ノールさんは自分が寝ボケてセックスを許可したことをおぼろげに覚えていたらしく、寝込みをイタズラするような真似をしたことに関しては沙汰なしで済むようだった。
そのまま連続三回ほど中出しした俺に服を取って来させ、下着を履こうとしたものの股間を汚す精液があまりにも多すぎたので諦め、内股の汚れや匂いを家人に悟られると面倒なことになるので、と俺に盾としてエスコートを命じて、結局そこから一番手近だった俺たちの客間にたどり着いたわけだ。
「アンディ。……いくら相手が無防備だったからってさ、見つけてその場でいきなり一発ってのはどうかと思うよ。しかも屋外で」
「……ごめん」
「いや僕に謝ってもしょうがないんだけどさ。一応大貴族にも匹敵する家って説明した直後で、しかもそこの当主夫妻にあらぬ疑いかけられてたんだよ? ここに来る間にもあれだけエッチしたんだしさ、せめて夜まで待つとかそれぐらいの分別つけようよ」
「反省します」
ノールさんが部屋で改めて身づくろいをする間、一応のエチケットとしてアンゼロスと一緒に外に出つつ、説教される。
全くもって反論が見つからない。何やってんの俺。
「その……まだ足りなかったっていうんなら僕でもルナでもマイアでも、呼んでくれればなんでもしたのにさ。ヒルダさんやディアーネさんをこれ見よがしに弄ぶわけにはいかないだろうけど」
「あー……うん、足りなかったというかなんと言うか……そういう問題じゃないんだ」
「?」
「ただ……ロマンだったんだよ」
「……ランツやゴートみたいな顔しないでよ」
げんなりするアンゼロス。自分でもこんな言葉で片付けるのはよくないとわかっているものの、量とは別の問題なのだとわかってもらいたい。
しばらくして部屋に入ると、オーガ用の高い椅子(座面まで1メートル近くある)に座って足をぷらぷらさせているノールさんと、外に出る身支度を済ませたディアーネさんヒルダさんの姿がある。
「どこか出かけるんですか?」
「ノール姉上がやはり水浴びをしたいというのでな」
「せっかくだから水浴び場にみんなで行っちゃおっかってことになってねー☆」
「……こんなに広い屋敷なのに家族用の水浴び場ってないもんなんですかね」
「あるにはあるんだけどねー。あんまりはしゃぐわけにいかないのよねぇ」
「本宅のすぐ傍にあってな。基本的には奥を訪れる家族に必ず見られるし、声や水音も兄上の執務室に丸聞こえだから歓談もしづらいんだ。本宅で商会やコロニー関係の執務の終わる夜なら、多少気兼ねが減るんだが」
「いや、そんな状態の水浴び場とかマジでどうなんですかそれ」
いくら家族とはいえそこまでフルオープンなのかダークエルフって。
……まあ家族で脱衣ポーカーする人たちだからおかしくはないのか?
