自分がバイクで事故を起こしたのは秋風ようやく涼しい時期だったか。
随分遠い昔のように感じる。
入院生活もめでたく三ヶ月目、全身に打撲と骨折を抱えているこの身ならば、決して長すぎると嘆くほどではないとわかってはいる。が。
「ここ最近の病院食の惨状について俺は異を唱えたい」
「そーですか? こんなにあるのに」
「こんなにあることが問題なんだ! あと内容!」
どう見ても普通の定食屋の大盛りを超えるスケールで展開されるニンニク、ニラ、レバー、ウナギを中心とした一大スペクタクルメニュー。横に添えられたワンカップ大関みたいなのに入った赤い液体、それトマトジュースやアセロラジュースの質感違う。
「わかってませんねぇ」
肩をすくめ、やれやれと首を振る小さい方のナース。
そのアクションがいかにもアメリカドラマ風に手馴れていて妙にムカつく。
「泣き虫君、消化器系には全く異常がないことを何度も説明したじゃないですか。あとは滋養のあるものをたくさん食べて自然治癒を強化する、ってどっこもおかしくないですよ?」
「そ、そういう言い方をすればそうかも知れないがっ!」
「というわけですからはい、食べる食べる」
「……念のために聞くけど他の入院患者にはこういうの出してる?」
「赤いきつねとか500mlのCCレモンの希望が多いので出してます。なんでも結構便利らしくて」
「便利?」
「よくわかりません。私は出すだけですからー。片付けとか姉がやってますし」
彼女の姉である大きいほうのナースを思い浮かべる。
俺が愛車の末路を想像して脳内2時間映画に仕立てて涙しているところを、廊下からウットリした目で眺めている三つ編み眼鏡。
かと思えばたまに俺のシモの世話をしてウットリしている三つ編み眼鏡。
時たま夜中に苦しくて目が醒めると目と口が何かプラスチックとゴム的なもので封鎖されていて、モゴモゴとうめいていると、そのうちいつの間にか腰の上で誰かが勝手に騎乗位している感触を覚える中、耳元に発情した声を落としていると思しきあのナース。
いや本当。絶対あれ夢じゃないって。
ちなみに三つ編みも眼鏡もとると普通に正統派の絶世の美少女なのも知っている。ド変態だが。
「……彼女が片付けているとなると何かアウトな想像しか浮かばない」
「同感ですがそれは今はまったく関係ありません。さあ、あーんしてくださいねー」
「だから! こんな興奮作用のありそうなのばかりじゃなくてもっと野菜でヘルシーな感じのをだな!」
「またまたー。別にいくら興奮したっていいじゃないですかー。不自由してます?」
「最初からそっちが狙いだってわかってるのが悔しいんだよ!」
小さな腰をおどけた感じにくねくね揺らして見せる小さいナース。短いタイトスカートから伸びる足にタイツはなく、健康的な浅黒い太腿が妙に色っぽい。
そのスカートの奥にある幼い秘所は、この二ヵ月半というものほぼ毎日、俺に片手で足りない回数の快絶を味あわせ続けている。
どうやら俺は彼女のお気に入りのセックスパートナーであるらしいということに関してはもはや議論の余地無きことだが、どれだけ濃厚かつ過激に交わったとしても未だナースとしての営業スマイルを崩さないこの少女について、俺は未だちっとも理解ができていなかった。
女というものは本当に深遠だ。
「もーろーびとーこぞーりーてーむかーえまーつれー♪ うんうんいい歌よねぇ。賛美歌系ってメロディラインが美しくて好きよアタシ」
「時期が時期でオトコいないのが悔しいのは充分察しますが真面目に診察していただきたく」
「あはははは。余計な事言ってくれるじゃないの」
パーンと患部を引っぱたかれて俺は悶絶した。
この真面目なのか不真面目なのかよくわからない女医による回診ももはや慣れた物。
銀ラメ散らしまくった赤いコーンハットかぶって女医が現れても特に何の驚きもない。そんな自分自身の適応力にこそびっくりだ。
