精霊祭、新年祭。
二つの祭りを消化し、我らがディアーネ特務隊は再び落ち着きを取り戻した。
いや若干三名ほど別行動を取っているが基本的に影響はない。
さて。
そうなると俺は暇になり、鍛冶の修行に温泉にエッチに思う存分獅子奮迅、と言いたいところだったが実はちっとも暇じゃなかった。
「違う! 発音はもう少し舌を溜めて! ユではない、ィユじゃ!」
「違いがわからない……」
「下手すると意味が変わるんじゃ。多少大げさでも良い、この発音は気をつけておけ」
エルフ語の特訓だった。
もちろん文法や単語なんかの勉強はすっ飛ばし。現時点であと十日しかないのになまじっかな学習してもしょうがない。
ただ、アイリーナが幻聴で送り込んでくる言葉を発音するのにコツがいくらか必要らしく、いくつかの聖句を復唱するとすぐに問題点の指摘と特訓だった。
「こんな発音北西語にねえよ……」
「じゃろうな。わらわとてそちらの言葉を喋れる、百も承知じゃ」
「こんな舌がひん曲がりそうな発音だらけだなんて、聞いてるだけだとわかんなかったよ」
「それは悠久のエルフ言語を馬鹿にしておるのか」
「何でそういう話になるんだよ」
「冗談じゃ。そうイライラするでない」
しかしまあ、見た目が小さいことに目をつぶればアイリーナはなかなかいい講師だった。根気強いし表現も豊富で、教わる側は理解の糸口が掴みやすい。
スリード工房の先輩鍛冶屋にはその辺ができてないのが結構多くてなあ。まあ「嫌なら出てけ」がまかり通る体育会系の鍛冶屋の上下関係じゃしょうがないんだけども。
「しかしアイリーナもエルフ語の授業となると結構真面目なんだな。すぐにおやつだのえっちだのに走るかと思ってた」
「貴様は仮にも大陸のエルフの頂点の一人に対してどういう感想を持っておるのじゃ。わらわは獣か」
「こども」
「そなたの六倍近く生きておるわ!」
そうだった。
「だ、大体その子供相手に首輪をかけて幾度も幾度も交わりを教え込んだのはどこの誰じゃ……」
「俺」
「少しは反省せい、ド変態の調教師め」
「反省して首輪を回収しようかと思います」
「にゃっ、何をするのじゃ、こら、手を離せっ!」
「反省しろって言ったじゃん」
「首輪を取り上げる以外でじゃ!」
反省しろって言ったくせに雌奴隷をやめる気はないらしい。
それでいいのかエルフの頂点。
午前中に雪原でランニングと射的訓練、お昼から2〜3時間ほどアイリーナのエルフ語授業を受け、しばらく街を散策してから夕方に適当なエルフの子と刻紋教本解読。
夜は温泉入ってちょっと酒場で酒飲んで、その後は夜更かしせずに就寝。
これが最近の俺のスケジュールだ。
本当はジャッキーさんちで鍛冶もやりたいし、えっちなこともしたいけど、あんまり頑張りすぎるとどこかで疲れて居眠りしてしまう。
それはよくない。体力やクロスボウの腕の維持はもちろん、エルフ語も刻紋も俺にとってはおろそかに出来ない大事な知識だ。
休むこともまた、それらを向上させるための大切な布石になる。霊泉は万病を癒すが人を無敵にはしてくれないのだ。
というわけで、鍛冶はしばらくお預け。
えっちはせいぜい寝る前に一度すればいい方。
本当はマイアやライラ、ルナなどはたくさん甘えたいだろうが、俺がエルフたち相手に恥をかかないためだと知っているので、それぞれ協定を作って譲り合っている。
本当にいい子達でありがたい。
俺がアイリーナからの講義を受けている書斎のその隣、男爵邸の客間では、シャロンとテテスが着々とクリスティ直伝の魔法を体得しているようだった。
「よっ、テテス」
「スマイソン十人長」
アイリーナの授業が始まる前に軽く挨拶する。
「どう、調子は?」
「ぼちぼちですねー。エルフの魔法は概念が独特で難しいです」
ふんわかした笑みを浮かべるテテスの横で、シャロンが肩をすくめる。
「まるで普通に苦労しているように聞こえるわね、テテス?」
「えー、苦労してますよ?」
「仮にもエルフたる私よりも手早く習得していっているくせに。昨日なんか4つもマスターして」
