「ゴールデンウィークも終わっちまうなー」
「お主は毎日がエブリデイじゃろうが」
「ちゃんと勤労してる俺になんてことを言うんだこの座敷童が! 誰の金でアパート住まいしてると思ってんだ!」
「ではサービス業なのに何故丸一週間暇だったんじゃ」
「……毎年の事だからそろそろわかってんだろうが。どうせ俺ヘルプ専だから手が足りてる時には声かからねーだけだよ!」
GWはまさに花の休み、こんな機会には遠出するなりイベント楽しむなり蒲田で学園祭するなり、思い切りエンジョイ&エキサイティングが世の習いってものだが、どうせ暇なのだからこそちょいとひと稼ぎしようっていう高校生や大学生も結構な数にのぼる。
俺がよく顔を出すバイト先も軒並みこの時期にはそういう素人さんに仕事を回しがちで、不定期にシフトに入る便利屋もどきの外様にはお休みがいただけてありがたい限り。正直ちょっと寂しかったりする。
そんなわけで新居に暮らし始めてもうすぐ一ヶ月と少し。ダンボールもほぼ片付いたしまむらハイム102号室はうららかな日差しの中で一週間変わらないウダウダな空気を漂わせていた。
「ダンクールのボンボンはデカい口叩く割にはホントいいとこないのう。アンマリーはなんでこんなんに屈服しとるのやら。ダルタニアなら余裕じゃろうに」
「だってアンマリーのダルタニア時々目の前に敵がいるのに真横をぶんぶんしだすし」
「ボンクラパイロットの家系じゃな」
何故に超操縦メカMGを今さらやっているのかと言えば単に引越しの弾みでカートリッジが出てきたせいでみかんと何度目かの身内ブームが起きているのだった。部屋掃除したりするとたまにあるよね。発掘MMRブームとかマスターキートンブームとか。
いやそんなことはいい。
「それより流石にゴールデンウィークにスーパーとツタヤ行く以外何も出かけないっていうのはナシじゃないか」
「なんじゃ。ワシはてっきりお主の方が億劫でウダウダしてるもんじゃと思うておったが」
「確かに前半はそうだったけどな」
雨がちだったし。
でもここ数日は天気も悪くない。ゴールデンウィークなのだからとにかくどっかドライブ行こう、と意味不明の使命感に駆られるマイホームパパではないが、ひとつくらいは外出をする日に使ってもいいんじゃないかと思わざるを得ない。
「そう、例えば池上本門寺とか!」
「桜も終わっておるのに何故日蓮の墓参りなぞするんじゃ」
「徒歩でお出かけをするにはあそこが限界距離だからだ」
大田区池上にそびえる雄大なる確定申告会場。いや違う桜の名所。
兼、日蓮病没の地にして力道山の墓所、池上本門寺。
別に日蓮宗にはこれっぽっちも興味も関係もないが、桜がやたらと咲き乱れるあそこは藤岡弘と横山智佐が戯れててもおかしくないほど美しい景色なので四月頭にはふらふら花見に出かけたりする。近所の名物ごまおはぎも絶品だ。
もっとも今年はそんな余裕全くなかったのだが。
「今年はばあちゃんの葬式だの引越しだの重なってて行きそびれたし。桜の終わったあそこも悪くないかなと」
「ふむ……その気ならどこでも行けるというのにみみっちいのう健一は」
「お前ら基準の『どこでも』はちょっとやりすぎなんだよ! せっかくだからでロッキー山脈のてっぺん行かすな死ぬかと思っただろうが!」
「地球で済ましとるだけ慎ましいんじゃがのう。タイタンで土星見物とか壮大で楽しいと思わんか」
「地球人が死なない環境にしてくれマジで」
いやこいつらだって本来空気のないとこなんてそう何分といられないはずなのだが、例のトーンキャストでそういう命の危険は全部テキオー灯当てた状態にできるらしい。
しかしロッキー山脈で死にそうになって俺は悟った。そういう調整を自分でできない俺は、こいつら基準にホイホイついていってはいけない。
天気がいいからちょっとお外で散歩しよう、なんて気分でいる時には普通に近場で済ませるべきだろう。とんでもない距離すっ飛ばなくたって、まだまだ手の届く範囲にも新鮮な体験はきっと満ちている。
