子だくさん過ぎて困る……というのは田舎ではよくある話だ。
娯楽らしきものが何もないので、嫁さんとのエッチだけが日々の楽しみ。周囲も働き手や世継ぎの候補が多いに越したことはないので好きなだけ頑張らせる。
すると、あっという間に大家族ができてしまうわけだ。
特に獣人は双子三つ子が当たり前なので、何度も産んだらすぐ十人単位の家族になってしまう。
アイザックのところは嫁が獣人姉妹なもんだから、あっという間に子供が20人くらいになってしまって大変だそうだ。じゃあ控えろよ、とは俺が言えた義理じゃないけど。
実際、猫獣人組はベビーラッシュになってしまっている。
猫コロニーを含めると、俺の子供だけで200人超えてるんじゃないだろうか。元々の猫コロニーから倍増以上になっている。
本当に大丈夫なんだろうか、とアイリーナに相談したら「養いきれぬということはないじゃろう。ドラゴンもおるじゃろ」とたいへん雑なことを言われてしまった。
食料に関しては暇を持て余したブルードラゴンやシルバードラゴンたちが交代で猫コロニー付近に駐留し、魔物狩りをサポートしてくれるので問題はない。
衣料品や教育に関しても、エルフ領との直通貿易が成立しているのでどうにでも融通が利く。物のわかる歳になった子供はローリエたちが講師を務める私設のポルカ学園に迎え入れている。
猫獣人は噂通り飽きっぽくて大変、とはローリエの弁だが、各分野に数十年から数百年の経験を蓄えたエルフやドラゴンの講師陣は非常に優秀で、子猫たちの中にはなんとアイリーナに迫るほどの魔術の素質を示す子まで現れている。
まあ、アイリーナのような寿命はないから結局は及ばないのだろうとは思うけど。
「このほぼ全員が俺の子供っていうのは……変な言い方だけど実感薄い」
「別にパパが知らない子はいないよね?」
「そうなんだけどさあ。200人はなー」
「それに、これで全部じゃないよね?」
「……そうなんだよなー」
クラウディオと一緒にポルカ学園の講堂を後ろから眺めて溜め息。
もちろん物心のついていない子は学園には来ない。そしてクラウディオはまだ10歳だが、さすがヒルダさんの息子、頭の良さが飛び抜けていて、もう学園の主要な講義科目は独学してしまっていて卒業生扱い。
相変わらずおっぱいばかり追いかけているピーターとはえらい違いだ。
ちなみに学園は(みんなが暇な)冬の半年間だけの開園で、夏の間はそれぞれ故郷で過ごしている。猫ばかりじゃなくエルフ系の子や娼婦たちの産んだ子も通っているし、それ以外にもポルカ町民やグランジからも受講生が集まる。
でもまあ、こうして始業式に来るのはだいたい俺の子たちだけ。
特に猫たちはドラゴンが運んできてくれるので確実に集まるのと、教会寺院の教育事業の延長で始めたため、始業式や終業式に出て来なくても別にいいよ、というルーズな姿勢も継承しているのだった。
でもきちんと全部受けたからって何か勲章が貰えるわけでもないし、そんなもんかな。
一応メリットもあって、この学園に来ている間は宿泊料と食費は無料。そもそもにして俺の子供がほとんどなのでそうしていたら、外部の生徒もそういうことになってしまった。
まあ宿泊に関してはウチで受け持った宿屋の手伝いがてら、という形になるのが半分、ヴェイパー・パレスに泊まるのが半分だけど。もちろんパレスは俺の子供限定。
男の子には全裸パラダイスは刺激が強いので宿屋を強く勧めている。いや女の子はいいのか、という声もあるが、雌奴隷たちが「ほぼ女ばっかりなんですし大丈夫じゃないですか」というので頷いてしまった。もちろん脱衣は義務付けていない。
でも猫獣人はノリがあれなのでだいたい何のためらいもなく裸になってしまうのだけど。