「バスター候なら一日で20スペルは盗み取ってるところだと思いますよ?」
「同じ基準で物を言うあなたが不気味です」
……オーロラやルナより年下で、人間族でコレかぁ。
天才っているところにはいるよなあ。
そして、祭りや街の人々の生活とは一歩距離を置いている気配のあるネイアはというと。
「綺麗になったわよー♪ いやー、ヒルダ先生渾身の整形外科技術が炸裂したわー」
「そんなに厄介だったんですか、前回の怪我」
「場所が場所だったでしょ?」
「えーと……左胸?」
「うん。さすがに心臓に傷がつく位置じゃなかったけど、血管とか神経圧迫とか考えるとやっぱり危ないところよ。最新の外科医術とお薬と魔法と霊泉の霊験総動員でしっかり治しました。戦士としても後顧の憂いは断ちたいし、それでなくても女の子の体は芸術品だもの、妥協は許されないわ」
普段はエロエロのお気楽お姉さんだが、わざわざこの治療のために南方行きを断念したくらいだ。ヒルダさんの医療への責任感は並々ならぬものがある。
「というわけでネイアちゃん、見せてあげよー☆」
「見せるものじゃありませんって!」
ノリノリでネイアの着ているシャツを剥ごうとするヒルダさんと抵抗するネイア。
「いいじゃん、あの時はちゃんと見たんだし」
「緊急時のことですから!」
やっぱり改めてとなると恥ずかしいらしい。
「別に下着まで脱げなんて言ってないのに」
「それでも、恋人でも夫でもない人にそうそう見せるものではないでしょう……」
コレが普通だ。うん。わりとその辺すっぽ抜けてる俺の周りがアレなだけだ。
「でもネイアちゃん、結婚する予定とか相手とかないんでしょ?」
「それは確かにそうですが、だからといって」
逡巡は強い。
うんうん。大変健全でよろしい。
だが。
「ふふふ。ネイア、抵抗はやめるんだ」
「え、スっ……スマイソンさん!?」
俺がネイアの耳に顔を近づける。赤くなるネイア。
「約束、あるだろ」
「え……?」
「一緒にお風呂入っておっぱい揉ませてくれるなら、万が一の時にお前の言う通りにしてやる……って」
「え、ええっ……そんな約束……でしたっけ……?」
「ああ」
力強く頷く。
小声だったがネイアを挟んで向こう側にいたヒルダさんにも聞こえているようで、何故か力強く親指立てていた。
「で、でも、そんな……実際は万が一なんてことにはならなかったわけですし……」
「なってたら俺は死体と風呂に入らなきゃいけないわけだが」
「…………はぅ」
ネイアが帽子を下ろして目元を隠し困惑する。とは言っても真っ赤になった耳は隠せない。
「……お、お風呂……一度だけですよ?」
「うん」
長い逡巡の後に消えそうな声でネイアが呟く。
俺はしっかり頷く。
まあこの場合、男湯に入るにも女湯に入るにも困る。
宿屋にも水浴び部屋くらいはあるが、風呂を焚く設備はない。温泉に行けば常にかけ流しで温かいお湯に浸かれるこの街で、そんなもの用意してるのは男爵邸くらいだ(そして数年来使われたことはないという)。
妊婦や病人でもないのにそれ用の小浴槽使うのも気が引けるし。
だがそこは変な方向に張り切ったヒルダさん。
「クリスティちゃんにお願いしたら銀の氏族の泉にどうぞって♪」
「…………」
「よし、いこうかネイア」
「……またの機会でもいいんですが」
妙に物分かりのいいクリスティも謎といえば謎だけど、まあクリスティも相当毒されてるしなぁ。何にとは言わないけど立場上。
常春の結界内、銀の氏族領。
その中央たる氏族庄の近くにある、森の泉。ダークエルフのヒルダさんやハーフのネイアには渋い顔をされそうなものだが、俺が先頭で歩いていればもはやフリーパス状態で歓迎してもらえるのがこの辺だ。
最近はミスティ・パレスからの下達もあり、俺への態度はますます軟化の方向で安定している。まあ外敵として長い間人間排撃を進めていた年寄りエルフの肩身が相当狭くなったそうだが。
実際のところまるっきり俺は彼らに良いことをしているわけでもなく、本来ちょっと心苦しいところだが、今回はそれに甘えさせてもらおう。