……と、いそいそ出かける支度を始めたところで、外で姉妹喧嘩の声が聞こえてくる。
「……んたはもう晴れてればすぐゴロゴロして! ここで昼寝するんならちゃんと地球人のサイズになってからにしてよ! 外聞悪いでしょ!」
「別に気にしてる奴なんかいないってー。あたしが見れる奴なんてギガントの昼寝に驚いたりしないでしょ」
「あんたの図体だと隠しようがないから言ってるの! あんたがギガントだから恥ずかしいんじゃなくて! いい年して日がなコンクリの駐車場でトドみたいに寝そべってる子がウチの子だって思われるのが恥ずかしいのよ!」
「別に無職だっていいじゃん地球人じゃないんだし……」
「よくないの! あんたの食費だってただじゃないんだから! まったく、食べる時ぐらい小さくなればいいのに」
「だってさー……」
管理人、ハーフエルフの島村静音嬢とその妹、ハーフギガント(巨人種)の島村日夜子嬢。
日夜子嬢は10m級、士魂号レベルのサイズがあって非常にインパクトのある外見だ。造形自体は赤い髪の美女でスタイルはウメさんに勝るとも劣らずといったところ。
しかし最近知ったのだが、日夜子嬢はちゃんと地球人サイズにもなれるらしい。
「その程度の事できんわけがあるか。魔法ナメとるじゃろ」とみかんには馬鹿にされたが、だとすればなんでいつも巨人サイズなのか。
本人に直接尋ねる機会をうかがいつつ聞きそびれていたが、いいチャンスがめぐってきたと感じて俺は窓をそっと開け、話に入る事にした。
「おーい、日夜子さん」
「……あ、おはよー。なんだっけケンタロウ?」
「健一だ!」
「あはは、そうそう健一君」
「こらっ、小野崎さんにそんな馴れ馴れしい……」
怒り出す静音さん。いや別に呼び方なんてどうでもいいんだけど。
「前から気になってたんだけどさ、小さくなれるんでしょ? なんで小さくなって生活しないの? 地球だと小さいほうが何かとやりやすいでしょ」
「あー……あはは、まあ確かにそうなんだけどねー……」
ちょっと気まずそうに笑う日夜子嬢。
「わがままですよ。甘やかしちゃ駄目なんです」
静音さんは切って捨てる。
しかしどういうわがままだというのか。そこがよくわからないのだ。
デカくて得をする事なんてあるんだろうか。
「ホントにもう、そんな図体してるんだからたまには食べ物ぐらい調達してきなさい。アンタの食べる量揃えたら食費が何倍になるかわかってる?」
「はいはい。まったくもー、細かいんだから」
ブツブツ言いながら言ってしまった静音さんに苦笑を返し、おもむろに立ち上がった日夜子嬢はうーんと背伸びをして軽く腕をストレッチする。
そして俺を見下ろして。
「そうだ健一君。暇? 一緒に行かない?」
「は? 何に?」
「狩り」
頭の中にベースキャンプから森丘1に出た時の音楽が流れた。
モガの森に入ったときの音楽でも可。
とにかくアホみたいに、でっかい自然があった。文字通り。
「……何ここ」
「んー、ギガントが食べるのにちょうどいい大きさの怪獣がいる星」
「やっぱり星を渡ったのか!」
うすうすそんな気はしていた。しかしそれにしては過酷な自然条件というわけではない。
大気組成はまあ、移動時に一緒に唱える魔法でついでに呼吸できるようにしてもらえたりするのでいいとして。
極端に暑くも寒くもなく、太陽がへんな色をしているわけでもない。きっと迷い込んだら常春の楽園と呼びたくなるような……水色の空と黄緑色の大地、そして雲の清浄な白で構成される、すこぶる美しい自然の中だ。
澄んだ湖が眼前にたゆたい、少し遠くには森も見える。ゆるやかにうねる地形は羊でも引き連れたペーターが出てきそうで、ただひとつ圧倒的に違うとすれば……すべてが、大きい。
木の葉っぱやらただの石や土くれ、何もかもがなんというか大振りだった。
でかい。そのへんに普通に生えている緑色の茎の白い花が3メートルくらいある。これ普通「木」だよね?
