「新しい祭り?」
「うむ。是非協力してほしい」
最近染めるのを諦め、すっかり白くなった頭を掻きながら、男爵が相談を持ち掛けてきたのは初夏の夕方。
「また増やすの?」
「ポルカとしては今もそんなに多くないだろう」
「……ああ、いや、そうか。ポルカだけで言えば新年祭と春祭りと収穫祭くらいか」
指折り数えてみる。
そこにブレイクコアの聖獣祭と、セレスタの年二回の精霊祭と、ラパールの潮流祭と、あと王都の建国祭とレンファンガスの英雄祭、それとカールウィンの「交竜の日」と、グランジの解放祭を加えるので、俺個人としてはほとんど毎月、常に祭りの準備を意識しているような状況になっている。
あと、エルフの精霊神殿には独特な10万日単位の暦があって、たまに変なタイミングの祭りがあるので突発的に呼ばれたりもするんだよね。おかげでよく予定が狂ってテテスに怒られる。
そんな調子で、なんかいつも祭りばっかりなので感覚がおかしくなっていた。
「忙しいのはわかっているがね。お前が一声かけてくれればエルフも動くし、ディアーネ殿を通じてセレスタ衆への通りもいいだろう」
「うん。まあそれはわかったけど、何の祭りをするの?」
「芸術祭だ」
「……げ、げいじゅつさい?」
「うむ。ぜひとも成功させたい」
現在、ポルカではグロリアさんとランツを中心として芸術家サークルができつつある。
ゴートが結婚してすっかり家庭人になってしまったのを機に、ランツがグロリアさんに弟子入りしたのが何年前だったか。
いい師匠に恵まれ、生来の集中力と女体への理解も手伝って、今や本職顔負けのオリジナルエロ絵巻を精力的に描き続けている。
そんな様子を見て、グランジの元カールウィン住民の中から画家を志す若者も現れ、さらにはディアーネさんの兄のあの曲芸彫刻家フリオさんや、北の森の造形作家などが自然と集まって、一部の地区に続々と芸術作品が増殖していた。
そしてランツが絵を描き始めた当初からパトロンとして支援してきた男爵は、それらの芸術作品を収蔵するためのギャラリーを逐次建てるなどしてきたわけだが、まあグロリアさんとランツなので、所蔵作品はほとんど裸婦画。あまり大々的には勧められたものではなかった。
しかし、それを思い切って他の彫刻などと一緒に大きく喧伝し、ランツたちの作品の素晴らしさを伝えてもいいのではないか……と、多様な文化でいい感じに伝統が軽くなってきた時代性を感じながら考えたらしい。
確かに一部の愛好者だけで楽しむのはちょっともったいないのだ。アトリエのある地区は本当に別世界のように彫刻や壁画が並び、ド田舎の有志が趣味でやっているとは思えないほど、見回す景色全てに見ごたえがある。ギャラリーはもっと凄くて、現状特に値も付けず、グロリアさん師弟が描いたものをなんとなく飾っているだけだというのが信じられない。
グロリアさんはもう俺の雌奴隷に入ってしまってからは生活に困ることもなくなったので名誉欲もなく、ただ描いたら俺やランツ、男爵やハリー爺さんなどが大喜びしてくれるというのをモチベーションに、ボチボチと描き続けている。
頻度のわりにだいぶ遅れたけど子供にも恵まれ、グランジや北の森からも弟子が集まって幸せそうだが、男爵はそれではいかんと思い立ったらしい。
「というわけで新しい芸術の祭りを秋口にやるらしい。この際だからウチからも盛り上げたいんだ」
夜。
「ヴェイパー・パレス」に戻って、食堂に集まっている女の子たちを相手にそういう話をする。
