セレスタでも北限の町といえるバッソンから南東部の森林領に行くには、直線距離だと馬車で一ヶ月ほどの道のりになる。
が、直線では行けない。セレスタ中部から西部にかけて横断するようにセレスタのシンボルともいえるラッセル砂漠が広がっているのだ。
この砂漠を越えて南に至るルートは二つ。越えるといっても迂回路なのだが、やや西に流れる大アルモニカ河を舟で下るルートと、東の砂漠端を大回りするルートだ。
大アルモニカ河のルートはそのまま海に出る。砂漠端から下るのには三日ほど、海に出てさらに海岸を一週間進むと首都につく。ここからオアシス沿いに森林領に行くと……まあ合計で大体7週間。
東の砂漠端を大回りするとこちらも大体7週間。
ぶっちゃけどちらもアリだ。
ただ、オアシス地帯に比べて東の砂漠端は細かく宿場町が続いており、昼夜連続で馬車を乗り換える「高速乗り継ぎ」が可能になる。
夜行馬車は盗賊に狙われやすく、屈強な護衛を揃えるため運賃は割高だ。しかし本来7週間を倍速近く、4週間弱で踏破できるのはとても強い。
ディアーネさん率いる俺たち一行は、そこを進むべく、まずは一番近い砂漠端に向けて進んでいた。
「アイザックが邪魔……」
ディアーネさんがぽつりと呟いた。
言われたアイザックはビクッとしてディアーネさんを見る。
ディアーネさんは馬車の端っこの席で外を眺めながら、不機嫌そうな顔をしていた。
「……ひゃ、百人長? 俺、その……邪魔、ですか?」
アイザックがキョドるのも無理はない。邪魔と言われても馬車の中、降りるわけにもいかない。そりゃ困るだろう。
俺たちの乗る馬車はオーガも乗れるセレスタ特有の巨大馬車である。馬5頭引き。車内空間はかなり広く、オーガ抜きなら人が50人は乗れる。
これだけ広いと牛オーガのアイザックといえど別段邪魔というほどのものでもない。それなのにディアーネさんがそんなことを呟く理由は多分、余人にわかるものではない。
「…………むー、アイザックも里帰りするなら一便ずらせばよかった」
「い、いや、だから何故ですか。俺そんな百人長に嫌われることしてますか?」
「してないけどしてる」
「……?」
不可解な答えに首を傾げるアイザック。可哀相なので助け舟を出す。
「そんな日もある」
「……そ、そうか、そんな日か」
「そんな日だ」
女性特有の日だと納得させてみた。
が、ディアーネさんは無視。アンゼロスはジト目で俺を睨み、セレンは……。
「溜まってるんですよ」
もっとぶっちゃけやがった。
「……なあセレンちゃん。おじさんな、もっと女の子は慎むべきだと思うんだ」
アイザックがどっかで聞いたようなことをセレンに言う。セレンはきょとんとしている。
「大体俺が邪魔ならスマイソンだって、なぁ?」
「……ははは」
同意を求められても困る。
ディアーネさんのイライラの原因は、俺とセレンとディアーネさんだけはわかっている。まあ単に欲求不満だ。
アンゼロスとセレンだけなら、堂々と言っておけば二人とも聞こえない振りをしてくれるので、ディアーネさんは宿場ごとに俺とエッチを楽しむことだってできる。
しかしアイザックがいると、よほど注意してかからないとアイザックに隠し通すことは不可能だ。
あまり不必要に俺とディアーネさんの肉体関係を広めたくない、という(主に俺の)意向によって、アイザックがいる間はお互い我慢ということになっている。
が、そろそろディアーネさんが「バレてもいいから抱け」とか言い出しそうで怖い気配だ。
こないだの大臣との件の時は、口止めできる程度の若い兵士しかいなかったのでなんとかなったが、アイザックは十人長で俺より年上、先任だ。
口止めは利かず、隊に一気に知れ渡り、俺はセレンとアンゼロスに続いて隊のヒロインを独占する不届き者として過労死ギリギリのイジメを受けることは想像に難くない。
俺はまだ死にたくない。適当に笑って隠す。
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