地球にはエルフと呼ばれる異種族が相当数潜んでいるのは一部の市民と多分FBIや政府高官やスピリチュアルな人々の間では周知の事実である。

 そして相当数いるのだから彼らの二世や三世も当然いる。
 エルフ同士の地球産二世三世もいるが、地味に多いのは地球人との混血、ハーフエルフである。
 ハーフエルフは能力的にはエルフとそれほど大差はない。
 そもそもエルフは一部の発声能力と知覚能力以外はほとんど地球人と変わらない。
 寿命はとんでもなく長いが、それは地球人と違って老いぬ方法を知り尽くしているからに他ならず、適切な技術を用いれば、地球人とて数千年程度の寿命は簡単に達成できるのだ。
 だから実質的には混血として生まれたことは大したハンデにはならない。純血に比べて最高位魔法詠唱法(トーンキャスト)の習得には時間がかかり、耳の長さも若干短くなるがその程度だ。

 そう、実質的にはみんな大差はない。人間なんて宇宙から見ればどれもちっとも見分けがつかないくらいに似通った動物である。
 だが、人類の歴史は常に些細な違いを発端にして凄惨な事態に発展させ続けてきた。
 地球に潜み、生まれて育てば、先進的文化を誇る異星人といえども多少ならず感化される。人は生まれながらに人ではなく、生まれてから時間をかけて人になる動物であり、それはエルフといえど同じなのだ。
 つまり。

「俺、あんまりハーフの子って好きくないんだよね。なんか俗っぽいって言うか」
「…………」
「ってことで、ごめん」
 地球産純エルフである同級生にそういう理由で交際を断られるハーフエルフもいるのだった。
 彼女の名は本田鈴乃。千歳が丘中学三年。
 父がエルフで母が日本人のハーフである。
 容姿はまあ、そこそこ自信あり。
 生来の利発さで特別な補強学習をすることもなく成績も高めで、運動もまあ飛び抜けているわけではないが、人並み程度にはなんでもこなす。性格も明るめで、敵は少ないタイプ。
 男子から見た物件としてはなかなか良、といえる。
 が、幼稚園からこっち告白五連敗中だった。
 そのうち一件は幼稚園の先生だったからしょうがない。次の一件は小学二年だから相手にそもそも男女意識が芽生えておらず轟沈。ここまでは諦めがつく。
 しかしそれからの三つが全部「お前ハーフエルフだし」である。
 純血のエルフは潜在的にハーフに対して優越感を持っている。それがわかっていて純エルフにばかり恋する彼女も自身どうかと思わなくもないが、それにしたって自分がハーフであることを常々呪わしく思うのだった。
「死のうかな」
 彼が去った中学校の屋上から、鈴乃は発作的に飛びたくなった。
 鈴乃は飛ぶこと自体は可能である。
 魔法に対しても才能があり、ハーフエルフとしては珍しく小学校を出る頃にはトーンキャストを扱えるようになっていた鈴乃は、自身の身体を宙に浮かせることはできた。
 しかし今回の場合は深刻に死を考えている。
 周りにはフられたくらいで何をと思われるだろうが、鈴乃にはもう、自分がハーフエルフであるという事実だけで、世の中が悪意に満ちた演劇か何かにしか見えなくなっているのだった。
 エルフには蔑まれ、地球人にも本質的な部分で混じれない。ハーフエルフ同士で傷を舐めあって人生を過ごせとでもいうのか。冗談じゃない。
「うん死のう」
 遺書を書こうかと思ったがやめた。死んだ後に同情なんて別に欲しくない。
 彼がせいぜい自分の死を知って一生もののトラウマでも抱えてくれればいい。
 そう思って靴を脱いで揃え、フェンスを乗り越えて、ちょっと地上の遠さを実感して思い留まろうかと検討する。
 よく考えたら別に死ぬほどのことじゃない。
 人間死ぬ気になれば他にもリベンジの目はいくらでもあるんじゃなかろうか。
 うんやっぱりやめよう。遺書とか勢い込んで書かなくてよかった。
 などとあっさり趣旨替えして戻ろうとする鈴乃。だが風一陣。
 スカートフルオープン。
「ぎゃあ」
 およそ可愛らしくない声を上げてフェンスの上でスカートを押さえ、手を滑らせた。
 足を滑らせた。
 無理してフェンスを保持しようとして膝を使って挟んでみるも崩れた体勢を立て直せず、そのまま屋上の突端に逆さに落ちて脳天強打。
 落下しながら視界が暗転する。
 これ絶対死ぬ、と思いながら鈴乃は脱力した。


