「それでは自己紹介から始めましょうか。今更と思っても、みんな真面目にやりましょうね♪」
 セレンが音頭を取る。
 そして、自分の胸に手を当てて。
「まずは私から。アフィルム帝国出身、ハーフエルフのセレンです。一応氏族的には深緑系列ですけど気にしなくていいです。雌奴隷としては二番目になります♪」
 そして、隣のアップルに促す。
 アップルは一瞬オロオロした表情を見せたものの、俺をチラッと見てから、むん、と気合を入れた顔になる。
「アップルです。氏族系統としては紫、でも見ての通りのハーフエルフです。自分では覚えてませんけど最初の雌奴隷みたいです。よろしくお願いします」
「覚えていない……?」
「どういうことだ?」
 シャロンとアルメイダが眉を上げた。
「あ、なんか面白そう」
「やめなよテテスちゃん」
 テテスが身を乗り出そうとするのをナリスが抑える。
「あ……」
 一瞬怯んだアップルだったが。
「アンディさんが帰ってくる前に、北とのいざこざで瀕死の重傷を負って記憶が消えちゃったんです。でも、確かに最初に雌奴隷になったのはこの子ですよ」
 セレンが的確にフォロー。
 アイリーナが咳払い。
「それに関しては謝罪のしようもないが……氏族会議でも確認した事実じゃ。アップルが何年も昏睡を続け、ヒルダ殿によって蘇生させられ……そして記憶を失ったことは、な」
「そうだったのですか」
「……まあ、どこでも軋轢は起きている。不思議はない」
 シャロンとアルメイダは一応納得する。
「それより、次はディアーネではないか?」
 アイリーナに促され、立つディアーネさん。
「砂漠南出身、ダークエルフのアシュトンの娘ディアーネ。知っての通りの不器用者だが、アンディの妻になろうと思っている」
 そこにテテスが突っ込み。
「雌奴隷じゃないんですよね」
「……ああ。そんな契約はしていない」
「それって不利じゃないんですか? みなさんと違って」
「別に不自由をしたことはない。それに私は、隷属する気もさせる気もない。あくまで対等に、アンディと愛し合いたいんだ」
 堂々と言ってのけるディアーネさん。
 ……そう、彼女だけは一度たりとも首輪を欲したことはない。
 そっちの方が普通のはずなのに、特異な存在だ。
「なるほど、そういうのもアリなんだここ……」
「さっきから気になってるんだけどテテスなんでいるの。あとクリスティも」
「え? だって興味深いじゃないですか、こんな凄い面子」
 俺のツッコミに対して「何でそんなこと聞かれるのかわからない」みたいな顔をするテテス。
 すごい胆力だ。どう見たってお前ミスマッチじゃん。
「それに他人の痴情の縺れほど気楽に見られて面白いものないですし」
「テテスちゃん、ちょっとは歯に衣着せようよ」
 16歳にしてこの度胸。末恐ろしいにも程がある。
 そしてクリスティに視線を向けると。
「……だ、だってスマイソンさんたら、時々孕ませようとするじゃないですか」
「せめてエッチと言ってくれ!」
「もしかしたら産むことになるかも知れない……という意味では、この場にいてもおかしくないはずですし……」
「少しは自分の立場に疑問を持て!」
「だ、だいたいアイリーナに堂々と首輪を付けるなど思い切り過ぎるスマイソンさんが悪いんですよ! 空色の姫だけでも既に外交問題になりかねないのに、氏族長でしかもこんな小さな」
「わらわが小さいのは幼いせいではないというに!」
 グダグダだ。
「……あのー。とにかくここにいるからにはアンディさんに妊娠させられることに同意しているとみなしますけど」
 セレンが真顔で話をまとめにかかる。
「いいんですね?」
 クリスティは数秒止まって。
「……そ、それは……」
「ダメなんですか?」