「というか御宅はキリスト教ですか。日本人には見えないし」
「んー? や別にそうでもないわよ?」
「どちらに対して」
「大晦日はダイナマイトと紅白のどっち見るかで娘たちが激論するぐらいには日本人だし、それを尻目に神田明神で二年参りを考えてるぐらいにはアタシもテキトー信仰」
「むしろその過激なまでの日本人っぷりが衝撃です」
というか医療関係者に盆暮れ正月はないのが常識じゃなかったっけ。
「ちなみに上の娘がダイナマイト派」
言わなくてもわかります。
「っていうかその日に急患が出たり容態悪化者が出たりしたらどうするんですか」
「出ないと思うけどねー。急患はお断りにするし。っていうか病室もうないし」
「たらい回し医療の実態が!」
「いつもより多めに回されておりまーす♪ っていうかね、ここ本当は君みたいなのが来ること自体イレギュラーなのよ」
「不謹慎発言を自らサラッと流す話術に敬服いたしました」
「黙って聞け」
患部パーンされた。俺は悶絶した。
「本当はここね、……認識のぶっ壊れた奴しかこないの」
「?」
「君は普通の人だから知らないだろうけど。意外と世の中、現実認識を捻じ曲げたり、反らしたりする変な力は結構いっぱい働いててね。敏感な奴はその力に気づいて違和感を覚えることもあるし、自力で打破してしまおうとする奴もいる。つっても大概は抗った末に自分の認識力をねじくれさしちゃって、傍から見ればどーしよーもない狂人のいっちょあがりってわけね。……本来ここはそういう奴の認識力を修復させる魔術的静養施設なのよ」
「意味がさっぱりわかりませんが俺はキ印でないということでとりあえず安心しておくべきなんでしょうか」
「あー、うん。まあそうね。……そーなのよねぇ、だからうちの子たちもあーなのよねぇ」
寸時、なんだかシリアスだった女医は俺の一言でどっちらけた表情に戻る。
「ああ、ってなんですか」
「別に君が何したわけじゃないのにねえ。……あれよね、生まれて十数年目の刷り込みって奴?」
「何を言っているのかわかりませんが」
長い話を理解しようと努力はすれど、普通に散漫すぎる上に主語が足りなさ過ぎる。
「ま、いーじゃないそんなこと」
しかも何か打ち切られた。
「それより聖夜の予定よ予定。別になんもない?」
「なんにも発生しようがない……というより何故あなたがそんなことを聞くんですか主治医!」
「えーいーじゃん。聞いててなんとなくわかったでしょ? そりゃーこの病院オトコ多いけどさ、揃いも揃ってだめなのよいろいろ」
「くっ! 主語が たりない!」
「そうだくんや立花兄弟の出番ね」
「どこまで話題をOBさせれば気が済むんだアンタは!」
そんなこんなで聖なるクリスマスイヴ。
えるしってるか、クリスマスイヴは前夜祭じゃなくて正確にはクリスマスのイヴニング、昔は日暮れとともに一日が終わったと計算されていたことによるもので実際はちゃんとこの夜にキリストが生まれたらしいぞ。
「しかし俺にもサンタさんはこないものかなあ」
トウカイテイオー(別称)に代わる新たな鉄の愛馬をプレゼントしてくれたりしないだろうか。
などと思っていると病室の窓がガラリと外から開いてびっくりする。
「メリークリスマース!」
赤と白の衣装に身を包んだ彼女は、女医だった。
「うわあ寒い!」
「どういう意味よ!」
物理的な意味です早く閉めて下さい。
と言うのも待たず患部パーン。俺は悶絶した。
アンタ悪魔だ。
「そ、そりゃあんなでっかい子供が二人いるけどさ、仮にもこちとらダークエルフよ!? スリーサイズだって世のOLがギギギするぐらいの数字を維持してるってのに何たる反応するのよアンタ!」
「だ、だから気温的な意味であってな……っつーかそこで女サンタっつったらセクシー衣装だろうが! 何普通に長袖長ズボンにブーツとか!」