「んぅ……」
 鈴乃は自分から声が出ることに驚いた。
 あれで生きているとはどういう奇跡か。
「……んぅ……あ……」
 そしてその声が聞いたこともない鼻声であることに二重に驚愕した。
 自分の喉から出ているのに自分の声に聞こえなかった。
 そしてバッと身を起こす。
 鈴乃はほとんど素っ裸になってネトネトした液体に包まれていた。
「ぎゃあ!?」
 また可愛らしくない声を上げて立ち上がろうとする鈴乃。粘液まみれなので足を滑らせて派手に転倒した。
「おっと嬢ちゃん、慌てんな。血が出るぜ」
「え……?」
 路地裏の薄暗がり。
 異様にネトネトしたいやらしい匂いの液体しか認識していなかったが、鈴乃のそばに何かがうずくまっていた。
 いや。
 うずくまっている……のではない。
 人がうずくまったような大きさのなんだかよくわからないモノがいた。
「な、なに、ええっ!?」
 鈴乃は混乱する。
 状況も理解できないし傍にいるモノも理解できない。
「まあ座れや嬢ちゃん」
 よくわからないモノは、何かモゾモゾとした動きをして、すぱーっとタバコの煙を吐いた。
 吐いたとは言うが薄暗いので本当に「口から」噴射したのかはよくわからない。
「な、なんで私裸なのよっ!?」
「そりゃお前、脱がせたからに決まってんじゃねぇか」
「なんでっ!?」
「じゃあ着るか?」
 もぞり、とどこからともなく鈴乃の服が出てきて宙に広げられる。
 白いセーラー服と灰色スカート、パンツとブラがほぼ全部真っ黒だった。
「な、何これ!? なんてことしてくれるのよ!」
「全部お前の血だぞ馬鹿ガキが」
 よくわからないモノはぽいっと服を投げ捨てる。
 自分のブラジャーを手に取り、本当に血の匂いであることを確かめて、鈴乃はサーッと青くなった。
 ということは自分はもう死んでいるのではないだろうか。
 そこで話しているのは死神か何かではないだろうか、と漫画的なことを考えたのだった。
「わ、私……生きて……る、の?」
「まあ正直、この星の基準で言うと死んでたな」
「!?」
 すぱー、とまた煙を吐くよくわからないモノ。
「ったく、死んでみてどうだ。もういっぺん死に直したいか。最近のガキは何かってえとすぐ死のうとしたり殺そうとしたり、ホントケツが軽いったらありゃしねえ」
「……そ、そんな言い方ないじゃない……」
 自分ではそれなりに悩んだし、迷ったし、最終的にやめようとしたのだ。
 不幸な事故だ。
「それでぶつかられる方の身にもなりやがれ。もし俺じゃなかったら一緒にお陀仏だ」
「え……ぶ、ぶつかっちゃった……の?」
 そこまで聞いて鈴乃は初めて自分が被害者でも何でもない可能性に思い当たった。
 このよくわからないモノは。
 もしかしたら、自分との衝突でメチャクチャになった(異星人の)男の人で。
 自分を救うことを優先して、彼自身はぶつかった時の衝撃から魔法で再生するのを後回しにしていた……とか。
「だから、そんな肉塊みたいなよくわからない姿に……」
「悪かったな。生まれた時からこの顔だ」
 彼は少し移動する。
 その全体に、初めて光が当たる。
 それは、イソギンチャクのような肉塊からいくつもの触手が突きでた、ありていに言ってモンスターそのもの。
「ひっ……」
 鈴乃はその姿を見て硬直する。
 彼はその顔とも胴体ともつかない本体から、クックックッと嫌らしい笑いを奏でた。
「……まあ、せっかく死んだ命だ、恩人にサービスしても罰は当たらないと思うぜぇ?」
「な、何をっ……」
「俺は女をヒィヒィ言わせるのが一番の趣味なんだよぉ!」
 ドバァ、と彼は大量の触手を跳ね上がらせ、鈴乃を縛り上げた。
「きゃああああっ!」
「ククク、認識隠蔽かかってんだ、泣いても喚いても誰も来ないぜぇ!?」
 鈴乃は十数本もの触手に自由を奪われ、なす術もなく吊り上げられる。
「や、やめてっ……やめてよぉっ……!!」
「ついさっき捨てた命、ベコベコにぶっ壊した身体だ、いらねぇんだろ? なに、嫌になったら舌でも噛んで死ね」
「や、やだあっ……こんな、いやああっ!」
 触手が鈴乃の無防備な股間を撫でる。尻穴に先端を押し付けて回転する。
 胸も絞り上げるように触手が巻かれ、その先端は舌のようにレロレロと乳首を転がす。
 そして口のそばには太いナスのような先端を持つ触手が、少しでも隙があればこじ開けて喉を犯そうと鎌首をもたげていた。
「こ、こんなのいやっ、いやああっ……私はっ……!!」
「私は、なんだ?」
「私はっ……」
 尻たぶを揉みながら割り広げるように触手が広げ、少しずつ尻穴に細い触手が侵入する。
 脇を、背筋を、耳を、絶え間なく触手が撫で続ける。
 陰唇を押し広げ、クリトリスを繊毛のような触手が撫で、処女膜を触手から飛び出した細い触手がくすぐるように侵入していく。
 グロテスクな器官に全身をくまなく刺激されることに、表現できないほどの嫌悪感とそれを上回る理解不能の快楽が鈴乃の身体を駆け巡る。
「私は、っ……」
 性の快楽と生理的嫌悪感。
 未経験の刺激に脳が侵略されていく。
「ククク……綺麗な処女膜じゃねえか……今時なかなかお目にかかれねえな、こんな美味そうなマンコはよぉ?」
「……や、やああっ……そこ、らけわぁっ……!!」
「わかってねえな馬鹿ガキが。テメエは! マンコも! ケツ穴も! 乳も!」
 陰唇と尻たぶと乳房を同時にギューッとつねられる。
「ひぎゃあっ!!」
「今さっき屋上から捨てて生ゴミにしようとしたんだよ!」
「っっ……」
「生ゴミになったら誰もエロいと喜びもしねえ! 縫い合わされて火葬場に行くまで腐ってるしかねえんだよ! お前の人生が後何年あるか知らねえが! 使う予定なんてもう立ちゃしねえところだったんだ!」
「そ、そんなこと、言われたって……」
 鈴乃は追い詰められた。
 痛みと快楽と、嫌悪感。
 そして乱暴に欲望を叩きつけるようでいながら、鈴乃の軽はずみな自殺衝動を本気で怒ってくれるよくわからない「彼」。
 逃げ場がどんどん塞がれていく。
 鈴乃が反抗も拒絶もできない淵へと追い詰められ、溺れさせられていく。
「何が嫌で死のうとしたんだか知らねえがよ!」
「っ……く、ふぅっ……」
「小娘が知ったようなツラして馬鹿なこと考えんじゃねえよ! 千年生きられる奴は千年生きてから死にやがれ! 世の中が嫌なら俺の苗床にしてやんよ!」
「んあああっ……♪」
 絶え間なく全身を開発し、性感を次々に目覚めさせ、慈しむ触手の乱舞。
 そうして自分の死に本気で怒ってくれる「心」の侵略。
 鈴乃の狭苦しかった世界観が弾け、何かが裏返る。
 その瞬間を察知したように、鈴乃の菊門をこじ開け、処女膜を引き裂いて一気に内臓へと雪崩れ込む触手たち。
 ついに鈴乃は反論を放棄し、口を開く。迎えるように。
 そこに、待ってましたとばかりに触手が入り込み、先端を変形させて舌と挨拶するように絡み合い、そして喉にまで入っていく。
 苦しかったが、不思議と嫌ではない。粘液から香る痺れるような芳香と、触手自体の妙に優しい感触が鈴乃の感覚を占拠し、鼻声を上げさせた。
「ん、んんんんっ……!!」
 両手も両足も動かない。
 膣も直腸も初の異物侵入にも関わらず、狂おしい快楽だけを送ってくる。
 自分がまるで快楽を受け取るだけの神経のみの存在になったかのような、圧倒的なまでの多幸感に包まれて、鈴乃は盛大に絶頂を迎え、潮と小便を同時に放って気を失う。