「いえ……まあ、その……スマイソンさんがその気ならば、やぶさかではないんですけれど……」
「雌奴隷でもいいですか?」
 セレン。それお前が確認することじゃないと思う。
「……まあ、その……真っ当な結婚にはどうしてもなりそうにはないですし」
 渋々というポーズを取りながら容認しようとするクリスティ。
 そこにテテスが茶々を入れる。
「雌奴隷にされる気満々ですねぇ」
「っ!! そ、そんなに言うほどでは……」
「どう見たって順調に不倫に味占めた未亡人にしか見えませんよー? せんせ♪」
「へ、変なこと言わないでくださいテテスさん!」
 そういやテテスとクリスティって師弟関係みたいなもんか。
 ……完全にテテスが精神的に優位に立ってるけど。

 続いてアンゼロスが席を立つ。
 場の空気を考えて少し迷ったようだったが、結局キチッと拳を胸につけて名乗りを上げた。
「セレスタ北方軍団ディアーネ特務隊、護衛歩兵のアンゼロス十人長。アンディとは八年くらいの付き合いになる」
 その名乗り方は公的な場では非常に正しい。……が。
「ふーむ。地位なぞ言われてピンと来るのはこちら側ではアルメイダと栄光の姫くらいではないのかのう」
 アイリーナがそう指摘する。
 ……確かに軍団だの十人長だの、フェンネルたちには全く縁がないことだ。従って前半部分は全く意味がないことになる。
「アンゼロス。……出身地基準で、もう一回」
 俺が促すとアンゼロスは口をへの字にしたものの、もう一度名乗り直した。
「トロット王都出身、リンダ・ノイマンと白の氏族のアーロンの娘、アンゼロスだ」
 ああ……と、フェンネルたち四人娘が頷く。
「アーロンさんって会ったことある。……弓の腕、うちのパパと互角ぐらいだった」
「え、それ凄いんじゃない?」
 ローリエが言うとセボリーが目を丸くする。
 もしかして結構名人なのか。
「まあ、父上と母上は曲がりなりにも外で冒険家してたから……」
 ……言われてみればそういう話だった気もする。
 そうだよな、エルフでも外で冒険するとなると、少なくとも聖獣迷宮あたりには挑めるレベルじゃないと身内も心配するはずなんだよな。
 そしてそれに対抗できるローリエの親父さんももしかしたら凄いのかもしれない。
「……あー、一応ローリエって戦士階級の家なので」
 オレガノが補足。
 ……え?
「戦士階級って……」
「ふむ。いざとなったら率先して戦う、人間族で言う貴族とか騎士の家系じゃの。まあ、そちらほど偉ぶれるわけではないが」
「ローリエも結構強いんですよ。少なくとも私たちの中では一番、武術を心得てます」
 アイリーナ、そして再びオレガノが解説してくれる。
 が、当のローリエは困った……というより面倒そうな顔。
「そんなの期待されても、私困る……あんまり真面目に稽古しなかったから、魔物とやれるような腕じゃないし」
「どれくらいの強さなんだ? 僕と剣で打ち合ったりできるか?」
 アンゼロスが少し嬉しそうに勢い込むが、ローリエはふるふると首を振る。
「無理。護身術程度しか出来ないの……男の人に掴みかかられても簡単にはやられない程度」
「そうか……じゃあ、ジャンヌくらいか」
「アタシはもっと強いだ。魔物やっつけられるだよ」
 アンゼロスの物言いにジャンヌは反論。
 まあ一応は実績あるね。うん。
「ほ。無茶はするでない。ケガなどしておれる身ではなかろう」
「……ま、まあ、わざわざ自分から戦いにはいかねえだ。アンゼロスほどは飛んだり跳ねたりできねえだし」
「それがいい。ジャンヌもピーターも、僕やライラが守るよ」
 ぽふぽふ、とジャンヌを妹扱いするアンゼロス。本当はジャンヌの方が僅差でお姉さんだけど。

 次はオーロラ。
 こちらはアンゼロスのように肩肘張ることもない。
 エルフのお姫様らしく、服の裾をつまんで優雅に一礼。
