことでは見つからない! キール、あまり騒ぐな」
「は、はい」
縮こまるキール。が、その後ろからくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「ほほほ。我やディアーネがおるのを忘れて『滅多なことでは見つからぬ』とな」
「!?」
岩の上にちびライラが座っていた。
ちっちゃいけど裸はちゃんとしたイメージで、それを見つめてポルカ衆は思わず総立ち。下半身が。
って、そうだ。ディアーネさんのレパートリーには1km先の魔物の急所を正確に見通すほどの感覚強化魔法もあるんだった。それにライラの知覚力は文字通りバケモノ。
「砲撃、開始♪」
ちびライラが指を鳴らす。
そして、飛んで来る人頭大の雪球。
「うわああ!?」
下を見ると女たちがきゃーきゃー言いながら雪球を作り、アンゼロスとオーロラがディアーネさんの号令のもと、手投げで曲射しまくっている。ついでにライラの本体もケラケラ笑いながら投げてきていた。
「う、うわ、この大きさ危ねえって!」
「ほほほ、コソコソ覗きなどするのが悪いのじゃ♪」
雪だから致命傷にはならないだろうが、重いのであたるとかなりヤバい……。
と思ったら、明らかに雪というか氷の玉が飛んできて、ちびライラのいる岩に直撃。
バキャッとか不穏な音を立てて砕け散る。
「!?」
……見ると、みんなの狂騒に紛れて、マイアが人知れず中空から氷の玉を出して、両手で股の下からアンダースローしていた。
……ライラの火球と同じ要領か。
「……あれマジヤバい、逃げろ!」
俺が言うと同時に他の四人もダッシュで逃げ出す。
「うわあああ」
「ほほほほほ」
ちびライラが俺の肩に乗っていつまでも笑っているのが、温泉の裏山に木霊した。
……ああ、でもこの平和さってポルカだなあ。
(続く)
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