ポルカの町は常に数頭のブルードラゴンが滞在しており、アンディ・スマイソンの命令によって過度の武力から守られている。
アンディ個人の意向としては友好関係による依頼となっているが、ドラゴンたちの立場としてはそうではない。それはアンディによる穏やかな「命令」として認識され、最終的にはアンディの雌奴隷と血縁者を他から守り切ることを至上命題として共有している。
ドラゴンは人間やエルフたちのなんとなくの共同体をそれほど信用していない。
常に分裂や悪意による崩壊を念頭に置いている。
だからアンディ個人を序列筆頭として、明確に順位付けされた優先度に従って守る相手を決めている。
今のところポルカの全体はアンディに対して排撃する意思はないからこそ、大まかに守られている。
もしもそういった動きがあれば、アンディの味方と敵を峻別し、冷徹な意志を以てドラゴンたちの力は振るわれるだろう。
デュラン・グート男爵を長とし、アンディをふんわりと取り巻く地域社会を柔軟に守っている……と見せかけて、彼らは結局のところ、そういう判断基準を明確に規定し、共有していた。
今後、アンディに向かう感情の流れが悪くなることがあれば、ポルカはスマイソン家と雌奴隷たちを残し、滅びることになるだろう。町民たちやアンディが思っているよりだいぶ冷たい状態で、ポルカは今も繁栄しているのだった。
そんな中で、ブルードラゴンたちが密かに気を回し続けているのがレッドドラゴンの少年サフル、そしてそのパートナーであるエルフのリカ。
外国人や北方エルフ、世間知らずの猫獣人など、判断を要する不確定要素は多くあるものの、一番難しいのが同族であるドラゴンの彼だった。
何しろドラゴン同士なら大半共有している「力」に対する感性が欠落している。ドラゴンの暴力が他種族をどれだけ乱すことになるか、ほとんど意識していない。
いくら幼いとは言ってもそういうケースはなかなかありえないことで、サフルが問題行動を起こした場合はまず「町民」の側をアンディの身内と見立てて守り、サフルを罰した後にアンディに了解を取り、彼を本来の教育責任者であるドラゴンパレスへと強引に送還する手はずになっている。
そのパレスの捜索に何か月、何年かかるとしても、ブルードラゴンたちは粛々と遂行する決意を固めている。
そのために連れ合いのエルフがどれだけ悲しみ、反抗することになろうと、それは問題ではない。盟主であるアンディとの直接的関係も持たず、ドラゴンライダーとしての正式な格も持たない者は、ドラゴンにとっては「その他」の存在であり、配慮するに値しない。
そんな冷厳な目で監視されていることに、本人たちはどれだけ気付いているだろうか。
全く理解していないかもしれない。
だとしても、マイア以外のブルードラゴンたちは自分たちをシステムとして規定し、対応すべき時を待ち続けている。
ポルカの平和は、危ういバランスで保たれていた。
「この街のドラゴンたちって優しいけど、やっぱりちょっと冷てえなーって思うことあるんだよな」
「駄目だよサフル君。そういうこと言うの。聞こえてるかもしれないんでしょ?」
「文句があるなら言いに来るだろ。そしたら誤解だったって言うよ」
サフルは夏のポルカの郊外をリカと一緒に散歩している。
リカはエルフ族でありながら冒険家であり、常に旅をする生活をしている変わり種だ。
本来エルフは地縁を何より重視し、その長い人生を特定の土地を守り続けることに費やす。遠くを見ようという好奇心は、その長い寿命ゆえの衝動の低さ、言ってしまえば何でも「今である必要がない」と考えてしまう時間感覚の鈍さによって打ち消されがちだ。
リカはエルフとしてはまだ未成熟ともいえる60歳という年齢もあるが、特に短命種的な衝動の強さは格別の素養だった。
