「シケてるねえ」
「シケとるのう」
 窓の外を見ながらウメさんとみかんが呟いた。
「何が湿気てるんだよ」
 俺はパソコンで艦これをいじりながら二人に顔を向ける。
 ガワだけは昔大学の先輩に貰ってから変わっていない俺のパソコンだが、中身は適宜更新されていてAGE-1グランサみたいだ。OSはwin7だけどさ。
 しかし最近はエロゲーをやる機会も少なくなってきた。
 オタク文化の中心はパソコンからスマホに入れ替わっていき、パソコンパワーの必要な場面も減ってきたことだし、そろそろデスクトップパソコンを処分してwin系のおやすいタブレットPCに移行してしまおうかと真剣に悩む今日この頃。
 だってほら、8畳あるとはいえオタク二人暮らしではちょっと狭いし。多少のことはタブレットにUSBのHDD繋いでBTキーボードをカップリングすればだいたい事足りそうな気がするし。そのほうが電気代も安そうだし。
 でもなー。それはそれでなんかこうオタクとして大切な何かを失う気がするよなー。
 その何かが今ひとつはっきりしないのが問題なんだけど。
 って、そうじゃない。
 なんでこの駄エルフたちは急に貧乏人カツアゲしたヤンキーみたいな言葉を呟きあっているのか。
「こうも雨だと湿気は確かに気になるけどさ」
「湿気じゃない。時化よ時化」
 音声で聞くと何言ってるのかわかりません。
 という俺の表情を読み取って、ウメさんは小さく歌いながら無駄に空中にキラキラしたラインを引いて「時」「化」と書いてみせた。
 魔法の無駄遣いだ。
「シケ。海辺に生きる人々は嵐をこう呼ぶのよ」
「確かにここは海に近いけどそんなの聞いたことない……」
「船を出したり漁をしたりする人々じゃないと使わん言葉かもしれんのう。晴れておっても波が荒れるのを本来は指すからの」
「つい、むかし海女さんやってた時のことを思い出しちゃったわ」
「ウメさん海女さんやってたの!?」
「ちょっとだけねー。サザエとかウニとかトコブシとか採ってたわー」
 金髪碧眼ワガママボディの海女さん。なんておいしい……いや目立つ存在だろう。
「よくやれたなぁ」
「10メートルやそこらの潜りくらい楽勝楽勝。その気になれば全裸で宇宙遊泳だってできるのがエルフです」
「いや全裸になる必要はないんじゃないかな」
「ガンダム的には女の裸特に宇宙は基本でしょ!」
「そんな基本ねえよ!」
 っていうかガンダムの基本に則る必要性がわからねえ!
「というか水中適応の問題じゃなくて。目立つだろっていう話をね」
「そりゃ認識隠蔽かかってるし。ただ採ったの売りに行ってただけだし」
 漁業権とか大丈夫だったんだろうか。……まあいつの時代の話かわからないから大丈夫かなぁ。エルフだからそもそも怒られようがない気もするけど。
「とはいえ、誰かもわからん海女がいつの間にか隣近所で漁をしとるってホラーじゃろうな。トモカズキと間違われんかったか」
「海坊主と間違えられたことはある」
「ぶはははは」
「だってしょうがないじゃんこの髪色だし!」
 金髪で貞子状態になると、場合によっては坊主に見えるかもしれない。
 っていうかトモカズキってなんだ。カズキって武装錬金か。トモカツギじゃないのか。
 ……と思って目の前のパソコンで早速ぐぐってみたら、ちゃんとトモカズキという妖怪らしい。潜(かづ)く、って変換できないよ。
「この手のドッペル系の妖怪って実はエルフ、っていうパターン多いのかもな……」
「正体が斎藤さんってパターンは結構あるって聞いたことあるわ」
「……ああうん、あれは妖怪だ」
 イレブンフォレスト閉まっちゃってからついぞ会ってないけど、今も東京のどこかで女を泣かせてるんだろうか、あの触手生物紳士。
「でも、桜もこの調子だと結構散っちゃってるかもねえ」
「勿体無いのう。今年は花見のいいタイミングがなくて困る。花も開き始めが卒業シーズン過ぎた後じゃったしのう」
「県がズレてる感じよね。例年なら埼玉でいい感じの時期に東京が咲いてるっていうか。まあ私らバルチャーは一週間や二週間、見ごろが前後したって気にならないけど……」
「さくらやナマデンワがのう」
「花見の仲間はずれにしちゃうと文句いいそうだしねぇ」
 あいつらだってもう学生じゃないから、春休みがあるわけでもなく、その期間内に花見がしたい……というわけではない。
 ただ、普通の会社は四月に入ってしまうと忙しくなる。年度初めで新しいプロジェクトが動いたり、新入社員が入ってきて教育の手間が増えたり。
 俺がバイト行ってるトコも各所、フレッシュマン向けの品揃えにしたりGW合わせの企画動かしたり大変だ。まあ俺はどこでも外様を貫いてるのでそんなに深くは足を突っ込まないけど。
「でもさ、そういうことなら魔法で何とかしちゃえるもんじゃないの? エルフならさ」
 雨だって風だってトーンキャストなら止めてしまえるだろう。
 これが一般的な漫画やラノベなら反動を気にするところだが、エルフたちの使うトーンキャストは本来的に「交換」ではない。ゲームナイズされる前の「魔法」なんてそんなもんだよ、とはいうが、ちょっとずるい。
