本日クリスマスイヴ。
「ワグナス! また滅亡しなかった!」
「ダンターグめ! 大昔のカレンダーが終わってるだけの話に踊らされるなど!」
「奴を責めることはできまい。フォトンベルトだのアセンションだのニビルだのエレニン彗星だのイエローストーンだのベテルギウスだの材料を用意したのは俺たちだ」
「どうでもええことじゃがまたMMRが復活機会逃したのう。もう復活せんのかのう」
「ミウラ……ヨネムラ……お前たちは今どこで戦っている」
「普通に講談社じゃと思うが」
コタツを挟んでみかん(フルーツの方)をむさぼりつつ、本日もわたくし小野崎健一と愛媛みかんでお送りしております。
「しかし実際割とシャレにならないネタが最近多いから、下手に煽る漫画は出せないんじゃねーかなあ」
「雲仙普賢岳はネタにしたのにのう」
「まあ、恐いもの知らずな時代だったんだろうなあ」
「しかしジョージの
あの時は
できると思った
本当に
の漫画と並行で世界の危機を憶測しまくったらシュールじゃろうなー」
「……それが原因か」
みかん(フルーツの方)を剥きながら編集の苦悩に思いを馳せてみる。まあそもそも復活の予定ないのかもしれないけどちょくちょく噂だけはあるんだよなあ。
というかそもそもあれ次の回いつ載るんですかね。一歩千回とかで大喜びしてたけど。はしご外されたままの原作の方の人の立場どうなるんだ。
「いやそんな話は置いておこうではないか。それより今日が何の日か忘れておらんか」
「天皇誕生日の振り替え休日」
「フリーターのお主は毎日がエヴリデイじゃろうが」
「クッ……どこでその情報を」
もちろん同居してるんだから筒抜けです。
いや、ちゃんとちょくちょくバイトはしてるよ? 家賃溜めてないよ?
というか食費が時々レンバスのせいで数日分浮いたりするので、引越し前よりむしろ経済的には助かってる部分もある。若干心に栄養届かなくなってる気はするけど。
「そうではなくてクリスマスイヴじゃろうが。外も晴れておるのにこんな怠惰に過ごしていていいのか。世間は浮かれておるぞ」
「世間に流されない自分が好きだ」
「典型的なオタクの言い訳じゃのう」
「オタクだよ! そうだよオタクだ! 悪いか! クリスマスが俺たちに何をくれた! 今こそ全てをゼロに戻す! カモォォォォォォォォォン!」
「五月蝿いわい。エスコンごっこは静かにやらんか」
ごめんなさい。ネタをわかってくれる相手がいるとつい暴走するのも典型的なオタクの悪癖だと俺も思います。
「というかお主、クリスマスを今さら憎むような身分でもないじゃろう。……で、デートならワシが付き合ってやるというておるんじゃ。わからんのか」
「…………」
「なんじゃその間は。ワシでは不満か。いつもスカートの中を凝視しておるくせに」
「え、いやいや俺そんなことしてないよ?」
みかんは気にしてないと思っていたがバッチリ気にしていたらしい。てか同居してるんだから多少見えるのはしょうがないよね? 隙だらけのみかんがいけないよねこの場合?
それと間ができたのは別にみかんとデートというのが不満というわけではない。
「ケーンくん♪ 実は私も振り替え休日なの」
「普通のところは大体そうだと思います。サービス業は知りませんけど。っていうかこのタイミングでよく堂々と話に入れますね不動先輩」
「このまま甘酸っぱい空気作られると癪じゃない♪」
がちゃり、と遠慮なくドアを開けてきたのは不動さくらとナマデンワ。
「お前らモテるのに勿体無いなあ」
「先輩がそれ言いますか。っていうか私最近部内の中年オヤジに妙に絡まれて嫌なんですよ! 憩わせてくださいよ!」
「そもそも私、ケン君の恋人降りたつもりないんだけど?」
さくらは強かった。さらりと言い切る姿に思わずといった風情でみかんと生田もたじろぐ。
が、このしまむらハイムにおいてはもっと強い生き物が存在する。
「なった覚えもないのですよね、確か」
「!?」
ニコニコと微笑みながら背後の廊下に立つ大家の静音さん。
「紀州さんに事情は聞いてますよ?」
「そ、それは……でも、実際にちゃんと恋人として過ごしましたし」
「お互い状況に流されるって悲しいことだと思うんです」
「別に私は流されて続けようとしてるわけじゃないですから!」
「でも小野崎さんはどうでしょうね?」
お願い。こんなところで肉食系女の獰猛な戦いを始めないで。
と口で言えない俺のなんと弱きことよ。
「大変だねえ健一君」
「日夜子さん頼むからお姉さんを止めてくれ」
「無茶言わないでよ。体格差あったって力ずくはトーンキャスターの間じゃ無意味だって知ってるっしょ?」
マイクローン状態でどこからともなく現れ、手掴みでモンブランを食ってる日夜子嬢。ああ、こういうケーキ類が当然のように出てくるのはやはりイヴだなあ、と思う。
こういうところだけ、とも言う。
みかん、生田、さくら、そして島村姉妹と俺。
八畳間に終結する女五人俺一人。
「結局お主らもデートに誘い出すタイミング狙っておったのか……」
「別に私は……その、先輩がいるならここで夜までまったりでもいいんですけど」
「私はデートしたいわね。車出すから銀座かスカイツリーでもどう?」
「うふふ、場所のセンスが悪いわね」
「はい……? 何か言ったかしら?」
「あのさ健一君。ほんとにコレらとデートする気? 言っちゃなんだけど後で血を見るんじゃない?」
