2014年。
 残酷な天使はいまいち窓辺から飛び立つ気配を見せず、いろんな素人芸人がニュースを賑わす傍ら、流行語大賞のプロ芸人は全く聞いたことがなくて戸惑う今日この頃いかがお過ごしでしょうか。そういや壇蜜がメジャーになった時もこんな感じだったな。エッ知らないの? 今すごい流行ってるのに? という謎の角度からの圧力。
 それはともかく。
「やはり水泳部じゃろう。シャイニングアッガイじゃろう」
「いや水泳部はちょっと。一発ネタとしては悪くないけどさあ。あまりにも狙い過ぎてるっていうかさあ」
「お主、アセンブルしてもおらんくせに批評とは生意気じゃな。どうせ意外性の欠片もない機体作って金色塗って『大使専用○○ガンダム』なんて名前付けてご満悦なんじゃろ」
「それは一機だけしかやってないよ! 大使専用カーディガンだけだ!」
「まったくもってつまらんチョイスじゃな……せめてジム外さんか」
「でもバーニングが金色でもあんま面白くないし……金色ガンダムXもイマイチ普通だし……」
 発売から数年たってようやく我が家に普及したPSvitaをお互いいじくりながら、みかんとこたつを挟んで論争する俺。
 そこにガチャリとドアが開いて、さくらが帰ってきた。
 そして俺とみかんの姿を見て溜め息をつく。
「……何してるの、あなたたち」
「見ての通りガンダムをブレイクしています」
「こやつ、バイトやコミケで進行が遅いからのう。ワシはもうあらかたクリアしておるというに」
「年末はどこもバイトの穴が空きやすいからしょうがないだろ。地味に風邪も流行ってるし」
 相変わらず、適当に掛け持ちヘルプで生活してる俺としては、この時期は出番が多くなる。
 俺は風邪に関しては……ちょっとでも兆候があるとすぐ、みかんかウメさんがトーンキャストで治療してくれるから心配は要らない。でも一般的には健康が危険な季節なのです。
「本当は今日も2ヶ所からヘルプ来いよって言われてるけど」
「行かないの?」
「生活費分は充分稼いだし、あんまり要請に全部ホイホイ応えてると、勝手にレギュラーバイトみたいな扱いにされて面倒なことになるから……パスもしないと」
「……流しのフリーターもそれはそれで苦労してるのね。でも貯金はしておいた方がいいと思うわよ」
「い、一応してるよ! ……500円貯金」
「そういうヘソクリとかじゃなくて将来を見据えた感じの……まあケン君に言い募ってもしょうがないんだけどね。でも歳考えたら、それは可愛らしすぎない?」
「やめてくれないか年末だというのに俺の心にビームサーベルをつきつけるのは」
 ※ビームサーベルを近距離に突きつけると実際はダメージが通り続けます。ウッソ君のママとかしにます。
「……歳の話題で苦しい気分になる程度にはまだ社会性が残ってるのに安心したわ」
 さくらは再び溜め息をつき、コートを脱いで部屋の隅にかける。
 自分の所に帰って着替えてくればいいんじゃないかと思わなくもないが、「あれはあれで縄張り主張行為なんだよ」とウメさんに教えてもらった。
「紀州さんはどうしてるのかしら」
「コミケ四日目」
「……?」
「会場は秋葉原」
 最近はショップ委託が多く、そこそこの規模のサークルとなると、同人誌は即日〜数日後にはそちらの販路で流通している場合が多い。
 コミケ当日に買い逃したそれらをフォローするため、同人ショップ巡りに出かける行為を「四日目」などと称する。
 それにしても……エルフならスタッフの目をすり抜けてサークルタイムに入場するのも簡単だろうし、なんなら直接会場にトーンキャストで入り込むのも造作ないことだろうから、随分楽ちんだろうなあ……と思っていたら、ウメさんは「あーそれ? 無理なんだよね実は」と教えてくれた。
 なんでもコミケスタッフや壁サークルにも相当数のエルフが紛れ込んでいるのだそうだ。
 で、魔法でズルい真似をする異星人がいると信じられないしつこさで追跡されるらしい。
 一度、とある壁サークルの列に会場外からテレポートで割り込んで購入した輩がいたらしいが、銀河の反対側まで追い詰められて本を没収された上に、会場付近に近付くとスタッフに気取られるマーキングをつけられてしまい、向こう五年はコミケとサンクリに参加させてもらえなくなったとか。
 それだけの能力があるなら、薄い本の取り合いとかしなくていいんじゃないのか……と思ったりもするのだけど。もっとこう、あるだろう。千里眼的な能力で本の中身覗いて済ますとか。それを念写して満足するとか。
 ……なんて言ったら「ザッキー。君の言っていることは『彼女の肉じゃがより惣菜屋で売ってる奴の方が美味いに決まってるのに』とかそれ系のあれだ」と真剣な顔で言われた。
 なんとなくすんませんでした。