その辺にゴロゴロしている岩も平気で一抱えぐらいのサイズがあって、こういうのは普通採石場でもない限り大人しく地面に埋まっているものだと思うのだけどでかい顔をして普通に転がっている。
こないだプリキュアでやってた花壇の虫サイズになる話を思い出した。あれほどの砂粒サイズじゃないけど。
「何もかもがでかいな……」
ぼそりと呟く。横にいたみかんは早速その辺の葉っぱを勢いよく蹴り折ってばさりと落としていた。
「ふふふ。これぐらいデカいと葉っぱのベッドにできるのう」
「っていうか今お前蹴り凄かったな。見たことないぐらいキレてたぞ」
「お主もやってみればよい。びっくりするぐらい動けるはずじゃぞ?」
「?」
みかんが言うのでとりあえずその辺の木(でかいけどちゃんとした木もあった)に飛び蹴りを放ってみる。
……ジャンプが高さ3メートルくらいに達した。
「うおお!?」
「ギガントの星は重力が弱めの星がほとんどじゃからのう。そうでないと体重が乗算されていく関係でどうしてもあの体格にはなれんのじゃが」
「そ、そうか。ってことは実は日夜子嬢も地球重力ではあまり機敏に動けるわけじゃ……」
「そこは魔法でほぼ同じ感覚で動けるようにしてあるようじゃが」
「結局ハンデになってないじゃねーか!」
「ハンデの問題ではないんでないかのう……」
いや、わかってたけどさ。そもそも引越しの時に第一京浜や京急線の高架をアクロバティック巨女アクションで飛び越えてたしさ。
「しかしこうなるとあれだな。のび○太の宇宙開拓史だな」
「また懐かしい話を持ってくるのう」
「いやアレもリメイクされたから。まだ話題ホットだから」
「マジか」
まあ俺も新しいの見てはいないんだけど。子供のころは毎年楽しみにしてたんだけどなあ。
そのままみかんと遊んでいると、そのうち遠くからドドドドと地響きが聞こえてきた。
何かと思って近くの木に飛びついてみると、彼方から土煙を上げて走ってくる日夜子嬢。と、なんかでかい獣。角が額から一本だけ飛び出してる牛のような。
って、日夜子嬢の直立よりもでかいぞ。四足なのに。
「おいおいおい……ちょっと待て」
まさに怪獣だ。
どう走っているかと言うと併走中。赤い髪をなびかせ、健康的なカットジーンズにタンクトップの日夜子嬢がまるで駆けっこをするように超巨大牛と一緒にこっちに突進してくる。
遠近感がわかりづらいがこのままではあと10秒ぐらいで轢殺される。
「みかんヤバい! なんか怪獣が走ってくる!」
「なら逃げるんじゃ」
「時間ねえよ踏み潰されるよどうすんだようわー!!」
体長およそ30メートルもの一角牛に接近された時、人はいったいどうすればいいのだろう。
想像してみて欲しい。体育館が猛速で自分に向かって襲い掛かってくるが如き光景を。
実写トランスフォーマーだってもうちょいなんかこう生易しいと思う。あ、あの3の触手使いは結構いい勝負。
……とか絶望的な気分であんぐりしている俺を、横合いからすっ飛んできた何かがどーんと木の上→空中に吹き飛ばす。
「あぅわ」
自分でもちょっと不思議な声を出してしまったと思うが、その俺のいた木を巨大牛は容赦なく踏み倒し(俺にとっては巨木だったが牛から見ると植木鉢の観葉植物レベルだった)、俺はその牛の纏う烈風でさらに煽られて、空中でガンダムエクシア(1期OP)みたいな動きで吹き飛んでいく。いや、多分あれよりだいぶかっこ悪いけどもうどうしようもない。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
なんか自分でも表現しづらい悲鳴を発しつつ、叩きつけられたらマジ死ぬわ、とか思っていたらそれをナイスキャッチしてくれた何者かがいる。
「あ、あああ……ああ!?」
「はい、落ち着いてザッキー。深呼吸。吐いてー。吸ってー。吐いてー。吐いてー。吐いてー」
「お、お約束とかいいから!? なんでここにいんのウメさん!?」
「え、だってメッチャアパートの目の前で転移したじゃん。バルチャー化した私置いて遊びにいくとか不届きな真似するからこんな大ピンチになるんだよ?」
「関係ねえ! 超関係ねえ!」
何故かクイーンズブレイドっぽい格好をしたウメさんが助けてくれたようだった。すげえ。
