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 砂漠の岩の下に隠された出口から、夜の砂漠に出る。
 ドラゴンパレスからは相当高い位置にあった空が、今は本当にすぐそばだ。
「本当は我もその森林領までついていってやりたいんじゃがな。そのままアンディに飼われるとなるとドラゴンパレスを閉じなくてはならぬ。というか、秘宝が妙な者の手に渡っては困るのでな、封印作業をせねばな。今日は送るだけにしておこう」
「お前、飼われるとかさあ。ドラゴンを一介の兵士に飼えと?」
「なら我に飼われるか?」
「それも無理」
「じゃあ我を飼うしかなかろう。異な事を言う」
 どっちかしかないのかよ。
「なに、こちらの姿ではちょーっとばかり腕っ節の強い人間の女と変わらぬ。女を飼うのはお手の物じゃろ、首輪まで見せつけおって妬ましい」
「…………」
 俺はライラの中でどこまでアレな人ということになっているのだろう。
「次までに我の分も作っておくのじゃぞ?」
「むぅー」
 セレンがライラを睨んでいる。ライラは服を脱ぎ捨てながらニヤニヤと視線を受け流した。
「おぬしがいくら睨んでも、どうせ今から我に借りができるのじゃ、反対は出来まい」
「う……」
 裸身を月下の砂漠に晒し、緩やかな風に髪をなびかせながらライラは手を広げた。
「伏せておれ」
「え」
「──────!!」
 ライラの小声の呪文が聞こえた瞬間、フッとその裸身が消える。
 そして、一瞬意識が飛ぶような感覚があって、次の瞬間。

 ズズンッ!!

「うおおおっ!?」
「きゃあっ!?」
「くっ!!」
 月を遮るように、飛龍……の十倍ぐらいでかい竜が、砂漠に姿を現した。
「ほ。伏せておれと言うたではないか」
 砂埃の舞う中、地面に尻餅を突いた俺たちに、頭の上から確かにライラの声が聞こえる。
「久々に幻影を交換したわ。……この月夜に飛ぶのはワクワクするの。それ、早よ乗れ乗れ」
 尻尾を差し出す黒竜。多分尻尾から頭まで50mはある。
 まさかこんな伝説的な生き物を犯していたなんて、という感慨が今さら湧いてきて、ちょっとゾッとした。その気になったら俺なんてひとかじりだ。
「ジャンヌや、留守を頼んだぞえ。我も明後日の夜明けには戻ってこられると思うが」
「うぅ……十人長、しばしさよならだよ。帰りにまた寄ってだよ」
「わ、わかった」
 ちょっと涙目のジャンヌを撫でて、俺はライラの背に這い登る。その横ではセレンがスキップするように駆け上り、ディアーネさんは直でジャンプして飛び乗っている。ゴキブリみたいに這い登っているのは俺とアンゼロスだけだった。
「俺らカッコ悪いな」
「言うなよ……ちょっと考えないことにしてたんだから」
 のそのそと這い登り、念のため背中にあるトゲに革紐で身体を固定して。
「いいぞー」
「ほ。……それではゆくぞえ!!」
 甲高い声で、砂漠にひと吠え。
 黒竜は月に向かってばさばさと巨大な羽根を羽ばたかせ、ゆっくりと浮き上がる。


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