三階建てのクロスボウ隊の隊舎は一階をオーガ(重い)やドワーフ(足が短くて階段でコケやすい)が優先的に使い、残りの部屋を準兵正兵なら二人共有、十人長以上は単独で使うことになっている。
 俺の部屋は二階の端っこ。すぐ近くに外への階段もあり、不便ではないが食堂や風呂からは遠いのでやっぱり不便かもしれない微妙な位置だ。

 んで、そこからさらに100メートルほど離れた地点に女子隊舎がある。
 もちろん女子隊舎の方に住人の許可なく近づくのは一応禁止。
 俺も(まあノコノコ近づいても文句言われないとは思うけど)とりあえずは近づかないことにしている。
 が、女子がこっちに来る分には(炊事や風呂のこともあるし)全く無制限で、俺の部屋が一番入りやすい位置にあることもあり、周りが思っている以上に忍び込み事件は発生しているのだった。


「……すー」
 朝、目が覚めたらマイアが俺のベッドに入っていた。
 数日にいっぺんの割合で、いつものことだ。
 週末のポルカ訪問時以外はマイアは暇人。
 もともと軍籍であるディアーネさん、アンゼロス、オーロラ、現地雇いのスタッフ扱いのセレンとヒルダさんはやることがあるからまだいい。アップルは普段街で占い(最近助手兼用心棒としてミカガミの妹と組んでるらしい)をやっているし、ジャンヌとライラはポルカでまだ温泉に入っている。
 マイアだけ普段やることがなく、仲間外れにされている気がするのか、こうして強引に構ってもらいに来るのだった。
「マイア」
「……すー」
 俺にしがみ付くようにして寝ているマイアは無防備。寝顔は幼い。
 これが一匹で街一つを丸ごと氷漬けにできるブルードラゴンとはとても思えない。
 その髪を梳くように撫でてやると、マイアはすぐに目を覚ます。
 元々ドラゴンは睡眠の必要性が薄く、その気になれば一年くらい寝なくても別に平気だというから、それほど深く眠ってはいなかったのだろう。
「アンディ様……」
 撫でてやると猫のように俺の胸に顔を擦りつける。可愛い。
 注意しようかとも思ったが、まだ起床の鐘も鳴っていない。もうすこしくらいマイアの好きにさせてやってもいいかと思い、またマイアの髪をひと撫で。
「……アンディ様、今日もおちんちん……勃ってる」
「そりゃまあ、人間の生理現象だから」
「入れる?」
 純真な目で直球で聞かれると困ってしまう。
「……まだ眠いだろ」
「眠くないよ」
 マイアは掛け布の中でもぞもぞと動き、ぽいぽいっとベッドの脇に服と下着を投げ捨てる。
 手を這わせると全裸になっていた。
 少しくすぐったそうにしながら、まだほんのりとしたふくらみに過ぎない自分の乳房に俺の掌を擦り付ける。
「アンディ様、今日も一日頑張って……♪」
「それは人間の世界だとちゅーしながら言うもんであって、ちんこに腰落としながら言うもんじゃ……」
「いいの。私とアンディ様ルール」
「……ったく」
 馬乗りになって身を起こすマイア。
 服をちゃんと纏っていて、座っている位置がもう少し前だったら、休日のパパを起こす可愛い娘って感じで微笑ましい感じかもしれない。が、にっこり微笑みながらクチクチと腰をゆするマイアは完全にオトナの色気をかもし出していて、実に妖艶だった。
「ふふっ……アンディ様、昨日誰かとシた?」
「……セレンとヒルダさんに一回ずつ」
「じゃあ今日は濃い目の出してくれる?」
「……かも」
 一応前日にセックス履歴があるのに、それが二回だから「まだ濃い目」と期待されるあたり俺フル稼働してんなあ、と思わなくもない。
 しかし期待されているからには頑張って濃いのを出そうと思う。
「んっ……あ、ふぁあっ……深いっ……アンディ様、子宮コツコツしてぇ……♪」
 まだ少し眠気の残る頭でマイアの身体をさわさわと撫で回しながら、その小さな膣をしっかりと時間を掛けて楽しみ、マイアの表情が悩ましげに歪むのを見て楽しむ。
 肉付きが薄いが、餅のように触り心地のいいお尻を思う存分揉みしだき、その深部にある肛門に遠慮なく中指を捻じ込んでしまう。
「ひぎ、ぁああっ……♪」
 マイアは苦悶の中にも喜悦の混じった声を上げ、俺の上に身を倒した。
 そしてもう起き上がることは諦め、そのままの状態で腰を揺すぶり始める。
「はぁ……はぁっ……アンディ様、アンディ様っ……♪ しゃせー、してっ……私のお腹でアンディ様の子供の素、しごき出してあげるっ……♪」
 マイアの小さな身体が俺の射精を欲し、熱く火照りながら揺れる。
 その可愛らしい顔が淫欲に染まり、普段の少し無感動気味で他人に愛想のない顔からは計り知れないほどに歪む。
「マイア……っ!」
「アンディ様……アンディ様、好きぃっ……♪」
 ガクガクガク、と激しく動くマイア。俺をイかせようとするこの激しい動きは体力のあるドラゴン娘ならではのもの。ほとんど自虐的なまでに俺の亀頭に子宮口を打ち付け、そして射精が始まると同時にギュウウッと食い込むほどに子宮口をくっつける。
「っはああっ……!!」
 ビュクッ、ビュクッ、と精液がマイアの中に注入され、マイアがこの上なく幸せそうな表情でペッタリと脱力する。
 ほっぺた同士をくっつけて、しばらく荒い息を聞かせあう。
「はふぅ……起きる?」
「ああ……もうちょっと休んでからな?」
「休んでる間、おちんちん抜かないままで、いい?」
「……またしたくなりそう」
「そしたらまた好きなだけ……♪」
 などと言っていると、起床の半鐘が鳴り響き、ほとんど同時にアンゼロスが訪れる。
「アンディ、おは……って朝っぱらから何してるっ!」
「……あー」
 うん、なんとなくこんな結末だとは思ってた。
「見ればわかる。えっちしてる」
「無駄に堂々と尻を向けるな!」
 怒るアンゼロスと邪魔されて不機嫌なマイアの言い争いを聞きながら、俺は頭を振って眠気とセックスの残滓を吹き飛ばした。