「っていうかさ、重力低くて凄い動き回れるんだから慌てなければ普通に避けられたのに」
「あんな巨大生物が迫ってきたらレッドバスターじゃなくてもフリーズするわ! なんだよあれ!」
「よく知らないけどこの星の原住生物じゃないかなー」
お姫様抱っこで抱えられたままパニックしていたら、ようやくみかんも追いついてきた。
「大丈夫か健一! ってウメなんでそんな恰好しておる!」
「ふふふん。森の教官っぽくない?」
それはどうでもいいから。いや葉っぱパンツは非常に魅力的だけどそれはいいから。
近くの小山に登って走り去った牛と日夜子嬢を見てみると、ちょっと先でついに一人と一頭は正面から対峙する体勢になっていた。
っていうか、アレと戦うのかよ。素手で。
「いよいよウルトラマン見てる気分になってきたぞ……」
「えー? アルトラにしちゃちょっと小さくない?」
「10メートルありゃ充分巨大だっての! っていうかあんなスピードで40メートルの生き物が格闘したらウルトラっていうか汎用人型決戦兵器だ!」
「素直にゼントラー○ディでええんでないかのう」
「いやいやみかんちゃん。それなら誰か歌うかマイクロミサイルで板野サーカスしないと」
「むう。一理ある」
本当にどうでもいい部分で議論しているエルフとダークエルフを差し置き、日夜子嬢は一角牛に平手を向け、ひっくり返してブルースリーみたいにちょいちょいと挑発。
牛、身を沈めてガスンガスンとひづめを鳴らし突撃態勢。いや、わかるのかよあの挑発。意外と知能高いのか。
そして、突進。
人、vs牛(ちょっとオーバースケール気味)。
そして日夜子嬢は……なんと、突っ走ってきた牛に対し軸をずらしながら両足で横払いキック。
ドゴオ、と重い音を立てて牛が走りながらよろけていく。
その背後からさらに日夜子嬢、素早く立ち上がって襲い掛かりライダーケツキック。
人間vs牛だと絶対にその程度じゃ倒れないウェイト差だが、この牛には効いた。よろよろしていたところに勢いのいいキックで倒れてしまう。
怒りの声を上げて起き上がる牛。
角を振り立てて、日夜子嬢を改めて狙う。
そこで日夜子嬢、今度は拳で戦うつもりかファイティングポーズでじりりと待つ。
「おおー」
「えらい熱闘じゃのう。本気で肉弾戦でアレを仕留める気か」
「いや、まさかいくらなんでも狩猟道具ぐらいあるよな宇宙人でも。銃とか」
「ないない」
「そういう金属武器類はワシらは使わんからのう」
マジで?
……日夜子嬢、襲い来る牛に本当に拳で対抗。
角を紙一重でかわしたところでフック……いや打ち上げ気味の軌道だからスマッシュ? を叩き込み、しかし勢いを殺しきれずに肩からのしかかってくる牛の巨体から斜め前転回避で間一髪逃れる。そして掌を突き出すようにしてウルトラっぽく立ち上がり、牛が脳を揺らされて動きが鈍っている見るや。
「トドメ……決めるっ!」
手を十字に組んだ。
おいおい。
おいおいおい。まさか。本当に。
「────!!」
光線技を出す……かと思いきや、普通にトーンキャストで取り出した工事用のハンマー(あのあさま山荘壊したアレ)を牛の脳天に勢いよく叩き込み、角がボキンと頭蓋ごとヘシ折られて勝負がついた。
「……なんというか……わざわざアレと戦う必要あったのか」
戦い終わって。
例の牛はトーンキャストでいい感じに手早く解体してしまい、それでも引越しトラックみたいにデカい肉をいくつも積み上げた後に、格闘の後なので汚れた日夜子嬢が湖に入るのに同席させてもらう。
俺も牛に吹っ飛ばされたときに土埃に巻かれたし、日夜子嬢は気にしないらしいので是非にとご一緒させてもらった。
……でかいけど、その体は実に女性だった。
いい感じに引き締まった腕や腹、それとはまた別に女性的な曲線を描く胸や腰、そして尻。
でかいけど。たぶんパイズリで人が圧殺されるけど。
体そのものは、非常に魅力的だった。
「んー? まあ、必要がどうとかいうと、ないかもねえ」
「なんかこういう……まあ食うためだけどさ。必要ないのなら生き物殺すのってちょっといただけないや」
「あははは。地球の人らしいや」
日夜子嬢は俺をひたひたに水に浸かるくらいの高さで手のひらに乗せつつ、笑った。