今後「我が娘にえっちなことはしない」という方針を貫く上で、この状態はとてもよくない気がする。男爵やクリスティにかけあって、身内経営の宿屋をもう一軒用意するべきだろうか。
……でも宿屋経営をを大きくし過ぎると「俺が何者なのか」という問題にも絡んでくるな。
俺は鍛冶屋なんだ。スマイソン武具店の店主なんだ。そっちは相変わらずクロスボウ隊以外からはさっぱり仕事が来ないけど。
「ううむ……」
「いつも思うけどパパは変な悩みが多いね」
「変なパパだからな……すまんな」
よそのパパとあまりにも業態が違うため、長じてきた子供たちへの説明に困ることが多く、最近俺は「変なパパだから」という言い訳をよく使っている。
変なパパなのでママが多すぎても仕方ない。変なパパなので何やって稼いでるのかよくわからなくても仕方ない。
変なパパなのでもう40歳なのに15歳くらいの新入り雌奴隷をママにしてしまっても仕方ない……いやいや。さすがにそれは苦しい。
対外的にはもう昔からの雌奴隷は雌奴隷じゃなく、みんな嫁さんなのだけど、今も彼女たちはそこにはあまりこだわっていない。
大きな括りで雌奴隷という身分があり、その中で子供を産んだりある程度の貢献があったりで「一人前」と認められると嫁という対外的な称号を得る、みたいな感じになってしまっている。
そして最近も雌奴隷は時々増えている。増やすつもりはないんだけど増えてしまっている。
さすがにエレニアと同じような歳の子を孕ませるのは駄目だよなー、と思うのだが、残念ながら積極的な子を相手にいつまでも突っ張れないのは悪い癖で、ご懐妊させてしまってお祝いパーティーまで開かれてしまった。そんな俺を「変なパパだから」しょうがないよね、と納得してくれている子供たちは少ないと思う。
「できる限り自慢のパパでいたいんだけどな……変すぎて自慢のしようがないよな」
「うーん。ぼくとしては普通に自慢のパパだけど」
「クラウはいい子だな……」
ほろりとする。
しかし10歳児が、毎日毎日、ずっと素っ裸で温泉に浸かりながら数十人のママに白いおしっこ引っ掛けてる父にどう美点を見出しているのだろう。自分で考えても自慢になる点が思いつかない。
「お爺ちゃんより性欲が強いってダークエルフ的にはもう伝説だ、ってみんな言ってるし」
「待て。いやえーと。とりあえずみんなって誰と誰」
「ヒルダママとかコスモスママとかミラママとかノールママとか」
「ダークエルフ文化圏では10歳児にそこまで……!」
性教育が早すぎる。
いや、昔の俺が遅すぎたんだと思うけど。10歳の時、本番セックスが理解できなくてアップルに天然おあずけプレイしちゃってたからな。
でも堂々と10歳児に「お前のパパはセックスが強い」とかそういうのの意味を正確に教える母親ズってどうよ。あと祖父の性事情も教えちゃうってどうよ。
「少なくともタルクでは『オニキスの婿のアンディ』って言えば誰でも知ってるって」
それは名前を出したら後ろ指差されるタイプのあれじゃないだろうか。
「こうなるきっかけの部分ならともかく、そこをお前に自慢して欲しくはないなあ……まず女の子とは一対一で魅力を見つけ合って欲しい」
息子の頭をぽんぽんと撫でながら諭す。
クラウディオはエルフ系男児らしく、少女と見紛う綺麗な顔立ちをしている。髪は普通の男の子にしては少し長めなため、女装したらおそらく見破れる人間は少ないだろう。
なんだかんだで女の子は綺麗なものが好きな生き物だ。こんな美形少年が美形青年になったらさぞやモテモテになり、俺よりもだいぶ恵まれた青春を過ごしてしまうだろうが、まず基本は一人と一人であることをしっかり理解してほしい。
いきなり俺みたいな大ハーレムを作ろうとしてブッスリやられる我が子なんて嫌すぎるからな。
「んー……」
クラウディオはそれを聞いて少し悩ましい顔をした。
お前やっぱりハーレムが基本と思ってたクチか……?
