出迎えに来た居残り組の雌奴隷は半分ほど。
セレンはもう臨月で気軽には動けないし、クリスティやアイリーナは執務中。セボリーとキュートは酒場で昼営業中だろうし、ローリエもおそらく場所的に遠い教会の方にいるはずだ。ミリルも宿屋の手伝いかな。
「オレガノは服屋抜け出してきていいのか?」
「仕立ての仕事は早めに進んでますし、店番は店長におまかせしてきました♪」
「フェンネルも仕事ないのか」
「ご心配なく。ジャンヌさんのお目付け役も男爵様に仰せつかってますから」
真っ先に飛びついてきたジャンヌを腰で受け止めて頭撫でつつ心配してみる。
一応は嬉しいんだけどね。取るものも取りあえずに駆け寄ってきてくれるっていうのは。
アップルやマローネはまあ、心配はしない。二人とも学んでることはあるだろうが、定職というほどではないし。
「ヒルダさんが負傷してるってことは……何日か前にディアーネさんがこっち来てた間に、また何か大掛かりな戦いでもあったんですか?」
アップルが眉根を寄せる。
また、って。いや確かに「また」なんだろうけどさ。
「いや、大掛かりな戦いはディアーネさんが片付けたし……ヒルダさんが負傷したのは、ちょっとした油断で悪い奴に調子こかせちゃったんだ」
「悪い奴……ですか」
「アンゼロスたちがついてながら失態だなや」
「……返す言葉もない」
アンゼロスが苦々しい顔をする。とはいえ、ラビネスに薬をエサにたぶらかされた患者に不意を打たれたってことだし、アンゼロスが悪いばかりでもない。
「アンディがかっこよく脅して、うまく収めた」
ルナがちょっと得意げに説明してくれる。居残り雌奴隷たちは「えー見たかったー」「アンディは脅し合いだと強ぇだな」「そうなんですか」などとワイワイ。
「それよりご主人様、その……」
マローネが困った顔をした。
「……ものすごく精液の匂いがします」
「あー……やっぱり?」
猫獣人には強烈か。
「わたくしたちも道中たっぷり流し込まれたりかけられたり飲んだりいたしましたから、相当なものでしょうね」
「ま、まあ……それもまた勲章と言えるが」
「言えませんよそんなん! エロスメルと同列に並べたら失礼だと思わないんですか勲章様に! 目を覚ましてくださいよアルメイダさん!」
「あらナリス、でも雌奴隷という仕事には勲章は無用のものよ? エッチの印こそ誇るべきものじゃないかしら」
「騎士長はちょっとエロに前のめりになり過ぎだと思います。フェリオス大騎士長が現状のあなた見たらなんて言うか」
おそらく呼吸が止まって何も言えないと思う。あと命の心配をするべき。
「それでは、温泉にご案内しますか? それとも霊泉水での体拭きに留めます?」
「温泉に直行で! っていうか村ん中この匂いプンプンさせて練り歩かす気ですか! そういうプレイですか! いや先に言っときますが騎士長とテテスちゃんはちょっと黙ってて」
「あら」
「ちぇー」
ナリスがかつてないリーダーシップを発揮して、同行組の女子をみんな連れて女湯に動き始める。
「ついてこないでくださいよ! こんだけ全員汁まみれにしたんだから後始末くらい大人しく待っててくださいよ!」
「わ、わかってるよ」
釘まで刺される。
「別にいーんだけどなー」
「いやもうテテスちゃんが変態なのは諦めるけどエロエロぬるぬるばっかりじゃなくて清潔で可愛い女の子でいようって意識は捨てずにいようよ! 大事だよその辺!」
「確かにそうね……」
「たまにはナリスもいいことを言う」
「えー。フルタイム肉便器でもいいけどー」
「テテスちゃん、お風呂でじっくり話し合おう。おねーさんはとても危惧してる」
「え、お姉さんってナリスちゃんのこと?」
「そこは素直に通そうよ!!」
去り際にまで漫才を忘れない二人を見送り、さて俺もひとっ風呂、と男湯の方を目指して一歩を踏み出すと、その手をはっしとジャンヌに掴まれた。
「待つだよ」
「あ、えーと俺自身も割と相当なセクシースメルに包まれてるのでひと浴びしようかなと」
「それはええだが、今日は別んとこ行くだ」
「え?」
ジャンヌを始めとして、俺と一緒に残った居残り組がにっこり笑った。