「クラベスのコロニーリーダー……空色の氏族長ディオールの娘、オーロラ。お見知りおきを」
「まあ知らん娘もおらんじゃろ」
 アイリーナの言う通り、カウンター側にも顔が売れているオーロラだ。
「セレンさんに今更だからと言わず真面目に……と言われましたものね」
「さすがです」
 ぱちぱち、と手を叩いてオーロラを褒めるセレン。
「そんな方がどうしてご主人様の雌奴隷に……?」
「ちょっと興味あります」
 フェンネルとセボリーが合いの手を入れる。
「もちろん、アンディさんの器の大きさを一目見たときから……」
 オーロラはというと、すらすらと答え始めて……アンゼロスに肩を掴まれる。
「ルーカス将軍の件で勘違いがあったとか、そういうのはすっ飛ばしか?」
「些細なことではないですか」
「ちょっとそう言うには苦しいと思うぞ。確かにアンディは足がちょん切れたり相当な目にあったけど、実際には勝ててなかったし……」
「ええ、ですが実際アンディさんは兄を大きく超える、英傑としての器があったのですからいいのです♪」
 ちょっとその強弁は苦しいと俺も思う。
 が、カウンター組が興味を示したのは別のところだった。
「足ちょん切れ!?」
「ご、ご主人様って足を切られちゃったりしたんですか!? あの南の貴公子に!?」
 セボリーとオレガノが食いついてきた。
 ……ああ、そういや結構長いこと不自由してた気がしたけど、エルフ領と関わる頃には足は完治してたんだよな。
「……そのような苦難を背負っておったのかえ」
「えと、知りませんでした……最近のことなのですよね?」
 そうか、アイリーナやクリスティでさえ知らないんだっけ。
「そういえばそんな感じのこと、あったような……」
 ルナも悩んでいる。ルナと初対面の時は魔法で応急処置して無理にエッチしてたしなぁ。
 あの大怪我を結構知らないメンバーがいるということを今更知る。
「左足のこの辺から、ちょーんと……地味に今までで最大のピンチだった」
「それでも反撃したんですよ、アンディさん。私とアンゼロスさん守るために♪」
 俺の説明にセレンがうっとりと補足。アップルも興味深そう。
 この子も俺が足引きずってるのは見てても怪我の原因は知らないんだな、そういや。
「そしてディアーネちゃんが足繋いで、ポルカの霊泉と合わせて私が完治させたのです」
 トン、と杯を置いてヒルダさんが立ち上がる。
「というわけで、私がディアーネちゃんのお姉ちゃんでお医者さんのヒルダさんです。何百年も南の医学最前線でやってるから怪我も病気も何でもござれよ♪ 趣味はえっちなこと。よろしくね☆」
 正直すぎる。
 そしてもう完全に雌奴隷として溶け込みすぎ。
 ……まあ最近は諦めてきたけど。
 いつか、しっかり話付けに行かないとなぁ。
「ほ。もう今更知らん者もおらんじゃろうが、我は砂漠のライラ。黒竜にしてアンディ・スマイソンのペットじゃ」
「……マイア。ブルードラゴン。私もペット」
 ライラとマイアも、皆唖然としたその空気に乗じて、一気に自己紹介を済ませてしまう。
 ……力の契約を交わしたドラゴンたちってもっとこう、色々と……なんというかペットの一言で済ませちゃいけない気がするんだけど、いいのかそれで。
「んで、アタシがアンディの初子を産んだドワーフで、ジャンヌって言うだ」
「……ルナ・バジル。……アンディが占領した猫獣人コロニーの、リーダーの孫」
「占領……!?」
 もう一気にいっちまえ、な雰囲気の中だったが、ルナの自己紹介が流れを止める。
 ちなみに驚いてみせたのはテテス。絶妙に出るタイミングのうまい奴だ。
「……占領。アンディが、一人でほとんどみんな種付けした女ばっかりのコロニーがある」
 ルナが静かに告げると、場がどよめく。