「だから俺は今のところどこにも出かける気ないんだけど」
日夜子嬢にケーキを切り分けながらげんなりする俺。ケーキは実は昨日までのバイトで格安で譲られた奴。予約が芳しくないから頼むから買えと泣きつかれた奴だったりする。冷蔵庫にあとホールで二個。
みかんとウメさんなら時節多少ズレてもムシャムシャ食い尽くすだろうと思ったので三つ引き受けたんだけど、ウメさんはこんな時に限ってよそのイベントに出張ってたりする。……うん、まあよそでいくらでも楽しいイベントある日だもんね。不思議な力関係によって動的に無風状態の居心地悪い空間を見物してる理由ないよね。
「というかさ、時々思うけど君ってすっごいタラシなのかヘタレ受けなのかわかんないね」
「タラシだった覚えはないんだけどなあ。大学もヲタサークルで燻って過ごしたし」
「同じサークルよね?」
「私も同じサークルなんですけど」
すかさず突っ込む生田とさくら。うん確かにそうですが。
どちらも俺に執着する理由は理解できないわけではないのがややこしい。意味不明でモテてるんだったらこう、マンガ的な不思議現象だと片付けられたのに。
そう。元々ウメさんには度々お色気アプローチをうけてはいたものの、最近ではこうしてすぐににらみ合いが始まるのでかえってエロいチャンスとかないのだった。
「そもそもクリスマスはデートのための日じゃないと思うんだ。キリストの誕生日じゃん? 星が馬小屋の上に動いて止まるとかUFO事件っぽい日じゃん? 祝うのはまあ信心だからいいとして色恋に利用するのはどうかと思うわけだよ」
「だから私はちょっと先輩やみかんちゃんと遊んで気疲れを癒したいだけですってば」
「お互い実家から出てるのに逢引にも気を使うって窮屈よね……蒲田のホテルにでも行く?」
「うふふ、ご不満なら不動さんは出て行ってもいいんですよ? ……いえ、まあそうでないことを願いますけど」
微妙に家賃収入に負ける静音さんがなんともヘタレ可愛いと言えなくもない。
「ねーねー、健一君よー、それでこの中の誰と誰が君と深い仲になってんの? ちょいとお姉さんに教えろよ」
俺にヘッドロックをかけるようにして囁く日夜子さん。おっぱいが頭に当たる。
「だ、誰も」
「マジで?」
「こんな状態で深い仲になれるかっ」
「……うん、まあ、そっか」
好意を向けられるのは嬉しいのだが、どうしてもこれでは嵐が過ぎるのを待つほかなく。
どうにもじっくり深い仲を育てるなんてのは、いつどこから第三勢力が現れるかと考えるといつも無理なわけで。
でも睨み合いながらも好かれてる現状は心地良くもあって。
「……もう、こんな状態でいつまでも時間ばかりとってもしょうがないわ」
「そうね」
「鍋にでもしますか」
そして、ひとしきりいがみ合ったあと、冬場はこうして結局鍋会開催の口実にされるのもお約束。
クリスマスに鍋。なんだかどうにも締まらないけど、ロマンティックは望めない以上楽しいに越したことはなく。
…………。
酒を交えた鍋が終わり、みんなが酔って頭も鈍る頃にだけ、俺の役得タイムが訪れるのが最近の恒例だったりする。
「みかん。風呂入ってくるか」
「うむ」
さりげなく立ち上がり、みんながぼんやりとテレビを見ながらポン酒のお湯割を飲んでるところからそっと抜け出して、しまむらハイムの庭にある共同浴場へ。
そこでほんの少しだけ、互いに視線を交わしながら服を脱いで、二人で風呂に入る。
もちろんエルフは混浴文化で、俺たちの混浴なんて問題にされることはない。みかんだって本来は気にしないのだけど、ただ、それでも。
「背中流してやる」
「う、うむ」
大っぴらにエロい真似をするわけでなく、ただ、体を洗い合う。一緒に湯船に沈む。
今や慣れ始めたそんな行動が生む、なんともいえない微妙な興奮と心地良さ。
それが俺のしまむらハイム生活の唯一の役得。
銭湯通いではこんなことはできなかった。しかしこれ以上に進展できるほどムードも勢いも作れはしない、それがこの新しい生活。
みかんとの、僅かだが確実に近づいた距離を快く思いながら、いつかこの向こうに新しい二人の関係なんてものがあったりするのかな、とか思ったりもする。
……のだが、今夜はおめでたい日だからか、上等な酒を静音さんが提供したからか、脱衣場が俄かに騒がしくなってみかんと二人で硬直する。
そして。
「ケーンーくーん♪ 流しっこしーまーしょっ♪」
「なーにーやってんですかみかんちゃんと二人で! 黙って! 秘密で! 黙って!」
「うふふ、小野崎さん、わかめ酒って知ってます? シャンパンでやってみたくありません?」
「ワカメないじゃんお姉ちゃん。それはともかく私も入れてねー」
それぞれいい感じに酔った女子がどやどやと入ってきて共同浴場はあっという間に女風呂状態に。いや、弾き出されるわけじゃないけど。
……うん、正直に言おう。かなり嬉しい。お酒の力ありがとう。
「こ、こりゃ、健一っ!」
「仕方ない。仕方ないんだみかん。みんなの相手をしないと不審に思われてしまう」
「ええい、この浮気者めっ!」
ざばりと自分もお湯から上がって、みんなの背中流しに参加するみかん。
本日クリスマスイヴ。
えっちな風景はあれど、俺はまだ心地良い生殺しの環境にいる。
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