「さて突然ですが本日開催予定の恒例女相撲大会は中止になりました」
「久しぶりの一発目がそれか! 絶望した! 色気のない展開に絶望した!」
「久しぶりって何の話よー」
8月31日。
ウメさんから衝撃的に残念なお知らせをいただき、俺はジリジリと朝日に焼けるしまむらハイム102号室でがっくりと膝を突いた。
「どうでもいいけどそろそろ絶望した! も古いよねえ」
「ほっといてください。それより何故そんなことに!」
「いやホラ、みんな田んぼとか水路とか海とか川とか見回る準備に忙しいからさー」
「破滅に向かい突き進む運命だよそれは!」
※昨日、伝説の少女コンレイと名づけられた台風15号が上陸を前にデロンと温帯低気圧になったばかりです。
「農家とか近海漁業関係の人にとっては死活問題なんだぞう」
「それエルフの魔法をもってすればもうちょっとなんとかなるよね!?」
「まあとにかく、お尻ふりふりインチキ相撲やってる場合ではないのです」
「マイガッ……!」
まあ、地球というか日本住まいのエルフのお姉さんたちにも、それぞれの現地でのご職業があるだろう。それを全部放り出して俺のためにフンドシで遊んでくれとはなかなか言えない部分はある。
とはいえ残念だ。非常に残念だ。そしてこういう時大田区はだいたいピーカンで晴れているのも色々と空しい。
そう、23区内で例え豪雨が降ってても湾岸地区だけは何故か晴れているというのは意外とある。どういう理由かは知らないけど。
「このために空けていたのが無駄になってしまった」
「だいたいいつも忙しくなんてないじゃろうが」
がっかりする俺を横目に、みかんは3DSで狩猟中。モンハン次回作を前に勘を取り戻そうというハラらしい。
俺も楽しみだけど生おっぱいと並べられるかというとちょっと微妙なところだ。
「なあウメさん。来週に順延とかは……ない?」
「9月に入っちゃうと雰囲気じゃないよねえ。こういうアッパー系イベントってやっぱり夏だよねえ」
「今年は11月まで暑さ容赦ないって聞くし!」
「あーのさー」
ウメさんは呆れたように溜め息をついた。
うん。俺ちょっと必死過ぎるかもしれない。でもさでもさ。
「そんなにおっぱい見たい?」
「はい」
拳を震わせつつ正直に頷く俺。
「目の前にいくらでもおさわりOKのがいるのにさー。そういうイベントにあんまり必死こかれるとなんとなく面白くないってゆーか?」
「……えっ、お触りOKなの?」
「待たんか健一」
パタンと3DSを閉じるみかん。
「それは孔明の罠じゃ」
「孔明の罠か!」
「なんで納得したような顔してるの!?」
いや、ついノリで。
「っていうかね、私ザッキーにお触り禁止したことある?」
「いや、特にはない……気はするけど」
「お触りどころじゃないぞ? 別に性的行為何一つダウトした覚えはないよ?」
「ウメ!」
「あのねみかんちゃん。この際だから言うけどね?」
ウメさんは腕組みをして難しい顔をした。
「ザッキーは生殺しが長すぎてこじらせてる気がするのよ」
「えー童貞? 本当に童貞ですか!? 確か今27ですよねザッキーさん!」
「やめて! 俺のライフはもうゼロよ!」
ウメさんが召喚したライムちゃん(別に農業も漁業も関係なかったので俺たち同様暇してた)に例の女子高生みたいな顔で言われたので、俺は耳をふさいで目を背ける。
「ゼロになるの早いのう」
「俺にだってコンプレックスくらいある!」
みかんに反論。耳塞いでても意外と聞こえちゃうよね。うん。
「や、別に年齢が問題というわけでなくて……いや問題ですけど。ちゃんと性欲あるんですよね!? っていうか今までもエッチなイベント参加率半端じゃないですよね!?」
「ラララ」
「健一、そこは『ううう』じゃ。ゲンはそんなこと言わん」
「マジで」
ずっとラララだと思っていた。っていうかみかん、さっきから細かいツッコミばっかりだな。
ライムちゃんは眉間を揉みほぐし、ウメさんは肩をすくめた。
「なんですか先輩。これってこういうプレイですか」
「やー、ほらあの眼鏡のナマデンワちゃんとか、あのバリバリのさくらちゃんとか、牽制合戦が続いてるうちにこんなことに……」
「お互いフラグ潰しあってる間にザッキーさんが一発チャンスをそうと認識しなくなっちゃったんですね……」
ウメさんはあはははと苦笑いした後、はあーっとライムちゃんと一緒に溜め息をつく。
「そりゃ楽しみにするはずですよ女相撲大会」
「そう……かもねえ」
「よし。わかりました」
ライムちゃんは俺に振り向き、ぱん、と合掌するように手を叩いてから真顔で言う。
「お風呂行きましょう。今私がササッとザッキーさんの童貞いただきますから」