集まっている、という中には雌奴隷の首輪をしている子もあり、ドラゴンたちもあり、ただ遊びに来ている猫獣人や「コスモス本舗」の娼婦たちも、北の森のエルフ女性もいる。
パレスの中では脱衣自由、というのは主にブルードラゴンや一部の露出癖を開眼してしまった雌奴隷たちのためのルールだったが、脱ぎ慣れないエルフ女性たちや外との出入りを頻繁にする者を除いて、半分以上の娘は基本的にはみんな一日中裸だった。
「じゃあ何するんです? モデルでーす♪ って絵の隣に立ちます?」
「いや、まあそれもある意味効果は高そうだけどそういうのじゃなくてね」
ふたりの娘たちに食事をさせながら、あっけらかんと大胆なことを言うのはコスモスさん。実際、コスモスさんやヒルダさん、ライラなどをモデルにしてランツが描いた絵は相当数ある。
しかしそれは見る側的には興奮するけどちょっと違うよね。芸術祭の盛り上げとしては。
「パレスに来てる子たちは人数もいるしさ。この中で、素人なりの作品コンクールみたいなのもやったらいいと思うんだ」
「街の方ではそういう募集やらないんです?」
「やるけど集まりそうにないらしい」
キャンバスに絵の具に筆なんかの画材も、思い立って簡単に揃えられるわけじゃない。絵を描くというのは、本当にずぶの素人なご家庭ではハードルが高い。
しかし、このパレスの中ならそういった道具は容易に揃って共有もできるし、ドラゴンたちを使って都会から仕入れるのも簡単だ。別に絵じゃなく彫像なんかでもいいし、そのための細工道具は俺やジャンヌが用意できる。
「初心者指導はグロリアさんがやってくれるって言ってたから、興味ある子はやってみて欲しい」
「何かご褒美あります?」
オレガノが手を上げて質問する。隣にローリエ親子もいる。そして当然裸。
「ご褒美は……えーと、どうしよう」
頭を掻いて少し考える。
そして。
「……参加賞でコレ。アンディコイン一枚。全員に進呈」
ぴーん、と指で弾く。
コスモス本舗の「イザベルコイン」を真似して作った「ご褒美券」だ。使うと優先で1on1エッチ一回、あるいはドラゴンに頼んで好きな所に連れて行ってもらえる。
……ドラゴンに運んでもらう方は最初はなかったのだが、俺の負担軽減を目的にエマが発案して採用された。利用率は……あんまり高くないけど時々ある。一番利用してるのはナリス。
雌奴隷じゃない子にはあんまり嬉しくないんじゃないかなあ、と思わなくもないコインだけど、今の俺が集中して攻めると娼婦組の子でも存分にイキ狂えるというのでたいへん好評です。
十数年もヒルダさんやコスモスさん、グロリアさんらと毎晩頑張ってれば技術も上がる。上がった。
「で、入賞したら……何がいいかなあ。とにかくなんか作る」
思いっきりふんわりしたことを宣言して、これじゃあやる気にならないかな、と思ったら女の子たちはワーッと盛り上がっていた。
俺、そんなに評価されてるのか。職人としても。
……と思ったけど。
「……入賞したら……本気子作りでも、いい?」
おずおずと聞いてきたのはマイア。もちろん裸。
「……一応それも考慮するけど、普段からしてるよね?」
「もっと、2、3回ハメて終わりじゃなくて、孕むまで何十回も犯す勢いで」
「……いいけど」
子供たちもいるのであまりそういう話は、と言い添えようとしたらもう完全な盛り上がりにかき消されてしまった。
……そういうのがみんなご希望なの?