「ま、弟君も兄さんや父上に認められてるし、そろそろ家族のそういうトコに入れるかもしれないけれどね。ウチの姉妹も入るから興味あるだろうけど……男兄弟も遠慮なく入ってくるから、やらしい目はしてられないと思うわよ?」
ノールさんは年上ぶった仕草で人差し指を立ててみせる。
が。
「どう考えてもカルロスさんやアシュトン大臣が許可するようには思えません」
時々そういう話は聞くけど、認められてるという実感が全くないぞ。
「そうかしら。兄さんあれでも決まりごとはちゃんと守るから、許さないってことはないと思うわよ?」
「許可も不許可も含めて、誠実というものだしな。もちろん妹三人も手を出されて個人的に不愉快ではあるだろうが」
「実際には手を出したの私たちの方なんだけどねー☆」
ダークエルフの感性というのは時々さっぱりわからない。
「行くならルナ起こしてきますか」
「どこにいるんだ?」
「さっきあっちの建物の屋根の上で日向ぼっこしてましたけど」
「随分くつろいでるな……まあいいが」
ディアーネさんは少し呆れ顔をしたが、屋根の上とあらば俺が行くよりディアーネさんかアンゼロスの方が早い。すぐに自分で起こしに行く。
それから約30分後、いつぞやも来た水浴びオアシスにみんなで到着した。
「賑わってるなあ……」
「温泉と違って冷えるから、やっぱり昼間が水浴びタイムなんじゃないかな」
俺に寄り添うアンゼロスが相槌を打つ。
恥ずかしがらないのがルールとはいえ、やはり白エルフは目立つ。なんとなく周囲の視線を避けるようにした結果、俺の腕に抱きつく恰好になってるのが可愛い。
「仲良くするのはいいが、性行為はマナー違反だぞ?」
後ろから現れたディアーネさんは全くの仁王立ちだった。
「し、しませんよ」
「そうか? まあ、アンゼロスも幻影なら扱えることだし、幻影でこっそりやる分には多少大目に見られるかもしれないが……」
「しませんって」
まあ、ジャンヌ使ってヤッた前科あるから「そんなの当たり前じゃないですか」と強く言えないのがつらいところだが。
……見渡すオアシスは広かったが、ざっと眺めて数十組は客がいた。百人は超えているだろう。水練に使える広さのオアシスが多少手狭に感じるほどだ。
「っと、すみません通してくださーい」
「あ、ごめんなさい」
ダークエルフ女性の一団が多少スペースの多い中央部を目指し、俺たちの脇をばしゃばしゃとすり抜けていく。どの女性も無頓着におっぱいと無毛の恥部を晒し、それどころか道を譲った俺の視線を辿って自分の身体を見られているとあからさまに気づいても微笑を返すだけだ。
もちろん男もいっぱいいるけど意識からは追い出す。いいんだそんなのは。
「アンディ。何度も言うがジロジロは見るな」
「いや、目が吸い寄せられて……」
「全く……女の私が言うのもなんだが、ここのダークエルフ女よりお前の取り巻きの方がよほどレベルが高いだろうに」
「ディアーネさん」
俺は眼前に広がる裸体パラダイスから目を離さずに呟く。
「それでも……それでも美女のおっぱいには違いないんですよ」
「……よくわからないがとても恰好悪いことを言ってないか?」
「男にとっては魂の叫びです」
アンゼロスが抱いていた腕を無言で背中に向けて曲げた。
「あぎゃァァ!?」
「単に節操なしなことを全力で主張してるだけじゃないか!」
「じ、自慢じゃないが俺に節操があったらセレン以外相手に出来ないんだぞ!?」
「そっ、それでも少しは考えて発言したらどうなんだよ!」
「まあまあ、アンゼロス、あまり騒ぐな。周りに迷惑だぞ」
ディアーネさんが苦笑しながらとりなす。
そこにルナとヒルダさん、そしてノールさんがぱしゃぱしゃと近づいてきた。
「おまたせー☆」
「まだねむい……あとなんか暑苦しい……」
「猫ちゃん、ほらちゃんと歩いて。転ぶわよ」
ルナは日向ぼっこでいい気分だったらしく、オアシスについた今も若干眠そう。それを支えるようにして連れてきているノールさんは本当に面倒見がいい。ナンシーさんの介助で慣れてたせいなのかもしれないけど。
「ほらアンディ。こっちの方がずっと見ごたえがあるだろう? それにいくら見ても誰も文句は言わないぞ」
「なになに、何の話?」