 午前の訓練中、ディアーネさんがハーモニウムから帰還した。
「思ったよりもうまくいきそうだな。司令部付きの参謀から聞いたが、クイーカの商王宮殿にもゴールドアームが来て苦慮したらしい」
 旅の疲れを微塵も感じさせず、溜まった書類仕事をこなしながらそう教えてくれた。
「軍団司令部も耳が早いですね……」
「まあ飛龍便があるからな」
 その辺の情報力がセレスタの強みだな。
「当然トロットの王都にもゴールドアームが行ったはずだが、そっちの情報は入っていなかった」
「トロットのことは北方軍団には直接関係ないでしょうし」
「だな」
 ディアーネさんは羽ペンを走らせながら器用に会話を続ける。
「それにレンファンガスも、属国化しているトロットの現状を知らないはずはあるまい。それでもトロットを頼ったのは、ユリシス王ならばもしや……という目算があったんだろうな」
「先王……?」
「ああ。ユリシス王は老獪な男だ。この前の剣聖旅団のように、国内に員数外の戦力を伏せておくという芸当もあり得る。その力でセレスタを破る……といった真似は出来なくとも、今回の探索行に貢献できたならばその功績をもって国際的に後ろ盾を作り、遠交近攻でセレスタの影響力を減ずるといった政治工作もできる。目算通りにいけばレンファンガスとトロット、両者にとって旨い取引になったろうな」
「でも若すぎるルースじゃ、さすがにそこまでの仕込みも期待できない……ってことですか」
「ああ。ルース王になりたての現状ではそんな底力を王宮に期待できまい。最悪、謁見すらせずに帰ったかもしれないな」
 その王座交代を後押ししたのは他ならぬ俺たちだ。
「……ちょっとだけ責任感じますね」
「なに、お前の……我々のしたことは間違っていないさ。放っておけばどちらにしてもユリシス王が在位はしていまい」
「……そう、ですね」
 ……まあ、確かにそうかもしれない。思い上がりか。
「それより、さっきオーロラに聞いたんだが」
「!」
 ドキリとする。
 ぷ、プロポーズの話かな?
 考えてみればアンゼロスからというのはちょっと順番間違ってる気もしなくもない。
 責任の問題で言えばジャンヌからが望ましいし、時系列で言えばセレンとアップル、そして道理で言うとディアーネさんが最初というのが筋かも。
 ……と一瞬テンパったが。
「アンゼロスが内緒で格闘術の訓練なんかしているというじゃないか」
「……は、はぁ」
「ちょっと現場に連れて行け」
 いつの間にか書類を片付けていたディアーネさんは、羽織っていた上着を椅子に投げて、すっくと立ち上がる。
「それこそ私の出番だろうが」
「……え、ええ?」


