ドラゴンパレス。
ドラゴンコロニーとは言わない。何故なら、ただの集住地と呼ぶには、ドラゴンの存在感は軍事的政治的に大きすぎるのだ。
直接干渉しない限りドラゴンからの攻撃はまずないとはいえ、たった一人で小規模な都市を半日で灰にできる災害級の生き物が数十、数百単位でひしめいているのだ。
大陸のほとんどの国家でドラゴンパレス周囲数キロは軍隊不可侵の土地とされ、軍事戦略上でも自然の要害として利用される始末。一般住民もよほどの命知らずでもない限り近づかない。
自分で近づくのは冒険家と山師だけ、というのがドラゴンパレスだった。
「ほ、つまり旅行の最中か。ラッセル迷宮を使って旅行とは剛毅じゃな」
長い黒髪の美女はころころと笑った。
俺が50cmほどの浅い水の中でM字開脚しつつ慌てて語った話にあっさり得心したらしい。その間も片手を腰に当ててゴージャスな裸体を全く隠そうともしなかった。ちんこは勃たなかったけど。怖いし。
「で、こ、ここがドラゴンパレスって本当なのか」
「無論じゃ。聞いたことはないかえ? ラッセル砂漠の黒竜の御伽噺を」
「俺、セレスタ生まれじゃないから」
「なんじゃ、つまらんのお。なかなかロマンティックな童話で……」
「ライラ姉様、そ、そげなことより早く服着るだよ」
「……おお。そうじゃな」
ドワーフ娘に言われて今さらそのことを思い立ったらしい黒髪。
「おい坊や。そういうわけじゃ、坊やの分の服も用意してやるゆえ、はよ来い」
「え、えぇ?」
「それとも一人で素っ裸で我と語らうかえ? ……なかなか趣がありそうじゃて我は大歓迎じゃが」
「ライラ姉様!!」
「わかっとるわかっとる、冗談じゃ」
ドワーフの少女は美女に物怖じしない。それともドワーフに見えるだけでドラゴンの幼体だったりするんだろうか。
水場の近くにある岩窟家屋で人心地。
差し出された貫頭衣を着てなんとか体裁を整える。
黒髪は俺の事を全く意に介さずに目の前で服を着た。羞恥心というのが完全に欠如しているらしい。
「さて。我が名はライラ。このドラゴンパレスの最後の竜じゃ」
「最後……? ってことは」
「その前に坊やの名を聞かせよ」
「……俺は、アンディ・スマイソン。セレスタ北方軍団クロスボウ隊の十人長だよ」
「ほ」
「じ、十人長? 十人長ってえらいのか?」
ライラよりもドワーフ娘の方が先に身を乗り出した。
「えーと、そうだな……店でいうと店長さんにはちょっと足りない。番頭ぐらい?」
「おお、でも結構えらいだな! 人間でその若さのくせに!」
なんだか嬉しそうだ。
「ドラゴンパレスに軍人が転げ込むなんていつ以来じゃろうな?」
ライラがニヤニヤしながら呟いて俺は震え上がった。
軍隊関係者が調査と称してドラゴンパレスに不用意に踏み込んで、ドラゴンを怒らせて近くの村が灰になった……という例は結構あるらしい。
伝聞なので理由まではよくわからないが、もしかして俺もここでむしゃむしゃ食われた上でオフィクレードあたりを破壊される理由になったりするんだろうか。
「ほ、別に怯えんでも良い。ちょうど良い話の種が転がり込んできたと思っただけじゃ、どうもせんわ」
「……ほっ」
胸を撫で下ろす。
とりあえず落ち着いたところで話の続き。
「そっちの子は? ライラ……さんの娘……じゃないよな」
「我が経産婦に見えるのかえ」
「……すんませんドラゴン見るの初めてなんでワカリマセン」
「近くのドワーフコロニーに住んでいる娘じゃ。我の友人じゃの」
「ジャンヌ・クラックスだ。よろしくだよ、十人長」
俺が十人長という中途半端に偉い軍人だというのがいたく気に入ったらしく、ドワーフ娘のジャンヌは元気よく手を出してきた。
握る。
振られる。
「うおおお!?」
体ごと振り回された。
「……ひ弱だな十人長」
「お、俺は斬りあい殴りあいは滅多にしない部署なの!」
「男ならもっと腕力つけるだよ。そんなんじゃ嫁のなり手がいないだよ」
「…………」
一応三人ほどいるけど、とりあえず黙っておくことにする。話がややこしくなるだけだし。
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