ガヤガヤと他の客も騒がしい中、楽しそうに顔を近づけてくるヒルダさん。
「アンディがよその女の乳を何かと追うのでな」
「あ、いけないんだー。恥ずかしがらないのがマナーだけど見世物でもないんだからね☆」
ヒルダさんからの注意も拝聴しつつ、ふらふら眠そうなルナの肩をノールさんから受け取ると、ノールさんはニヤッと笑ってくねっとポーズを取る。ぷるるん、と巨乳が晴天の日差しの下で揺れた。
「本当にスケベなのねー。でも、目の前にこんな上玉がいるのに目移りなんてしてる暇あるのかしら?」
「いやその、まあ……」
さすがに自分のカラダの「魅せ方」を熟知するノールさんだ。彼女が思わせぶりなポーズを取るだけで視線が離せなくなる。周りの裸も気になるんだけど、その気取った腰つきは圧倒的な存在感で俺の視線を引きつけた。
そんな俺の様子を見てディアーネさんとヒルダさんは感心したように頷く。
「やるわねぇ」
「さすがのアンディもノール姉上のフェロモンには抗えないか……」
「女として修練は積んでるつもりだけど、こと男を引き寄せる技に関してはノールちゃん最強よねぇ」
「ふふ。引き寄せた後の弟君に連敗なんだけどね♪」
「私とノールちゃんとディアーネちゃん、足して割ったら無敵かもね」
「ま、待て姉上。私は二人ほど女としての実力に優位はないぞ」
「やだ、本気で言ってる? 顔は一番可愛いし、そのすっごい一途なところとか最強じゃない☆」
「私も姉さんもカラダはともかくココロがちょっと汚れてるもんねぇ」
「よ、汚れてはいないわよぉ☆ でも内面的魅力はディアーネちゃん一強は揺らがないわよね」
それぞれ胸を強調するように抱き寄せ、ノールさんに至っては軽くダンスをするように振りをつけて俺に裸身を余すところなく見せ付けながら「女としての魅力」談義。
甲乙つけがたいのは同感だけど、段々周りの客もノールさんのノリに触発されて真似した感じに踊る娘が出始めている。
ノールさんは完全に即興でお喋りついでにふざけているだけなのだが、特に夫婦や恋人同士、あるいは小さい子などがノールさんのダンスに魅了され、同行者である夫や彼氏、あるいは友達や父親に「あんな風に綺麗に見える?」とばかりにやって見せ始めているのだった。
気づいた時にはそのダンスは波紋のようにオアシス全体に広がっており、自然と男衆は手拍子で自分の連れ合い、あるいは特に関係ない相手に目移りして耳を引っ張られながら合いの手を入れ始めている。
自然発生的な、突発的な、オアシスの全裸ダンスタイム。
「やだ、なんか凄いことになってきちゃった」
「さすがはノール姉上だな」
このノリでただ突っ立っていると逆に浮いてしまう。見よう見まねで自分たちも身を揺すりながら、ディアーネさんとヒルダさんも苦笑する。
楽器なんてない、ただ手拍子と女たちの好き勝手な身振りだけなのに、それはどんどん白熱して、気づけば百人以上のオアシスすべての女が水の上でぱしゃぱしゃと踊り、男はしゃがんでそれに手拍子を打つ熱狂の宴になってしまっていた。
ちなみにアンゼロスはそんなのに混ざれないので俺に抱きついたまま一緒にしゃがみ、ルナは俺に上半身支えられているのをいいことにそのままもたれかかって寝息を立て始めている。
「全く、みんなノリがいいんだから……」
自分の魔術的なまでのダンスの力を知ってか知らずか、ノールさんはついに本格的に全裸ダンスを始める。巻き上げる水滴すらも演出にして、この熱狂のダンスパーティーの女王に相応しく大胆に華麗に水中ステップを刻む。
あくまでも美しく、どこまでも扇情的に。
手拍子を打っていた男たちの何人かがそっと手拍子をやめ、股間に手を下ろしたのを俺は横目見ていた。その先はちょっと想像したくない。
が、俺の股間はアンゼロスが密かに握っているので人のことは言えない。
「……る、ルール違反だぞ」
「性行為じゃないよ、狭義では……♪」
アンゼロスが囁いて、水の中でもどかしい速度で擦ってくれる。
ルナの素肌を抱き、寝息を聞きながら。ノールさんの生まれたままの絶品ダンスを見ながら。
俺はオアシスの中で密かに射精していた。
(続く)
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