「……あそこってそういうとこだったんだ……」
 ナリスが頭を抱える。
 そして、猫コロニーをよく知らない娘たちは「さすが」と無駄に称賛の雰囲気。
「まあ、こいつほどの色魔ならおかしくはないが……」
「猫獣人の発情は凄まじいと言いますのに、それを何人も……」
 アルメイダとクリスティはそれぞれ畏怖するような呆れるような微妙な表情。
 ……一応、混じりっ気なしの事実なので俺も茶々は入れづらい。
 でもそんなに全員とかじゃないよ。若い子からせいぜい30代くらいまでだよ。あんまりおばさんだと射程外だし。

「さてさて、次はシャロン騎士長からでしょうか、それともアイリーナ様からでしょうか」
 にこやかに場を繋ごうとするテテス。だが、そのままシャロンやアイリーナに繋げるのをみんなの視線が止める。
 視線はテテスとナリス、二人に注がれていた。
「……え、あれ?」
「席次でこのままいっても構わんのじゃが、やはりそなたらを気にしたくもなるのじゃ」
 アイリーナが視線の意味を解説する。
「何故ここにいるか……といったこともですが、お二人の素性も少し気になりますから、その辺だけでも」
 ……オレガノとかにとっては確かによくわからない二人だ。
「え、えー……ナリスちゃん先いってよ、一応資格者みたいなものでしょ?」
「資格者って何さ!? あ−もう……名前はナリス。南部大平原出身。氏族はよーわかりません。子供の頃に森ごと火竜戦争で丸焼きになっちまいました」
「それは……」
「でも、南の方でも今なら調べられるのでは?」
 ナリスの身の上に驚くフェンネルたち。
「調べたってしょうがないですからねぇ今更。血統がわかったって誰がお金くれるわけでもなし」
 ナリスは肩をすくめた。
 ……冗談めかしているが、それはエルフ社会のそういった氏族主義、血統主義への反抗にも見えなくもない。苦労してそれ以外の生き方を余儀なくされたナリスにしてみれば、今更消えた一族の末席を回復したところで……というのもあるのだろう。
「それで、私はテテス・マーレイ。レンファンガスの貴族の分家の娘でして、これでも結構強いんですよー。あと私はスマイソン十人長とは別に男女の関係ないです」
 重くなりかけた空気を、テテスが軽めの口調で吹き飛ばす。
 ……ってか「テテス・バスター」じゃなくてマーレイの方はそういう設定なのね。
「それが何故ここで、ご主人様関係の話なんか聞くんですか?」
 セボリーの質問にテテスはにっこりと……少しだけ怖い色の混じった笑みで答える。
「なんか面白い話聞けそうな面子ですし♪」
「…………はぁ」
 セボリーたちは意図が読めず困惑した顔をするしかなかったが、諜報員としてのテテスの正体を知る面子は苦笑するしかない。
 そりゃ、諜報員的に「面白い話」の宝庫に見えるだろう。ドラゴン二匹に権力者の子女がこうもゴロゴロしていれば。
 だが、実際彼女的に面白い話が出ているのかどうかはやはりわからない。
 ……未だに時々、なんでこんなことになってるのか疑問は浮かぶしなあ。

「アフィルムのレンヌ公国……深緑の氏族出身、アルメイダ。もっとも氏族からは既に破門状態だが……その、見ての通りの武辺だ。面白いコメントを期待した目で見るな」
 アルメイダはコッコッコッと鉄杖で床を突付きながら周りを威嚇する。
「どういうことがあって首輪付けたんですかー?」
 そのまま切り上げようとするのをセボリーが阻止。
 それに関わっていたクリスティやアイリーナは苦笑。アルメイダは顔を赤くして。
「なんだっていいだろう」
 だが、それをセレンが注意する。
「駄目だよアルメイダ。お互いをよく知るための集まりなんだもの、恥ずかしいからって誤魔化すのは良くないんじゃない?」
「…………」
 アルメイダは苦い苦い顔をした。