 だが、そこに関してはみかんもウメさんもやれやれと肩をすくめた。
「花は咲いて散るまでが花。営みの美しさとは、ままならぬものまで含めて楽しむものじゃ」
「ザッキー。強引に風を止めたり雨を消したりはね、エロゲーで言うなら着衣でヤッてたのに絶頂シーンだけ全裸になって背景もポワポワとヘブン状態にされるようなもんよ」
「意味が分からない……」
「着衣の彼女の可愛さと状況を味わうシーンなのに、彼女の恥ずかしいところは隅々まで見るべき! 最高にイッてる彼女の心情も感じ取るべき! なんて余計なお世話と思うでしょうよ。季節の風物っていうのは天気まで含めて、地続きだからこそ風情があるってもんでしょ。……魔法で状態を強引においしくしても、それは『自然の美しさに感動する』んじゃなくて『自然を強引に美しいコンディションにする』なわけ。でもね、桜を楽しむっていうのはそういうもんじゃないでしょ? この時期にしか見られないものだし、それが自然の営みだからイイもんでしょ」
「うーん……そういうもん、なのかもなぁ」
 腹の底では若干「気にしすぎじゃないかな」と思わなくもないが、言うことには筋が通っている気もする。
 でもそういうこと言い出すと、トーンキャストって使えなくなるんでないかな。
「健一はまだ人生が短すぎるから『今年の桜を逃すのは勿体無い』と思うのじゃろう。じゃが、桜はまた来年があろう。今年は見ごろに天気が悪かった、というのも、しばらくすればさして苦々しくもない思い出になろう。毎年チャンスがあるのじゃ。全部のチャンスでダイスを最大値にするのはつまらんぞ」
「そう……だな」
 みかんの補足でようやく納得がいく。
 そこまでして、一番のコンディションの桜の下で、散歩をしたり酒を飲んだりするべきじゃない。それをやることに、別に夢も金銭も絡んでいるわけじゃないんだ。
 今年は駄目でも来年がある。来年にもっと美しい桜が見れたら、その時にこそ割り増しで喜べばいい。花を見るっていうのは、そういう気分で楽しむべきだろう。
「それにまだ桜は終わったわけでもあるまい。慌てて強引に楽しもうとするのは浅ましいじゃろ」
「それもそうだ」
 彼女らエルフの価値観は壮大で気長だ。
 だが、ついせせこましく急ぎ足になってしまう現代人には、それくらいの余裕も必要なんじゃないだろうか。
「それに、雨降りなら雨降りなりに楽しいこともできるじゃん」
「晴耕雨読じゃな」
「そうそう。性交性交」
「待てウメ」
 ウメさんはそれではさっそく、とばかりに、俺にゴキブリのような動きで迫ってくる。
「最近さー。私の相手がおろそかじゃん? ザッキー別にみかんちゃんと枯れるほどヤッてるわけでもないのにさー」
「い、一応朝晩一発ヤッておるが」
 恥ずかしそうに言うみかん。
 彼女の言う通り。朝は起き抜けに一発。夜は布団に潜って一発。
 何故か一度布団に二人で入ると、それ以降の会話が照れくさく、言葉を交わさずに鼻声だけを聞きながら、みかんにモゾモゾとチンポを突っ込んで中出しをして、抱き合って眠る。
 朝はだいたいみかんが起きないので犯して起こすのだ。
「だがその程度で私の部屋に来る気力が尽きるなど片腹痛いわ!」
「威勢の張り方がおかしいよウメさん!?」
「管理人さんだって二日にいっぺんで満足してるでしょ!? じゃあ残りの時間は私にカニバサミされて過ごすべきじゃん! エロ同人みたいに!」
「そんなストレートに爛れてるだけのエロ同人もそんなに見ないよ!?」
「ぶっちゃけそれぐらい私はエロいのです。伊達やハッタリでオミズエルフじゃねえんだぜ」
「既に元オミズじゃん。年単位でブランクあるじゃん」
「それは専属になったからです。ザッキー専属AV女優です」
「AV撮っていいの!?」
「いいよ!」
「落ち着かんか昼間から大声で」
 みかんに二人まとめて足蹴にされた。
「ちぇー。ザッキーが毎日私とハメ撮りしに通ってくれるチャンスなのに邪魔すんなよう」
「やめんか。そもそもハメ撮りしてどうする気じゃこの痴女エルフめ。売るのか。それともxvideo行きか」
「どっちにしろ私既に社会的には死んでるようなもんだしー。デジタルタトゥー上等だしー」
 そういう風に言われると急にやめたくなります。ネット弁慶ならぬネット小心者です。
 プレイとして撮るのにはちょっと興味あるけど、正直見せびらかしたくはない。
「むしろみかんちゃんも撮ってしまえ。そして表を歩けなくなってしまえ。そして二人でザッキーと合法的に24時間引きこもりセックスライフだ」
「そんな面倒な言い訳せんでも既に24時間引きこもっておるわ! ワシを侮るな!」
「おい駄ークエルフ、言っとくけど何一つ威張る要素ないからな!? あとウメさんそれ全然合法じゃないよ!?」

 いつの間にやら5年目に突入した、しまむらハイムの生活。
 先日、地味に武田が結婚した知らせが届いたりしたけど俺は元気です。……呼べよあの野郎。

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