「どちらかというとぼく、女の子じゃなくて男のほうが……」
我が子は衝撃的な呟きをした。
「……えっ」
「え、あ、いや、どちらかというとだよ?」
「……お、おう」
動揺する父。
い、いや、よく考えろ。よく考えてみろ。
ヒルダさんは今でこそ良妻賢母だが元々両刀だ。女の子とのイカせ合いも充分レパートリーにある人だ。
そんなおおらかな母の価値観は息子の嗜好も決して否定しないだろう。
クラウの可愛さなら彼氏を見つけるのも難しくはないんじゃないか。それに「どちらかというと」だ。決して女に興味がないわけじゃない。ちょっとストライクゾーンが広すぎるだけだ。
本来は決して気安く手を出せるはずもない異種族をこれだけ雌奴隷にしている俺が、クラウの広い愛の方向性をどうして非難できようか。
「ぱ、パパは……うん、そういうのも……ナシではないと思うぞ。うん。パパとは方向が違うが、猫たちは満月の日には発情し過ぎて同性でエロいことしまくっているというし……」
そうだ。同性愛は決して異常ではない。
身近にもあったものだ。たまたま俺の周りは女性の例が多かったから気にならなかっただけだ。
OK。落ち着いた。
「……ありがと」
動揺しながらもマイノリティな性的嗜好を認めた俺に、クラウディオは天使のような笑みを見せる。
くっ……ちょっとだけヒルダさんの気持ちがわかる。もし多少クラウディオの嗜好に思うところがあったとしても、この笑顔に残酷なことは言えないよなあ。
「お尻の穴を使うことに関してはテテスママが色々教えてくれたし……タルクでは結構、アリな人多いってヒルダママも言ってたし。きっとそのうち、恋人、できると思うから」
「……テテス……」
クラウディオに対して無駄に環境を整えすぎている雌奴隷たちに複雑な感情が湧き上がる。
文句を言うのもあれだけど……うぅ。
子供たちの中で最近活発なのは、ネイアの娘であるフレナ。
当初、ネイアから剣術を習うもあまり才能がなく、しかしノールさんやルキノさんからダンスを習ってメキメキと上達をみせている。
運動神経はさすがのネイア譲りで、快活なダークエルフのダンスステップを小さな体で見事にトレースしている。
それはいいのだが。
風貌だけはネイア似だが悪戯好きで、他人に卵を投げたり食べ物を盗んだりと嫌がらせを仕掛けては、すぐに街の路地に紛れ込んでしまう困った子に成長している。
グランジやポルカなら慣れているので探しようもあるが、王都やタルクでもあっという間に行方不明になるので気が抜けない。
ドラゴンたちの聴力で探せばすぐ見つかるのだが、困ったことにそれで何度か探し出されているうちに学習してしまい、声を変える魔法を11歳にして独自開発してしまうという無駄な天才ぶりを発揮してまで王都を走り回った。
そしてとうとうキレたネイアが、その大陸最強クラスの身体能力に任せた本気の追跡をして王都に伝説を残したりしたのだが、それは置いておく。
悪戯癖さえなければいい子なのだけど……というのは親の贔屓目か。
最近は彼女がグランジを出るたびにエマが警戒を厳しくしていて、いくらなんでもそこまでしなくてもいいんじゃ……という気持ちになる。
「悪戯はともかく、下手にアクロバティックなダンスを習ったせいで危険な場所ばかり選んで逃走経路にする癖がついています。子供の身体能力で家々の屋根や水路際を走り回って……取り返しのつかないことになりますよ」
「……うん」
ポルカの霊泉やブレイクコアの再生治療をしても取り返しのつかないこと、といえば、すなわち死。
人間なんて打ちどころが悪ければただ階段から転げただけでも死ぬ。子供ならなおさらだ。
「なんとかして早いうちにやめさせないと」
「しかしなあ……言ってやめさせられるものかな。危ないからやめなさい、なんて母親のネイアが何回も言ってるだろう」
「例えば実際に軽く痛い目にあわせるとか……」
「……軽くで済むならいいんだけどな」
「……一度ネイアさんを本気で怒らせているんですから、それ以上に酷い目にあわせないと意味がない……軽くといっても難しいですね」
ネイアが怒るってよほどのことだけどなあ。それ以上か……。
「うーん……ネイアはいつも接してるからかえって怖くないのかもしれない。じゃあ他の……例えばライラみたいな本気でヤバイ相手に叱ってもらうとか……」
「ライラ様の恐ろしさを、普段からドラゴンにもちょっかいをかけている子供が理解できるでしょうか」
「……そうか。結局ドラゴンは最後には手加減してくれると思っちゃうか。じゃあテテスとかコスモスさんとかレディとか、別のヤバさがある相手に……」
「それも結局は大人の世界の怖さですから……」
「うーん……」
凄い相手に慣れ過ぎた子供に効果的な怒り方。なかなか難しい。
どうしたものか……。
それを解決したのは意外というかなんというか、エレニアだった。
「フレナにくっだんない嫌がらせをやめさせればいいんでしょ?」
「ま、まぁな……」
「そういうのは大人が必死になっても駄目なの」