 そして。
「……う、う……?」
 また目覚めると、触手の怪物はいなくなっていた。
 全身にねばりつく粘液と、自分が垂れ流した汚液、そして喉のかすかな痛みが、夢でなかったと実感させてくれる。
「……馬鹿……やるだけやっていなくなっちゃうの……?」
 あの触手の怪物に対して自分が口にした言葉があまりにも「女」過ぎて、鈴乃は一人で赤くなる。
 が、にるるる、と角の向こうから伸びてきた触手が突然パックリ口を開き、返事をした。
「裸で帰る気か? どこまで馬鹿なんだ馬鹿ガキが」
「え」
 見ると、トレンチコートを羽織った触手モンスターが、のっしのっしと触手の先だけで人間の真似をして歩いて戻ってきた。
「ほらよ。ドンキで千円だが充分だろ」
 ジャージを買ってきてくれていた。
「……し、親切じゃない」
「これでもフェミニストでな」
「嘘ばっかり……」
 渡されたジャージをぎっちり纏い、自分の血まみれの制服を袋詰めして、鈴乃は立ち上がる。
「それで……さっきので、本当に、苗床になっちゃったりとかするの、私?」
 不安七割、期待三割。
 この触手モンスターに圧倒的な快楽を与えられたせいとはいえ、彼の子であるいやらしい生き物の苗床にされるという運命にそれほど期待している自分に鈴乃は驚いていた。
 が、すぱーっと彼は煙を噴く。
「無理」
「……え?」
「本当はそういうのしたいんだけど、ウチの家系は単性生殖でな。たまに分裂するけどメスを苗床にするとかは妄想なんだ」
「……なぁんだ」
「ガッカリするな。お前がもうちょっと犯し甲斐のあるいい女になったらまた襲いにきてやるよ」
 表情なんてわからないが、彼は愉快そうにそう言って背を向けた。