自分の出身地が滅ぼされたために漂泊を余儀なくされるエルフもいるが、リカはそうではない。ただただ周囲と違う新鮮な感性を持ち、世界のさまざまな文化を見て味わいたいという気持ちが抑えきれずに冒険家となった。そのために同じく「浮いた」感性の持ち主であるサフルと気が合う。
「あいつらは人間……っていうか俺とかエルフとかも含めてだけどさ、絶対に相談には乗ろうとしないんだよな。ドラゴンなんだから他人にアドバイスできることっていっぱいあると思うし、大した労力でもなく手を貸せることって多いと思うんだけど」
「んー……でも、そういうのって本当に冷たいかなあ」
「ちょっと冷たい、って言ってるだけだよ。俺だってそんなにあいつらに頼りたいって思うわけじゃないんだ。ただ、そういう距離感が、なんか、仲間じゃねえなって思えてさ」
「でもドラゴンって、ちょっとしたつもりで出来ることが多すぎるよ。誰にでもいい顔してたら、悪い人が利用して大変なことになるかも」
「馬鹿じゃねえってんなら、そういう判断も自分でやるもんだと思うんだよな。……他の奴らを腹の中で馬鹿にしておきながら、絶対に責任だけは持ちたくないっていう感じがちょっとするんだ」
「それはちょっと……サフル君も被害妄想だと思うよ。それにサフル君がそう思うなら、サフル君が優しいドラゴンになったらいいと思わない?」
「……そうなんだけどさ。俺、チビだから結局みんなチビとして扱うんだよな。ここの連中はあのマイアとかで麻痺してるみたいで、俺がドラゴンだってわかっててもなんかちょっと侮ってかかってくるし」
「それはしょうがないよ。まだまだ人生長いんだから、ゆっくり大人になったらいいじゃない」
「……もう40過ぎなんだけどな」
サフルは人間の両親から隔世遺伝で生まれたので、既に実父と実母は老いている。人間的な人生感覚がどうも引っかかってしまう。
ドラゴンはエルフと違って幼年期が人間並みの早さというわけではなく、相応に成長も遅かったのだが、体のサイズは赤ん坊のまま知能だけは同い年以上、その運動能力は獣人並みだったサフルは、幼少時たいそう気味悪がられていたりする。
ただ、自意識そのものは早くに育っても、結局周りの扱いは外見相応が基本になっていたため、結局人間の40代ほどには精神性の熟成は進んでいなかった。
自分の姿が若く、周りの扱いも子供に対するものであるなら、結局は甘えてしまうし、体の衰えによる感性摩耗もない。子供を持つこともなければ親の責任感も持てはしない。
サフルが外見相応の精神性なのは仕方のないことだった。
だからこそ逆に背伸びもしてしまうし、甘え含みの早とちりもする。
「早く俺も一人前になりてえなー。……俺がちゃんと認められれば、リカだってドラゴンライダーってんで、あのアンディと同じくらいドラゴンたちに尊重されるんだけどな」
「私はそういうの望まないよ。サフル君や他のドラゴンの力で何かをしたいっていうのはないし、スマイソンさんみたいに色々やらなきゃいけなくなったら、旅なんて楽しめなくなっちゃう」
「あいつはあいつで何してても楽しそうなんだけどな。……っていうか」
サフルは顔を赤くする。
今現在も、アンディはどこかから新しい美女を連れてきては、何人も裸で侍らせ、ともすればセックスに励んでいる。
ドラゴンの鋭い感覚をもってすれば、ポルカにいる限りはどこでやらかしていても聞こえてしまうのだ。
サフルの感覚の強さを知っていて、さらにアンディの女性関係のことも聞き知っているリカは、サフルの反応からだいたい察してしまった。
「あ、あー……」
「……あいつの話はよそうか」
「……でも、ポルカにいるとあの人のことタブーにもできないよね……」
「…………本っ当にワイセツ野郎なのが玉に瑕だよな。一応あれで結構大物なのは事実なんだけど」
サフルはアンディを認めてはいる。ラパールでの戦いも、カールウィンでの決戦にも立ち会った。
