鍛冶場での大乱交を午前中にやらかしたその日は、もう午後や夜もエッチは自重ムードになっていた。
「確かに精子地獄の魔法だとやたらといっぱい出るけどねー、根本的にとんでもないところから精子を呼んで来る魔法とかじゃなくて、タマタマの精子の作製能力を激しくブーストする魔法だから……うん、やりすぎるとあんまりよくないわよ? 脱水症状とか」
ヒルダさんのそのアドバイスが効いている。
まあつまるところ俺から水分とか栄養とかいろいろ抜けているのは間違いないわけで。どーりでなんか根本的に頭とか手足とか重くなったと思った。
そしてそこにカルロスさんの青野菜の刑が実行されたのでたまらない。
「さあ食べろヒューマン! さあどうぞ! 塩もドレッシングもあげないからな!!」
「兄上ー、許してあげてよー。午前中からアンディくん一杯頑張ったんだから」
「頑張ったって何をだよ!? というか何ツヤツヤしてるんだよヒルダ!!」
「えー、それはもう……♪」
「畜生この腐れヒューマン! ほうれんそうも追加してやる! もちろんゆでてなんかあげないかんな!!」
ヒルダさんわざとやってませんか。
……気分は芋虫だ。
というわけでその日は一日休養日となり、翌朝。
どっかにいっていたベッカー特務百人長が朝食の席に姿を現すなり、ぼんやりとした顔で言った。
「隊長。……俺そろそろクイーカに一旦戻ります」
「そうか」
予想していた、という風に頷くディアーネさん。
「父上によろしくな」
「了解。……はぁ」
昨日にも増して元気がない。
……いや別に俺悪くないんだけど、なんだかえらく罪悪感を感じてしまう。
「はぁ……くそう……」
「特務百人長」
「ああ……スマイソン。お前のその無鉄砲さが本当羨ましい」
「は、はあ」
「畜生……なんなんだよ……何やってんだよ俺……あそこでこう、逃げずにめげずにガーッと押し切れば……でもなぁ」
ブツブツと朝食のフルーツをつつきながら一人反省会を続ける特務百人長。
ディアーネさんのことだろうか。アンゼロスとのことだろうか。
と、そこでライラがポンと手を打った。
「そういえばお主に立て替えさせておったの」
「あ、ああ……うん、それはまあ、……うん」
「なんじゃ、妙な顔をして。……ほれ、お主ならそれを何とか金に替えられるじゃろ」
パチンと指を鳴らして、虚空から取り出した透明な玉をベッカー特務百人長に放り投げるライラ。
「……何これ」
「龍の宝玉とか言われておる秘宝じゃな。なんでも人界では高く売れるという話じゃったが」
金目のもの持ってるなら最初から出しておけよ。
と、横で見ていた俺は思ったが、特務百人長、ええーっと気が進まない声をあげる。
「……ドラゴンの秘宝なんてどーしろってんですかい」
「そこはほれ、お主ならウラルートやヤミルートのひとつふたつ、知っておるじゃろう?」
……そういえばドラゴンの秘宝は事実上ドラゴンパレスへの侵入の証だから、ご禁制の品のようなものだった。
「……一応アシュトンの旦那への証拠品としてもらっときます」
「むぅ。他の秘宝の方がよいかえ? 頑張れば遺跡の発掘品と誤魔化せそうなものもあるかもしれんが」
そういえばライラの財源は一応全部ドラゴンの秘宝扱いになってしまうわけか。
金になるものは多そうだが、実際に金にするのは大変そうだ。
……などと考えていたら、カルロスさんが慌てて横から入ってきた。
「ちょ、ちょちょちょっ!? あ、あなたたち何をこんなところで!?」
「何って秘宝じゃが」
「秘宝です」
怪訝そうな顔のライラと特務百人長。
カルロスさんはゴクリと唾を飲み込んで、声を落とす。
「ええと、ディアーネのお客様にこんなことは言いたくありませんが……ドラゴンの秘宝は賞金首のネタですよ? 一応僕もコロニーリーダーという立場ですから、もしも人前でそんなものをやり取りするとあれば立場上逮捕に動かざるを得ません。というかお嬢さん、そんな雰囲気ではないですけど冒険家なんですか?」
「ほ。お嬢さんと呼ばれてしまったわい」
ライラがおかしそうにコロコロと笑う。
そして中庭への出入り口に歩いていき、着ていたローブをバサッと脱ぐ。
というか脱ぐなバカ。
「申し遅れた。我が名はライラ」
脳が一瞬、揺さぶられる感覚。
そして、緑広がる中庭にドーンと現れる全長50メートルのブラックドラゴン。
「そこなアンディ・スマイソンの乗騎、黒竜ライラじゃ」
「ひ、ひぃぃぃ!?」
腰を抜かすカルロスさん。そりゃ普通ビビるよなあ。
「家壊すなよ」
「ヤシ倒すな」
ガクガク震えているカルロスさんと恐慌しているメイドさんたちを落ち着かせようと努力しつつ言う俺とディアーネさん。
「わかっておる」
素直に爪先立ちして、なるべく周りのものを破壊しないように翼や尻尾も持ち上げるライラ。
「い、いやあああああ!!」
「死ぬ、殺されるーーーっ!?」
さらに恐慌するメイドさんたち。ああ、確かにちょっと威嚇してる風に見えなくもない。
「……ていうか戻れ」
「その方がよさそうじゃな」
ライラがスッと裸の女に戻る。
「というわけで別に盗品ではない。そうカリカリするな、兄上殿」
コロコロと笑いながらローブを着直すライラ。
カルロスさんは震えを抑えるように腕を掴みつつ、バッと俺に振り返る。
「き、きききき君は何なんだい!? ものすごい弱そうに見えるのはフェイクで実はオーバーナイトとかだったりするのかい!?」
「いえ実際ものすごく弱いです」
言ってて悲しくなってきた。
「でもアレはドラゴンです」
「なんでだよ!?」
「なんでといわれても」
説明しにくいことこの上ない。
「ちなみにその龍の宝玉な。例え盗まれてもほとんどの竜は怒りはせんと思うぞ」
「そうなの?」
「うむ。……なんというか、胆石のようなものなのじゃ。十年ぐらいでドラゴン体の腹の中にできてしまう」
衝撃の事実。
……確かボイドはそれ貰ったせいで仲間に殺されかけたのに。
「あ、あーあー、そういえば去年ライラ姉様のおなかの中に入って取ってきただな! あれ磨くとああなるだか!!」
「うむ。しかし削って矢じりにでも使えるならともかく、我らでも加工の仕方が思いつかぬでのう。一応飾りの種として持っておる竜も多いが、まあそんなに大事なものでもない」
うわー。夢壊れるなあ。
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