「……私の口に言わせるのか。そんなに私の無様な過去を詳らかにしたいのかセレン」
「無様って……」
「ああ無様だ。無様だったとも。それは認めるさ。だから出来ればほじくって欲しくないんだ」
 アルメイダはそう言い張る。
 が。
「そんなに嫌なら首輪なんて取っちゃえばいいのに。アンディ君は首輪はくれるけど、ほとんどの人にそれを付け続けることを強要してないはずよ?」
 ヒルダさんがそう指摘する。
「それは……」
「どういうことがあって、アンディ君のおちんちんを受け入れようって思ったの? そうして、意思表示したいと思ったの? ……堂々と、アンディ君のエッチな奴隷になったと主張して歩いてる子にそう疑問を持つのはおかしいことかしら」
「うぐ……」
「もう……単純におちんちんに思いっきりアヘアヘ負けただけって言えばいいのに」
「そこまで追い詰めておいてバラすのかあなたは!」
 ヒルダさんは回りくどく諭すように見せかけて鬼だった。

 続いてシャロン。
 こちらはアルメイダと違って全く躊躇はないようだった。
「アーカスの為政者、栄光の一族の末席、シャロン。……スマイソンさんは、私の蒙昧を啓いてくださった人で……その上、私が女性として魅力的と、繰り返し行動で主張してくださった人です。多くの女性を実際に侍らせ、森でも評判の『女性を虜にし、調教してしまう精力と技』に期待したことは否定しませんが……思った以上に懐の深い、素敵な方でした♪」
 うっとりとするシャロン。
 その言葉を引き継ぐように、クリスティも自己紹介に移る。
「桜の氏族長の名代、クリスティです。私は、スマイソンさんとの馴れ初めは……カネツキ草のお茶を誤って出してしまったことによる事故のようなエッチでしたが。……スマイソンさんの良くも悪くも相手の出自を問わぬ、正直すぎる欲望と愛情が……なんというか、とても……気持ちよくて……♪」
 うっとりするクリスティ。
 自分の世界に入ってしまったうっとり女二人を横目に、アイリーナが肩をすくめ。
「雌の部分が燃え始めるのが遅い女は、少々暑苦しいものじゃ」
 まるで他人事のように言う。
 そのちょっとした揶揄をみんな苦笑して聞き流しそうになったが、我に返ったクリスティが素早く言い返した。
「それをあなたが言いますか、百五十年物の処女だったアイリーナが!」
「むぐ!?」
 そこでみんな思い出す。ここにいるメンバーの中ではアイリーナはしっかり年増組なのだった。
 アイリーナより確実に上となるとダークエルフ姉妹とライラ、そしてクリスティくらいしかいない。
 そんな彼女が首輪を嬉々として装備している状況は、まさに「お前が言うな」という奴だった。

 最後に。
「銀の末席、フェンネルと申します。……今後もご主人様の寵愛を受けたく存じます」
「お、同じく金のオレガノですっ。ご主人様のに、に、肉欲の赴くままに弄ばれるのが私の喜びです!」
「オレガノ、ちょっと落ち着きなよ。……金のセボリーです。まあ赤ちゃんの一人や二人なら仕込まれちゃってもいいかなーって感じで」
「……ローリエ。…ご主人様にエッチなことたくさん教えられちゃった」
 四人娘が自己紹介する。

 それぞれに魅力的な女性がこれだけ集まり、俺のスケベな欲望をむしろ心待ちにしているという状況。
 例えがたいほど幸せなのだが、それはそれで結構な苦労を必要とする人数でもある。
 ……ということを、俺は薄らぼんやりとしかわかっていなくて。
 でもまあ、目の前の幸せに及び腰になるのは流儀じゃない。
 勢い込んだ俺が、真正面から爛れた冬休みに耽溺していくことになるのは今更語り直すまでもないことだろう。


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