だが、未だにアンディが手当たり次第に女たちと情事に耽ることには色々納得できていない。
女性関係に関する理解もまた、知識はあるものの感覚は子供並みなので共感できなかったし、女たちが次々に股を開いて従う気になることも、権力の形としては納得できても、男女愛としては理解できなかった。
そんなサフルの色々な意味で「らしい」態度に、リカは苦笑してしまう。
「サフル君って、いつもスマイソンさんのそういうの聞いてるの?」
「いつもって……まあ、そりゃあいつ、ポルカにいるとホントいつもヤッてるから聞こえて来るけど……それは仕方なくて……」
サフルはしどろもどろになる。いつもアンディの情事を気にして聞き耳を立てるスケベな奴と思われたくないのだった。
そんなサフルの姿にリカは笑みが止まらない。
ドラゴンとしては若すぎるものの、常人にとっては充分に頼もしい彼が、それでも人間体の時は見た目相応に子供らしく、エッチなことに戸惑う姿は愛おしくもかわいらしい。
そして、そんな彼が小さな股間を膨らませながら、あと何年ウブな反応をする「子供」でいなくてはならないのか、と思うと、少しモヤッとした気分になる。
エルフたちは人間並みの期間で大人になり、生殖可能になる。しかしドラゴンはそれよりずっと遠い。不憫だ。
そして、こんなサフルに最初の快楽を教えるのは誰なのか、というところに思い至ってしまい……それがともすれば知らない誰かであるかもしれない、ということに焦りを感じてしまう。
リカは自分を救ってくれたサフルに恩義も感じているし、頼っているし、親しいつもりでもいる。だがあくまで今は「近所のお姉ちゃん」のような……仲のいい親戚のような距離感だ。
サフルは自分の性欲を自覚した時、リカに解消することを相談してくれるだろうか。
わからない。彼はポルカで同族を含め、たくさんの魅力的な女と知り合うことになった。
その多くはアンディの「持ち物」だとはいえ、サフルが彼女たちの誰かで済ませようとする……そんな流れがありえないと言えるだろうか。
そう思うと、笑みの裏でも胸が苦しくなり、焦りが生まれる。
軽蔑されるだろうか、と思いながらも、衝動のままに……非道徳的な言葉を、サフルに囁いてしまう。
「ねえ、サフル君。……スマイソンさんたちがどういうことしてるのか、興味、ない?」
「え……?」
そんなにも。
アンディがそんなにもひっきりなしに「している」のなら、許されるのではないか。
このポルカなら。自分とサフルなら。……今なら。
麻薬の爪跡に怯えた、病み上がりの今の自分なら。
サフルの温もりを求めても……そういう名目で、サフルに快楽を与えても。
許されるのではないか。
「……してみる?」
耳元で囁く。
サフルは息を呑む。リカは少年に快楽を教えるという禁忌を犯す背徳に小さく震えながら、我が身が甘く疼くのを感じる。
夏空の草原で、サフルが寝転ぶ。
下半身は脱がしてしまい、そこにあるのはまだ毛も生えていない少年らしいおちんちん。
逸物、肉棒、怒張などという気取った言葉ではなく、「おちんちん」と呼ぶのが相応しく思える、指よりいくぶん太いだけの可愛らしい排尿管。
リカはサフルのそれを手に取り、優しくしごく。慣れてなどいない。ただ60年も生きていれば、知識は入っているものだ。
健気なおちんちんは、少し冷たい彼女の手の中でせいいっぱいに天を衝き、緑の草むらの中で青空を指して刺激を受け入れる。
「り、リカ……リカ、俺っ……おれ……っ」
「……なぁに?」
「その……わ、笑うなよ……」
「うん。約束はできないけど……やめてっていうの以外なら聞いてあげる」
「や、やめるのだけはナシなのか……?」
「うん。……サフル君が射精してくれないと、私が変になりそうだから」
「……ど、どうして」
「わからない」
うっすらと笑みを浮かべて、リカは自分でもよくわからないことを熱に浮かされたように口にする。
