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昼からは俺は温泉療養。
たまに上がってヒルダさんに紋を書き直してもらいつつ、一日温泉でのんびりする。
……ということをやっていたんだが、途中から妙なことになった。
「まどろっこしいわねー」
「はい?」
何度も温泉に入っては出てを繰り返してヒルダさんのところに通う俺。その足をいじりながら、ヒルダさんがいきなり妙な事を言う。
「そうだ、もう一緒に入っちゃえばいいじゃない♪」
「姉上!?」
ポンと手を叩き、そのまま俺、女湯へ。
……待てマズイ。
さすがにガキの頃ならともかく、大の大人になった今女湯なんて入ったら大惨事だ。
「ちょ、ちょっとヒルダさん!?」
「はい、ディアーネちゃんもアンゼちゃんもライラちゃんも、みんな来る! みんなで行けば大丈夫♪」
「そういう問題じゃないでしょーが!?」
「……なるほど、さすが姉上。肉の壁作戦か」
「ちょっとディアーネさんも納得してないで!!」
で、本当に女湯に放り込まれてる俺。
「うう……地元女に見つかったらコトだ……」
「大丈夫大丈夫、仲良しの女の子がおしくらまんじゅうしてるようにしか見えないわよ♪」
「ふふ、こういう、いつ見つかるかわからないというのも燃えますわね」
「ジャンヌ、泳ぐな!」
「アンゼロス、硬いこと言うなだよー♪」
「ほほ。良い湯じゃ。どれ、ついでに一人二人孕ませる気はないかえ? 大陸に響くほど強力な霊泉じゃ、一発懐妊くらいできそうなものを」
「むう、そういえばアンディ、昨日は一人寝だったな?」
「いやだからあの、せめて俺に話しかけないでいただけませんかディアーネさんも」
全方位を女たちにガードされて女湯に入る俺。
見つかったらヤバい。マジヤバい。
というかそれ以前に身体も視線もエロ過ぎて勃起が全く収まりません。どうしよう。
……と。
「あー、ディアーネさんたち」
「ヒルダ先生」
そこに、セレンとアップルが現れた。朝から別行動の二人だ。
もちろん二人とも裸。見た感じアップルの方がちょっとだけ大柄で、おっぱいとお尻も大きい。
「少しは心の整理できた、アップルちゃん?」
「えと……まだ、です」
「まあ、昨日の今日では完璧にっていうのは辛いかしら。時間はあるんだからゆっくりしなさいな。長いこと寝通しだったからお肌も荒れてるでしょ、ゆっくり浸かりましょう?」
「はい……」
アップルはどうやらヒルダさんには懐いている様子。まあ、ちょっとだけど。
セレンはディアーネさんやアンゼロスたちと和気藹々。
アップルは時々そんなセレンを横目でチラチラ見る。
「やっぱり、親友取られたみたいで辛い?」
「えっ」
アップルはぎくりと肩を強張らせた。
……ああ、そうか。ずっと二人っきりだったって言ってたもんな。
いつの間にかセレンに友達が何人も増えていたら、寂しいか。
「……いきなり何もかもが変わり過ぎてて怖いのは、仕方ないわ。でも、それは巻き戻せない。少しずつでいいから受け入れてあげて。……大丈夫、セレンもアンディ君も、あなたをずっと愛してる。間違いないわ」
「……はい」
「アンディ君って、ずっとあなたのこと、15年間想い続けてきたんだから。私たちにとってみれば妬ましいことこの上ないわ」
アップルは複雑な顔をした。
「でも、皆さん首輪つけてますよね、あの人の名前入りの」
セレンを始め、アンゼロスとオーロラ、ライラとジャンヌ。みんな風呂だというのに外していない。
「全員、奴隷とか言ってるんですよね。さすがにあの人、節操なさすぎるんじゃないですか」
……ぐぅの音も出ない。
「ほほ。気にするでない」
「首輪つけてない先生や百人長もみんなお仲間だよー。十人長ならきっとみんな幸せにしてくれるだ」
「セレスタでは一人の男性に一人の女性とは必ずしも決まっていないのです」
「……まあ、その。なんだ。アイツ、首輪つけて誘わないとなかなか抱いてくれないから」
「異常だと思うんですけど」
セレンの言い分が一方的に正しい。
……うん。俺一言も喋ってない(というかオーロラとライラの背中に隠れてるだけ)けどダメージ特大。
そりゃ今朝だって俺に近づいてもくれないよなあ。
「……異常だとしか思えないんですけど」
繰り返すアップル。
もうやめて俺のライフはもう。
「……でも、なんででしょう。あの人のこと見てると、時々胸が疼くんです。全然知らないはずなのに、きゅんって」
「……アップル、ちゃん?」
アップル……?
もしかして、俺のこと、まだどこかで覚えて……?
「私にとって、今までの人生なんて、セレンと出会ったこと以外はほとんど何もないようなものでした。いい思い出なんてなかった。どこにも居場所なんてなかった。私のことなんて誰も……いらなかった」
アップルは耳をへろっと垂らして、俯く。
「だから15年くらい消えたって構わない。セレンが元気なんだもの、私もここに生きてるもの。知らない人とのセックス一回くらいでこんなに何もかもよくなったなら、それでいい。それで納得できると思うんです」
「でも、できない?」
「はい。……私が今、一番怖いのは、この、きゅんってなる気持ち」
アップルはヒルダさんに訴えかけるように身を乗り出した。
「何も知らないのに、何も、覚えてないのに、全然関係なくあの人を見ると頭の芯が痺れて、お腹の奥が痺れて、胸の奥が絞られちゃう、この感情が怖い……!」
「……アップルちゃん」
「認められないよっ……私は、自分の好きな人くらい、自分で選びたいっ……運命とか、本能とか、そんなの言い訳だもの。そんなのに私、屈したくない……!!」
……アップル。
そうか。
そうだな。どこが好きかわからないのに勝手に魂だけが相手を欲する、なんて。
言い様によっちゃロマンチックだけど、それこそ洗脳されてるのと変わらない、気味の悪い感覚だろう。
特に、自分の意志以外の、権力とか種族とか社会とか、そういう全てに翻弄されるハーフエルフにとっては、何よりも忌むべきことなのかもしれない。
「……そう、か」
思わず声が出ていた。
「!!」
思わず。
つまり、うっかり聞かれてしまった。
「あ、アンディさん、いたん……ですか」
昨夜の自分と同じ状況の俺を見て喜ぼうとして、ギクリと笑みを止めるセレン。
アップルが目を見開いて硬直していた。
ガクガク震えで泣き始める。
そして。
「いやああああああああああああああっ!!」
ゴツーン、と強烈なストレート。
鼻血を吹いて湯に沈む俺。
「あ、アップルー!?」
……さ、錯乱するとセレンよりだいぶ乱暴だな君。
「ほ、霊泉でよかったのう」
全くだ。
(続く)
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