「ぬなななななっ、な、な、なっ」
俺の顔を見た途端、そのエルフらしき女の子はじゅわーっと真っ赤になった。
池の中を数歩ばしゃばしゃとあとずさり、滑ってコケそうになって全力で両手片足振り回す。
「お、おい落ち着け」
俺の顔を見て。
否、見ているのは顔じゃない。
よく視線を辿ると顔じゃなくって。
「あっ」
「やんっ」
セレンがちんこ咥え込んだままの股間部分だった。
「こ、この、このっ……破廉恥スマイソンーーっ!!」
彼女はその辺にあった木の棒を掴み、錯乱したまま空中に飛び上がって、体の軸とか無視した乱暴な動きでくるっと縦に一回転。
そのまま木の棒を水面に叩きつける。
ばしゃん! ……ざばーーーっ!!
「うおおおおおっ!?」
叩きつけた木の棒の切っ先が起こした水柱と別に、その水柱を割るようにして、巨人が指で水面を引っ掻いているような直進する水柱が発生。
5mは離れた俺達の方に伸びてくる。
慌てて起き上がった俺とセレンは、ちんこを強引に引っこ抜きながら水柱から退避。それでも風圧でちょっと余計に吹っ飛ばされた。
「よけるなーーっ!!」
「よけるわっ! つーかお前アンゼロスかっ!?」
剣技みたいな変な大技をやらかしてようやく確信した。こいつはアンゼロスだ。
「僕が他の誰に……」
長い髪の全裸美少女エルフは、ぱさっと広がる自分の髪と、真っ向から晒した自分の体を今更のように確認して数秒沈黙。
「……○$*□@△→▼&%i!?」
更に錯乱して声にならない叫びを上げつつ、棒っきれを直で投げつけてきた。
ぶんぶんぶんごんっ。
「おぐっ」
「アンディさんっ!?」
くるくる回りながらこめかみに思いっきりヒット。凄く痛い。
「……この破廉恥男。破廉恥男。破廉恥男。破廉恥男」
お互い下着程度の服を着てようやくちょっと冷静に向き合う。
いや、ちゃんと服着たかったけど血糊べっとりを纏うのもアレだし。
その事情はアンゼロスも同じで、いつも着ている鎧下は水滴をぽたぽた垂らしながら木の枝に垂れ下がっている。
そして下着の上に血みどろ胸鎧を直で着ている、とてもマニアックな状態だった。
「お前本当に女だったんだな」
「破廉恥男。破廉恥男。破廉恥男っ」
「会話しろよ!」
「ふんっ!」
アンゼロスはなんだかスネていた。こっちから微妙に視線を逸らしつつ真面目に取り合ってくれない。
それを見て、例によって下着姿のセレンが食って掛かった。
「破廉恥なのはあなただって同じでしょう」
「……違う」
「男の子の振りして男の子に混じって! 今までずっとやらしい目でアンディさんたちの無防備な恰好見てたんでしょう!?」
「なっ……ち、違うっ!!」
斬新な見地の非難だったが、アンゼロスはどもる。
……どもるなよ。
「アンディさんは正々堂々合意の上でえっちなことしてるんですよ!? 盗み見てたアンゼロスさんの方がずっと破廉恥ですっ!」
「うぐぐ」
「いやいやいやちょっと待てちょっと待て」
流石にセレンの超理論にはツッコまざるを得ない。
というか別にどっちがより破廉恥かなんてどうでもいいことだし。
「それよりなんで男装なんかしてるんだ」
「…………」
さっきまで長く広がっていた髪は、こうして鎧を着ると目立たない。ひっ詰めて縛り、ロープ束のように丸くまとめて鎧の下に入れているのだった。
そしてぶかぶかの鎧は体つきを隠す。
隠すといったって肩幅や胸が目立たない程度だが、それでも実際誰も気づいていなかったのだから立派な男装といえるだろう。
「僕はトロットの王都出身だ」
「……うん」
目を逸らしながら、チンガードプレートに口元を埋めて、いつものようにくぐもった声で語りだす。
「トロットではハーフエルフ差別が強いのは知っているだろう」
「ああ」
「だけど子供の頃、僕は剣聖になりたかった」
次へ
目次へ