最近のクロスボウ隊の行軍訓練は野草探しもついでに行っている。
 ちょっとした怪我を治せるセレンの医療光術だが、薬草サラダがないとセレンの消耗が激しくてすぐにネタ切れになってしまう。
 その薬草探しがちょっとした自主訓練代わりになっているのだ。
 もともとクロスボウ隊は暇なので、それくらいの余裕はある。
「おーい、セレンちゃーん」
「はーい♪」
「これでいい? これでいい?」
「えっと……こっちのは渋いばっかりで栄養はイマイチですね。似てるけど茎が赤いのは避けて下さい。あ、このキノコおいしそう」
「オラもいろいろ見つけてきただよ」
「あ、すごい、さすが。ドワーフ族って本当にキノコ取りに強いんですね」
「うへへ、それほどでもねえだ」
 隊のみんなが次々に隊舎に戻ってきて、戦利品をセレンの元に置いていく。
 本当は医療光術の足しのはずなのに、誰も治療を頼んでいかない。いつの間にか「公然と渡せる貢ぎ物」みたいになっている。
 まあセレンの美貌と人当たりのよさを考えると、隊のアイドルになるのは必然的ではあるんだけど、なんだかちょっとばかりモヤモヤするのは多分俺の度量が狭すぎるんだろう。
「……うぁつっ」
 そんな邪念が手元を狂わせたのか、焼きゴテで指先を火傷してしまう。
「ちぇー……こんなミスいつ以来だよ」
 自分の駄目っぷりに少し落ち込んでしまう。
「どうしたスマイソン……って、火傷か」
「百人長」
「なに、ちょっと貸してみろ」
 俺のちょっと赤くなった指先を、ディアーネ百人長の唇がひょいぱくっと躊躇なく咥えてしまう。
「う、わっ……よ、汚れてますよ」
「お前の身体なら何で汚れていても舐め取ってやるが?」
「……ぅ」
「……ったく、盛んな奴め」
 ディアーネさんが俺の邪念を察してか、苦笑。
 ひと気のないところに行こうか、と囁いたところでセレンが駆け寄ってきた。
「あーっ、アンディさんってば、怪我したら私に言ってくださいって言ってるじゃないですかっ!」
「ふむ。残念だったな。もう私が舐めて治した」
「な、治ってませんよっ! まだ赤いじゃないですか」
「すぐによくなる。私の部下愛とまじないが効いているからな」
「うーっ……」
 言われてみるとディアーネさんに舐められたところは、少なくともヒリヒリは収まりかけている。
「百人長も医療光術使えるんですか?」
「いや、私のはもっと原始的な奴だ。自然回復をちょっと早める」
「……そんなのもあるんですか」
「まあ、所詮自然回復の延長だから、ちょちょいと傷を消すとかはできないんだがな。私たちのコロニーではそういう系統しか伝わっていなかった」
「魔法も色々あるんですね……」
「研究すると楽しいぞ? どうだ、今度個人的に教えてやろうか」
 ディアーネさんはグッと顔を寄せてきて、ボソボソと小声での囁きに変える。
『実はウチの一族の秘伝に、セックス中に使う魔法があってな。一回でジョッキ一杯くらい射精できるようになるのがあるんだ。お前が使うなら喜んで相手するぞ』
「……俺人間なんですが」
「なあに、人間族でも五十人に一人くらいはエルフ並みに使える奴がいる。もしかしたらお前も芽が出るかもしれない」
「ジョッキ一杯のザーメン出すために魔法修行……」
 かなりしょうもない。
 ……でも一回ぐらいはそんな射精してみたいかもしれない。
「むー。……あ、アンディさんっ、私なら二杯でも三杯でも受け止めますからねっ!」
「いやそういう問題じゃ……」
 そんな変な話題で盛り上がっている俺たちのところへ、苦い顔をしながらがっしゃがっしゃとアンゼロスが近づいてきた。
「せめて昼間は下ネタは控えてくれセレン。それにスマイソンも」
「濡れ衣だ! 振ってきたのは百人長だぞ」
「……百人長、あなたまさかスマイソンに……」
「うむ。私の魅力を全面的にわからせるつもりだ。励ましてくれてありがとう」
 アンゼロスは驚愕に目を見開いた。
 ……そういえばアンゼロスはディアーネさんと俺の関係知らないんだっけ。主に風呂で進展してたし。
「スマイソン。僕は君をもう少しだけ真面目な男だと……」
「俺はいつでも大真面目だぞ。ちょっとスケベなだけだ」
「倫理的に真面目な奴だと思ってたんだっ!」
 なんだか涙目のアンゼロスか大声を出してぜーはーと息を整える。
「……そうじゃなかった、こんなことを言いに来たんじゃなくて」
 それから思い出したように姿勢を正し、ディアーネさんに向き直って胸に拳をつける敬礼をした。
「ディアーネ百人長。飛龍便でお客様です」
「ん?」
 ディアーネさんは怪訝な顔をする。
 そして壁にかかっているウッドパネルの暦表を眺め、少し口元に手を当てて考え込み、ぽんと手を打った。
「……そんな季節か」
「そんな季節です」
「……やれやれ、わかった。今年からはもう返事も決まってるんだがなぁ」
 面倒そうにディアーネさんが立ち上がる。
 立ち去る前に俺の頬にキスを残して、心持ち背筋を伸ばして出て行った。
「……スマイソン。言っておくが、いくら百人長とセレンがお前になびいたからって『ハーフやダークエルフなんてチョロい』とか思ったりするなよ。確かにそういう輩もいることはいるが」
「はいはいアンゼロスさんは無関係ですよね。わかってます、私だけでもアンディさんのおちんちん乾かさない生活させてあげますよーだ」
「お、おち……は、破廉恥なっ!」
 アンゼロスは真っ赤になって逃げるように出て行った。
「なあセレン」
「はい?」
「お前にプレゼントしようかと思ったけど、約束してくれなきゃあげないことにした」
「?」
「あんまり下ネタを昼間っから使うな。ちょっと気まずい」
 というか、お兄さん女の子はもうちょっと慎み深くあるべきだと思うんだ。
「はぁい」
「……よし、じゃあこれ」
 さっきから作っていたものをセレンに着けてやる。
「……わあ」
「お前専用な」
「う、嬉しいですっ……!!」
 新品の首輪。昔ヘッドギア用に注文した砂漠トカゲの革があったので新しく作ってみた。
 肌触りと頑丈さを兼ね備えた高級革で、子供の頃作った首輪より付け心地よく長持ちだ。
 アップル用の首輪は返してもらったので、いずれアップルが目覚めた時にまた付けてあげることにしよう。

 ……こんなのがトップクラスの愛情表現って我ながらどうかと思うけど。


次へ
目次へ