なんなのだろう。サフルの愛らしさへの執着か。醜い性欲か。独占欲か。
どれと言ってもしっくりこない。ただ、サフルのおちんちんを握ってしまったその瞬間から、それに射精させずに手を離すことはあまりにも辛くてできないと思い始めてしまった。
サフルはドラゴン族らしく、エルフ以上に整った可愛らしい顔で、興奮と罪悪感、歓喜と困惑の入り混じった表情をしている。
情けなく下半身を晒して、リカに任せながら。そんな状況自体がたまらない。
「リカ……あの……おれっ……」
「なぁに……?」
「リカの……お、おっぱい……見ちゃ駄目……かな」
「……見たいの? こんな昼間に……お外で私におっぱいを出せっていうの?」
「あ、あぅ……っ」
彼の小さなおちんちんをしごきながら、リカは柔らかい口調で彼を追い詰める。
恥じ入り、いけないことを言ってしまったように目を反らすサフルが可愛らしくてたまらない。
リカはフワフワとした気持ち、ジンジンと後頭部が痺れるような興奮を感じながら、サフルのおちんちんを上下に愛で続ける。
「サフル君って変態だね……」
「……ご、ごめ……」
「……いいよ、見せてあげる」
リカは、そう囁いた時のサフルの表情を一生覚えておきたいと思う。
おちんちんが手の中でビクンと跳ねて、そして何かが手の親指にかかってくる。
「……出しちゃったの? まだおっぱい見てないのに?」
「あ……ああ……っ」
「……そーろー」
「っっ……!」
クルクルと。
歓喜、落胆、羞恥、焦燥、色々な表情をする美少年がたまらなく愛しい。
「……あと一度だけだよ」
囁き、なんのことかわからないという顔をしているサフルの前で、リカは服を脱ぐ。
ただの草原で。どこまでも続く夏の緑の真ん中で。
たった一人の、小さなおちんちんを勃起させた男の子の目を楽しませるためだけに……上半身から裸になり、そして見せつけるようにスカート、そしてパンツも脱ぎ捨て、生まれたままの姿を夏の昼間の穏やかな風に晒してみせる。
背徳に次ぐ背徳。興奮で顔が、耳が、際限なく熱く重くなる。
震える裸体をサフルに見せつけ、回って見せて……そして、サフルのおちんちんを精液に濡れた手で再びしごき始める。
「う、うあっ……あ、あっ……!」
「私の……何もかも見せてあげる……っ。見ながら、おちんちん射精して……? 妄想じゃなくて、私で……ね?」
「り、リカ……あ、ああっ……」
「変になりそうっ……なんだろう、私も……気持ちいいっ……♪」
少年の性を満たす充足感だろうか。自分の欲望をさらけ出す解放感だろうか。
ただただ、少年のおちんちんを擦り立てるだけの時間。それが、どこまでも気持ちを高ぶらせる。自ら性感帯を刺激しているかのように、リカは乳首をはしたなく充血させ、無毛の股間に除くクリトリスを勃起させる。
二人の吐息が重なり合い、少年の次の射精にどちらも頭がいっぱいになる。
視界が狭くなる。興奮で視界が紅くなる。
ハァハァと、ただただ吐息だけを二人で重ね、そして。
ビュクッ!! ビュクッ、ビュルルッ!!
「うぁぁあああ…………っっく……!!」
サフルは女の子のような高い声を出して、絶頂した。
しばらくそのまま、二人は肌を寄せ合って動かず。
そして、リカは急に自分が何をしていたのかわからなくなる。
バッと身を抱き、服をかき集め、慌てて身に纏う。
「り……リカ……?」
「あ、あの……さ、サフル、君っ……その、ごめんっ……おつかれっ」
ほんの数分前に、自分が何を思っていたのかがわからない。興奮が去った瞬間、とんでもないことをしてしまった、と思う。
快楽の余韻でまだ起き上がれないサフルを置き、リカは慌ててその場を駆け去ってしまう。
サフルは呆然とするしかなかった。
(続く)
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