いや、確かにここはポルカだから多少ハードにやってもすぐ治るけどさ。
パレスに普段いるのは物心つく前、基本的に4〜5歳くらいまでの子だけ。それ以上になると外に生活拠点を移す。
ジャンヌやセレンなど、スマイソン家にいる子もいるが、雌奴隷たちは今やほとんどが自分の家を持っている。その母親の家で暮らすのが大半だ。
雌奴隷じゃない子は……まあ、それぞれ故郷に戻って育てられることになる。エッチはするのに雌奴隷入りしてない子は、故郷との繋がりをすっぱり捨てる覚悟までは持てない子が大半だしね。
ちなみにコスモス本舗の娼婦の子も、なんか軽はずみに俺の赤ん坊を産んでる子が数人いる。というかみんなタルクに戻ってから特に連絡もなく産んでるもんで、一番上の子(白狐娘フェリシア嬢の子だった)にうっかり手を付けてしまった。だって一戦終わってからしれっと言うんだもん。
それから厳重に、誘惑してくる子が若い場合、自分の子供じゃないかと確認している。
「娘にエロいことをするのはあれっきりにしたい」
「無理矢理じゃなければいいんじゃないですか?」
「こういう案件はセレンが一番怒るべきだと思うんだよね!?」
「パパに無理矢理犯されたら絶対エッチが嫌いになりますけど、パパ大好きで欲情してるのを当人に嫌がられたら、自分の本能を忌避してそれはそれで歪むと思うんです」
「……えーと」
「私は子供の幸せが一番だと思うんですよねー」
セレンは食器を洗いながら、あくまでマイペースに笑う。
うーん。
セレンは俺が子供とエッチすること自体ではなく、「エッチすることで傷つくかどうか」が問題と考えてるのか。
俺が他人とセックスするのを当たり前とスルーする……のはまあこの際今さら過ぎるとして、世間体なんかの社会的な問題は……社会から爪弾きの扱いを受けて育ったハーフエルフだからこそ全く気にしないということだろう。
血が濃くなることによる問題は……アイリーナも「少しくらいなら大したことはない、魔術でどうにでもなる。何十代もやらかしておると話が違うが」と常々言ってるからそんなもんなんだろう。
いや、いやいや。でもなあ。
「俺はいくら本人が望んでもピーターが母親や他の雌奴隷を襲うのなんて容認できないぞ」
「それはまあそうですよね。子供はともかく、雌奴隷はアンディさんだけのモノなんですから」
「そこは納得するのに娘が父親に手を出すのはスルーしちゃうのか……」
「アンディさんは自分が特別で特例な人だってことをもっと心得るべきだと思いますよー。何十人でも何百人でも、アンディさんは女を幸せにできる人なんですから。それを納得した子だけがアンディさんに近づくんです。でも、残念だけどピーター君はそんなことはないってだけですよ。……そう。アンディさんなら、たとえ自分の娘でも……女なら、幸せにしちゃえると思うんですよ」
「……時々さあ」
「?」
「お前が割とやばめな思考の持ち主だったなーって再確認する」
「そーですかー? 単にリアリストなだけですよ♪」
リアリストってなんだろう。ちょっと哲学したい。
子供たちの中では一番に俺の息子として認められたのはもちろんピーター。
しかし、ハーフドワーフなのでちょっと成長が遅い。
最近全体的にちびっこを脱してスラッとしてきたエレニアより若干年上のはずだが、見た目はまだ10歳に届くかどうかという感じ。
ドワーフというのはそもそもあまり背が伸びないし、子供体型のまま気が付くと髭も生え、だんだん過剰に筋肉がついてきてしまうものらしいが、ピーターはまだそういう子供感を損なう特徴は現れていない。
ただ、10歳児にしてはちょっと声が太くて汚い感じはある。もう変声期みたいな。
「なあ親父。ヴェイパーのコンクールって俺も出していいの?」
「いいけど……お前、絵とか描けたっけ?」
「絵はあんま描いたことないけど、人形ならちょっとしたもん作れるんだぜ」
ピーターは少し得意そうな顔をして、部屋から自作の人形を持ってくる。
鉛で作った騎士人形だ。……あー、俺も親父と一緒に作ったっけ。
「もう20体も作ってんだ。ジイちゃんももう売り物になるって」
「ジャッキーさんをジイちゃんって言うのは俺が混乱するからやめてくれ」
普段、ピーターの相手をしているのはジャッキーさん。五十を過ぎたけど鍛冶屋としてはしっかり現役。
サラちゃんが結婚してしまったので寂しいのか、最近は特にピーターを可愛がってくれている。
「でもこれで売り物になるってのはちょっと褒め過ぎだな。細かいところが雑だ。もっと丁寧に仕上げないと駄目だぞ、ピーター」
「チェッ、親父はすぐ粗探しする」