「えっ」
「なぬっ」
「ちょっ、ライムちゃん」
「正直なところ、これしかないと思います。ToL○veるじゃないんですからいい大人が本番ゼロ進行ってどうなんですか。それも先輩がついていながら五年も!」
「そこはライムちゃんじゃなくてもいいんじゃない!?」
「先輩やみかんちゃんは五年かけて成果なしなんですから無理です。こういうのは部外者が必要なんです」
使命感に満ちたライムちゃん。見た感じはもう出会った時からハタチかそれより若干幼めのままだけど、この子が今すぐにでも俺に初体験させてくれる、と考えると急になんかすごくセクシャルに見えてきた。
しかしそれを聞いたウメさんとみかんは噛みつかんばかり。
「それは承服しかねるね!」
「そもそも何故そうまでしてエロに持っていかねばならんのじゃ!」
「おかしいと思わないんですか! 生粋のエルフフリークの男の子が三人も四人もエルフやハーフエルフに囲まれておきながら余所に満足を求めてるなんて! 最近思うんですけどザッキーさん目が死んでますよ!? 世の中なんてこの程度だって顔してますよ!?」
「むむ……」
「言われてみればそう見えなくも……」
俺の顔を見て納得しかける二人。
「し、心外だ! 俺はそんな目なんかしていない! いつだって野心に燃える狼の瞳を」
「それはないのう」
「無気力気味なのは事実だよね。お金に細かくなった割に収入増やそうともしないし」
「それはあまり童貞がどうとかと関係ないと思う!」
「どうしてこうなってしまったのかのう……昔はオタ体質ながら熱いところもあったのじゃが」
「うん。やっぱりあれだよね。年功序列の公務員になって頑張りと収入が無関係なことに気づいちゃった中堅世代みたいな。分相応、足るを知ったつもりで夢をなくしちゃったみたいな」
「やめて! 俺のライフはもうマイナスよ!」
なんで童貞つつかれるついでにここまで精神的にボコボコにされなくてはいけないのか。
「おおお……俺を、俺をどうしたいんだ貴様ら……」
「む……それはその、じゃな、一般論として……男というものなら、好きな女を娶り子供を産ませて、自分の家庭を持って、周りに一目置かれる人生を求めるものではないじゃろうかのう?」
「エルフの世界の意識としてはそんなステロタイプの人生過ごせなんて言わないけどー。こう、欲しいもんは手に入れたるわー! 俺に色目使う女はもちろんチンポ突っ込んだるわー! っていう勢いは男の子として必要じゃないかなー。その結果としてここの大家さんの姉妹みたいなことになっても宇宙的にはそんなに問題じゃないし?」
「小手川さんとモモのロールプレイか!」
「ワシが小手川じゃと」
「モモかー。うーん個人的には御門先生なんだけどなー」
問題がずれていこうとするのをライムちゃんが手を叩いて止める。
「と、に、か、く! ザッキーさんには男として大切な欲求が錆び付いてるんです! まあほら私って元々プロですから素人童貞ってことで。ノーカンでいいじゃないですか、まずは知ると言うことで。これは治療ですよ」
ライムちゃんが俺の手を取り、いよいよ童貞喪失に連れ出そうとする。
一瞬嬉しく思うのだが、二、三歩も進むとなんだか取り返しがつかないことが起きようとしている不安感に足が軋む。
「ち、違う。おかしい、この展開は絶対に何かある」
「その思考がおかしいんですよ! セックスなんてそんな大したことじゃないんですよ! 私の裸なんて見慣れてるでしょうに、あとは特定の部分使うだけですよ!?」
「待て健一、いつの間に見慣れるほどライムめと」
「やっぱりそれはセックスシンボルである私の役目だと思う!」
ワーワーと玄関を出るかどうかのところで変な騒ぎを起こしていれば、当然人の耳にも届くわけで。
「あのさー」
廊下の外からヌッと巨大な顔が覗き込んできた。
ギョッとする俺たち四人。よく見たら甲羅干ししてた日夜子嬢。
「いや、人の色恋に文句つける気は私にゃないけどね? なんつーかほら、やっぱ昼日中ってなるとね?」
彼女は綺麗に焼こうとトップレス(下は絶対駄目だと姉上に脱ぐ事を禁止された)の恰好のままで身を起こし、ぽりぽりと頭を掻き。
「ほら」
そして気まずそうに指差す。
……隣の管理人室のドアの影から、ドス黒いオーラを物理的に垂れ流しながら静音さんがこっちを見ていて全員ヒッと声を漏らした。
「……お風呂をそういう目的で使うのはご遠慮願いますよ?」
無感情な警告に、頷くしかなかった。
夏の終わりの日。
何事も起きなかったのは、よかったのか、悪かったのか。
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