「やーよ寒いし」
「ちゃんとわかってるじゃないか物理的に窓が開いて寒かったんだよ!」
「あ、そっか。あはははは」
この人ときたらもう。
とは言え、それでも憎めないのはそのさっぱりした性格か、本人も自慢するその美貌ゆえか。
それとも。
「っていうかやっぱりお色気路線期待してたんじゃない、このこの。若いねー」
「そ、そりゃあ毎日あんなん食わされりゃ……」
順調に俺は精力を食物にて補給されて人並み以上にミルク出す乳牛のような生活に適応させられていた。
「そーよねー。若いって素敵よねー。……ふふふ、OKOK。それじゃサンタさんがプレゼントあげよう。何がいい?」
「な、何がいいって?」
ここまで引っ張っておいてDXデンライナーゴウカとかリボルテック零号機だったりというオチを見せてくれるのだろうか。そこまでエンターテインメントに徹してくれると逆に清々しいけど。
「サンタさんのプレゼント。三択です。1、テレビカード」
「うわぁ」
病室でテレビ見るためのプリペイドカード。3時間分。
「いりません」
「2、たばこ1カートン」
「吸いません」
「3、サンタさんあなたが欲しい」
「…………言ったらくれるんですか、サンタさんを」
「どうだろうねぇ?」
ニヤニヤしながら長袖のサンタ服をぷちぷちと脱いでいく女医。
……って、中にちゃんとミニスカサンタルック着てた。
「ふふふー。ま、言ってみるだけはいいんじゃない? 古今東西、サンタさん、よい子には優しいんだから♪」
胸元きわどく生足見事なミニスカワンピの女医(二児持ち)。字面的には歳を考えろとツッコミを入れたくなるのが当然なのだろうが、この女医の肌の若々しさは下手をすると俺よりも若いぐらいだ。
それでいて二児をもうけたに相応しい爛熟した性欲をもしっかりと表情に乗せていて、最近下のナースになんだかんだと性欲をぶつけまくっていた俺のオンボロな理性にはひどく刺激が強すぎた。
「……じ、じゃあ……3で」
「3ってなに?」
「自分で言ったじゃないですか」
「サンタさんだって喜んでもらいたくてプレゼント配るのよ? あんまり欲しくないけど消去法で仕方なく貰う、まあ嬉しいわけじゃない、って顔した子に奮発してくれると思うかしら?」
「…………」
くそう。
「さ、言ってみなよ、泣き虫君」
「……さ、サンタさんをください」
「サンタさんの何を?」
「…………」
この女医、楽しそう。
悔しいが、残念ながら俺の逸物はもう完全に期待してしまっている。あの二人の母親の肉体を、この特別な夜に勢い任せで貪ることを望んでしまっている。
ここで寸止めで帰られたら本気で血を吐くぐらい後悔してしまいそうだ。ああ俺は常識的で理性的な人間だと自負していたのに。
「……サンタさんの、お、オマンコやらせてください」
「うっわ、言っちゃうんだそんなこと」
「っぐ……」
「えっちさせてあげるなんて一言も言ってないのにねー♪」
「そんな!」
我ながら凄く絶望的な顔だったと思う。
「……したい? アタシとセックスしたい?」
「……や、やりたい」
「今夜やったら孕んじゃうかもしれないのに?」
「え……」
「ド真ん中なんだよねアタシ。残念ながらゴムやピルの類もないんだよねー。今夜ここで生エッチしたら中に出さなくても先走りでボテ腹になっちゃうかもねー。あ、豆知識、外出しなんてはっきり言って避妊効果期待するほどないかんね」
「……え、えと、その場合……」
「それでも、どーしても、アタシとえろえろしたいってんならいいよ?」
「…………孕んでもいいと?」
「堕胎とかはしないかんね、そんな自分から子宮駄目にする真似医者はできません。……女の腹ふくらかしといて無責任なことさせるよーな悪い子にはサンタさんも冷たいわよ?」
「…………」
試されて……るのか?