ポルカの部屋の中よりもずっと爽やかで暖かい空気を胸に吸い込み、ネイアとヒルダさんを伴って森の泉に向かう。
泉では水浴び好きのエルフが例によって数人入浴していた。というか入浴現場を目撃した。
「ご一緒しますか?」
「またそのうちに」
彼女らの誘いを丁重に断る。非常にご一緒したかったが、今回はネイアだ。
……空いている泉を見つけて景気よく服を脱ぎ捨て、ざばりと泉に浸かる。
ポルカと源泉を同じくする温泉は肌を刺激しない程度に暖かく、いつも誰かが入っているのも納得できる心地よさだった。
「ネイア、ヒルダさん」
「うぅ」
「はいはい、ここまできたら粘らない粘らない」
ヒルダさんもスルスル脱いで全裸になり、服をその辺の枝にかける。
この人のカラダもいいなあ。相変わらず。
いつもはディアーネさんとかシャロンとかライラとか、他のナイスバディと抱き合わせだから格別に注目しづらいけれど。
森の木々の中で惜しげもなく晒された褐色の明朗美女の曲線は、それだけで男の視線を釘付けにしてやまないものだ。
……が、そんなヒルダさんは泉の中で俺に並んで座り、ネイアにぱたぱた手招き。
ネイアも覚悟を決めたように帽子を枝にかけ、服を脱ぎ始める。
「や、約束したことだけですよ? それ以上は駄目ですよ?」
岩に立てかけた閃光剣が虹色に脈打つ。「ネイア、約束が増えているのに気付いているか」とでもツッコミたいのだろう。
ごめん、ちょっとそこは黙っててもらいたいのでヒルダさん連れてきた。
ネイアはシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ。
「っ…………」
チラッとこっちを見つつ、耳まで真っ赤にしてブラジャーを外し、パンツを躊躇いながら下ろす。
うんうん。
「いいわねぇ、ああいう初々しい仕草」
「ですよね」
「流石ねアンディ君。わかるわー」
ヒルダさんは両刀使えるだけあって、俺が美しいと思うポイントをよく理解してくれた。
「勝手に寸評しないで下さい」
ネイアは少し怒ったような顔をして(でも真っ赤)、俺たちと同じように泉に入り、しゃがみこむ。右腕で胸を、左手で股間を隠していたが、その仕草がかえって新鮮だ。
「よし。それではネイア。……揉ませてもらう」
「……あの、本当に揉むって約束しましたっけ?」
「俺の記憶が確かならば」
閃光剣が二度ほど脈打った。「その記憶は全然確かじゃないぞ」と突っ込みたいのだろう。
ごめん、黙っててね。
……ゆっくりとネイアの腕を取り除け、その身長の割にはしっかり張り出した丸いおっぱいを、可愛らしい乳首が掌の中心に来るように掴む。
「……綺麗に治ったじゃん。あんなの食らったのに」
「それは……ヒルダ先生の腕前です」
「ふふー。感謝して肌を大事になさい。女の子の肌は宝物なんだからね。ネイアちゃんが誰とも付き合う気がない、勇者として人生生きるって決めてても……少なくともウチのご主人様は、あなたの肌が綺麗な方が喜ぶんだから♪」
「私はそれを喜び返していいのか微妙なところです……ん、ちょっと痛いです、そんな力入れないで……」
「それよりヒルダさんもご主人様とか言わないで下さい。妙な気分になります」
「ネイアちゃんはおさわりのみだけど先生はなんでもアリよー?」
「そーゆーことするなら私が立ち去った後でお願いします……」
「俺はまだネイアのおっぱい堪能したいからまた次の機会で」
「いえ、ご遠慮なさらないで、スマイソンさん」
「逃げるなネイア。俺はお前のおっぱい揉むことをとても楽しみにしてたんだぞ」
「だからそういう反応に困ることを言わないで下さいったら……うぅ、なんなんですかこの状況」
真っ赤になった耳を垂らしっぱなしのハーフエルフのおっぱいをひたすら揉む午後。
ヒルダさんは俺の背中にくっつきつつ満足そうにネイアのおっぱいが歪むのを眺めている。
……あー、とても幸せ。
(続く)
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