「センスは悪くない。手抜きをするなって言ってるんだ。コンクールでもこんな誤魔化しをしてたら笑われちゃうんだぞ」
「へいへい。……で、入賞したら小遣い上げてほしいんだ」
「そんなに金持って何に使うんだよ」
「それは……い、いいだろ、何に使っても!」
少し恥ずかしそうに口ごもる息子。ふっ、父の目を誤魔化せると思ったか。
このポルカで子供が金を使うあてなんてそうはない。どうせ行商人から土産でも買って、ガールフレンドにプレゼントってところだろう。
「入賞出来たらな。みんな素人とはいえ、エルフやドラゴンも出るんだから簡単にはいかないぞ」
「へっ。お袋以外には負ける気がしねえし」
無駄に自信家な我が子に少し不安になる。こいつ甘やかされ過ぎてないだろうか。
※ちなみに小遣いアップ希望の原因は後日、パレスで裸見せびらかしていたコスモスさんとこの娼婦にこっそり触ろうとして「私らとえっちなことしたいならお金持って来ないとねー♪」とかわされたせいだと判明しました。
そして約一週間。
パレスの女の子たちが外に出て写生などの活動を始め、にわかに芸術づいたポルカ。
「良い機会です。ポルカは良い街ですが、こういった文化的な潤いが欠けていました」
町の住民や駐留クロスボウ隊も相乗りし始めた芸術ブームを見て目を細めるクリスティ。
言われてみれば確かに、と思う。人が霊泉のおかげで健康美に輝いているわりには、街にはデザイン的な華やかさが足りなかった。
……筆頭芸術家たるグロリアさんがエロ絵ばっかり描いてたせいでもあるけど。
そして、そんな中には真剣に森の風景を描くエレニアの姿もあった。
「……え、エレ? お前もお小遣いアップだよね?」
「小遣い? ここらじゃ使い道ないし。っていうかそんなこと言い出したのピーター? クラウディオ?」
クラウディオはヒルダさんの子供。今ちょうどピーターと同じくらいの背格好。
わんぱくなピーターに対してこっちは少々人見知りが激しい。その分ママっ子で、ヒルダさんの母性愛を一身に受けて育っている。
「……ご褒美とかそういう要求はないの?」
「……あるけど、入賞したら言う」
仏頂面で描きながらそう言うエレニア。
……仏頂面の横顔もかわいいなあ、と思ってしまう子煩悩補正。
そしてしばらくエレニアのそんな姿を見ていたら、なんだか満足してしまって自分の無粋な心配は口に出すべきではないかな、と思えてしまう。
しばらく前からエレニアがパレスに来て裸でウロウロしてるのも、何かと俺に触らせようとしてくるのも、単にちょっと環境のせいで裸というものに対する羞恥心が壊れているだけで、娘として俺にもっと孝行したいとか甘えたいとかそういう気持ちが強いだけかもしれないじゃないか、と思えてしまう。
うん。そうに違いない。母親のセレンが妙に近親相姦にユルユルなことなんて単なる偶然だ。
そして芸術祭。
グランジからも北からも、セレスタやレンファンガスからもたくさんの人が集まり、機会を得て町中に配置された絵画や彫刻を楽しんだ。
……肝心のグロリア&ランツ師弟の作品は、そうして外に出されたうちの二割程度にとどまったが、出来の違いで確実に見る者の心を掴み、ギャラリーに誘導してたくさんの買い手を付けたので実質成功といえるだろう。
そして、男爵邸で催されたコンクール本番。
審査員たちによって選ばれた最優秀賞は……なんとマイアの作った「鱗の像」。ドラゴンの割れた鱗を集めて、ミニチュアのドラゴン像を作ってしまった。
ちょっと素材差がズルすぎるのでこれに最優秀賞はどうかという意見もあったが、禁止もされていなかったので除外もよくない、ということで受賞できた。
そして金銀は他に取られたが、銅賞にギリギリでエレニアの「森の一本杉」が入賞。
で。
「あー……その、エレ? できればな、パパとしては」
「入賞したのにお願い聞いてくれないわけ?」
夜のパレス、風呂エリアの隅。
案の定、エレニアに押し倒されています。
「……あのね? パパもできればエレのお願いはかなえてあげたい。だけどな」
「聞いてくれないんだ」
「…………」
「嫌い」
「ぐふっ……あ、あのねエレ。どうしても聞かないってわけじゃなくてほら、エレにはまだ早いと思うわけで」
「じゃあ何歳になったらいいの!?」
「いやほんと、もうちょっと待ってエレ。ね?」
なんか微笑ましい感じにパレスの女の子たちがみんな穏やかに眺めている。
……拝み倒して今日だけは勘弁してもらった。
き、嫌われたくはないんだ。エレに嫌われたら死ぬ。
……長くはもたないかもしれません。
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