ポルカから森に踏み込み、歩くことしばし。
下草は払ってあるものの、踏み固められているとは言えない獣道を辿ると、その先に白い蒸気に包まれた泉がある。
「なんだここ……」
「男爵が教えてくれただよ。森の外にあるのと同じ天然温泉だで」
「へえ……って、ここで浴びるのか?」
「本当はアンディが帰ってくるまでにまともな風呂場を作りたかっただが。まだまだこんなんしかねえだよ」
ジャンヌがすまなそうに笑う。指差した先には木で組んだ浴槽。石を詰まれ、噴水状に高くされた泉の水を樋で受け、中にはなみなみと湯が張ってある。
……が、ちょっと組みが甘いのか、浴槽の側面からはところどころ水が漏れているのを確認できた。
「急いで日曜大工で組んだから小さいし、あんまりしっかりもしてねえだ。いずれは十人でも二十人でも入れるでっかい石の風呂にするだよ」
「いや、まあこれでも充分だけど……」
「アンディが今日、たまたま体流すだけの場所じゃねえだ。いずれはアタシらみんなでまったり混浴できる風呂にするだよ」
「……って、そんなんいいのか? 男爵よく許したな」
「毎回いつもの男湯女湯で隠れてすけべするよりはずっとええだよ」
そりゃそうだろうけど。
……と思っていたら俺の服をいそいそと脱がしにかかるオレガノとマローネ。
「い、いや、自分で脱げるよ!?」
「このまま私たちが洗ってしまいます♪」
「魔法で乾かせば三十分でばっちり乾きますし」
マローネが言うので「いや、それは誰がかけるの」と言いそうになったが、よく考えたらマローネも結構魔法の才能ある子なんだった。
「ご主人様のお体は」
「私たちで洗います♪」
そしていそいそと自ら服を脱ぎ始めているのはフェンネルとアップル。
「アタシはこっちで先に入ってるだよ。たっぷり洗ってもらうだよ」
「ジャンヌは洗ってくれないのか」
「オレガノたちが風呂の外、アップルたちで洗い場、んでアタシが風呂の中の担当だで。まだ風呂狭いからこういうシフトになるだよ」
「風呂の中担当って……」
「もちろん、なんでもアリだ♪」
ジャンヌはざばんと風呂から立ち上がり、こっちに尻を向けて挑発的に振ってみせる。
「もちろん洗ってる最中の私たちもですよ♪」
「セレンみたいに妊娠させてくださいね……♪」
オレガノたちに脱がされた俺は、同じく裸になったアップルに前、フェンネルに後ろからぴっとりと身を寄せられ、耳元にわざとらしく囁かれる。
「帰ったばかりで、今さっきまで別の女たちと乱交してた俺に……全く」
「お疲れならおっぱいいじりだけでもいいんですよ?」
「私たちの本来の役目は洗うことですし……♪」
重い大板をすのこ状に荒く組み、かけ流しの霊泉水で濡れた洗い場で、同じく木で作った真新しい椅子と手桶を使って女二人がそっと俺の頭、そして背中を洗いにかかる。
頭に取り付いて目の前で揺れるアップルのおっぱいを下から両手で揉み、切なそうな嬉しそうな鼻声を聞きながら。
「こうして分担で奉仕してもらうってのもいいなあ……ちょっと洗濯だけの二人に気が引けるけど」
「私たちも抱きたいならいつでもいいんですよー」
「でも目の前にいるコと全員必ずエッチするって大変じゃないんですか? 待つのも奴隷の心得だと思うんです」
「んだ」
「好きにできるんですよ、アンディさんは……みんなのこと♪」
「例えば、おくちでして欲しいだけの時でも歓迎しますから、男爵様のお屋敷にいらしたときはお気軽に……♪」
昼なお暗い森の緑の匂いに癒され、肌を流れる霊泉の水に癒され、甲斐甲斐しい女たちにもひたすら癒される。
やりたい放題もいいけど、至れり尽くせりもたまらない。
「アップル」
「はい」
「おっぱい吸いたい」
「どうぞ♪」
「フェンネルは手でちんこ洗って」
「分かりました……♪」
……どこへ行っても手を変え品を変え精液搾られてる、なんて言うと人聞きも悪いけど、激しいセックスの休憩としてゆっくりセックスってのも、今の俺には不思議とつらくない。
色んな美女が俺を飽きさせない。
幸せ過ぎてちょっと怖いな。
(続く)
前へ 次へ
目次へ