「それにしても……しばらく前まではドア開けるのに少し注意が必要だったけれど、最近はあまりやってないのね」
「?」
「えっちなこと」
 さくらがお茶を入れながら、みかんを横目に言う。
 俺とみかんはしばし顔を見合わせ、同時に肩を竦めた。
「ああ……いや、ちょっとこう裸族的な生活をした結果、俺たちは悟りました」
「うむ。……やりすぎるとあんまり嬉しくなくなるのじゃな」
「さすがのケン君も飽きた?」
「飽きたというか……エロは今でも好きだけどさ。例えるなら……ケーキ百個食うとなると味がどうとかの問題じゃなくなるって言うか」
「そうじゃの。ま、健一が見境なく求めてくるのもそれはそれで良いのじゃが」
「やるなら耐久レースにならないように、例えば夜だけ、とかにした方が何かと無理がかからないよな、という結論になったんだ」
 滾っている時はいい。何人いてもヤリまくれる気分の時もある。
 でも実際にいくらでも付き合ってくれる女の子が何人もいて、その気持ちを何日も維持しろというのは常人にはちょっと無理だと思った。
 ちんこが痛くなるとか、出しすぎて精液が出なくなるとか、そのへんの問題を魔法でクリアできたとしても、さすがに十発も二十発もこなす頃には「俺何やってるんだろう」と思ってきてしまうわけです。
 それなのに女の子たち(主にウメさんとみかん。たまにライムちゃんもいる時がある)の方はへいへいバッチこーいの状態で待機し続けるわけで。
 途中から快楽とかそういうのを抜きにして、彼女らへの義理のために運動し続ける自分に疑問を持ってしまい、見境ないエロ部屋状態の日々は終了となった。
「考えてみればハーレム状態じゃと、女の方は割と余裕を持ちやすいのじゃな。結局男のアレは一本なのじゃし、動くのも男じゃ。順番が終われば休む時間はいくらもある」
「なるほどね。ケン君は頑張り通しだけど、相手する方は複数……しかも元々本職の紀州さんなんかも混ざるのでは、余計ケン君は一人で負担が大きい」
 自明の理といえば自明の理ですが。
 まあ、それでも男にとってもオイシイ状態であるのは変わらない。
 魅力も感触も違う女の子をとっかえひっかえのエッチは、飽きが来ないという意味でも贅沢なことだ。
 だけど、それを切れ目なく24時間何日も続けるというのは、やはり難しいわけで。
「というわけで昼間はヤリたくても我慢しよう、というのが現在のルールだ」
「ま、たまに管理人は無視しとるがのう」
「……え、管理人さんともエッチしてるのケン君」
「…………」
 目を逸らす俺。なんとなく怖かったが、誤魔化してどうなる問題でもないのは分かっている。
 いや、だってね? このしまむらハイムで本当に野放図にエロやり放題してるのを見逃してもらっている手前ね?
 ……ヤリ放題っていうか、静音さんも積極的に絡んでくるとほぼ完全にアパートまるごと俺の後宮状態なんだけど、そこのところに渋い顔をされ始めると色々と逆らえないわけで。あと一応美人なのでやぶさかでもないし。
 あ、でも日夜子嬢とはまだやってないよ一応。
「本当……将来のこととか考えてる? どうせ避妊なんてしてないんでしょう?」
「……してないけど」
「まあ私もしないけど」
「俺にどんな顔をして欲しいんだい、さくら……」
「ことによったら来年にはいきなり五、六人赤ちゃんが生まれてる可能性だってあるんだから。急に子沢山になる気構えはあるの? って言ってるのよ」
「うぅ、大晦日にあまり責めないで」
「新年めでたいところで責められたい?」
「その辺にせんか。そなたも野暮ったい現実ばかり突きつけるでない。エルフにはエルフの理がある。健一はその理に生きるワシらに合わせた。そなたも合わせた。それだけじゃろ」
「その結果がこんなちゃらんぽらんな生活じゃ、不安にもなるじゃないの」
「その気になればよその星で寝起きして、よその飯を食えば金なんぞかからんわ。そう焦るな」
「でも私はエルフじゃないし、ケン君だってエルフじゃないんだから。どういう形で産むにしろ、私は純地球人な子供を宇宙人式の生活で育てるつもりはないわよ」
 さくらの言うことはいちいちもっともなのだ。
 もう俺も二十代も後半だ。真面目に生きなきゃいけない歳なのだ。普通は。
 子供もいつできてもおかしくない。みかんにウメさん、静音さんは言うに及ばず、生田にだって会うたびに種付けしてるような状態だ。……ライムちゃんにも何度か中出ししたことあるけど何故かあの子は妊娠しない気がする。
 それはおいといて、父親になる準備が少しでもあるのかと言われると全然だ。
 内心とてもつらい俺をよそに、みかんはみかんを食べながら(別に自分の手を食ってるとかじゃなくちゃんと果物のみかんがこたつの上に積んである)さくらをまじまじと見た。
