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牛オーガたちのパーティーは夜半を過ぎてもまだまだ続くようなので、俺たちは先に休ませてもらうことにした。
今は空家になっている岩窟家屋の一室。牛オーガの身体に合わせてなお狭くないそのベッドは、人間の俺にはキングサイズのふた回り上という感じだ。
セレンたちはその住居のさらに二階部分でひとまとめ。アホみたいに大きい寝床なのでそれでも不自由はないだろうが、一人で一部屋占有していることがちょっとだけ申し訳ない。
「しかし、あのアイザックがなぁ……」
正直なところ、アイザックも普通にただのモテない奴だと思っていた。
しかしモテないだけで30まで童貞通さなくても、実際こういう田舎では嫁のなり手が足りないということはない。
あまり先祖代々の土地を離れて引っ越す発想が一般にないのだ。特にセレスタは地方色が強く、自分のいた地方から一歩出ると常識が通用しなかったり、余所者として社会に入り込めない場合が多い。
そのため都会に憧れはしても都会に転居する女の子の例は少ないので、必然的に田舎には女が余る。対して男は戦争などで減りがちなので、絶対数だけで言えば選り取りみどりになるのだ。
「……俺もうかうかしてられないな」
あんまりボヤボヤしていたら、いつの間にか俺たちの知らないうちにアップルが目を覚まして、その場にいたどうでもいい男と恋に落ちてしまう事だって考えられる。
スケベ小僧がスケベ根性を出したくらいで愛と思ってしまう、愛してしまうアップルだ。傍にいない俺のことなんか忘れてしまってもおかしくないし、文句も言えない。
「アップルばかりじゃない……セレンやディアーネさんだってそうか」
二人とも熱病のように俺に好意を寄せてくれているが、俺があまりに不甲斐なければフッと醒めて、離れていってしまうこともきっとないわけではない。
人と人との関係は、いくら磐石に見えても、いくらどんな神に誓っても、未来永劫絶対確実は有り得ない。アイザックの母上が言っていたように、彼女らに惚れて、本気で奪い取りに来る誰かが出てこないなんてどうして言えるだろう?
セレンもディアーネさんも美貌は一級品で気立てもよく、ディアーネさんに至っては政治的にも軍事的にも人に頼られるほどの伝説的人物なのだ。
彼女らをそれでも繋ぎ止めておくには、俺の力はあまりに小さい。小さすぎる。ないと言っていいぐらいだ。
「……無理かも」
どんどん気分が暗くなっていく。セレンが来てから自分がどれだけ調子に乗っていたか、都合のいいことばかり考えていたか実感する。
女は取られることもある、という事実はそれだけ重たかった。
と。
「……?」
なんだか自分の身体にかかっていた毛布が、俺の動きに反して少し動いた気がした。
「な、なんだ……?」
広い寝床の上を後ずさる。こんな巨大な家屋の中、自分が小さくなった錯覚が続いているので、もしかしたら巨大な虫か巨大ネズミでも現れて俺を狙っているのでは、と思ってしまった。
しかし、俺の毛布をもそもそと突き抜けて現れる、小さな頭と長い耳。
「セレン!?」
「しーっ。アンゼロスさんとディアーネさんが起きちゃいます」
セレンは悪戯っぽくニコリと笑う。
月明かりがくりぬいた窓から差し込んで、その笑顔を彩る。それがあまりに魅力的でドキドキしながら、その一方で胃の下にグッと溜まる重さを感じていた。
こんなにステキな、俺の、俺だけの物のはずの笑顔は。
本当はそんなことなくて、何の力もない俺から、いつか誰かが奪っていくべき物で。
そうなっても何もおかしくない。ただそれだけの、可能性の話なのに、想像しただけで呼吸を絞る。それが魅力的であればあるほどに、惨めな気分になってしまう。
「……セレン」
「はい」
「お前、俺の雌奴隷……だっけか」
「はいっ♪」
「……うん」
「?」
曖昧に俯いた俺をセレンが不思議そうに覗き込む。
そう、雌奴隷。俺に対して、とても都合のいい女。
だから切ない。俺と彼女の間には、俺の欲望と、それに答えて与えようという彼女の慈愛以外何もない。それは彼女が悪いんじゃない。それ以外の何も出せない、求められない俺が悪いのに、やるせなくて彼女をまともに見られなかった。
「ふ」
そんな俺の頭の上で、何故か勝ち誇ったような微かな息が聞こえた。
「顔を見せただけでアンディの意気を下げるとは。私の方に分があると考えるべきかな?」
「う、うわ、いつの間に?」
ディアーネさんだった。スケスケの踊り子のような薄布を着て、俺を妖艶に見下ろしている。
「しー。アンゼロスが起きたら厄介だ」
こちらもまた、いたずらっぽく唇に指を当てる。やたら魅力的に。
「な、なんて恰好……」
「なに、久々のチャンスにお前を悩殺するためだ。オフィクレードの市場でいい薄布が売っていたのでな、お前たちが呑みにいっている隙に作った。どうだ、いつものマッパより燃えるだろう?」
この人は本当に、今、死地に向かっている途中だという事を忘れていないだろうか。
「むー。こ、今夜は私が先に来たんですよぅ」
「それでアンディを萎えさせているのだから世話はない。アンディも今夜は私の気分だということだろう」
「そ、そんなっ……」
二人の間で何やら無用の誤解が既成事実にされそうなので、慌てて割って入る。
「い、いや、萎えたとかそういうわけじゃなくて」
「?」
「?」
「その……二人が、やっぱり俺に釣り合わないくらい魅力的なのが、ちょっと悲しくなって。やっぱり、アイザックみたいに取られちゃうのかなとか……」
「アンディ」
全然隠せていない薄布の向こうでおっぱいを揺らしながら、ディアーネさんが上から顔を近づけた。怒った顔だった。
