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結局それぞれに二回ずつ中出しして、俺はフラフラと宿屋に帰ってきた。
時刻は夜半を過ぎ、廊下の明かりはほとんど落ちている。
「はあ……張り切りすぎた」
俺は気だるい満足感に浸りながら、ふらふらと壁にぶつかりながら自分の部屋を目指す。
と、途中で肩を叩かれた。
「……誰だ?」
暗視能力のあるディアーネさんかジャンヌ、ライラあたりか。
と思ったら声は低くて深いおっさん声だった。
「そっちには壁しかないぞ、青年」
「……お、おっさんか」
「そう、旅のおっさんだ」
フフフと満足げに笑う。
「……おっさんほどの人になると、壁なんて気配でわかっちゃうのか?」
「まさか。流石に壁に気配などなかろうよ。まあ、中には音の反射を頼りに目をつぶっても迷宮を歩ける者もいるが。……私の場合は、目が特別でね」
「……特別?」
「見えるのさ。闇も吹雪も見通せる、いい目を譲ってもらった」
「譲って、って」
「聖地の聖獣から貰ったのさ。あの連中は不死身でね。完膚なきまでに殺されても数日で生き返ってしまう。目を抉り出しても三日で元通りだ。……私は戦争で右目をやられてね。後退する間に腐ってしまったので、数年前にここで癒そうとしたが癒しきれなかった。だから聖獣に貰ったのさ」
「せ、聖獣って聖地の守護獣だろ? ……バチ当たりだなあ」
「ああ、バチ当たりだが、一応決闘して戦利品としてもらったのだ。文句はなかろう」
「片目のままで?」
「ああ、ちょっと不自由だったがな」
このおっさんは規格外すぎる。
「……しかし、もう引退してゆっくりしてもいい歳だろ? そんな血の気の多いことばっかしなくてもいいんじゃないのか?」
「ハハ。よく言われる」
一瞬、声を落とす。
それは何かを意識したというより、自然と心の中の澱みが声を曇らせたような感じだった。
「だが、死ぬ前にやることが出来たのさ」
「おっさん」
「……お休み、青年。君の部屋はそこのようだ」
「あ、ああ」
暗い低い声は、何故か俺の心にも重く垂れ下がるものを残していた。
(続く)
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