「アンゼロス、正面から戦おうとするな。お前の主戦法はあくまで剣だ、徒手空拳になってまで同じつもりでやるんじゃない」
「ええっ……?」
「非常時のための戦術訓練ではプライドを捨てろ、長期戦という概念を捨てろ! 守るのではなく最速で倒し、状況を変えることだけを狙え! ベッカーの動きを思い出せ!」
「は、はいっ!」
「それとボイド、お前はそれだけ足腰が出来ているなら体捌きをもっと考えろ! 常に視界を確保し、包囲状態を回避し、相手の来る方向を制御しながら戦うんだ! エースナイトの基本だぞ!」
「ぼ、僕はエースナイトなんて……」
「つべこべ言うな、接近戦をするんだろうが! エースナイトは接近戦のエキスパートだ、同じ戦法ができればそれだけ有利に戦えるということだ! 身につけろ!」
「ひぃぃ」
 説教しながらアンゼロスとボイド、ついでにアイザックをも同時に相手するディアーネさん。
 三人同時に襲い掛かっても恐ろしいことにちっとも当たる気配がない。
「アイザック、攻撃がワンパターンだぞ! そんな大振りばかりでは疲れるばかりだ、敵を追い詰める動きを考えろ!」
「はぁ、はぁ……う、ウスッ」
「だから! アンゼロス、そうじゃないだろう! 狙うのはガード崩しじゃなくて急所! それと背後! 飛び回るな、動きに無駄が多すぎる!」
「え、えええっ!?」
「ボイド、足を止めるな! 一つの場所に立ち止まるな! オーガの力なら攻撃はそう何度も要らない、振り回さずに一撃のチャンスをしっかり待て!」
「了解、っス!」
「それとオーロラ、お前も入れ。練習剣を使って構わん」
「わ、わたくしもですの!?」
 エースナイト二人とオーガ二人。まあ確かに本物のマスターナイトなら相手できて当然なんだろうけど、傍で見てる分にはもはや異次元の戦いだ。
「アンゼロス、オーロラ、衝撃波を何故絡めない!? アイザック、石とか投げても構わんぞ。ボイドもだ」
「くっ……」
「と、捉えて見せますわっ!」
「ええい、ボイド、やるぞ!」
「了解っス!」
 結果。

『うわああああ』

 衝撃波と衝撃波がすれ違って竜巻状態になり、よせばいいのに奇襲で石を砕いて砂つぶてにしたアイザックの攻撃とあいまって、森の中なのに砂嵐状態になる大惨事。
 四人は見事に自滅して、ディアーネさんは木々を飛び移って、遠間で見物していた俺のところに着地しつつ溜め息。
「アイツら、まだまだ修行が必要だな」
「いや、ディアーネさんに勝つのはちょっとハードル高すぎると思うんですが」
「……あの四人ならそれほど遠い話でもないと思うがな」
 肩を竦めて。
「さて、やつあた……運動も済んだことだし、本題だ」
「?」
「私にもそろそろプロポーズのひとつ、してくれていいんじゃないか?」
「!」
 やっぱり来たー!?
 切り株に座ってた俺の顎をクイッと持ち上げ、妖艶に笑うディアーネさん。
 と思ったら、向こうから砂まみれのアンゼロスとオーロラが身体中をバシバシ払いながら復活。
「まだ終わりじゃないですよ……」
「やっぱり八つ当たりでしたのね」
 二人ともちょっと怖い。
 それを待っていたようにディアーネさんは顔を上げ、笑った。
「よし。続けよう」

 またコテンパンにされるエースナイトたち。
 ……っていうか、ディアーネさん、アイツらの鼓舞と俺のプロポーズ、どっちが狙いだったんだ?
 わかんねえなあ……。

(続く)

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