「……愚かだな、お前は」
溜め息をつくディアーネさん。
「いいか。確かに心変わりを疑い出したらキリがない。何もかも儚いさ。それが怖いと思ってしまえば、人を信じたくなくなる」
一息。
「だけどな……変わらないものが変わらないことに、なんの価値がある」
「え?」
「変わるはずのものが変わることに、なんの喜びがある」
少しだけ優しい目になって、ディアーネさんは膝をつき、俺を後ろから抱き締めた。おっぱいが柔らかく俺の背に密着する。
「私は、私の心が変わらないことに喜びを感じる。お前を好きだという気持ちが全く変わらないことは、お前に伝えれば喜んでもらえるほどに価値のあることだと思っている」
「…………」
「好きにならないかもしれない、出会うことさえ出来なかったかもしれない私たちは、今愛し合い、永久に愛し合い続けたいと思っている。この思いは、十年先、百年先まで待っても二度とは手に入らないかもしれない」
「そんな……」
「……私たちエルフの時間は長いよ。その全てを覆うことのできる心も、約束も、そうはない。だから私は永遠も未来も興味はない。今お前を愛する気持ちだけを最高の価値だと思う。お前は、そうは思ってくれないのか?」
「…………」
スケールが大き過ぎて、即答は出来なかった。
ただ、千数百年の未来全てさえ問題にしないほど愛してると言い切るディアーネさんが嘘をついていないことだけは実感できた。
そして、その愛に引き込まれそうになって──
「わ、私だって……私だって、最初から全部アンディさんに捧げてますっ!」
悲鳴に近いセレンの声に、我に返る。
セレンは半泣きで服を乱暴に脱ぎ捨て、俺の下半身に絡み付こうとしていた。
「私は……私は、アンディさんに愛されたい……アンディさんにありとあらゆる場所を犯されたい、毎日毎晩絶え間なく、アンディさんに自分の物だって印をつけられて過ごしたいですっ……身体の隅々までアンディさんの欲望に満たされたい、正真正銘疑いなくアンディさん専用の、アンディさんだけのものでいたいんです」
セレンはディアーネさんの壮大な愛に対抗するように、本能で愛を語る。
卑猥な言葉で切羽詰まったように、自分の中から溢れ出す衝動を語る。
「だから……だから、こうしてっ……!」
そそり立ったちんこに、震えながら跨り、身を任せていく。
奥の奥まで俺のちんこを飲み込んで、愛しげに子宮口に迎えながら、ぐいぐいと腰を動かしていく。
「こうして、あなたに……教えてる……骨の髄まで教え込んでる、教え込まれてる……私、こうするためのモノなんだって……!!」
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ……と。
俺の胸に手をつきながら、ほんの微妙な腰の動き。ひたすら俺の上で、前後に腰を揺らすだけ。
しかし、その切なげな視線と動きで意味はわかる。一番奥から逃がしたくないのだ。出来ることなら奥底でぴったりくっついたまま、射精を続けて欲しいと願っているのだった。
その本能も、やはりまごうことなく本物の愛情で、劣情で。
「ん、んッ……こ、こう、してる、時が……一番……! 私、こうしてるだけでいい……本当にあなたの肉便器でいいからっ……だから、私を見捨てないで……私をもっと犯して、貪ってぇっ……!!」
微妙で、激しさなど欠片もない刺激にも関わらず、胸の芯から揺さぶるような声に当てられて、射精欲求が駆け上がる。
そして、我慢できずに射精。
「はぁぁっ……ああ、あっ……♪」
それを心底から嬉しそうに受け止めるセレン。女として、生き物としての至福をその顔で表現する。
「……むぅ」
それを面白くなさそうにして見ていたディアーネさんは、ビクビク震えて余韻に浸るセレンをえいやっと引っこ抜いて横によける。
「ぁ、あんっ……!」
「わ、私だってそれくらいお前に欲情してる! 欲情して欲しい! 私は……に、肉便器、とまでは言わないが……」
あってもなくても変わらない布を持ち上げて、むくれた顔で腰をおろしていくディアーネさん。
「……い、言わないが……いや、言っても、いいけど……っ! それくらい構わない、お前に愛してもらえるなら、便器でも……っ!!」
そして、自分で腰を動かし、亀頭に奥を突き上げられるごとに勝手に妥協を広げていく。
「私だって、奴隷でも、便器でも、いいんだ……!! どの穴だってくれてやる、お前がそれで幸せなら私も幸せになれる……んんっ、で、でもっ……お前は、私に、頼りたそうだから……便器に頼りたくないだろ……?」
「で、ディアーネさん……!」
ぐちゅ、ぐちゅ、と腰がストロークするたびに布が舞い上がって風を残す。
下品極まりない行為のはずなのに、そのゆるゆるとした動きのフォローが、この人の高貴さを残して感じさせていた。
「それでいいなら、私もいい……いいんだっ……だから、お前の色に染めて……っ! お前だけの、ディアーネに変えて、お前以外の誰を幻滅させてもいいんだ、だからっ……!!」
「そんな、ことっ……!!」
そして、ディアーネさんの中にも射精する。
「……むー」
その余韻に震えるディアーネさんを押しのけて、セレンは俺のちんこを口に含もうとする。
「す、少しくらい待たんかっ……」
「私も待って欲しかったですーっ」
「そ、それにそのザーメンは私が絞ったものだぞ」
「早い者勝ちですよっ」
「く……それならっ!」
俺の上で、ハーフエルフとダークエルフが争って汚れた怒張を舐めようとする。
……ああ、身勝手だけれど。
俺はやっぱり、この二人のどちらも、誰にも渡したくないと思った。
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