彼女がちゃんと浸かれる深さでは俺は足が届くはずもない。
「でもね、まあ……必要っていう話をするとね。……魔法をちゃんと使えば、何もいらなくなっていくんだよ」
「それは……」
「腹いっぱいの食べ物が欲しいと言えばもちろん何の苦労もなく出せるし、いっそお腹なんて減らないように自分を作り変えることもできる。眠る必要もなくして欲しいって言ったらちゃんとそうなるよ。まあ、こんな大きさのあたしが簡単に普通の人サイズにもなるんだから当然だよね」
日夜子嬢は笑って、少し遠い目をする。
みかんやウメさんも時々見せる、黄昏の種族の行く末を語る目だ。
「ずっと幸せでいさせてくれと言えばそれも可能。絶対の安全も手に入るし、知りたいことはなんだってわかる。でも……そういうのがどんどん充足していくたびに、人は人じゃなくなっていく」
「…………」
「目も開いてる。耳も聞こえてる。でも、欲しい物は全て手に入り、どんな不都合も克服して、何もかも理解して……行き着く先は、『存在しているだけの存在』。今まで何千何万の種族が等しく行き着いたのは、もう欲する事にも拒む事にも意味を見失って、それ以上何もすることがない永遠のエンディング」
「そんな極端な話をしたいんじゃないんだけどな……」
「あたしたちは、だから『無意味』という断定と横着はしないことにしてるの。……地球にいる異星人はみんな、ね。戦うことだって食べる事だって、地球社会に混ざって生きる事だって、それを必要ないと言い始めたら少しずつ『あれ』に近づいていくから」
「…………」
「ズルはしてるんだから程度の差だって言えばそれまで。そんなこと、わかってるんだ。でも、あたしたちは……あはは、あたしは地球生まれだから厳密には違うんだけど。……あたしたち異星人はそういうの全部ひっくるめて、生きるってことが好きだから地球にいるんだよ」
無意味、か。
それを省いて省いて、段々と「進歩」しているつもりになって。
地球人も少しずつ生活の中から忘れていっているものがある。近所づきあいや家庭料理なんてもう必要ないと言い切る人もいる。
その果てに、どうなるのか。そう考えると少し怖くもなる。
「んで」
にぱ、と全裸巨女は雰囲気をころりと変えて笑う。
「まあそういうのは置いといて。健一君にはアタシが小さくなるの嫌がる理由をお教えしたいと思います」
「は?」
何この話の急展開。
……と、思ったものの、実は話は繋がっているらしい。
さっき仕留めた牛の肉をそのまま巨大な焚き火を起こして焼いた日夜子嬢は、そのうち一つを差し出した。
「焼き肉。……こういうのさ、小さくなって食べるとアタシの一口分で地球の人たち満腹になっちゃうじゃない? じゃあ実際にいってみよう」
「……え、えーと……いただきます」
この肉一つで新しく引っ越した「しまむらハイム」の一室が埋まってしまうんじゃないかという肉。
それをどうしたものかと思いながらも、ナイフでなんとかケバブみたいに削って食べる。
……なんというか、細胞がでか過ぎるせいか、肉と言われても何か違う気がする。
「……ふ、普通の……地球の肉のほうがいいかも」
「あはは、そーそー。大きさ違うとね、なんかそういう味覚に来る感覚違うんだ。なーんか違うもの食べてる気がしてもったいなくてさ。だから特に食べ物食べる時はマイクローン化したくないのです」
「マイクローンとか言うでないわ」
「じゃあ昼寝だけでも小さくなってすればいいんじゃ……」
「なんか窮屈だし。たまにはそういうのもするけどさ」
未だ裸のまま肉を焼きつつからから笑う巨女。服は泥と血だらけになってしまったので近くの京都タワーみたいな巨木にかけてある。
……色々理屈つけてるけど、この人本質的にヒッピー系というかナチュラリストというか、根っからのヌーディストなだけなんじゃないだろうか。
「味が違うぐらいで文句言うでないわ。星が違えば食文化も変わるわい」
「そーそー。地球生まれの子はグローバリズム足りないよね!」
そしてなんでもおいしく食う俗物エルフ二匹。
ジャンクフード大好きだもんなあ……変な食べ物なんてむしろばっちこいだよねアンタら。
2012年5月。
フォトンベルトという言葉も段々死語になり始めましたが、今も異星人たちは元気です。
もどる