エレニアはそう言って請け負う。
そして数日後にポルカに来たフレナが、大胆にも街中で男爵に何か仕掛けようとしているところを押さえて。
「いつまでそういうダッサいことしてんの? 11歳にもなってガキすぎない?」
全力で冷たい目をしてフレナを見下した。
「う……な、何よっ、アンタだってまだ……」
「せっかくノールママに女らしい踊りを教わっても、ド田舎のオコサマは男みたいなお遊びしかできないかー。ふっ」
……子供同士でプライドのくすぐり合いをする作戦か。
言われてみれば「大人」というものを一括りに見てた気がするな。あのくらいの頃は。
からかって遊ぶ対象として見た場合、相手がどれだけ偉かろうと、凄もうと、大差はない。
「そういう対象」じゃない、引かれた線の内側、子供側から諫めないと駄目なのか。
……案の定、フレナはエレニアの挑発に簡単に乗った。
もともと比較的歳の近い異母姉妹として、互いに意識していたせいもあるのだろう。
「グランジよりポルカの方がもっと田舎だし! アンタだってオトナぶってるけどただのファザコンじゃん! そっちの方がもっとガキじゃん!」
……おい。言われてるぞエレ。最近のお前の行動見てると全然反論できないぞ。
と思ったが、エレニアは余裕。
「ガキの頭じゃそこまでよねー」
「……む、ムカつく……ひとつふたつ年上だからって」
「男も女も一緒くたのイタズラ遊びに夢中になるのは六つか七つでおしまいにして欲しいわ。ホントいつまで続けるんだか。ママに甘やかされてるのかしら」
「う、ウチの母さんは厳しいもんっ!」
母親同士をあまりネタにするなよ。セレン結構甘いだろ。少なくともお前に怒ってるとこ見たことないぞ。
……母親仲間同士で分担できるポルカの環境に対して、ネイアは思春期の娘に苦労してるんだな、と今さら思う。もっと頻繁にグランジに行くべきかな。
たまに俺が訪れるといっても、普段は父親役と母親役、同時にしないといけないもんな。
「それに……パパにじっくり相手にしてもらってないから、そういうこと言えるんだよね、フレナって」
「なっ……」
「ママがみんな言ってるでしょ? パパは特別……その意味、本当に理解したら子供じゃいられなくなっちゃうんだから……♪」
エレニアが子供同士の気配から、瞬時、ゾッとするような色気と陶酔を表情に乗せる。
フレナは得体のしれないエレニアの様子に戸惑った顔をした。
「な、何を……だって、父さんって……なんでモテるんだか自分でもよくわからないって……」
「そういうパパしか見てないから。理解してないから……ただのちゃらんぽらんのスケベ親父って思ってるでしょ?」
エレニアはフレナに顔を近づけて囁く。
「本当のパパはね……ネイアママも、オーロラ姉も……ディアーネママも、ドラゴンたちも、みんなみんな頭いっぱいになっちゃうくらい惚れさせるオトコ。どんな強い女も子供欲しくなっちゃうような、そういうオトコが身近に実在するってこと、よく考えたことないでしょ……?」
「っ…………」
「……ふふ。やっぱり、オ・コ・サ・マ♪」
「ち、父親をそういう……そういうの、変でしょっ……!」
「……変の反対は普通。パパはちっとも普通じゃない。そんなことわかってるでしょ」
「で、でもっ」
いかん。いかんぞエレ。
お前今すごくセレンみたいだぞ。ヤバい雰囲気の時の。
いくらなんでも一応義理の妹をそういうアレな道に引きずり込もうとするんじゃない。
というわけで危機感を持って止めに入ろうとしたら、同じように物陰に来ていたセレンとアップル、アンゼロスにネイアという謎のハーフエルフ集団に止められた。
「ここはエレちゃんに任せましょう。ね♪」
「確かまだエレちゃんに手を出してませんよねアンディさん。……それなのにあの理解度」
「さすがセレンの娘だよね。……僕でさえうまく言語化できる自信ないのに、あれだけアンディの魅力を語れるなんて」
「うちの子が本当、ご迷惑を……このままエレニアちゃんに説得してもらえば、少しは大人しくなってくれるはず」
みんなエレニアの蛇のような弁舌に感じ入ってるけど。
「このままだと流れ的にエレにもフレナにも父親失格な真似させられるやつじゃない? 思い知らせちゃいけないモノ思い知らせる感じにならない?」
「アンディさんは変なパパですから♪」
「仕方ないですよね」
「避妊魔法かければ問題ないと思うよ」
「フレナがちゃんと女の子らしくなるなら……もう雌奴隷にしてもいいです」
「いやネイアそんなに思い詰めてたの!? それ絶対親として言っちゃいけない奴だからね!? 妻としてもだいぶアウトだからね!?」
「だって閃光剣が少しくらい父親代わりになってくれると思ってたら本当にあれ役に立たなくて……ただの昔話再生機にしかなってくれなくて」
も、もっと父親として頑張ろう。父親として。
……なんでみんな俺が娘に手をつけそうなの止めてくれないんだ。
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