いや、試すにしてはあの精力満点の病院食といい、気の迷いを誘発させようとしすぎだろう。
それに避妊の選択肢も与えないなんて。
「た、試してるんですか……娘さんたちと俺が、その、ヤリまくってるから……」
「試す? ふふふ、そんなまどろっこしいこと……わざわざこんな風にやる親がいると思ってるんだ」
そもそも親のすることではないわな、うん。
となると……。
「……う、うぅ」
正直どう答えても地雷な気がしてきた。責任がもてないからと、この人の誘いを血を吐きながら断ったとしても娘たちは明日からも性的な攻め手を休めはしないだろう。
かといって責任取るなんて、今や無職役立たずの俺には……。
「ふふふ。簡単なことよ。……それでもどーしてもえろえろさせてくださいって言ってみなさい?」
「……で、でも、責任取る経済力なんて……」
女医は苦笑して、俺の上にまたがって衣装の胸をはだけ、眼鏡を取って、パンツを脱ぎながら俺に顔を近づける。
「大人ってのは汚いものよ、泣き虫君。……選択肢なんてあると思ってるの?」
「なっ」
「答えはひとつしかない質問だって世の中にはたくさんあるんだよ、残念でした♪」
「むぐっ……!?」
女医はそのまま俺にキスをしつつ、俺のパジャマのズボンを引っ張り、先走りまみれの逸物に自分のびしょ濡れの性器を落としてきた。
「んぅぅっ……♪ ふ、ああっ……すっご、ホント、見るのと実際に咥えんの、大違い……♪」
「な、さっきの、どういう……っ」
「ふふっ……責任とか経済力とか、そんなん、本当はうちの子たちもアタシも知ったことじゃないんだ……♪」
「……え、ええっ……」
女医はゆっくり、ゆっくりと、片膝を立てて腰を動かしながら微笑む。
「運が悪かったと思いなよ。……結論は、逃がさない。ただそれだけ♪」
激しく動く腰も、ぶるぶると揺れる乳房も、悦楽に歪むその顔も、それは母でも親でもなかった。
ナースの二人と同じく、それは情熱的にオトコを欲するオンナの姿。
「そん、な……俺は……っ」
「逃がさない……逃がさないって言ってんの……だから、だからねっ……はぁっ」
膝を上げ替えながら、飛び切り淫蕩なサンタが俺に快楽を与え続ける。その長い髪も、爛々と俺を見つめる瞳も、とびきりの肉体も。
欲望に濡れ輝いて。
「夢中になってよ……っ♪♪」
最後にキュッと膣が締まる。それは熟した膣でヌリュヌリュと喚起され続けた俺の快楽に、一息に止めを刺し。
「っぐ、あ、あうぅっ……!!」
「っあ、はぁぁっ……せいえきぃぃっ……♪」
為す術もなく、子宮に子種を吹き上げる。
朝のまどろみの中で、それは夢ではないかとも思った。
あの女医に逆レイプされて、種付けさせられて。
ここから逃がさない、と言われたこと。
ぼんやりと、それが夢だったのか、夢であって欲しかったのかと自問する。
そして。
「ふふふ。おきてんの、わかってんだぞう……♪」
「ねえママ……叩いていいかな?」
「朝はおまんこで起こすんですよう」
ぼんやりと目を開けて。
「……夢じゃない……」
もはや遠慮は無用とばかりに俺の身体にたかっている三人の女を見て。
夢のように嬉しかったんだ、と自覚する。
漠然と、俺はこの人たちに逃げられない魅力を感じてしまっていたから。
逃がさない、と言ってくれた事に、乙女のように歓喜していたんだ。
「あの」
「ん? なに?」
俺は思い切って三人に微笑みかけた。
「……朝からで、なんだけど……愛し合いたいんだ」
親子は花が咲き広がるように微笑んだ。
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