 背を向けて数秒してからまたのこのこ戻ってきた。
「何よ」
「……悪いけど金貸してくんねぇか。さっきのジャージ代、なけなしの夕飯代だったんだ」
「……あのねぇ」


 数ヵ月後。
「本田さんって今フリー?」
「……は?」
 鈴乃をあっさり振ったあのエルフが、逆に鈴乃にアプローチをかけてきていた。
「なんか最近、すごく女の子らしくなってきたというか……なんというか、あの時の俺、目が曇りすぎてたっていうかさ」
「あははは」
 鈴乃はケラケラ笑って、彼にびしっと指を突きつけた。
「私エルフとかもう興味ないから」
「……えっ」


「ただいまーっ……って斎藤、歩いた跡はちゃんと拭けって言ってんでしょ!?」
「悪い悪い」
 そして、あの触手モンスターは本田家の居候というか鈴乃のペット扱いで同居していたりする。
「気をつけてよねー、またお父さんに追い出されるんだから」
「わかったって」
「それとロードオブザリング借りてきたから見るよ斎藤♪」
 鈴乃は表面上悪態をつきながらもこのネトネトした肉塊生物にメロメロである。

「……さ、斎藤ってば、映画いいところなんだからにアナルに触手伸ばさないでよっ」
「他の時ならいいのか?」
「……スタッフロールの時は許す」
「OK、じゃあ乳だけ揉む」
「…………スケベっ」
「お前もいい勝負だろうが」
「もー……激しくしないでよ?」


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