「そなたが純地球人というのはどうかのう……」
「……何よ」
「そなた、ウメに頼んで加齢止めておるじゃろ」
「…………」
「えっ」
 俺が思わず見ると、さくらはサッと目を逸らした。
 ……えっ。
「そ、そういうことできるんだ?」
「難しくはない。というより、前にも言うたがワシらと地球人はそんなには違わんのじゃ。少しワシらに構造を似せれば、歳はほとんど取らなくなる。なんなら外見だけなら若返ることもできる」
「……ず、ずりぃ」
「だ、だって……みんな若いままなのに、私だけオバサンになったら、ケン君だって……あまりその気になれないし、嫌でしょう……」
「あ、いや、それでも俺の方が年上だけどな?」
 っていうか俺は死ぬ頃までエルフ化を控えろって言われてるのに、さくらだけそれいいの。
「この女はある意味、精神面ではマトモではないのを自覚しておるからのう。覚悟を示したのじゃろう。人ではなくなることすら、何ほどでもなしと」
「……俺、さくら含めてこんなに色々触れてるのにエルフ化はお待ち下さい状態だよ?」
「そなたはやはり地球人じゃ。地球人として生きていく感性しか、まだない」
 さくら、違うんだ……。
 ある意味で一番宇宙人と相性悪いはずだったのが、気づけばそんなことに。
「うーん……でも一番の国際人っていうのは一番愛国的な人物だともいうし……」
「よくわからんところで悩んでおるのう」
「や、やっぱり、ダメかしら」
「いや、うん、若いのはいいんだ。若いに越したことは無いよ、うん」
 俺にはおばさん属性とかはない。確かに若い方がいいといえばいい。
 でもさくらもこれであまり長くひとつのところで生活はできなくなったのだろうし。……ん、でもエルフのアパートに住んでてエルフのコミュニティの手を借りられるなら問題は少ないのか。
 なんだか釈然としないが、うーん。


 紅白を流しながらも鍋をつつき、みかんとガンダムをブレイクしているうちに、ウメさんが帰宅し、生田と静音さんも到着し、ついでにライムちゃんも部屋の隅でソバを食っている中でゆく年くる年が始まった。
 ちなみに白組がまた勝ったらしい。超勝ち越してるらしい。どうでもいいけど。
「今年も終わるねえ」
「いい一年だった……と、言えるかなあ」
 ワンカップ飲みながらしみじみしているウメさん。と、鍋をおじやにしながら呟く生田。
「まあ地震は少なかったですから」
「え、それだけ?」
 静音さんはそう言いながらデザートのレンバスをみんなに配っている。いや、デザートに一日分腹が膨れるような食料はどうかと思うんですよ。
 あと地震が少ないだけでいい年というのもどうかな……いや、でも多かったら確かにキツイよな……建物の被害とか。
「欲をかくときりがないですからねー。たくさん手に入れることを基準にして、いい年じゃなかった……なんて悲しんでちゃ不幸ですよ不幸。失うものが少なかっただけで幸せって思えるのが、お得な人生の過ごし方ってものです」
 ライムちゃんが訳知り顔で言いながらソバをすする。
 その通りかもしれない。
「そもそもじゃな。ここにこれだけおる女を残らず手篭めにして、なお不幸じゃったと呟けるなら、それはそれでお主の神経を疑うぞ」
 みかんがカチャカチャとvitaのキーを鳴らしながらとんでもないことを言う。
「言わないけど……」
「そっかー足らないかーザッキー。そうだよねーせっかく頑張ったのにねー」
 ウメさんはきゅーっとワンカップを飲み干し、タン、とこたつの天板に打ち付ける。
 そしてくるりとこちらを向き……あ、目がヤバイ。
「よし、オメデタに向けて二年なんちゃらだ!」
「なんか上手いこと言おうとしたなら最後まで考えてからしゃべろうぜウメさん!」
「うるせい! 最近呼ばないからこっちも溜まってるんだい!」
 がばーっとくるウメさん。そしてなぜかみんなは止めず、それどころかよいしょっと立ち上がり始める。
 気を使って出て行くのかな……なんて思ったが別にそんなことはなかった。
「はいはい、続きはお風呂でやって下さい」
「汚れるからのう」
「紀州さんなら言い出すと思ってたわ」
「えっ、私も参加していいんですか?」
「お風呂までの十数歩が寒いのが辛いなぁ……」
 俺とタコちゅーしてきたウメさんを二人まとめてこたつから引きずり出し、みんなが大浴場に移動する。

 ……時計はあと十分で2014年が終わることを示している。
 そして、俺は湯気に満ちた大浴場の中で……美女たちの肌に包まれて、新しい年を迎えることになるのだった。

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